■いままでのイメージを捨てたかった・・・
「私自身"チョン・ジヒョン"という画一化されたイメージで見られることにかなり抵抗がありました。いただくシナリオはいつも『猟奇的な彼女』の二番煎じのような物ばかりで、私には良くも悪くもあの映画のイメージがいつもついて回っていたんです。それは韓国国内でも、プロモーションで訪れた他の国でも同じでした。あまのじゃくかもしれませんが、まずこの『4人の食卓』が私のために書かれた物ではないという点に惹かれました。あえて私が演じることを避けているようなこのシナリオをとても気に入り、ぜひやってみたいと思ったんです。周りが望む私の固定観念や圧迫感から逃れたい、その殻を破りたいという気持ちもこの役に挑戦するきっかけになったのかもしれませんね」
ここのところ様々なジャンルの作品を制作している韓国映画界にあっても、この作品は異彩を放つ。新進気鋭の女性監督、イ・スヨンはこの作品をただ単に"ホラー"とジャンル分けできないほどに複雑で、多様な物語に仕上げている。 結婚を控えたジョンウォンの部屋にあつらえられた4人掛けの食卓。そこに座っていたのは地下鉄で毒殺されたはずの二人の少女の姿だった。偶然彼と知り合った、他人の過去が見えるという不思議な能力を持つヨン。彼女には彼にしか見えないその少女達の姿が見えた。そのことから二人は各々の"心の迷宮"へと足を踏み入れることになるのだが……。
■本当に信じられる人は何人いるのか…考えると孤独が理解できた
「食卓というものは本来家族の温もりを表していると思うんですよ。でもその関係がちぐはぐになってしまった時に感じる恐怖というのが、この作品の大きなテーマです。それと同時に、人間関係における個々の存在の哀しみや孤独も描いていると思います。主人公のヨンという女性は、生涯癒(いや)されることのない傷を持ち、常に不安を抱えて生きているような人なんです。残念ながら私はそのようなタイプの人間ではないので、撮影中は想像力をフル回転させました。まずは彼女と自分の共通点を見つけようとしてみたんです。実は長い間こういう仕事している私には思い当たる節があって、自分が本当に信じられる人、そして愛せる人は一体何人いるのかと考えてみた時に、初めて彼女の孤独な心を理解できたような気がします」
彼女が演じたヨンは嗜眠病(眠り病)という病にかかっていて、心理的に追い詰められると、突然そこがどこであろうと倒れてしまう。実際に道路で昏倒するシーンでは全身アザだらけになったという。さぞや辛かったと思うのだが?
■新しいチョン・ジヒョンを見せられた
「体を張る演技よりは、内面を見せる演技の方がかなり大変でした。ヨンの持つ緊張感というものを、最後まできちんと表現できるかどうかが不安でしたね。でもこの役は私の女優生活にとってターニングポイントになったと思います。この役をやり遂げたおかげで、女優としての自信もついたし、新しい"チョン・ジヒョン"を皆さんにお見せできたことがとてもうれしいんです。余裕のある健全な人生を送るのが私の信条なんですよ。そうしていればおのずと表現の幅も広がって行くような気がします。そして学生としての本分を忘れず勉強をし、努力を続けることですね」とはきはきと答える。
スタイルの良さを誉められてもおごらず、「どうもありがとうございます。特に努力をしているワケではないんですよ。こういう風に生んでくれた両親に心から感謝しています」と照れくさそうに笑う謙虚さや、一つひとつの質問にきちんと受け答えをする礼儀正しさに感動する。現代の日本ではまずお目にかかれない、古風さやしとやかさというものが、彼女の本来のピュアな魅力と結び付き、チョン・ジヒョンという、輝く宝石のような新世代の女優を生み出した。彼女の無限大に広がる可能性に今後も期待したい!
(文/インタビュー:平野敦子)
『4人の食卓』は6月5日よりシネマスクエアとうきゅうにて公開。
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