『ウォッチメン』撮影現場取材 ザック・スナイダー、パトリック・ウィルソン インタビュー
何が正しくて何が間違っているかを決めるという
道徳に立ち向かうのが面白いと思う
取材・文:シネマトゥデイ
『300<スリーハンドレッド>』を手掛けたザック・スナイダー監督が、映像化不可能といわれていた同名グラフィックノベルを映画化したミステリー超大作『ウォッチメン』。暴動を鎮めようと、市民の前に立ちはだかるパトリック・ウィルソン演じるナイトオウルの出演シーンをまだ本作が撮影中にカナダの撮影現場で取材をした。また、現場の指揮官であるザック・スナイダー監督にも撮影の合間をぬって話を聞くことができた。
『ウォッチメン』ファンの目はごまかせない!
Q:これまでに多くの監督が『ウォッチメン』を映画化しようとして失敗してきました。あなたがここまで来られたのはなぜでしょうか?
ザック・スナイダー(以下ザック):わからないよ(笑)。これまで映画化するのが難しかった理由の一つは、『ウォッチメン』はあの時代設定(1980年代)がぴったりなんだ。でも、映画化しようとするとき、それをアップデートしようとしたり、設定を現代に変えようとしたりしたから、映画化するのが難しかったんだと思うよ。
Q:原作はファンの間から神聖な本だと言われていますが、それによってあなたのアプローチは変わりましたか? インターネットで人々が「台無しにしやがって」と言うのを待っているみたいなものですよね。
ザック:それがある意味、僕のアプローチを形作ったと思うよ。僕は常に題材を愛してきたし、これだけは言わせてもらうよ。僕がこの映画を作ることになるなど、いままで思ったことはなかった。まず、僕が作りたいと思ったりする前に、誰かが作るだろうと思っていたからね。二つめ目は、『300<スリーハンドレッド>』が成功して、僕がグラフィックノベルを映画化することに対して評価が高まり、すべてがうまく重なって、「この作品は神聖だから、この通りにやらないといけない」と僕が言えるようになったんだよ。
Q:あなたのビジュアル・スタイルについて話してくださいますか? グラフィックノベルにはカメラ・アングルが描かれてありますが、もちろんカメラの動きはそこにはありません。
ザック:そういうことは直感的に考えるんだ。グラフィックノベルの一コマ一コマを僕たちは尊重していて、それが映画にどのように関係してくるかを考えてみた。僕たちが『300<スリーハンドレッド>』を作ったとき、いつも言っていたことで、この映画でも同じことが言えるのは、絵をどのように(映画用に)翻訳するかを考えればいいわけなんだ。(グラフィックノベルは)とても役立っているよ。動きとかシーンの移行とかいったことは、本に描いてある絵をどのようにくっつけて作っていくかを考えればいいんだ。
何が正義で何が間違っているかを勝手に決める
Q:それでは、原作のグラフィックノベルにどれだけ忠実に作ろうとしているのですか?
ザック:本を映画化するときはいつもそうであるように、「これをどうすれば手直しができるかを考えないといけないんだ。できるだけ本にあることを映画に入れるというのがずっと僕のゴールだったんだ。多くの人々が僕に「この映画は何についての映画なの?」と尋ねる。殺人ミステリーだと言うことはできる。そう言う人もいる。でも僕はそうは思わないんだ。スーパーヒーロー映画だと言う人もいる。スーパーヒーロー映画というのがどういう意味なのか、わからないけどね。でも、映画が何についてのものか話し始めると、何が正しくて何が間違っているかというモラルについての話になる。スーパーヒーローの世界に存在しているこのコンセプトのクールなところは、今では僕たちが神話として大切にしている慣習やリアリティを取り上げ、それを究極まで押し進めるということなんだ。
Q:この作品は、複雑で哲学的だとファンの多くが言っているように、とても深いテーマが根底にあると思いますが、それをどう扱っていますか?
