セカンドシーズン2007年2月 私的映画宣言 2007年1月25日 N.YのMETで上演されたチャン・イーモウ演出のオペラ「始皇帝」のライブ上映を新橋演舞場で観た。公演だけでなく、チャン・ツィイーの前説に、ドミンゴの楽屋インタビュー、メイキングまで上映しお値段2000円!(お得な3階席だったもので)。昨年秋、チケットのバカ高さに「トゥーランドット」の日本公演鑑賞を断念しただけに、念願のイーモウ演出作が観られて感激ッス。 普段から、ついつい「この人、あの人に似てる」と考えてしまう私。映画を見ているときもそうで、最近では『ドリームガールズ』のエフィーの兄C.C.がタカアンドトシのトシにみえてしょうがありませんでした。これ自信あります。絶対、似てます! 欧米か。 厄年です、本人は特に気にしていないけれど。海外出張を目前に控えているのだが、“おはらいもせず飛行機には乗せられない”という嫁に神社に行け!と命じられる毎日。しかし、出張前は例によって忙しく、なかなか時間を作れない。万が一、厄のせいで飛行機の天井から毒蛇が降ってきたりしたら、他の乗客の皆様、ゴメンナサイ……。 今年の初映画は機内で観たウディ・アレンの『SCOOP』。ロリ好きなウディが今度は自らスカーレット・ヨハンセンと共演、ヒュー・ジャックマン相手に男っぷりを上げていた。そして、初仕事の取材相手は45歳になっても衰え知らずのアンディ・ラウ。素敵すぎ。というわけで、オヤジ俳優好きとしては幸運な幕開け……。 墨攻 2000年前の戦乱の中国を描いた同名の人気コミックを映画化した歴史スペクタクル。10万の敵に囲まれた落城寸前の小国の城が、平和のために戦うという 目的で助っ人にやって来た1人の“墨家”に救われる伝説の戦を壮大なスケールで描く。頭脳明晰(めいせき)で優れた人柄の主人公を、アジアのトップスター であるアンディ・ラウが好演。敵方の武将を演じる『デュエリスト』などの韓国の名優アン・ソンギとの対決も見ものだ。日韓中が協力して作り上げた渾身のド ラマに胸が震える。 アンディ・ラウ アン・ソンギ ワン・チーウェン 監督・脚本・プロデューサー:ジェイコブ・チャン プロデューサーの井関惺さん、おめでとうございます! 井関さんにはチェン・カイコー監督『始皇帝暗殺』の中国ロケでお世話になりましたが、同作品は公開直前まで編集し直す紆余曲折アリ。製作総指揮を務めたツイ・ハーク監督『霊戦英雄伝』(02)はツッコミ甲斐のある作品でして……(苦笑)。が、本作品は同じく“アジアの才能を集結”がウリだった『プロミス』なんて鼻で笑っちゃうくらいの、見事なコラボレーションです。特に川井憲次さんの音楽と、子団役の台湾俳優ウー・チーロンに萌え~。ただ『オールドボーイ』『鉄コン筋クリート』に続き、日本コミックが原作。またも海外の監督に一本とられたッ!って感じで、ちょっと悔しいですな。 大作なのに地味、だ。だって「守る」映画だから。攻撃されるのをじっと待っている映画なのである。そりゃ地味だよ。アンディはふらりとやってきて、みんなをまとめ上げる策士。西部劇のヒーローみたいな感じだ。ファン・ピンピン演じる女兵士も彼に夢中。このピンピンさん、ポップな名前にふさわしくアニメ声の持ち主。しかもアンディを誘惑するも断られて「あなたって、いつもそう」と、わかったような口を利く。それは何かあった男女の台詞では? 恋の展開だけ妙に唐突。クールな役のはずのアンディすら、突然、彼女を目で追って、はにかんだりしちゃってるんである。真面目に戦え! 王様は完全に悪者なのだが、彼が怒っちゃう気持ちに私は賛同だな。 「三国志演義」の英雄たちにも似たヒロイックな魅力が、アンディ・ラウふんする墨者には確かにある。頭脳的でストイック、リーダーシップがあって心優しい。男子はこうあるべし、という見本のようだ。が、大きな減点はヒロインにあり。騎馬隊長という身分にもかかわらず顔には傷どころか戦闘の汚れさえなく、ツルツルの美肌全開。加えて、うわっついた声のトーンは時代劇にまったく似合わず、ミスキャストとさえ思えてしまう。演じるファン・ビンビンさん、他の映画で見たらチャーミングで綺麗な女優さんだから絶対にファンになっていたと思うと、もったいない。こんな女に惚れた理由がわからず、墨者も男を下げてしまったような気がする。惜しい。 善き人のためのソナタ ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツを舞台に、強固な共産主義体制の中枢を担っていたシュタージの実態を暴き、彼らに翻ろうされた芸術家たちの苦悩を浮き彫り にした話題作。監督フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが歴史学者や目撃者への取材を経て作品を完成。