『どろろ』妻夫木聡&柴咲コウ 単独インタビュー
共演者が想像以上だったとき、
新たに生れる感情や表現に幸せを感じる
文・取材:シネマトゥデイ 写真:亀岡周一
手塚治虫原作の「どろろ」は、作品誕生から約40年もの間「映像化は不可能」と言われ続けていた。しかし、ついに総製作費20億円を投じて映画化に成功した超大作『どろろ』が公開される。体の48か所を魔物に奪われた“百鬼丸”に妻夫木聡。百鬼丸を明るく元気づけながら、奪われた体を取り返す旅をする泥棒“どろろ”役に柴咲コウ。日本映画界をリードする若手俳優二人が、パワフルで迫力満点のアクションを見せている本作は、最高のエンターテインメント作品に仕上がった。主演の妻夫木と柴咲に、ニュージーランドロケやそれぞれの映画への思いを語ってもらった。
手塚治虫の「どろろ」を読んだ感想
Q:原作を読んだ感想と映画化が決定したときの感想をお願いします。
妻夫木:最初に台本をもらって読んだら、すごく面白くて、そこで手塚(治虫)さんの原作だと聞きました。(台本を読んだのは)漫画を読む前だったので、「脚色してこうなっているのかな」と思ったんです。でもそうではなく、手塚さんの「どろろ」という作品自体がアクションも含めて、人間の生きることや、内面のことが描かれていて、映画としても漫画としてもすごく面白かったです。
柴咲:漫画なのに漫画の枠に収まらず、現実世界のことのようにリアルに伝わってくるところや、考えさせられることがちりばめられていて、勉強になると感じました。映画のお話をいただいてから原作と脚本を読んだのですが、(脚本は)漫画を実写にする威力のある書き方で、たくさんト書きもあったし、動きの説明がいっぱいありました。脚本も1冊の本として小説のように読めたので、これは面白くなると思いました。
Q:たくさんの魔物が出てきますが、お二人でどんどん倒していって、一番倒しがいのあった魔物はいましたか?
妻夫木:倒しがいですか?(笑) 結構どの魔物も強かったですからね。
柴咲:やっぱり動いているものの方が……。大木や静止しているものよりも、動いているものの方が動きはつかみやすかったですね。
妻夫木:そうですね。やっぱり“カラス天狗”ですかね。“カラス天狗”とのシーンは、特にワイヤーアクションが多かったんです。(柴咲)コウちゃんも、そのときワイヤーやっていたし。(撮影の)入りが“カラス天狗”のシーンだったので、印象深いですね。
ワイヤーアクションに挑戦!
Q:アクション監督が中国のチン・シウトン監督でしたね。向こうのアクション監督は「容赦ない」とよく聞きますが、いかがでしたか。
妻夫木:容赦ないということでもなかったですね(笑)。
柴咲:優しかったですよね。
妻夫木:そうですね。でも、最初に僕が(撮影に)参加したときに、「あー、これからアクションか……」って思って行ったんです。そしたら、「それじゃあ、妻夫木さんお願いします!」と言われて、ワイヤーを付けたんですけど、その前にスタントの方が吊られていて、パッと上に飛んだんですよ。「あー、これは、僕じゃないだろうな」と思っていたら、「じゃ、妻夫木さんあれと同じことやりますので」って言われたんですよ! そういう意味では容赦はなかったですね(笑)。
柴咲:わたしも“カラス天狗”との対決シーンのときに、初めてチン・シウトン監督の下でアクション撮影が始まったんです。「ワイヤーアクションはないから」って言われていたんですけど、いきなりワイヤーを付けられて、「アレ? 何で付けるのかな?」って思ったら、「じゃ、そのエアーズ(岩石)から飛んでください」って言われて飛びました。しょっぱなから(笑)。
Q:怖くなかったですか? 大丈夫でしたか?
柴咲:それが、命綱があるとすごく勇気が出るんですよ。高い所に立ちなさいと言われても、1本(ワイヤーで)吊られているだけで、何か妙に強くなったような感じがして、あまり恐怖感はなかったです。
Q:ニュージーランドのロケはいかがでしたか?
