サードシーズン2008年3月
私的映画宣言
春だ! 頭の中もイイ感じで、『シューテム・アップ』、『クライモリ2/デッド・エンド』などのB級の心意気たっぷりの快作が気持ち良くシミてくる。というわけで昨年に続き、今年もバカ映画特集にかかわらせていただきます。お楽しみに。
友だちの結婚式でヴェネチアへ。毎年、映画祭で行っているけど、冬は霧に覆われ、冷えも底からくる感じ。おまけに友人が気を利かせて投げてくれたブーケは、長身のイタリア娘に奪われ……。寒さが身に染みました(T_T)。
初マラソンで北京五輪の代表に選ばれた中村友梨香選手、すげぇ~。マラソンどころか1キロも走れないわたしとしては、『クローバーフィールド/HAKAISHA』みたいな状況になったらどうしようとドキドキするだけです。五輪に興味ないけど、チャン・イーモウが演出する開幕式と閉幕式は見たいかな。
春の陽気に誘われて、週末はウォーキング。地元は映画「ALWAYS」な雰囲気の建物がまだあるだけに路上観察が一層面白いのだが、とある定食屋に「本日、映画の撮影のため休業」とあった。な、なんの映画なんだろーと興味シンシン。
花粉症には厳しい季節の到来。渡米を控えて友人に「向こうの方が楽なのでは?」と言われるも(そうなの?)、ハウスダストやら何やらで飛行機もホテルもつらいのですよ……。それでも桜の開花は楽しみにしています!
ノーカントリー
1980年代のテキサスを舞台に、麻薬密売に絡んだ大金を手にした男が非情な殺し屋に追われるサスペンス。監督は映画『ファーゴ』のコーエン兄弟。大金を手にした男を映画『アメリカン・ギャングスター』のジョシュ・ブローリンが、彼を追う殺し屋を映画『海を飛ぶ夢』のハビエル・バルデムが、殺し屋を捕らえようとする保安官をトミー・リー・ジョーンズが演じる。独特の緊迫感と恐怖を演出し、人間と社会の本質をあぶり出すコーエン兄弟マジックが見どころ。
[出演] トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン
[監督] ジョエル・コーエン / イーサン・コーエン
大金を強奪したジョシュ・ブローリンと殺し屋ハビエル・バルデムの攻防に、まず圧倒される。息詰まるとはまさにこのことで、いずれ劣らぬ切れ者同士だからこの上なくスリリング。オスカーをゲットしたバルデムの怪演ばかりがクローズアップされているが、ブローリンのシブみはもっと評価されていいと思う。そんな両者の攻防の跡には死体が転がり、「理解できない犯罪」とボヤく老保安官。住みづらい世の中を返す刀で表現しているあたりは、さすがアカデミー賞作品、歯応えがある。
ハビちゃん好きとしては、おかっぱ頭の殺人鬼役でアカデミー賞助演男優賞獲得! ってのは、ジョニデが映画『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』で同主演男優賞にノミネートされたときくらいの複雑な心境だ。『夜になるまえに』だって、『海を飛ぶ夢』だってあったの。まっ、これでハビちゃんの知名度がアップするのはうれしいが。でも言っておきますが、確かに顔はデカいけど、生ハビちゃんは恋多き女ペネロペ・クルスもほれるイイ男です!!
ベトナム戦争を境に消滅したと言われる“古き良きアメリカ”に出現したのは、拝金主義者とサイコパスと思い知らされる快作。麻薬取引絡みの大金をくすねた男と保安官はいわば旧体質をひきずるカウボーイで、人情とか恩義を心の底で信じている。が、差し向けられた殺し屋はむやみやたらに殺しまくる、ある意味でワーカホリック君だ。理解しあえない男たちは戦うしかなく、死体の山が累々と築かれていく。実に迷惑千万。他国にケンカを仕掛けては疲弊し続けるアメリカの現状を写し出していて、刹那的な気分になるのでした。
見ものは、ターミネーターも真っ青な執念で大金を猫ババした男を追う殺し屋ハビエル・バルデム。グループサウンズみたいな(!!)髪型で妙に礼儀正しいくせに、殺すとなったら何のためらいもなく瞬殺! 1900年代が舞台の作品だが、ハビエルが体現する言い知れぬ恐怖は不条理な殺人が増えている現代に通じるだけにより怖い。原題は『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』。この国には昔ながらの正義がないとボヤく老保安官のトミー・リー・ジョーンズの仕事ぶりもハマっている。
2007年を総括する数々の賞に輝き、見事オスカーの覇者となった本作。絶対的な悪の存在を肯定する殺伐とした物語が、大多数の共感を呼ぶ時代になったということか。原題は『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』。ラストでなすすべもなくぼうぜんとする老保安官トミー・リー・ジョーンズの嘆きにも大いに納得。もっとも、一体いつまでさかのぼれば今よりもマシな時代だったのかと聞かれても、筆者にはよくわからないのだけれど。
マイ・ブルーベリー・ナイツ
ウォン・カーウァイはつくづくロマンチストなんだな、と思う。映画『恋する惑星』『天使の涙』と同様、時間の経過にセンチメンタルな感情を抱かせる展開。しかしキザでクサいセリフを恋人たち(特に男の方!)が連発するクライマックスは、さすがに腰が引けた。結末に触れるので詳しくは説明しないが、ブルーベリー・パイなんてもんじゃないぐらい自分にはゲロ甘。デート・ムービーにはピッタリだが、男性客の多くは忍耐を試されるかもしれない。