アカデミー賞外国語映画賞ドイツ代表作品 としても注目を集めている。恐るべき真実を見つめた歴史ドラマとして、珠玉のヒューマンストーリーとして楽しめる。 ウルリッヒ・ミューエ マルティナ・ゲデック セバスチャン・コッホ 監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 久々に、観賞後、椅子から立てなくなるほどの衝撃を受けた。人の弱味につけこみ、身内をも情報提供者に仕立て上げるあくどいやり方。が、観賞後にプレスを呼んでさらに衝撃。劇中、秘密警察シュタージュの監視員を演じていたウルリッヒ・ミューエは現実にシュタージュに目を付けられ、奥さんが情報提供者として記録に残っているというじゃないか。他人事ながら、どうです? その後の夫婦関係は? 奥さんってば「そのファイルは偽物よ」と言い訳し、シラを切っているって言うじゃないですか。本作品はアカデミー賞のドイツ代表に選ばれているワケですが、ノミネートされた際には夫婦で参列するのか否か……。菊池凛子より、私はこっちが気になる。 見た後の余韻が素晴らしい。思い出すだけで幸せな気分になる。実に粋な映画だ。ほとんど言葉を交わしたことのない男たちの間に芽生える不思議な友情。それにしても東独でこんなことが行なわれていたとは衝撃である。そしてベルリンの壁崩壊前後になるとただの普通の人だったと知らされる主人公が、権力を持つとあんなに冷酷な人になれたこと。そして、逆にその普通の人が知らない誰かのためにあそこまでの勇気を持てたこと。人間の持っているいろんな可能性に驚かされた。でも一番びっくりしたのはあの主役の俳優が、実際にずっと妻に監視され続けていたという事実である。あのもの悲しい演技の裏にそんなエピソードがあったのかと思うと、涙がさらに止まらない。 社会主義の敵を取り締まる冷徹やお役人も、ひと皮むけばただの人。盗聴器から聴こえるピアノの音色に涙を流したとき、これでガン=カタをやれば『リベリオン/叛逆者』だな……などと思ったが、この主人公はガン=カタの代わりに人間臭さをプンプン現わす。敵であるはずの監視対象者の窮地を救うのはもちろん、大臣に体を売る女優に説教し、愛の営みを盗聴したらその晩にデブの娼婦を買い、あげくコトが終わってから“もう少し側にいてくれないか”などと言ってしまう情けなくも気持ちのわかる、そんな部分に共感させられる。まったくの無表情で、そんな主人公を演じきったウルリッヒ・ミューヘ、タダ者じゃない。 幸せのちから ホームレスから億万長者となり、アメリカンドリームを実現させた実在の人物、クリス・ガードナーの半生を基に描いた感動作。『メン・イン・ブラック』の ウィル・スミスが人生の最も困難な時期を愛する息子とともに切り抜けた主人公を熱演。彼の実の息子が息子役を演じているのも見逃せない。監督はイタリア映 画界の俊英ガブリエレ・ムッチーノ。単なるサクセスストーリーではなく、父子愛のドラマとして描き上げた監督の手腕に注目だ。 ウィル・スミス タンディ・ニュートン ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス 監督: ガブリエレ・ムッチーノ アメリカンドリームを描いた映画は数あれど、最初から最後まで極貧生活のみを描いた作品は珍しい。金もない、職もない男が子供を育てつつ、かつ就職活動をするにはどうしたらいいか。まさに超リアルな映画版「芸能人節約生活」(テレビ朝日「いきなり!黄金伝説」)。ただしこちらは所持金0円にまで陥っているので、切羽詰まってます。一日人数限定のホームレス用施設に潜り込むために親子で並んだり、その施設にも入れなかった夜には、地下鉄のトイレで寝泊まり。そしてたまには友人に「あん時貸した金を返せ!」とせこい昔の貸し借りを持ち出して脅す。そこには万が一、米国で一文無しになった場合の処世術がいっぱい。勉強にさせて頂きました。 感動にむせび泣くような展開を期待していたら、ずいぶんあっさりとしているのである。真実に近づけようとしているんだろうけど、もっと演出で盛り上げてくれてもよかったのに。ちょっとクールすぎる印象。車に轢かれたのに(!)、職失いたくない一心で仕事場に戻るという場面でも、そのがむしゃらさが感じられず、ただの体が丈夫な人にみえちゃったりするのである。ウィルは外見から、ただのオッサンになりきっていて、しかも表情は実の息子に接する親の顔になっていたから、かなりよかったのだが、単独のシーンがもう一歩。ウィルの息子はさすが美男美女の息子だけあり、とてもキュート。しかも父といるからかカメラの前でも平常心で、将来有望だ。 子持ちの自分にグッと来ないわけがなく、ラストでしっかりもらい泣き。