とにかく地味なラインアップだといわれる今年のオスカー戦線。作品賞の大本命は、前哨戦で圧倒的な勝利を収めている、ゲイのカップルの長年にわたる愛を描いた『ブロークバック・マウンテン』で決まり!
監督のアン・リー、主演のヒース・レジャー、助演のジェイク・ギレンホールらがメインカテゴリーで候補となることは必至の本作。
ヒース&ジェイクがテント内で深夜、初めて一線を越えるドキドキのシーンをはじめ、ゲイムービーが作品賞を獲得するとは世も末よ……とお嘆きの保守的なアカデミー会員もいることでしょう。が、しみじみとした余韻を残す、やるせない喪失感に満ちた愛の物語に「ゲイだから」とケチを付けるのは全くのナンセンス。
気になる対抗馬は、人間の心に潜む偏見や差別意識を浮き彫りにした『クラッシュ』、テロの報復として行われた暗殺計画の真相に迫る『ミュンヘン』、伝説のTVキャスターの闘いを描く『グッドナイト&グッドラック』、鬼才デビッド・クローネンバーグが挑む異色作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、伝説のミュージシャンの波乱の半生を描いた『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』、著名な小説家トルーマン・カポーティを題材にした『カポーティ』など、通好みの渋い作品がズラリ。
ゲイムービーを選ばなくとも、保守派にはうーんと頭をひねりたくなる問題作が勢ぞろいなので、これまた批評家には人気の『キング・コング』が急上昇する可能性もあるかもね(読者の皆さんは3時間の超大作、いかがでしたか?)。
主演男優賞は、『カポーティ』のフィリップ・シーモア・ホフマン、『ブロークバック・マウンテン』のヒース・レジャーの一騎打ちの線が濃厚。
デップのウォンカ(『チャーリーとチョコレート工場』)さんよりもやばい、マイコーのような甲高い声色で実在の作家を演じたフィリップ・シーモアは、やや作り込みすぎとの意見もあるけれど、俳優仲間からのリスペクトも絶大でオスカーウィナーの貫禄は十分! 前哨戦でも一歩リードなのだが、本番ではヒースが有力との見方も。
確かに、もごもごとしたしゃべり方でカウボーイになりきり、40歳過ぎまでを演じきったのはあっぱれ! 『パトリオット』で目を付けたファンは、このところ激しい髪の後退&女性関係にすっかり引いていたに違いないが、今後は演技派としての道を歩むヒースを温かく応援してあげましょう。個人的には、ブリーフ姿の熱演(『レッドドラゴン』ね)が忘れられないフィリップ・シーモア先生でここはひとつ。
ほかには『グッドナイト&グッドラック』のデヴィッド・ストラザーン、『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』のホアキン・フェニックス(自前の歌声は立派です!)、『Hustle
& Flow』のテレンス・ハアード(『クラッシュ』の助演でも高評価)、『シンデレラマン』のラッセル・クロウらが有力。
毎年、渋い芸達者が並ぶ助演部門のイチオシは、『シンデレラマン』で味のある演技を見せたポール・ジアマッティで。公開時期が早かったのが不利ではあるけれど、『アメリカン・スプレダー』と『サイドウェイ』で涙を飲んだ分、同情票も追い風になるかも。
ほかには、『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホール、『クラッシュ』のマット・ディロン、『シリアナ』のジョージ・クルーニー、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のウィリアム・ハート(本作では久々に悪役で登場のエド・ハリスもいいですよ)らがエントリーしそうな勢い。
しかしですね。変態がお似合いのフィリップ・シーモア先生が主演、いじけた豆ダヌキのような風貌のジアマッティが助演となると、なんていうか記事にするときに絵作りに困るほどに地味ですねぇ。
というわけで、女優陣に救い求めたいところですが、『スタンドアップ』のシャーリズ・セロン、あとは個人的にはなぜ候補に名が挙がるのか納得がいかない『プライドと偏見』のキーラ・ナイトレイ&『SAYURI』のチャン・ツィイーといった、華やかなメンツの受賞はまずないでしょう。
下馬評では、「デスパレートな妻たち」でエミー賞に輝いた、『Transamerica』の実力派フェリシティ・ハフマンvs.『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』のリース・ウィザースプーンの戦いになる模様。
リースは自前の歌声も披露する熱演で、前哨戦でも大健闘中。ハフマンは作品を見なくても予測がつく芸達者だけど、どっちがとってもなんだか地味な印象はぬぐえない!?
