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ハリウッドの不条理なシステムに反旗を翻すジェームズ・トバック

この人の話を聞きたい

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世間一般に見られる事や、聞かれる事に慣れているセレブリティには、自尊心の強いうぬぼれたやつと、無意識にリラックスした状態で力強い感性を表現できる人とに分かれるんだ。本物は、非常に並外れた存在感で、その場にいるだけでストレートな表現能力を伝達できる人たちなんです。-ジェームズ・トバック-~この人の話を聞きたい~その7:ハリウッドの不条理なシステムに反旗を翻すジェームズ・トバック

ジェームズ・トバック
 

トバックとネーブ・キャンベル  
新人監督がアメリカの独立系映画会社で評価され、その後大作を依頼され独立系映画から巣立って行く。
 
そんな若い監督による、ハリウッドの大手映画会社の期待を一身に背負って制作された大作の中には、何かしら遠慮がちで、妥協していて、見る度に少し歯痒い思いをするものもある。もちろん、多くの資金をつぎ込んだのだから、経営上、かなりの興行を稼がなければ成立しない事は百も承知である。しかしそんなハリウッドのシステムに長年立ち向かっている真の男がいる。
 
その名は、ジェームズ・トバック。彼は、ハーバード大学を卒業した後、半自叙伝として作り上げた『熱い賭け ザ・ギャンブラー』でウッディ・アレン、マーティン・スコセッシらとともに70年代のニューヨークで頭角を現し、脚本家としてハリウッドの頂点に登り詰めたこともある逸材。だがそのハリウッドの不条理なやり方に反旗を翻し、過酷なまでに自分の撮りたい映画を追求してきた、たくましいしい映画作家。そして期も熟した今、そんな彼の波瀾万丈の人生を凝縮した形で描いたドキュメンタリー映画が誕生した。
 
今回は、その監督のニコラス・ジァレキと本人のジェームズ・トバックに、彼らのインディペンデント・スピリッツを聞いてみた。
Q:ニック、この映画に携わる前に、映画製作にたずさわる道標とも言えるべき著書『Breaking in: How 20 film director got their start』(今アメリカ映画界の一線で活躍する監督達の処女作品に至るまでの経緯を語ってもらったインタビュ-)を書かれていますよね。どうやって監督達のインタビューを取ったんですか?
 
(ニック・ジァレキ)N.Y.U(ニューヨーク大学、世界有数の映画学部がある)を卒業した後、映画監督になりたかったのですが、とうぜんすぐには映画関係の会社に採用されなかったんです。しかしあるアイデアが思い浮かび、本を書こうと決意したんだけど、映画をビジネスにしている知人がいないうえ、僕の家族もそのころはまだ、映画産業に関わっていなかったんです。(ちなみに彼の兄弟の一人、アンドリュー・ジュレキは映画『Capturing the Friedmans』、もう一人のユージン・ジュレキは、映画『Why wefight』でその後、それぞれサンダンス映画祭で賞を受賞している類い稀な家族である)。
ある日、私の友人が本のエージェントが、紹介してくれて、そのエージェントが、すぐに私のインタビューの提案を気に入ってくれ、その提案とそれまで取った2つのインタビューをまとめて出版社に提出したんです。その後、出版社が活躍している監督に、私がこういう本を執筆中と言う事を書いた手紙を送ってくれたんです。それ以外にも200人以上もの監督のオフィスに自分のアシスタントと手分けして、電話して頼み込んだんだ。そしてそのインタビューにジェームズ・トバックが参加してくれてたんです。
 
そこで彼の撮影している『When I will be loved』のセットを訪れ、それがきっかけで、DVDの特典で付いてくる5分位のメイキングを作る事になったんです。その制作時中に、この素晴らしい教養と少し精神錯乱状態で狂気じみたような性格の両極端な2面性を持つ彼に引かれていき、そんな彼の人生を交錯させた草稿みたいなものが頭の中で出来上がったんです。それが長編に至る経緯なんだけど、その制作に達するまでに15回くらい電話してようやく彼に繋がったんだけどね。
 
Q:トバック、このドキュメンタリーは、かなりの広範囲にわたって描かれているのですが、どういう部分に恐れや興奮をかき立てられ、この映画に出演することになったのですか?
 
(ジェームズ・トバック)私は、いつも誰かから逃げたり隠れたりしている事が多く、全てを拒否して隠遁生活みたいな経験をしたこともあるのですが、そんな自分の人生を映画の主役として描いてくれ、その影響力が予想以上に価値があるものだということを発見したんだ。また一方でフランスの監督トリュフォーが『全ての映画監督は、自分が過小評価されていると思っている』と言ったように、そんな彼みたいな傑出した監督でさえ感じるのだから、私は間違いなく確実に過小評価されていると自負している。始めにニックの本を読んだ時、エネルギッシュで聡明だと感じ取ったのですが、唯一気になったのは、彼に監督が出来る才能があるかどうかでした。成功している監督でも、一般大衆に受け入れられて100億を稼げるような映画を作ろうと試みのに、間抜けな監督は無数にいます。しかし彼の編集の初期段階でのシーンを見た時に、彼が才能を持ち合わせていると認識したんです。だから彼の作品に自ら手を加えることはなかった。それが正しいやり方でしょう。真実を描いて欲しいからね!
Q:トバック、あなたの映画では、元ボクサーのマイク・タイソンや元モデルのクローディア・シファーように俳優じゃない人物登場させる事があるのですが、それはどんな理由があるのですか?
(ジェームズ・トバック)世間一般に見られる事や、聞かれる事に慣れているセレブリティには、自尊心の強いうぬぼれたやつと、無意識にリラックスした状態で力強い感性を表現できる人とに分かれるんだ。本物は、非常に並外れた存在感で、その場にいるだけでストレートな表現能力を伝達できる人達なんです。ただし映画の演技は、ある意味欺瞞(ぎまん)なんです。ステージの演技だと自分の技能をストレートに表現できるし、それは自分のものだが、映画の演技は、自分のベストだと思った演技が、必ずしも編集の際にファイナル・カットして残っている訳じゃないんだよ。
 
