サードシーズン2008年1月
私的映画宣言
年末年始は風邪で熱を出し、実家にも帰れず。おかげで紅白歌合戦はもちろん、テレビ東京「きらきらアフロ'08年正月SP」、TBS「鶴瓶メインキャスト!」とテレビ三昧……いや、鶴瓶三昧だ。わたしゃ、紅白に洗脳されたようです。
明けましておめでとうございます! 正月休みは平穏な田舎で読書に励んでおったのですが、過剰に頑張り過ぎて目を酷使してしまいました! やはり何事もバランスが大切だね! ということを身をもって知った、そんな08年の幕開け。本年も宜しくお願い致します!
台湾で年越しし、台北101の花火に感激。街並みは綺麗になり、若者もフレンドリー。屋台で知り合った男性に陽春麺をおごってもらったけど、これってモテてるってこと? チャウ・シンチーの新作が観られなかったのが何とも残念。言葉の壁越えを狙ってたんですけどね。映画始めは『うた魂(たま)♪』でした。
明けましておめでとうございます。今年の目標は携帯電話の機種変。来週、達成予定。それじゃ今月の目標……というより、ただの予定でした。では今年も『アドレナリン』のようなすてきな映画と出会えますように。
谷川真理ハーフマラソンに参加。といっても、なんちゃってランナーなので、5キロの部。無事完走しましたが、体の重さを去年以上に感じた。ドヨヨヨーン。これでまた1年のダイエット計画を練るわけだが、走った後の打ち上げが楽しみだったりするんで……ま、今年もやせないな。
スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
ブロードウェイの巨匠スティーヴン・ソンドハイムのトニー賞受賞ミュージカルを映画化。監督は映画『チャーリーとチョコレート工場』のティム・バートン。彼と6度目のコラボレートとなるジョニー・デップが、これまでにも映画や舞台で数多く取り上げられてきた伝説の殺人鬼スウィーニー・トッドを演じる。共演はティム・バートン夫人でもあるヘレナ・ボナム=カーター。本格的な歌声を初披露するジョニーのミュージカルスターぶりに注目だ。
[出演] ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン
[監督] ティム・バートン
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで付いた女性ファンをあざ笑うかのように、血しぶき舞い、2階から落下する遺体の首はボキッと音を立てて折れ、おまけにアノ人はオーブンで焼死……。このグロさがバートン&ジョニデ・コンビが手掛けてきたダーク・ファンタジーの味。この影ある世界でこそ怪しく輝やいちゃうのがジョニデ様なのよ。このR-15も恐れぬ映画作りは、森田版、映画『椿三十郎』も見習ってほしかったですな。
ティム・バートンお得意のゴシック・ワールドを突き詰め、陰惨な殺人劇とミュージカルを組み合わせた極上のエンターテインメントが誕生! 残忍で鮮血が飛び散る衝撃シーンが多々あるものの、そもそも終始映像が暗いのと血の色が高質な絵の具みたいで生々しくないので、そちら系が苦手な方もノープロブレム? キャストの中でも特筆すべきは映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』サシャ・バロン・コーエンの怪演ぶり。なまりの効いた歌いっぷりからド派手で珍妙なスタイルまで強烈なアクセントを映画に加味。映画『シザーハンズ』以来となるジョニー・デップの病的な顔色の悪さと苦悩に満ちた表情も◎。復しゅう劇の皮肉というテーマも明快。
