9月20日に公開される北野武監督作の映画『アキレスと亀 』は、第65回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された注目作。ほかにも宮崎駿監督の映画『崖の上のポニョ 』、押井守監督の映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers 』も同部門でグランプリを競った。日本の作品が3作品もノミネートされたことで、日本はもちろんヴェネチアでもかなり話題となった。そんな現地での監督たちの様子を紹介する。
第61回ヴェネチア国際映画祭で『ハウルの動く城』がコンペティション部門にノミネートされ、オゼッラ賞を受賞 したほか、第62回には名誉金獅子賞も受賞 している宮崎監督。マスコミ嫌いで知られる上に、「映画に順位を付けるのはあまり好きではない」という宮崎監督だが、同映画祭が行なわれたリド島はお気に入りのようで「またあの道を朝歩けるかと思うと、とてもうれしい」と参加を喜んでいた。
喜んでいたのは宮崎監督だけでなく、現地の子どもたちも生で宮崎監督を見られることに大喜びだったようだ。31日に行なわれたレッドカーペットの沿道には、ほかの作品ではありえないほど子どものファンが大勢詰掛け「ミヤ! ミヤ!」と呼び掛けたり、サインをねだったりと大人気。さらに取材陣からも熱烈な歓迎を受け、記者会見場ではサイン攻めに合い、劇場では監督が登場しただけでスタンディングオベーションが起こるなど大騒ぎだった 。
会場で毎日配布される映画紙「CIAK」では、公式上映の翌日に観客と批評家から暫定1位の票を獲得 したほか、「カートゥーンを詩にした」と評されるなど評価が高かった。残念ながらグランプリは逃したものの、イタリアの著名な芸術家ミンモ・ロテッラにちなんだミンモ・ロテッラ財団賞 や「CIAK」の観客賞 を受賞したほか、優秀女優賞の候補にポニョ があがるといったユーモア抜群の出来事もあった。ヴェネチア中がポニョの魅力のとりこ となり、ついつい「ポーニョ、ポニョ♪」と口ずさんでしまう審査員がいただけでなく、審査委員長のヴィム・ヴェンダース監督も「僕は『ポニョ』の歌を永遠に歌うよ」と公言するなど、ヴェネチアにポニョ旋風が巻き起こった。
いやはや照れますな Dan Kitwood/ Getty Images
第63回ヴェネチア国際映画祭で、映画『立喰師列伝 』がオリゾンティー部門に選出 された経験を持つ押井監督だが、コンペティション部門への出品は初めて。映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』は、声優陣に菊地凛子や加瀬亮などの俳優を起用したほか、音響をジョージ・ルーカス率いるスカイウォーカー・サウンドが担当 したなど話題性だけでなくクオリティーも十分な作品。押井監督自身も「ヒットしなければ、本当に(監督業を)やめます 」と豪語するほどの自信作だ。
現地時間の3日に行なわれた記者会見で押井監督は、「最初はコンペじゃないという話だった んですよ」と映画祭の裏話を披露したかと思うと、今度は「ミヤさんの作品は老人の妄想だね。僕の作品には多少未来があると思う」と公の場でライバル作品となる宮崎監督の『崖の上のポニョ』を批評 するなど絶好調だった。なぜこんなにも冗舌なのかというと、監督いわく「大学受験を受けに来たというより、合格発表をはるばる見に来たような感じです。前に一度カンヌ国際映画祭でスベっているので、今回は割りと気楽ですね(笑)」なんだとか。その後のレッドカーペットには、菊地と加瀬とともに、きちんとした黒のタキシードを着用して登場。直前にシャンパンでお祝いしていたので、このとき実はほろ酔い気味だったという押井監督は「この映画はわかる人にはわかる。どちらの結果に転んでも満足です」とご機嫌な様子だった。
しかし映画に対する評価はかなり厳しく 、エンドロールが流れ始めた途端に審査員や観客が帰ってしまったり、ヴェネチアの地方紙に「コンペに日本のカートゥーンは2本もいらない」と酷評されてしまったりと散々な結果となった。しかし、過去に北野監督の映画『座頭市』が受賞したこともある、「フューチャー・フィルム・フェスティバル・デジタル・アワード」に選ばれた 。
おめかししちゃいました! Vittorio Zunino Celotto/ Getty Images
自身の映画にちなんだ「監督・ばんざい!」賞という賞が設けられているほど、同映画祭には縁が深い北野監督は、第60回に映画『座頭市』で監督賞の銀獅子賞を受賞して以来の参加 となった。
28日、に行なわれたレッドカーペットの沿道には、ヴェネチア国際映画祭で北野作品が上映されると決まって現れる有名な団体の「北野武 サッサリ・ヴェネチア ファンクラブ」が登場 した。この日は劇中で北野監督が演じる主人公がかぶっているようなベレー帽をかぶり、「北野武 映画の神様」と書かれたTシャツを着るなど準備万端で北野監督の登場を待っていた。さらに、主人公の青年時代を演じた柳憂怜が一番安いチケットで自らヴェネチアに乗り込み、「殿! 殿! 入れてください!」というボードを掲げて北野監督の登場を待つなど、レッドカーペット脇はお祭り騒ぎだった。ちなみに柳は無事に北野監督に見つけてもらい、監督の「入っていいぞ!」の一言でレッドカーペットを一緒に歩くことができた。
『HANA-BI』でグランプリの金獅子賞を受賞して以来、二度目の受賞に期待がかかっていたが、受賞したのはイタリアの映画誌「Flimcritica」が選ぶ「パストーネ・ビアンコ賞2008(白い杖賞) 」のみだった。残念な結果には終わってしまったが、同映画祭で開かれた会見で北野監督が「映画は商業的に成功を収めることより、映画を作るということが素晴らしい」と言っていたように、受賞することよりノミネートされたことが素晴らしい のだと思う。
握手しまっせ Franco Origlia / Getty Images
文・構成:シネマトゥデイ編集部
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