Q:ニック、デジタルの時代に入り製作しやすくなったのは良いのですが、逆に競争相手が増え、サンダンスでは2000-3000本の中から、トライベッカでは5000本の中から選考されている訳で、年々その本数は増えています。今後映画作家は、どんな対処をすべきでしょうか?
 
(ニック・ジァレキ)もちろん、良い映画を作れば、問題ないのだけれど……。一番には、一つの事を一貫性を保ちながら継続させる事だと思う。私自身もこの映画の製作後、配給会社が見つからず、何十回もあきらめかけて、この映画を一つの名刺代わりに使うつもりで、次の作品に移ろうと思っていたんだ。だがトバックが、私を押し立てて、あっちこっちに電話をかけさせたり、足を運ぶ事を進めてきたんだ。それが劇場公開とTV番組Showtime(アメリカのケーブル番組)での放映に結びついたんだ。
Q:トバック、あなたは撮影の際に良くステディカム(映像がブレないようにするカメラ)で撮影される事が多いのですが、ニューヨークのようなエネルギシュな都市で現実的な物語構成を描こうと思ったら手持ちカメラの撮影を試みても良いと思うのですが、それをしない理由があるのですか?
(ジェームズ・トバック)これは単に私自身の持つ美意識からの理由です。あなたの言っている事はすごく分かりります、けど私には、手持ちカメラのブレが少しアマチュアの映像のように感じてしまっているんです。美意識を追求するためにそういった趣向にこだわり、それを今自分はついつい正当化しようとしているんです。
 
Q:ニック、あなたの持つトバックの印象を、彼のギャンブル狂とドラッグを含めて聞かせてください?
 
(ニック・ジァレキ)彼のギャンブル狂から抜け出せない苦労時代を聞いたのですが、その中で一番驚いたのが1981年のワールド・シリーズで一億を賭けた事があるらしいんだ!当時の一億だから今の3億くらいですよね。そしてそれで負けたんだ。それから5年間は賭けをやらなかったらしいのですが、それでも今でも競馬だけは続けているみたいです。ちょっと前に一緒にOTB(場外馬券所)に行った事があるのだけど、楽しみを見出してやっている感じではなく、何かをやらなければいけないという感じだったんです。もちろん彼はお金を持っているし、今では自分の人生を賭けるような事はしてないけど……。ドラッグについては、一時期極度にやった以外は手に触れてもいないし、過去に毎朝シャンパン2本(ホワイト・スター)を開けていた酒も1983年にやめ、5箱吸っていた煙草もだ。こんな数多くのエピソードもある意味では、大監督の証しみたいだけど、彼が映画人として不屈の精神を持ち合わせ、素晴らしい思考能力と洞察力で真の芸術家として映画を作り続けているのは尊敬に値する。
 
Q:トバック、あなたにとってそんな自分の美意識を確立したという飛躍的進歩は、いつ感じたのですか?
 
(ジェームズ・トバック)私自身、常に一般客の一人として他の芸術家から影響受けていて、美意識が確立している訳じゃないけど、本当の映画人になったと感じた瞬間は、映画『マッド・フィンガーズ』でハーヴェイ・カイテルがティサ・ファローの部屋を訪れたシーンを撮ったときです。7分間のダリー・ショット(レールを使った移動撮影)でコストがかかるのと時間の問題で撮影監督、脚本家、プロダクション・マネージャーに大反対されたんだ。始めは礼儀正しく彼らの意見も聞いたが、結局最後に私が、「このセット内でのネガティブな意見は今後一切聞き入れない」と主張し、「自分が何をやりたいか分かっている」と告げたんだ。その後、モニターのリプレイを見て、ハーヴェイ・カイテルの前で、『I'm a totalMotherfucker!』と高らかに吠えてやったよ!これからも製作する映画内で批判や反対する連中もいるだろうが、それはあんた達の思い違いだと意思表示していくつもりだ。


彼らを別々にインタビューしたため、トバックに聞きずらい質問をニックに投げかけたりして面白い話も聞き出すことができた。長い物に巻かれず、常に果敢に挑戦し続けるトバックの姿にインタビューしながら、徐々に自然と惹かれていった。そしてそんな彼に敬意を表して、新しい道を築こうとするニックの熱意を後押ししたいとも感じた。この記事が今日も眠気を耐え、汗だくになりながら頑張る映画作家に、なにか更なる意欲を与える事ができたら幸いである。
細木プロフィール
海外での映画製作を決意をする。渡米し、フィルム・スクールに通った後、テレビ東京ニューヨ-ク支社の番組モーニング・サテライトでアシスタントして働く。しかし夢を追い続ける今は、ニューヨークに住み続け、批評家をしながら映画製作をする。
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