セカンドシーズン2006年11月 私的映画宣言 2006年10月23日 今月は好き嫌い度の★5つがなかったので、ひとつ偏愛的にお勧めしたい作品を。『スネーク・フライト』は娯楽映画の鏡というべき快作。旅客機内が毒蛇だらけでパニックになるという設定だけで拍手喝采だが、サミュエル・L・ジャクソンのガッツあふれる奮闘や、デビッド・R・エリスの歯切れ良い演出も素晴らしい。既に2度見たが、まだ見たいぞ! 目下「24」のシーズン5を大事に大事に見ている。今回特に気になるのはジャック・バウアーの携帯電話。過去作もそうだった思うが、今回はいつも以上にすんごい容量のデータをやり取りし、ほとんど休む間なくかけまくっている。なのに、バッテリー切れはしない。どこのメーカーの携帯なんだ。それと、彼が外出時、肩から斜めがけしているバック。とっても丈夫で使いやすそうに見えるが、あれって、CTUの支給品か? なんて、どーでもいいこと考えてる、秋の夜長。 9月末に行われた「第1回けせんぬま映画祭」に参加。あの「欽ドン」に出演していた気仙沼ちゃん(現在は気仙沼大島で民宿「アインスくりこ」の女将・白幡美代子さん)の変わらぬ東北弁に笑い、名曲「魂こがして」をアカペラで歌った石橋凌の歌声に涙し、岸部一徳と一緒に「ザ・タイガース」時代のヒット曲「シーサイド・バウンド」をカラオケで歌って大暴れ。あぁ、充実の3日間。気仙沼の皆さん、お世話になりました! 『タイフーン』を見た母からメール。「チャン・ドンゴンじゃない方の人(イ・ジョンジェ)、真面目な役だけど、住田隆に見えて仕方がない」。う~ん、ビシバシステム住田隆を普通に連想し、フルネームで言える67歳、恐るべし。やっぱりあなたは私のベスト・オブ・韓流仲間です。 ナチョ・リブレ 覆面の神様 教会の修道院で育てられたダメ男が覆面レスラーとしてリングに上がり、修道院の孤児たちにおいしいものを食べさせようと奮起する爆笑コメディ。監督は『バ ス男』の新鋭ジャレッド・ヘス。主人公のダメ男、ナチョを『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラックが演じ、同作でもコンビを組んだジャック・ブ ラックの盟友マイク・ホワイトらが脚本を担当。ギャグの嵐に笑いながら、最後には温かい気持ちになれる感動作。 ジャック・ブラック ピーター・ストーメア リカルド・モントーヤ 監督/脚本: ジャレッド・ヘス 大傑作『バス男』のジャレッド・ヘス監督が、ジャック・ブラックの主演で新作を撮る。これで期待するなというほうムリってもんだ。そして中身も確かに満足できるものだった。主人公が一応、神に仕える身なので『バス男』のようなフツーのダメ人間とは異なり、しかもブラックのオーバーアクションで演じられるのだから等身大的魅力には欠けるものの、“強くなりてえんだよ!”という思いが痛いほど伝わってきて、それだけでグッとくる。どう見てもレスラー体型ではないブラックにタイツを履かせるアイデアも素晴らしく、ダメ・レスラーぶりが際立って笑った。恐ろしく美人のシスターと恋に落ちるのはシャクだが、これも頑張ったご褒美、良しとしておこう。 自分の体型は棚に上げといて、基本、ヤセな男性が好きですが、ジャック・ブラックだけは別。あのどうしようもなく、だらしないデップリ腹もチャーミングにみえる。が、作品には正直、ハマれなかった。本来、だらしないジャック・ブラックが修道僧姿で、十字切ったりするあたりが、前作の『スクール・オブ・ロック』みたいに、教師なんて一番似合わない奴が先生になるミスマッチなおかしさを引き起こすはず。ところが、そんなブラックの存在してるだけでおかしいキャラを、ジャレット・ヘス監督は『バス男』のダメダメ君たちのように扱いきれず、不発。笑いも爆笑というよりは下ネタが目立って、失笑。案外、子どもとのからみを考えると、『スクール~』のリンクレーター監督が作れば、面白いものが出来たんじゃあと思うと、すんごく残念な作。 作品の出来としては『スクール・オブ・ロック』の方が断然、上。やる気ナシの偽教師が、いつの間にかエリート学校の子供たちの情操教育を育んでいたという展開は、まさにハリウッド版『あの子を探して』。恐らく、中国の巨匠チャン・イーモウ監督も絶賛だっただろう。が、今回は「孤児たちにお腹いっぱいご飯を食べさせたい」という大義名分はあれど、ナチョとやせ男コンビが、モテたいとか、目立ちたいとか、自分たちの欲望がまず先に立ってプロレスに挑んでいるところがちょっと「おい、おい」とツッコミたくなるところ。それでも、自分の太っぱらを晒して笑いに徹するジャック・ブラックの精神は買う。来日の際にはぜひ、「西口プロレス」に参加を! 父親たちの星条旗 (C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C 第2次世界大戦時の最も悲劇的な戦いと言われる“硫黄島の戦い”を、アメリカ側の視点から描いた戦争映画。