妻夫木:日本と明らかに違う大地なんで……っていうか日本の広大な大地に行ったことないから、よく分からないのですが(笑)……。植物だったり、土だったり、全体的な雰囲気が見たことのない空気感だったので、そういう異質な感じが『どろろ』の世界観とすごくマッチしていたと思います。ニュージーランドに助けられている部分もあるんじゃないかな。
柴咲:行ってみたらすごくだだっ広い土地があって、しかも草が青々としていないところだったんです。だから荒れ果てた雰囲気も出ていたし、映像としてはバッチリの場所でした。
“百鬼丸”と“どろろ”
Q:“百鬼丸”と“どろろ”はすごく個性的な二人ですが、現場でお互いがどういう演技で来るかというのは想像されていましたか?
妻夫木:いろいろ想像していましたね。脚本が映像をイメージできるくらい本当に面白いんですよ。だから「“どろろ”はこういう感じだろうな」と想像していました。コウちゃんの“どろろ”はその想像通りでもあったし、それ以上に“どろろ”の魅力がかわいくもあり、面白くもあり、そして力強くもあるっていうところを見せてくれたんじゃないかな。
Q:柴咲さんは現場で、“どろろ”として“百鬼丸”と接していかがでしたか?
柴咲:うーん、話の流れで、いつからこの二人が信頼関係を築いたのか分からないけど、「縁」みたいなものを感じるフレーズがあったように思いました。撮影は順撮りではないので、あまり考えずに「言葉では言い表せない空気」みたいなもので二人が引き合わされたというならそれでいいのかなって思いながら演じました。“百鬼丸”って悲しみだったり、人に対する愛みたいなものを忘れないで持っているようなキャラクターだから、そこに“どろろ”は共感、共鳴したのかな。
Q:映画の中で“百鬼丸”が魔物を倒したのに、「怪物!」と言われて石を投げられるつらいシーンがありますよね。そういう役柄を演じて、いかがでしたか?
妻夫木:まあ、いい気はしないですね。でも、そこから逃げていては何も始まらないんじゃないかな。そこに立ち向かう、自分から行動することがとても大事で、そのちょっとした勇気、はじめの一歩が出れば、あとは頑張れるんじゃないかと思うんです。だから、“どろろ”の存在が“百鬼丸”にとっては支えであって、助けであったのだと思います。
俳優としてのお互いの印象
Q:最後に、撮影を終えて演技者・役者としてのお互いの印象を教えてください。
妻夫木:「オレンジデイズ」のドラマで共演して以来なんですけど、本番にかける(柴咲さんの)集中力の高さは素晴らしいなとびっくりさせられました。自分が想像している以上のものと言うか、想像しているものだけがすべてじゃないと僕は常々思っていて、(共演者に)それ以上のものをやられたときに自分から新たに生れる感情や表現が自分自身の幸せを感じるときなんです。そういう刺激が多くて、一緒に演じていて楽しかったです。
柴咲:毎回与えられる役があって、その役の中で打ち出さなきゃいけない責任があるというところばかりを気にしてしまうことってあると思うんですね。(妻夫木さんとは)掛け合いのときに、それらを全部取っ払って、相手から刺激を受けつつ「こっちももっと!」っていうようなやり取りができました。それは“どろろ”と“百鬼丸”の押さえ切れない感情として映し出されていたので、本当に一番(妻夫木さんに)助けられたところだと思います。
インタビューの間、妻夫木、柴咲からひしひしと伝わってきたものがあった。それはお互いが“演技”そして“映画”にかける情熱の深さだ。“百鬼丸”としての妻夫木、そして“どろろ”としての柴咲は、相手の見せる演技に敏感に反応しながら、柴咲の言葉通り「こっちももっと演じてやろう!」という気持ちでぶつかり合っていたのではないだろうか。二人の火花を散らすような演技は、観ているこちらまで刺激されてしまうほど面白い。真摯(しんし)な態度で映画に取り組んでいる二人の役者からは、“百鬼丸”と“どろろ”に似たような信頼にあふれた友情が垣間見えた。
『どろろ』は1月27日より全国東宝系にて公開。