超有名な物語をバートン&デップ組がどう料理するのかと思いきや、予想通りすぎてビックリ。復しゅう心のせいで猟奇的な人間に変身したトッドを演じるデップはじめ、色ボケの判事やとらわれの娘のキャラ作りが薄すぎる。その結果、小役人を演じたティモシー・スポールとラヴェット夫人のヘレナ・ボナム=カーターの素晴しさが目立った。外見のせいか、デップはシザーハンズっぽくも見えたし。人肉パイ製造過程もディテールを詳しく描けばコミック色がより強く出たかも。とはいえ、デップもカーターも自声できちんと歌えるあたりはさすが。
期待で上がったハードルも軽くクリアの傑作! 歌うと色っぽさ倍増のジョニデのカリスマ性もさることながら、ヘレナの迫力に女の意地を見た。監督のパートナーであることは彼女にとってコネよりハンデなんだな。能力の限界を見せんばかりの勢いで大奮闘。王子キャラ、アンソニー役のジェイミー・キャンベル・バウアーや鳥かごの鳥的顔ヒロイン、ジェイン・ワイズナーら若手も素晴らしい。すべてが監督お気に入りの人形のように完ぺきな世界観。
理髪店の窓からのぞく、陰鬱(いんうつ)なロンドンの空、街を背景にして、カミソリ片手のデップが恨み節を朗々と歌い上げる。これだけでもうゾクゾク。ただ、ティムとデップの6度目のコラボと考えると妥当な出来。とはいえ、ヘレナが下町のおせっかいおばちゃんを軽妙に演じ、歌も聴かせるは切ない女心も見せるはで、わたしの中では好感度アップ。サシャ・バロン・コーエンの使い方もいい。敬愛するアラン・リックマンにはもうちょい活躍してほしかったが、あんなもんかな。
ジェシー・ジェームズの暗殺
19世紀のアメリカに名をとどろかせた犯罪者ジェシー・ジェームズと、彼を暗殺した手下、ロバート・フォードの人物像に迫るサスペンス・ドラマ。プロデュースも務めるブラッド・ピットが伝説の無法者ジェシーを怪演し、ヴェネチア国際映画祭で主演男優賞を受賞。監督は映画『チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼』のアンドリュー・ドミニク。伝説的人物の知られざる一面に迫る人間ドラマとしてだけでなく、登場人物のさまざまな思惑が交錯する心理サスペンスとしても楽しめる。
[出演] ブラッド・ピット、ケイシー・アフレック、サム・シェパード
[監督・脚本] アンドリュー・ドミニク
製作会社プランBのプロデューサーとして『チャーリーとチョコレート工場』も手掛けたブラピ。エリック・バナの出世作『チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼』のアンドリュー・ドミニク監督に声を掛けるとはお目が高い。恐らく映画化するには地味な本作も、自分が出ることで資金集めをしたのでしょう。そんな冷静な目をお持ちなら、自分出過ぎ。2時間40分長過ぎ。もっとジェシー死後のドラマに絞っていたら面白かったのにね。
派手な銃撃戦など一切出てこない西部劇である本作だが、アメリカの荒野を舞台にスローなテンポで静かに、淡々と話は進んでいく。上映時間は2時間40分、正直あまりにも地味で冗長すぎる展開で、徒労感を感じた。ジェシー・ジェームズといいその暗殺者といい、キャラクターの描き方が浅く映画の焦点も曖昧模糊(あいまいもこ)としており、映画の世界に入り込むのが困難。キャストはいいし興味深いテーマではあったのだが、演出が甘く映画全体の構成も失敗しているのが残念。ただ音楽を担当しているニック・ケイヴの出演シーンには、思わずニヤり。
何度もやり直した編集が完全に失敗し、解説が必要になったのだろうが、ナレーションの多用がうざい。物語の強弱のつけ方も見る側の生理に合わない。だが西部の伝説的無法者をサイコパスで、彼にあこがれるチンピラがこれまた偏執者だったという視点の物語自体は非常に興味深い。チンピラを演じるケイシー・アフレックにおいしいところを持っていかれた感は否めないが、ブラッド・ピットもそれなりの頑張りを披露。男性ファンも増えそう。ニック・ケイヴとかジェームズ・カーヴィルがカメオ出演してたのに心が動いたのは、マニアックでしょうか?