監督は『ミリオンダラー・ベイビー』のクリント・イーストウッド。日米双方の視点から“硫黄島の戦い”を描く“硫黄島プロジェクト”第1弾作品としても注目だ。有名な“摺鉢山に星条旗を掲げる米軍兵士たちの写真”の逸話をもとに、激闘に身を置いた兵士たちの心情がつづられる。『クラッシュ』のライアン・フィリップら、若手スターが多数出演。第2次世界大戦の知られざる一面が垣間見られる。 ライアン・フィリップ ジェシー・ブラッドフォード アダム・ビーチ 監督:クリント・イーストウッド このところ、ヘビー級のパンチのように重厚な作品を連打してきたイーストウッドらしく、今回もズシッと重い。戦争を、しかも実話を題材にする以上、それは当然といえば当然。イーストウッド信奉者の筆者としては、なぜ今、御大が戦争映画を撮るのか疑問に思っていたが、それも氷解した。一枚の写真によって硫黄島戦の英雄に祭り上げられた兵士たちは、ヒーローとして胸を張れるような気分にはなれない。暴力と死が日常的にゴロゴロしている場所に、ヒーローなど存在しえないのである。これは反戦映画であると同時に、一貫してアンチヒーローの立場を貫いて映画を撮り続けてきたイーストウッドならではの作品でもある。いやはや、強烈なパンチでした。 『プライベート・ライアン』を凌駕しようかというぐらいの壮絶な戦闘シーンに胸が痛くなる。何しろ、米兵たちと殺し合うのが日本兵なだけに、複雑な気分だ。話はこの硫黄島の戦いと、その後、生き残った3人の兵士による広報宣伝活動、そして現在。この3つの時代を行きつ戻りつしながら進む。なかなか話に入りづらく、「これ誰のこと、言ってるんだ」というのも多々。もっとも、星条旗を立てようが立てまいが、あの時代、懸命に戦った兵士はみなヒーローだったと言いたいワケだから、顔と名前がわかりづらいなんてケチつけるのは筋違いってことなのか。それにしても自分たちに都合よく情報操作をする軍部のやり方は、イラク戦争の失敗を認めようとせず、戦時下にあるブッシュ政権とかぶる。こんな作品を堂々と作り上げたイーストウッドの映画人としての精神はあっぱれだ。 あぁ、感銘に酔いしれております。戦争で英雄になった男の物語は数多く見てきたが、人の命を奪った重さに罪の意識を感じ、英雄になることを拒んだ人たちを描くとは。そんな人たちのドラマを映画化したイーストウッドの視線が好きだ。残念ながらこの映画の発端となる「硫黄島の国旗掲揚」を撮影したカメラマンは今夏、死去した。AP通信のカメラマンだった彼は、まさか自分が撮った一枚が、戦争費用を集めるプロパガンダとして利用されるとは不本意この上ない事であっただろう。しかし米国政府はイラク侵攻の際、星条旗に包まれて祖国に帰る柩の写真を、今度は隠そうとした。多くの米兵が死去している事実を見せないためにだ。変わらへんねんな、米国は。 プラダを着た悪魔 (C) 2006 TWENTIETH CENTURY FOX ローレン・ワイズバーガーの同名のベストセラー小説を映画化した、ハートウォーミングな女性映画。ゴージャスなファッション業界誌の舞台裏をコミカルにみせる。カリスマ編集長を貫禄たっぷりに演じたのは『クライシス・オブ・アメリカ』のメリル・ストリープ。助手役の『ブロークバック・マウンテン』のアン・ハサウェイと大物女優のやり取りもスリリングだ。続々と登場する一流ブランドのファッションや着こなしも必見。 メリル・ストリープ アン・ハサウェイ エミリー・ブラント 監督:デヴィッド・フランケル 身の置き場のない映画で正直とまどう。一流ファッション誌で働く以上、オシャレでなきゃいけません!という考え方にまずなじめず、“『BURN!』の編集者に長髪&鋲付き皮ジャン着用を義務づけるようなもんだなあ”などと妙な連想が頭をよぎる。そんな歪んだ環境の中でも、正しいことと、そうでないことを的確に見分けるヒロインの聡明さに好感。ハリケーンの中で飛行機を飛ばせだの、ハリーポッターの出版前の原稿を愛娘のために取り寄せろだの、無理難題を押し付けられたら、自分なら即辞めるのに、その点は立派。こんなエキセントリックな上司も映画の中だけの話と思っていたら、当欄の某女史いわく“ああいう人、女性誌の編集長にもいるよね”だって……。 舞台のファッション誌編集部は情容赦ない虎の穴のよう。そこに君臨する女編集長のシゴキに耐えて、ヒロインがはい上がる。というワケで、話は完全スポ根のノリ。主演のアン・ハサウェイもぼんやり天然系キャラながら、自尊心を突付かれると頑張らずにはいられないヒロインにピッタリ。モデル並みに数々の最新モードを着こなす姿もかわいくて、飽きずに楽しませてくれるし、その上、メリル・ストリープ、スタンリー・トゥッチという芸達者な二人の演技が話を引き立てる。ほか、ファッションの現場を覗き見するような面白さもあり、見どころはたっぷり。だが、話のオチのつけ方に不満。仕事で自己実現を目指す女性がイマドキ、それですかぁ? と思うもんで、この採点。 