『トランスフォーマー』スティーヴン・スピルバーグ 単独インタビュー
監督が決めたことに僕は内容に口出しをしない。
どうしても変えてほしいと思ったら戦うけどね
取材・文:シネマトゥデイ 写真:(C)Kaori Suzuki
この夏の話題作である『トランスフォーマー』は、監督にマイケル・ベイを迎え、未知なる地球外生命体と人間との攻防を描くSFアクション大作だ。あらゆるテクノロジー機器にトランスフォーム(変身)する能力を持つ“金属生命体”をパーツの一つ一つまで、3DのCG処理で描き切ったその映像は前人未到の映像世界だ。本作の製作総指揮を務めたのはスティーヴン・スピルバーグ。「僕は、監督ではないので……」と言いながらも本作のことや、自身のプライベートのことなどをロサンゼルスで語ってくれた。
製作総指揮と監督の違いは?
Q:あんな複雑なメカニックが変身するシーンは見たことがありません。この映画でのCG処理は、並ではないと思いますが、こんなに見るからに大変なことをやりたいと言い出したのはあなたですか?
そう、僕だよ。僕の子どもたちは、日本のおもちゃでよく遊ぶんだ。とてもよくできていて興味深いものが多いよね。そのおもちゃの中に、トランスフォーマー(タカラトミーから発売されている玩具)があったんだ。パーツが細かく動くおもちゃで、子どもたちと、いつもそのおもちゃで遊んでいたんだ。そのうちに、これを映画で撮りたいと思い始めたけど、同時に難しいだろうとも思った。でも、最近になって今のCGの技術だったら、この複雑な実写映画もごまかすことなく撮れる時代になったと思い、映画の製作を決意したんだ。
Q:今回は、監督でなく製作総指揮を務めていらっしゃいますが、監督をなさるときと製作総指揮のとき、あなたの仕事の役割分担を教えてください。
製作総指揮の役割のときは、現場にいつもいなくていいんだ。監督を起用するまでは、自分でいろいろなことをやるけどね。でも監督が決まった時点で僕は、口出しをしないように努力するよ(笑)。でも、万が一、僕がある部分をどうしても変えてほしいと思ったら監督と戦わなくてはいけない。製作総指揮のときは、僕はボスではないんだ。監督がボスなんだ。監督を起用するのは、僕だし、ストーリーや脚本の段階では、僕がボスだったんだけどね。でも監督の仕事がはっきりと見えた時点で、僕は、バックグラウンドに消えていって監督が前面に出ていくんだ。
Q:『トランスフォーマー』では、なぜあなたが監督をしないでマイケル・ベイを監督にしたのですか?
ほかの映画の仕事がいっぱいあって、今はとにかく時間がないんだ。マイケル・ベイの作品は『バッドボーイズ』も『アイランド』もそのほかの作品も、とにかく面白くて僕は大好きなんだ。だから、僕が監督をできない以上、この映画を彼に頼むしかないと思ったんだ。
Q:『トランスフォーマー』で一番お金がかかったシーンは?
クライマックスのバトルだね。悪のロボットと正義のロボットとの戦いのシーンだよ。とにかく言葉では表現できない。観てびっくりだと思うよ。最後に一番大きいものを持ってこないとね。バトルとしては最大のバトルだと思うよ。
男は“メカ”“戦い”“破壊”が好き
Q:この映画にも含まれていますが、男の子は“メカニック”“戦い”“破壊”が好きですよね。女性から見ると、とても不可解な男性の特性を、スピルバーグさんが男性代表として説明していただけませんか?
そうだよね。女性と男性は、そこが大きく違うね。あと男性は、変身も好き。まさにこの『トランスフォーマー』はそれらの要素がぴったりと当てはまるよね。僕も子どものころやったけど、コップをわざと落として、砕け散ってたくさんのピースになるところを見たいんじゃないかな。男の子は。僕はね、自分の子どもが物を壊したら、いいんだよ、いいんだよ……と言って、のりや接着剤を渡すようにしているんだ(笑)。
Q:スピルバーグさんのお子さんもこの映画を楽しみにしていますか?
そうだね。予告編を観て、「早く観たい! 早く観せて!」と言うんだ。
Q:『トランスフォーマー』は男の子には、楽しくて仕方がない映画ですが、女の子が楽しむポイントは?