物語自体は思ったよりも簡素で、主人公が職を得るまでが描かれているのだが、いくらでもドラマチックにできるところを、あえて時代を狭め、夢のようなサクセス・ストーリーではなく庶民的ドラマに仕立てた見せた点に好感。そこから見えてくるのは、とにかく一秒たりとも時間をムダにしない姿勢。生活苦だからもちろんダラダラもしていられないのだろうけれど、酒に逃避したり、ボーッとしたりする時間が想像できない主人公の活力に脱帽。父親ってのは24時間営業なんだねえ……と、しみじみ学ばせていただいた。実子との共演のせいか、ウィル・スミスのまなざしがいつになく優しくみえる。親バカ評ですみません……。 ドリームガールズ トニー賞で6部門を受賞した伝説のブロードウェイミュージカルを映画化した極上のエンターテイ ンメント作。コーラスガールの女性3人組が歩んだ成功と挫折の物語を、数々の名曲に載せて描き出す。『シカゴ』で脚本を担当したビル・コンドンが監督と脚 本を担当し、コーラスガール役にはグラミー賞受賞者のビヨンセ・ノウルズがふんする。共演者にはジェイミー・フォックスやエディ・マーフィなどの人気と実 力を兼ね備えたスターが顔をそろえる。ビヨンセ率いるコーラスガールたちが披露する歌声と魅惑的なパフォーマンスは圧巻。 ジェイミー・フォックス ビヨンセ・ノウルズ エディ・マーフィ 監督・脚本:ビル・コンドン 日本では『バベル』の菊池凛子が米国の賞レースで、数々の助演女優賞にノミネートされているが、最優秀賞受賞という凛子の野望をことごとく打ち破っているのが本作品の新星ジェニファー・ハドソン。でも本作品を観て納得。残念だけど、米国人だったら尚更、こっちに採点を上げたくなっちゃうわな。主演のビヨンセをも喰う歌の上手さと、新人でしかも弱冠25歳とは思えぬ森公美子級の貫禄。何より、本作品を支えているのは、華麗なビヨンセでも、まさかの美声ぶりを見せたエディ・マーフィーでもなく、間違いなく憎まれ役の彼女だもん。まぁ最近作品の質が問われるハリウッドですが、俳優陣の層の厚さを改めて感じさせてくれた一本だった。 突然、キャストが自分の心情を歌いだす、こういうミュージカルらしいミュージカルを最近、見ていなかったので、最初はちょっと戸惑う。でも皆、歌がしびれるほど、上手い。特にジェニファー。あのビヨンセすら、かすみそうな歌唱力である。ただ、彼女は役の上で太ったそうなのだが、ビヨンセと同じ衣装が全く似合わず(それも狙いだろうけど)、気の毒極まりなかった。あんな太ったMEGUMIみたいな女をセクシーとかいうか。ビヨンセは外見はすっかりダイアナ・ロスになりきっていたが、ダンスシーンで時々、抑え切れないのか、クビをクイクイ動かして、ちょくちょくビヨンセに戻ってた。バックダンサーより激しく腰を振る、力の入れようは買うけど。 ブロードウェイ・ミュージカルの映画化という看板にふさわしく、カラフルでゴージャスな雰囲気。それはそれで魅力的だが、1960~70年代のブラック・ミュージック史の再現にも興味を引かれた。元ネタはご存知のとおり、モータウン・レコードとダイアナ・ロス&シュープリームスの成功秘話。ドリームスのアイテムは振り付けや衣装、レコード・ジャケットにいたるまで、現実のパロディになのではと思わせるほどの凝りようだ。ディテールのリアルな感触に、舞台版を越えようとする映画版スタッフの意気込みを感じる。映画賞を総ナメにしているジェニファー・ハドソンのソウルフルな歌声も圧巻だが、ソウルを殺したボーカルで操り人形的な役になりきったビヨンセも、もっと評価されていいのでは。 ★だれが何と言おうとこの映画を愛します宣言! ライターが偏愛してやまない1本をご紹介!★ 世界最速のインディアン (C) 2005 WFI Production Ltd. 1967年、伝説のバイク“インディアン”で世界最速の記録を樹立した実在の人物バート・マンローの物語。主演が名優アンソニー・ホプキンスと聞くと、なんだか高尚そうだが、いい意味で大ハズレ。茶目っ気たっぷりに、63歳というご老体でスピードを競ったマンローを心底、楽しそうに演じている。とにかく、このマンローが豪快オヤジで魅力的だ。ニュージーランドの小さな町で物置小屋のような家で暮らしながら、早朝からバイクいじり。少々ご近所迷惑です。でも、憎めない存在で、夢ある男はいくつになっても枯れないのか、女にモテる。そんな生涯現役なオヤジがライダーの聖地・ユタ州のボンヌヴィルを目指す旅も愉快、痛快だ。ちょっと出来すぎぃーとケチも入れたくなるが、ご愛嬌。年明け早々、カネはあっても夢なき人生は……みたいな事件をさんざっぱら見せられた目には、カネはなくとも夢だけはある破天荒なオヤジの生き方が新鮮。人生、楽しく生きたいっす! 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