助演はどうかといえば、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のマリア・ベロ、『ブロークバック・マウンテン』のミシェル・ウィリアムス(10月にヒースの娘を出産)、ウディ・アレンの新しいミューズとなった『Match
Point』のスカーレット・ヨハンソン、『カポーティ』のキャサリン・キーナーあたりが有力のよう。でも、他のカテゴリーに比べるとこれといって決め手には欠ける感じ。
ジョシュ・ハートネットとラブラブのスカーレットにサプライズ受賞してもらって、ハリウッドの女優たちの更なる憎まれ役となるのも面白いかも。
さて、最後に監督賞を。これまた前哨戦では、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リーが圧倒的な強さを見せ付けています(『ハルク』のみそぎは済んだことにしてあげましょうね!)。強力ライバルは、業界内でも顔のきく『グッドナイト&グッドラック』のジョージ・クルーニー。これはもしかすると、もしかするかも。『シリアナ』の好演といい、問題意識の高い作品に挑むクルーニーは、ただの伊達男じゃないことを証明して大活躍の2005年でした。
『ミュンヘン』は力作には違いないけど、すでに2度の監督賞に輝くスピルバーグが、この作品で取る可能性はなさそう。
ほかには『キング・コング』のピーター・ジャクソン、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のクローネンバーグ、そして『Match
Point』のウディ・アレンは70代に突入して新境地を開拓したと大評判。ロンドンに拠点を移して底力を見せた御大アレンに、ハリウッドが再びひれ伏す日が来るのか? いやはや、なんだかごった煮(?)な感じの監督賞は、あっと驚くサプライズがあるかもしれません。
アカデミー賞のノミネーションの発表は2006年1月31日 am.5:30 から(日本時間2006年1月31日pm.10:30~)、授賞式は3月5日。皆さんも自分なりのオスカー予想を楽しみながら、年に一度の映画界の大イベントに向けて気分を盛り上げていきましょう!
文:今 祥枝
写真キャプション:編集部
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『ブロークバック・マウンテン』のヒース・レジャー(左)とジェイク・ギレンホール。
ヒース・レジャーの演技にびっくり! こんなキャラだっけ? と思うほど。若者から中年までを声色から立ち振る舞いまで見事に演じきりました!
『ミュンヘン』は1972年ミュンヘンオリンピックで起きた実際の事件。出演俳優を演技派で固めています。
『クラッシュ』はアメリカ人の潜在意識にある「差別意識」を浮き彫りにした傑作です。
『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』で伝説のミュージシャンを演じたホアキン・フェニックス。演技がうまいことが標準と思われている彼には、もうひとひねりほしかったところです。
『シリアナ』のジョージ・クルーニー。今年、ジョージは監督に、俳優に大活躍でした。
『グッドナイト&グッドラック』は『ブロークバック・マウンテン』とならんで今年のヴェネチアで話題になった作品。
『SAYURI』のチャン・ツィイーは日本人になりきっているとはいいがたいのですが、その独特なキャラクター作りには成功していました。
『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』のヒロイン、リース・ウィザースプーンは決して美人ではありませんが、演技によってそう見えるから不思議。Kevin
Parry/WireImage.com
『キング・コング』は、批評家にも高い評価を得ています。意外にピーター・ジャクソンが監督賞を受賞……というのはありかもしれません。
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