サードシーズン2008年5月
私的映画宣言
この夏の個人的一押し作品『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』の監督・主演コンビに取材。“おれたち、オタクだから”という素直なカミングアウトに親近感を覚える。サイモン・ペッグ単独主演のバカ映画『RUN FATBOY RUN』も日本公開してほしいぞ。
『シューテム・アップ』という、とんでもなく刺激的な作品を観てウッキウキ。選曲がバカ丸出しで、オッサンにふさわしい潔さ。おかげでモトリー・クルーの「キックスタート・マイ・ハート」を聞きながら、家で暴れる日々。
夏休み映画の取材が始まって軽く奔走中。ウィル・スミスのお気楽アクションコメディーだと信じ切っていた『ハンコック』の思わせぶりな展開を楽しみ、映画版『セックス・アンド・ザ・シティ』の「すし女体盛り」にのけぞった!
試写や取材の合間に何気にネットカフェを利用したらハマッてしまい、仕事もできるので効率的! と思ったらひと月に結構なお値段になり、コスト高。それをカバーするには新たに仕事をしないと……って悪循環じゃね?
ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛
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C・S・ルイスの児童文学を映画化した『ナルニア国物語』シリーズの第2章。ペベンシー4兄妹は、暴君ミラースからナルニア国を奪還するために、正当な王位継承者であるカスピアン王子とともに、再び冒険を繰り広げる。第1章のスタッフと主要キャストが再集結し、よりファンタジーあふれる映像世界を構築した。ペベンシー4兄妹の成長ぶりとともに、この第2章から登場するカスピアン王子を演じるイギリスの若手俳優ベン・バーンズにも注目。
[出演] ベン・バーンズ、ウィリアム・モーズリー、アナ・ポップルウェル
[監督] アンドリュー・アダムソン
合戦シーンはすごいし、アドベンチャー・ドラマのスリルも楽しめる。しかし、クライマックスに水戸黄門の印籠(いんろう)のように飛び出す、あの奥の手はズッコケ。シリーズ物という視点で観れば許せなくもないが、一本の映画として観ると唐突過ぎるのでは。うわさの王子は確かにイケメン。ヒロインの危機を救うために馬に乗って現われる粋な演出は買うが、肝心のヒロインが少女版キャシー・ベイツ的ルックスでは、女性客が怒るんじゃないないの!? と、いらぬ心配をしてしまった。
名のある大人キャストがぐいぐい子どもたちを引っ張っていた前作と違い、本作は子どもが前面に押し出された。が、肝心のペベンシー兄妹たちがすっかり不細工に成長し、魅かれない。王子は確かに美しいが、彼のルックスがあだとなり、不細工長女との見た目格差が著しく、ロマンスがあり得ない映像に。子どもメインの割にストーリーはダーク。でも演技はやっぱり子どもチックで……とてつもなくお金をかけた学芸会を観せられたような心苦しさ。
アクションの描き方や映像の深みは、1作目からかなり進んだと思う。オープニングや夜の城のバトルでは、大人の観客にもアピールする悲壮感が漂っていた。子どもたちも前作からの成長が実感でき、特にルーシーの物憂げな表情には、少女が大人へ移り変わる貴重な一瞬がちらつく。問題はカスピアン王子の位置づけで、いま一つ活躍が伝わらないのが残念。ベン・バーンズの演技がまだ青いとはいえ、もっと原作を改変してドラマの中核に据えても良かったのでは?
前作は主役の4人が子どもだったので家族向けファンタジーに落ち着いていた感が否めぬも、今作は戦いとアクション中心のどっしり構えた映画に仕上がっていてファンタジー系に触手が動かない人にもオススメできる超大作に。それにしても、男子の僕から見ても角笛王子はカッコいいですわ~。あまりにハマッていたので、今後イケメン役しかオファーが来ないとか、ピアース・ブロスナンのような苦労をしないように頑張ってほしいな。
前作を大いに気に入っていたのは、街灯がポツンとある雪景色とかタムナスさんやアスランのビジュアルが、原作のイメージを丁寧に再現していてファンとして楽しめたから。だからこそスケール感に欠ける戦闘シーンも大目に見ることができたのに、今回は子どもたちが唐突に始めた戦いを延々と繰り広げているだけの映画だった……。ファンがナルニアに求めているのは、そういうことではないはず。とはいえ、森が暴れるシーンはなかなか面白くアスランの毛並みも相変わらず絶品。これでネズミのリーピチープがコメディーリリーフとして生かされていれば、より甘口評価になったかも。
ザ・マジックアワー
映画のような街という舞台設定は面白いし、シチュエーションも絶妙で飽きずに楽しめる。が、思わせぶりな登場の仕方をするも、その後出番のないキャラクターがいたりする意味不明のギャグには困った。三谷作品を追っていないとわからないお楽しみも、熱心なファンではない自分には“????”で、置いてきぼりの気分。ファンには素直にオススメするが、イチゲンさんには2時間以上の上映時間は少々ツラい。佐藤浩市と寺島アニキの掛け合いは無条件に笑えた!