ザック:世界やわれわれを“誰か”が勝手に取り締まるというコンセプトが根底にあるんだ。スーパーヒーローや覆面の自警団員が、「あなたたちのために、何が正しくて何が間違っているかを決めてあげよう」と言うんだ。陪審員や裁判官はなしですべて決められる。『ウォッチメン』はそういうアイデアをとことん突き詰めているものなんだ。もちろん、世界の平和を望むとすればね。もしそれがゴールなら、(『ウォッチメン』の)本は、そういうことについて多くのことを語っているよ。人々にとって何がいいかを決めるということに関してね。本の中のそういうところが、僕にとってはとても楽しいんだ。何が正しくて、何が間違っているかを決めるという道徳性に立ち向かう、そのやり方が面白いと思うんだ。
ファンの意見はずっと読んでいた
Q:『ウォッチメン』は、グラフィックノベルの聖杯とまで言われ、多くのファンがいます。あなたはそのキャラクターとしてファンに細かいことまで突っ込みを入れられると思いますが心の準備はできていますか?
パトリック・ウィルソン(以下、パトリック):わからないよ。僕自身も(「ウォッチメン」の)ファンだからね。どんなことでもそうだけど、僕たちができることは、やっていることに気持ちを集中してやるだけだよ。もし誰かが僕はこの役に向いてなくて、誰かほかの役者の方が向いていると思っているとする。実際のところ、僕が役をもらってから4か月くらい、ずっとそういう意見を読んだよ。そして僕は思ったんだ、「ヘイ、君たち! 議論するのはもうやめたらどうだい。もう僕がキャストされたんだから」って手紙を書ければと(笑)。でも、そのままそっとしておくしかないんだ。もちろん、これはファンの人たちに観てもらいたい映画だからね。そういうファンを大事にしないのはまったくばかげていると思うしね。
Q:これまでにスーパーヒーロー映画の役をオファーされたことはありますか?
パトリック:ノー。オーディションは受けたことがあるけどね(笑)。おかしいよね。この映画は僕のところに向こうからやってきたんだ。でも、僕が役をもらえなかった作品の方が、一生懸命(役を取れるように)頑張らないといけなかったわけだからね。この映画のために、去年の2月にザック(・スナイダー)と会ったんだ。
キャラ作りのために勝手に太ってみた
Q:あなたはキャラクターのルックスについて何か工夫をしましたか?
パトリック:ザックに最初、聞いたんだ。「僕に体重をたくさん増やしてほしいかい?」って。なぜなら、彼(ダン)は太っているべきだと思ったからだよ。ほかの映画に出たときのように、僕の体は引き締まっているべきじゃないと思った。僕はランナーで、ずっとアスリートだからね。多分25パウンド(11.4キロ)くらい増量したよ。少なくとも最初の数章、彼は服を着て描かれている。太っているように描かれている。肉体がというより、精神的にそう(太っているような状態)なんだと思う。彼はとても悲しい人間なんだ。彼は自分が今どういうところにいるのか、わかっていない。ザックは、もっとそういうことに興味を持っていた。でも誰も肉体的なことについて僕に指示はしなかった。僕の好きにやらせてくれたんだ。
この日撮られていたのは、暴動を起こした市民をナイトオウルとコメディアンが鎮めるという動きのあるシーン。多くのエキストラと俳優をモニターで観て指示をするザック監督は、生き生きと瞳を輝かせていた。カナダの広大なスタジオに『ウォッチメン』のために作られたダウンタウンのセットは店の中の小さな商品でさえも本物そっくりに作っており、ザック監督とそのスタッフのダイナミックでありながらも繊細な演出の一端をのぞくことができた。その丁寧さは映像や物語にもおよび『ウォッチメン』が一級のエンターテインメント作品であることを確信できた取材だった。
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『ウォッチメン』は3月28日より丸の内ルーブルほかにて全国公開