1. すべてが実話に基づいたお話です
こんな話ありえない! とスクリーンに向かって思わず絶叫してしまうようなセクハラシーンが満載の『スタンドアップ』ですが、この映画は実際に起こったセクハラ訴訟を基に作られた作品。原作は2002年に出版された「集団訴訟」(英題:Class
Action: The Story of Lois Jensen and the Landmark Case That Changed Sexual
Harassment Law)。この本は1975年、ミネソタのエヴェレス鉱山で働く女性従業員がセクハラ被害に遭遇。従業員たちのリーダー的存在でもあったシングルマザーのロイス・ジェンセンという女性が先頭に立ち、雇用主であったエヴェレス鉱山社を訴えた事件を追ったドキュメンタリー・ルポ。まだ女性蔑視に対しての意識改革が何もされていなかったころに立ち上がり、セクハラという問題を大きく掲げた伝説の女性、ロイスを本作ではシャーリーズ・セロンがジョージーという役名で演じています。その力強さに注目!
この実際に起こったセクハラ訴訟は、アメリカ人の女性労働者に対する意識が変わるきっかけになった
2. アカデミー女優賞シャーリーズ・セロンの体当たり演技
『モンスター』でどこからどうみても本人ではない恐ろしい形相と太った身体に変身し、その鬼気迫る演技でアカデミー賞を受賞したシャーリーズ・セロンが本作でゴールデン・グローブ主演女優賞にノミネート、すでに2度目のオスカー候補との絶賛を浴びている。夫の暴力から逃げ出し、2人の子供を育てるためにセクハラが横行する鉱山で働くことになった主人公ジョージ-・エイムズ。セロン自らも父の壮絶な暴力を受けながら育ち、15歳の時には母親が子供と自分の身を守るために父親を射殺するというショッキングな事件を経験したシャーリーズが、作業着とドロだらけの顔で臨んだ
“ハリウッド美人女優”を完璧に捨てきった迫真の演技は観る者の心を揺さぶる!
『モンスター』に続いてきたない格好をしたことで、アカデミー賞を狙っていると言われることがいやだと語るセロン
3. とにかく最低! 鉱山の男たち
この映画を観た後1週間は、男性嫌いになることが間違いないくらい鉱山の男たちは最低の一言。舞台となっている1970年代は、女性が男性と同じように雇用機会をもつことになり始めた。男だけの聖地だった鉱山に女性たちがやってきたことで仕事を横取りされると思った勘違い男たちが、その恐怖をいじめでぶつける姿はあまりに卑劣で情けないことこの上なし! 特に、一番の立腹シーンはまだ若い女性従業員のシェリーが女性のために新しく設置された簡易トイレに1人で入るシーン。手元にパンフレットがあったら腹が立ちすぎて気付けばビリビリになっているに違いありません。「こいつら、いつか復讐してやる!」という思いを観客の中にフツフツと湧き上がらせるとっても重要な悪役集団でもあるのです。
父親までが、働く女性を軽んじて見ていることに、言いようのない不安を感じるジョージー
4. 最悪な男たちが繰り出す、世にも最悪なセクハラレパートリー
セクハラという言葉を調べると、こんな言葉で説明されております。「労働の場において、女性に対して、女性が望んでいない性的意味合いをもつ行為を男性が行うこと」。でも、『スタンドアップ』のセクハラの場合「性的意味合いをもつ行為」なんてなまやさしいもんじゃないんです。すれ違うたびに、「アバズレ、メス豚」は当たり前、お弁当を開けたら全部食べられてる上にロッカーに大人のおもちゃ入りなんてことも日常茶飯事。あげくの果てに、レイプまがいの行為をする男まで出る始末。ジョージ-が働く鉱山の裏モットーは「セクハラは、みんなですれば怖くない」。子供のころ、下ネタを言ってはしゃいでいた脳みそのまま大人になった男のいじめにあ然とすること間違いなし!
あまりのセクハラのひどさに号泣すること間違いなしです
5. 女性を支え、強くするもの。それは揺るぎなき不動の愛!
「こんな職場早くやめちまえ!」。『スタンドアップ』を見ていると、何度かそんな言葉を叫びたくなる衝動にかられるシーンが多々あります。それでも彼女たちが歯を食いしばって鉱山にしがみつく理由。ジョージ-の場合はすべて2人の子どもたちのため。鉱山で働けば暴力を振るう男から独立し、自分の力で家が買える給料を手にすることができる。だから、仕事はやめられないのです。映画のもう一つの中心は必死にもがいても、埋められない親子のきずな。鉱山で働く母を恥じる息子、こんなに頑張っているのは2人のためなのに! と八方ふさがりなやりきれない気持ちがスクリーンから切ないくらいに伝わってきます。一方、ジョージ-と同じ鉱山で働く父親との父子愛。そして、鉱山で働く女子従業員たちの代表格グローリーと、夫カイルのお互いを思いやり、敬いあう愛。過酷な状況でも立ち上がり続ける女性たちを支えるのは、すべて愛のなせる技なのです。
暴力夫、職場はセクハラだらけ、出戻りで肩身が狭い、子供はスネる……悪いことだらけの状況に陥るジョージー
6. 女流監督ニキ・カーロが描く、繊細な女性の心
鉱山で働く女性たちを観て、私たちが真っ先に共感するのは、ただ強いだけではないということ。職場でいやなことがあった時、ついトイレで泣いてしまったりした経験はありませんか? 彼女たちも同じです。ひどいことをされても、冷静をよそおってロッカー室まで戻り、一人になって涙を流すジョージ-。いじめのひどさに耐え切れずにその場で泣き崩れるシェリー。涙を浮かべながら、にらみ続けるペグ。鉱山の女性たちは、みんな泣きながら強くなっていきます。この映画の監督ニキ・カーロは『クジラの島の少女』で注目を集めた女流監督。セクハラに対して、強くあろうと頑張りながらも残酷な言葉に傷つき涙してしまう女性の繊細な心の見事に描き出すカーロ監督のこだわりの演出も要チェックです!
女性の監督だから描ける繊細な部分もありますが、物語の展開はとてもダイナミックです
7. 豪華絢爛のキャスト陣
実力派シャーリーズ・セロンの脇を固めたキャスト陣も名優たちが勢ぞろい。まずは、なんといっても主人公ジョージ-を優しく支え、男からのセクハラも下ネタをフル活用してさらりと流す明るくてワイルドなグローリーを演じた『ファーゴ』のフランシス・マクドーマンド。そんなグローリーを温かい目で見守る夫カイルに『ロード・オブ・ザ・リング』のショーン・ビーン。カイルの親友でジョージ-に強く惹かれながら、集団訴訟の担当を引き受ける弁護士役にウディ・ハレルソン。そして、ジョージーの母にシシー・スペイシク。なんと1つの作品に3人ものオスカー女優が集結し、その脇をさらに演技派俳優が固めるという最強キャスト陣の白熱の演技戦に注目!
『ロード・オブ・ザ・リング』のショーン・ビーンがすごく包容力のある男性役で登場します