スポーツ紙記者時代に大阪から東京に転勤になった際、軽いカルチャーショックを受けた。女性記者が皆、スカートにヒールを履いていた。「それじゃあ逃げる芸能人を走って追いかけられへんやん」。フリーになって雑誌の仕事をすると、今後は皆、ブランドのバッグに、ふわふわのスカートにミュール。「完全に夏は冷房病やな」。それがどうだ。米「ヴォーグ」誌がモデルとされる劇中の編集部員は、最新のシャネルだ! プラダだ! とレベルが違う。おしゃれな雑誌ゆえ、まずは編集者から……の精神なのだろうが、なんぼ給料をもらっとんねん。大味のアン・ハサウェイは好きじゃないが、今回だけは彼女が演じるアンディちゃんに共感。 トゥモロー・ワールド 人類に子どもが生まれなくなってしまった西暦2027年を舞台にしたアクション・エンターテインメント超大作。監督を務めるのは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロン。人類存亡の危機を巡る壮絶な攻防戦を主題に、英国作家界の女王P.D.ジェイムズの大ベストセラー小説の世界をリアリスティックに演出する。クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーアら実力派豪華キャストの迫真の演技合戦も見逃せない。 クライヴ・オーウェン ジュリアン・ムーア マイケル・ケイン 監督: アルフォンソ・キュアロン 無精子症の男性が増加している、なんて話を聞くと、この映画も絵空事とは思えなくなってくる。作り手の側もそれを承知しているようで、これみよがしに近未来的アイテムを振りかざすことなく、現在と地続きの未来像を描いている。手持ちカメラだけで撮ったという映像も、やたらとリアル。というわけで、けっこう怖いんですよ、この映画。それでいて、しっかり人間ドラマとなっているのだから恐れ入る。クライヴ・オーウェンふんする、人生に絶望した主人公も確かにいいキャラだが、マイケル・ケインのヒッピー的世捨て人も捨てがたい。万が一、こういう世界が訪れたなら、ケインのようにマリファナとロックに漬かりつつ、マイペースで生きたいものです。 昨今いい仕事ぶりが目立つクライヴ・オーウェン。とくに、彼の場合、ちょっとヒネてたり、神経質な男のほうがサマになる。20年後の近未来を描いたこの物語では、何かの理由から人生自暴自棄になり、ヤサグレてる男。ハマってます。面白いのはそんな彼の視線で、出来事を追うというスタイル。長回しも多く、一見ドキュメンタリータッチなので、戦闘シーンなどやけにリアルに思えて、ああ、救われない未来に希望はあるのか……と、観る者を釘付けにする。お見事、キュアロン監督! ほかロンゲのマイケル・ケインに、ちょい出のピーター・ミュランなどの名演もいい。ただし、ジュリアン・ムーアは×。またも、子どもを失った母親という背景ある女。うまい女優だと思うけど、いい加減、似たキャラはやめたらいかが。 少子化社会の今、「子孫を埋めなくなった人類」という設定は興味深い。だが本作品の場合、それはほんの“触り”程度で、子供が産まれなくなったら世間はどうなる……などの描き方は浅く、赤ちゃん片手にいかに生き延びていくかを競うロールプレイング・ゲーム。ロンドンの町中で、オリに入れられた人間が暴れているとか、そんな描写も取ってつけたかのようで、全くもって真に迫るものがナシ。やっぱり筆者にとって、近未来の世の中を警鐘する最近のSF映画の傑作は『28日後…』。本作品と同じロンドンが舞台なだけについつい比較してしまうのが、危機感とやらを感じないのだよ。「ハリポタ」撮って、精神的にぬるくなってる? キュアロンちゃん。 ★だれが何と言おうとこの映画を愛します宣言! ライターが偏愛してやまない1本をご紹介!★ トンマッコルへようこそ (C) 2005 Showbox/Mediaplex Inc. ブームから文化になった韓流映画。今どき「身分違いの恋」や「ヒロインが薄幸で不治の病」みたいな映画ばかりと思い込んでいる人もいないとは思うが、そんな認識で見過すと損してしまう映画がこの『トンマッコルへようこそ』である。特に心の浄化をしたい人にはぴったり。ファンタジーでありながら、甘過ぎない。大人のための童話のような、お話だ。敵対する二つの軍の兵士たちが戦争とは無縁の地に迷い込むという内容は、去年、公開された『ククーシュカ』を思い起こさせる。あのヒロインは母性を感じさせるブロンド女性だったが、カン・ヘジョン演じる本作のヒロインはアイドル顔の不思議少女というのがアジア的趣味。テーマは平和だが、コミカルな場面もたくさんあり、『ロード・オブ・ザ・リング』ばりの冒険譚もある。うっとりした時間を過ごしながら、最後はずっしりと心に残る。ファンタジーと現実が行き交う独特の世界観。物騒なこの頃、こんな映画が世の中には必要では? 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