佐藤浩市が登場するまで、映画の世界観に入り込むのを気持ちが完全拒否してしまったのだが、これってわたしが素直じゃないだけか。邦画のファンタジーってどうも入り込めない。佐藤のコメディアンぶりは素晴らしく、彼と絡む小日向文世や寺島進もこなれたものがあるが、ほかの役者は荒唐無稽(むけい)過ぎる設定についやっちまった感満載でキツい。三谷監督の映画への愛があふれ過ぎたマニアックなネーミングも、気になる割に元ネタがわかりにくく消化不良。
三谷作品は、どれだけ流れにノレるかがカギだが、前半は「役者がそろった」など映画と現実(ギャング世界)の用語をうまく掛け合わせた絶妙なセリフの数々に感心し、勘違いした役での佐藤浩市の怪演に笑った。でも中盤以降、そのノリがただ持続するのみで、物語のダイナミズムが失われていく。そうなると監督の「これはあの作品へのオマージュなんだよ~」という小手先感が先行し、華やかなオールスター映画の割に満腹感が残らないのであった。
“映画の撮影だよ”と三文役者がダマされ続けるための合理的な理由を担保するため、荒唐無稽(むけい)だが、大金を投入して巨大なセットを建設することで、大きなウソをつこうとした心意気と映画愛は買いでしょう! “役者はそろった”とか、言葉遊びのような行き届いたセリフの数々も楽しい。僕はそもそも熱心な三谷ファンゆえ、高得点にするためにプラス要素を集めることに執心してしまうので、どうしたって甘めのジャッジになるんですが。
JUNO/ジュノ
16歳の少女が予想外の妊娠を経験し、現実を受け止めながら成長していくさまを描いたヒューマンコメディー。『サンキュー・スモーキング』のジェイソン・ライトマン監督が、『ハード キャンディ』で衝撃を与えた成長著しいエレン・ペイジの魅力をいかんなく引き出した。共演にはカナダの子役出身マイケル・セラ、『キングダム/見えざる敵』のジェニファー・ガーナー。周りを振り回すほど自意識過剰な少女を取り囲む家族や女友だちや、ボーイフレンドの視線がほほ笑ましい。
[出演] エレン・ペイジ、マイケル・セラ、ジェニファー・ガーナー
[監督] ジェイソン・ライトマン
とにかくヒロイン、ジュノの10代にありがちな不機嫌な表情とヒネクレ方がよろしい。今のバンドに見向きもせず、昔のバンドを好きになることに個性を見いだし、言っていることだけは一人前。そんな背伸び感がリアルで、妊娠こそできないが、このボンクラぶりは他人と思えない。彼女に刺激を受けて、まっとう結婚生活から途端にボンクラに戻ってしまう男の転落も泣ける。この男を捨てるジェニファー・ガーナーにマジで殺意を覚えたのはダメ人間の証明!?
妊婦経験があれば、このヒネりの効いた会話がもっと楽しめたと思うと意外と少子化対策向きか。妊娠検査薬をおもちゃ感覚で試すオープニングからすっかりとりこ。かわいい顔して、世の中を見下ろすようなジュノのシビアな視点が言い得て妙で最高だ。ところで相当気になったのが、ポーリーの緩いランニングパンツ。ジュノがその下に隠された部分を想像して楽しむ設定だが、何かたまに映っている気がするけど、もしやわたしの想像し過ぎ?
とにもかくにもエレン・ペイジの魅力につきる。16歳での妊娠を、あっけらかんと前向きに転化し、マイペース貫くヒロインに共感できるのも、エレンの肩の力を抜いた名演のおかげ。この人、役を自分に引き寄せる才能があるんだね。オスカー受賞だけあって、脚本のうまさにもうなった。随所にマニアックなネタを詰め込みつつ、芯となるポジティブなテーマはぶれないのだから。一つ一つのセリフをかみしめながら、何度でも観たくなる愛すべき一本だ。
エレン・ペイジって社会や家族の歪んだ負の部分を扱う題材はお手の物で、リアルな演技力で海の向こうの問題をサラリと紹介してくれる。取ってつけたようなポッコリお腹は、ちょいと不自然でコント風に映ったけど。先日の来日で“コンドームを使うことを学んだ”とか、とぼけた発言をしていた彼女が、妙に老け込んでいてキャシー・ベイツに見えたのはわたしだけ? サイコなシリアルキラー役は似合いそう。ライミのホラーは観たかったな。
わたしの周囲では女性以上に男性陣(30代以上)の方が、より熱心な支持者がいるように思われる本作。よくできた佳作と思いつつ、要のジュノというキャラクターのユニークさが、いかにも大人によって作りこまれた印象で距離を感じてしまった。これもまたある種のファンタジーと受け取るべきか。同世代のティーンエイジャーとして観たらまた違ったかもしれないとは思う。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のマイケル・セラと珍しくジェニファー・ガーナーが好印象だった。