ラブストーリーがあるんだ。あと、シャイア・ラブーフは魅力的だから彼にも注目してほしいな。彼を観たくて映画館に来る人はきっと増えると思うよ。彼は新しいアイドルなんだ。あと、レイチェル・テイラーふんするマギーという名前のキャラクターがいて、とても活躍するから彼女にも注目してほしいな。
主演のシャイア・ラブーフの魅力
Q:日本では無名ですが、主演のシャイア・ラブーフの魅力は?
彼はすごく親しみやすい人柄と雰囲気を持っているんだ。一般の人と同じような……。それでいてカリスマ性がある。アメリカでも、今まさに人気急上昇の俳優なんだよ。(シャイア・ラブーフは全米ボックスオフィス1位の『ディスタービア』(原題)に主演)
Q:『インディ・ジョーンズ4』(仮)にシャイアが出ていると聞きましたが、どんな役ですか?
インディ・ジョーンズと行動をともにする相棒役なんだ。
Q:インディ・ジョーンズの息子ではないのですか? インディ・ジョーンズに息子はいないのですか?
ふふふ、それは言えないな。秘密だよ。
Q:『インディ・ジョーンズ4』(仮)の製作はどれくらい進んでいますか?
6月に撮影開始する予定で、10月に撮り終わるんだ。
インターネットは、うそと真実が入り乱れている
Q:インターネットで『トランスフォーマー』は最初から三部作だといううわさが流れていましたがそんな構想はありますか?
成功すれば、もう1本考えようということになるけど、今のところまったく考えていないかな。それは単なるデマだよ。
Q:インターネットは利用しますか?
利用するよ。でもネットは、正しい情報もあるけど、うその情報もある。うそと本当の情報が混在しているから、子どもたちにもインターネットには注意しないといけないサイトがあると言っているんだ。100パーセント正確なサイトもあれば、でたらめばかりのサイトもある。だから宿題をするときには、正しいサイトを見るように言っているよ。
Q:人生で最も影響を受けた映画ベスト3を教えてください。
3本では言い切れないな。103本くらいあるかな(笑)。映画だけでなく、テレビ、ラジオ、親から聞いたおとぎ話もそうだし……。
Q:では、この映画の世界に入ったきっかけになったと言える映画はありますか?
『アラビアのロレンス』が僕を一番監督になりたいと思わせた映画だね。すばらしい映画だよ。確かに僕の作品は、この作品の影響を受けていると思うよ。
Q:2007年のアカデミー賞受賞式のとき、マーティン・スコセッシの受賞を本当に喜んでいらっしゃいましたよね。
彼とは1968年からの知り合いだからね。今までオスカーを獲得するチャンスが何度も何度もあったのに、なぜか取れなかった。今回のアカデミー賞では『硫黄島からの手紙』でノミネートされていた、クリント(・イーストウッド)にも取らせてあげたいし……スコセッシにも取らせてあげたいし……とても困ったよ。しかも、僕がプレゼンターだったしね。でも、マーティンが取って、とてもうれしかったよ。
Q:唐突な質問ですが、スピルバーグさんが、トランフォームするとしたら何になりたいですか?
僕? 犬になりたいな。僕が飼っている犬。2匹飼っているんだ。犬として世の中を見たらどういう感覚なのかとても興味があるね。僕は子どもが7人いるんだけど、その内5人は同居しているんだ。その家族の様子とか、犬の視点で見たら面白そうだね。
愛にあふれている人。それが、スピルバーグ監督の第一印象だった。話を聞くと『トランスフォーマー』のことはもちろんだが、子どもや自分の飼っている犬、おもちゃ、すべてのものに愛を持って接しているのが伝わってきた。日本からロサンゼルスに取材にやってきた日本のマスコミをやさしい笑顔で迎え、時折正確な発音で日本語を発し驚かせる、サービス精神満点の人でもあった。そんなスピルバーグ監督だからこそ、映画でも常に新しいことに挑戦し人々を驚かせようとしてくれるのだ。『トランスフォーマー』はスピルバーグのサービス精神と愛にあふれた映画であることは間違いない。
『トランスフォーマー』は8月4日より、日劇ほかにて全国公開。