前半、伝説の強盗を演じるブラピの演技があまりにスカしているので、大丈夫なのかと思っていたら! 兄と違って繊細(せんさい)な演技のケイシーの方が断然、いいじゃんと思っていたら! 最後の見せ場がすごかった。さすがブラピ。殺される瞬間、本当に息をのんだ。映像はとても美しくずっと緩やかな調子で進む。ブラピが本当にやりたいのって、こういうおしゃれな映画なんだね。娘をあやすブラピの姿が妙に素を感じさせて、ほほ笑ましかった。
ケイシー・アフレックというと、兄ちゃんの影に隠れて薄い存在というイメージだったが、まさにそれが臆病な暗殺者ロバート・フォードにハマった。一種の同性愛的に夢中だったジェシーの実像を知り、あこがれながらもやがて憎悪を募らせていく心の揺れを見事に演じている。ま、正直なところ、もう少し巻き気味で描写してもいいと思うが、ロバートが精神的に追い詰められていく感じがスリリング。大平原の荒涼とした風景も暗殺劇にふさわしい。ニック・ケイヴの音楽も効いてます。
アメリカン・ギャングスター
1970年代のニューヨークを舞台に実在した伝説のギャング、フランク・ルーカスの半生を描く犯罪サスペンス。映画『グラディエーター』の名匠、リドリー・スコット監督がメガホンを取り、しがない運転手から麻薬王にまで上りつめた男の一代記を骨太に描く。主演はオスカー俳優のデンゼル・ワシントン。彼を追う刑事を同じくオスカー俳優のラッセル・クロウが演じる。型破りなギャングスターの知られざる実像、多くの有名アーティストによるゲスト出演などに注目。
[出演] デンゼル・ワシントン、ラッセル・クロウ、キューバ・グッディング・Jr
[監督] リドリー・スコット
リドリー&ラッセルが前作『プロヴァンスの贈りもの』で息抜きした気持ちも良く分かる。男汁1000%の社会派エンタメ。ラッセルVS.デンゼルの共演シーンを極力作らないことで逆に2大オスカー俳優の競争心をあおって本気にさせ、かつ観客に「いつ2人が会うんだ!?」と緊張感を持たせるニクい演出にヤられましたぜ。『ジェシー・ジェームズの暗殺』と変わらぬ2時間37分だが、こちらは時間がたつのも忘れるほど。時間の感じ方って、映画次第なのね。うふっ。
ラッセルとデンゼルという2大オスカー俳優の初競演ということで、その演技合戦だけでも十二分に一見の価値あり。2人の絡みが少ないのが残念ではあるが、オスカー受賞作『トレーニング デイ』以来となるヒール役で、デンゼルが貫録たっぷりにドスの効いた演技を披露。実話をベースにしたクライム・ドラマがテーマということで、リドリー・スコットお得意の手に汗握る渾身のアクション・シーンは控えめながらも、骨太な演出でスリリングかつボリューム感あふれる肝のすわったハードボイルドな作品に仕上げた。70年代のN.Y.の街並みをリアルに再現した超本気モードのセットには、心震えた。
リドリー・スコット監督の「かっこいい映像&演出」と脂が乗り切ったデンゼル&クロウの演技合戦が堪能できる傑作。ストーリーは70年代の暗黒街にビジネス感覚を持ち込んだ野心的ギャングの栄枯盛衰と清廉潔白を良しとした刑事チームの奮闘の2本柱からなり、信条を曲げない男たちの志(高いか低いかは別にして)にうっとり。ウータンクランのRZAやラッパーのコモンらが渋い演技で脇を固めたのも必見! ヒロインも登場するが男のドラマにおいては無用の存在であり、刺身のツマ程度にしか描かないリド様の演出がまた光る。
『ゴッドファーザー』が3部作なら、これももっと引っ張って良かったのではないか。あまりに豪華なキャストを詰め込み過ぎて、オスカー俳優キューバ・グッディング・Jrもチョイ役だ。しかも、弟とか甥(おい)とかの設定で、アフリカ系アメリカ人俳優が次々と登場してくるので、さまつなことが気になるタイプの人はなかなかストーリーを把握しにくいかも。そんなこと気にせず、デンゼルとラッセルのかっこいい男の生きざまに酔いしれたい。
悪の道でのし上がって行くデンゼルVS.愚鈍なまでに正義を貫くラッセル。この正反対の構図をそれぞれの世界でスリリングに作り上げ、2時間半もの長尺をダレることなく、描き切るあたりはさすが職人監督リドリーの手腕。2人の直接対決が思いのほか少なくて物足りないが、2大オスカー俳優の意地と誇りの張り合いを感じる。悪徳刑事役のジョシュ・ブローリンのひきょうで汚れた男ぶりもいい。コーエン兄弟の新作映画『ノーカントリー』でも彼は活躍しており、注目したい人。