この監督、映画『花様年華(かようねんか)』がピークだったね。以降は自身の作品の焼き直し。音楽まで『花様年華』でも使用した梅林茂の「夢二のテーマ」を使っちゃってるし。確かに、ハリウッドスターがみんな、「『花様年華』みたいな映画に出たい!」とラブコールを送っていたから、監督にしてみれば彼女たちの望み通りの映画を作ってあげたって感じなんだろうね。でもわたしは、一作ごとに驚きを与え、成長している監督を支持する。ゆえに激辛。
わがまま監督ウォン・カーウァイには珍しく、脚本が最初から用意され、ほぼスケジュール通りに撮り終えたそう。やれば、できるじゃん。ニューヨークの湿度の高い感じや砂漠地帯の乾いた雰囲気を見事に捉えながらも、どこか香港の香りが残るのは監督の絵作りのせいだろうか。WASPYな社会で微妙に浮くノラ・ジョーンズのエキゾチックな美ぼうも失恋女の寂しさを醸し出す効果アリ。ウェット&オフビートな恋愛ドラマを敬愛するジョニー・トー監督が「いつも同じ! つまんない」とダメ出ししたらしいが、わたしのハートには響いた。
大体、ジュード・ロウみたいなイケメンといい感じになりながら旅に出るかと思うし、主人公は携帯もメールを使わず、ポストカードでやり取りするあたりも、いかにもカーウァイ的なまどろっこしい恋愛の世界。『恋する惑星』+『ブエノスアイレス』in アメリカってなストーリーで新鮮味はないけど、今どき、現実ではありえないロマンチックな恋愛模様。デート・ムービーといっても、最近は遊園地のアトラクションみたいなモノばかりなだけに、ある意味、カーウァイ映画は貴重では……。
映像は美しいし俳優は豪華だしストーリーはシンプルにロマンチック。陰惨で重苦しい作品が横行闊歩(かっぽ)する中、こんな映画があると観客もうれしいのではないだろうか。といいつつ好みの問題だろうが、冒頭のノラ・ジョーンズの口元アップのシーンにぞわーっとして以降、終始腰が引け気味で落ち着かなかったというのが正直な感想です。レイチェル・ワイズ&デヴィッド・ストラザーンのエピソードは雰囲気があって良かったと思う。。
大いなる陰謀
ロバート・レッドフォードが7年振りにメガホンをとり、レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズとオールスターキャストが勢ぞろいし、アメリカの対テロ政策の裏を描く感動的な群像ドラマ。政治家とジャーナリストの間で繰り広げられるサスペンスフルな展開に、戦場でのドラマ、大学教授と無気力な生徒のやりとりが複雑に絡み合う。戦争や生死の意味という根源的な問題への、レッドフォードのアプローチに注目したい。
【出演】ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ
[監督] ロバート・レッドフォード
仕組む者、加担する者、利用される者……テロ戦争の構図をふかんし、それに対して大衆が何をするべきかを訴えるレッドフォードの監督としての意欲は買うし、意義深い作品である。しかし、そんな肝心のテーマを、俳優レッドフォードがセリフで話し尽くしてしまうのは勿体ない。読後感のしっかりした良質の小説のような作品をこれまで生み出してきた監督なのだから、言葉ではなく物語で表現できたはず。今回の読後感は小説じゃなく、教科書だった……。
レッドフォード監督&スターキャストのわりには小劇場で上演されている不条理劇を見ているかのようで小粒な印象。でも、昨今の映画界の反イラク侵攻に、スターたちが追随しているかのようで面白い。“戦争を仕掛けているのは、兵役経験もない政治家たち”というのを堂々と批判しているのだ。それをまた、正義感を振りかざす役がお似合いなトム造が演じているから、さもありなんで笑っちゃう。でも、この邦題はちゃうやろ。
「ケンカ上等!」なアメリカの戦争と政治の現実を暴こうとしたレッドフォードの意図はわかるが、まったく乗れず。真顔でウソをつきまくる野心家議員をトム・クルーズの熱演もメディアを前にしたときの彼の姿とだぶる。あれも演技だもんね。話をただ聞くだけの記者を演じたストリープもダメダメだし、レッドフォード演じる大学教授のパートも大甘。ラディカルな教育改革を訴えた直後に志願宣言し、アフガニスタンで窮地に陥る教え子が登場するが、自業自得という文字も頭をかすめた。志は高かったが、説教臭い手法に魅力なし。
よその国のことだから……と言っては身も蓋(ふた)もないが、ほとんどが会話劇だけにアメリカ事情に興味がなくては入りづらい。もっとも個人的には映画そっちのけでレッドフォードのあまりにも不自然な整形(とくに目と口元!)がモーレツに気になった。『追憶』をはじめ、かつての二枚目俳優は老いた自分が許せなかったのか。なら監督に専念すればいいものを。世間に無関心なことはいかんというメッセージはご立派だが、そんなあなたが老いを気にするとは。晩節を汚してどーするよ。
反戦を力強く訴えるメッセージは尊く、意義もあるし志も高い。特に、「自分たちの行動が世界を変えることができる」と信じる、志願兵となりアフガニスタンで戦う若者2人のまっすぐな瞳には純粋に心を動かされた。ストリープVS.クルーズのやりとりも見応えがあり、レッドフォードのスクリーン越しの演説も気概十分。もう少し映像として見せる工夫をしてくれたらよかったのに、あまりにもセリフに頼り過ぎた演出が残念!