サードシーズン2009年7月
私的映画宣言
今年の「ぴあフィルムフェスティバル」は、クリント・イーストウッド特集に、黒沢清&若松孝二&是枝裕和による大島渚講座と盛りだくさん。楽しみは、日本未公開&イーストウッド初出演の映画『半魚人の逆襲』。魅惑的なタイトルだ(笑)。
このところ、またオヤジ俳優の取材が続いている。6月、ニューヨークでは『HACHI 約束の犬』で今年還暦のリチャード・ギア、そして先日は今年でついに最後の映画『釣りバカ日誌20 ファイナル』の現場見学に。生スーさん(三國連太郎)に大興奮してしまった!
マイケル訃報(ふほう)の余韻は今なお継続中。「スリラー」の振り付けを完全コピーして、みんなに指導した。客席とスクリーンが地続きの“シネラマ”テアトル東京で、まだ鼻が低い彼の映画『ウィズ』を観た。懐かしい思い出が頭を駆け巡る……。
ニューヨークのフランク・ヘネンロッター監督の自宅に遊びに行ってきました。映画『バスケット・ケース』のベリアルと、映画『ブレイン・ダメージ』のエルマーがお出迎えしてくれました。後は、セントラル・パークでアン・ハサウェイ主演の舞台「十二夜」を観られたのは収穫。
トランスフォーマー/リベンジ
トランスフォーム(変身)する金属生命体同士の、人類を巻き込んだ戦いを描き大ヒットを記録したSFアクション大作の続編。今回は前作の1億5,000万ドルの2倍にあたる製作費が投じられ、アメリカのみならず、ロンドン、上海、エジプトなど世界各地を舞台に物語が展開していく。監督は前作に引き続きマイケル・ベイが担当。シャイア・ラブーフをはじめ、前作の主要キャストも続投する。驚きの極限まで突き進んだビジュアル・エフェクトなど、前作をはるかに上回る壮大なスケールが見どころだ。
[出演] シャイア・ラブーフ、ミーガン・フォックス、ジョシュ・デュアメル
[監督・脚本] マイケル・ベイ
前作に比べておバカ度が減ったのが残念。というか、マヌケなシーンを挿入しているヒマもないくらい今回は冒頭からオートボットVS.ディセプティコンの衝突が激し過ぎて、「えっとー、コイツは敵? 味方?」と戸惑うことしばし。そんな中、くぎ付けになったのは、ジョシュ・デュアメルをはじめとする精鋭部隊NESTのメンバーたち。輸送機から戦闘地に飛び降りるシーンなんて、鳥肌立つほどかっちょえぇ~。彼らがいれば地球は安泰だ。
ハッキリ言って、トランスフォーマーたちの名前は覚えられません(恥!)。しかし、悪役ロボット軍団と正義の味方軍団、どっちが勝とうが、マイケル・ベイ作品は派手な破壊と爆発のてんこ盛りを楽しむに限る。しかもボリュームもスケールも前作に輪をかけてアップ。ロボット数も増えて、その変身シーンもよりスムーズに見える。青少年諸君には、ミーガン・フォックスに加え、もう一人のセクシーキャラが登場し、血沸き肉躍る内容に。久々に、バカ楽しめる夏の大娯楽作を観た気分。
日本製の変体ロボットが元ネタのSFアクション第2弾は、特撮&爆発ともに前作よりもスケールアップ。宇宙規模の争いに親子ドラマをかませる展開は実にマイケル・ベイ監督好みだが、人情ものが好きな日本人向けかも。とはいえ、観るべきはロボットたちの変体の過程。ディテールに凝りまくり、非常に見応えがある。唯一残念なのは、アメリカ軍の全面協力によるNESTの戦闘シーンが少なかったこと。巨大トラックから軍用車がバックで次々と飛び出す特殊技術などもっと観たかったっす。
ご飯ドンブリ3杯、もう食べられません! って感じの膨満感。全編の約80パーセントが変身&合体&バトル映像なので、観ているだけでヘトヘト。「アクション映画は人間ドラマも重要」なんて言う監督も多い中、マイケル・ベイ監督は違う。本作の観客は、1秒でも多くド派手な映像が観たいってことを熟知していらっしゃる。ピラミッドしかり、デバステーターを360度グルリと見せる映像しかり。欲を言えば、もう少し変身をじっくり観たいんですけど(この不満は1作目と変わらず!)。
壮絶なアクションと下世話なギャグ・シーンを織り交ぜながら、テンポ良く一気に駆け抜ける飽きさせない2時間半だ。確かにストーリーは途中から収拾がつかなくなるし、セクシー女優ナンバーワン、ミーガン・フォックスの登場シーンと見せ場は前作よりも減ったが、マイケル・ベイ監督の決して妥協しない、徹底した娯楽イズムが大爆発したメガ大作に仕上がっている(ベイ監督おなじみの残酷描写もスケールアップ!)。こんなライトながらも景気のいいポップコーン・ムービーも、世に必要だと思うのです。
ディアドクター
『蛇イチゴ』『ゆれる』の西川美和監督が、へき地医療や高齢化など現代の世相に鋭く切り込む人間ドラマ。本作で映画初主演を務める笑福亭鶴瓶が無医村に赴任した医師を演じ、その医師の失踪(しっそう)をきっかけに浮かび上がる彼の人物像を軸にした心理劇が展開される。『アヒルと鴨のコインロッカー』の瑛太のほか、八千草薫、余貴美子など、若手やベテランともに実力のあるキャストが集結。人間の複雑な内面をえぐり出すことに定評のある西川監督のオリジナル脚本に期待したい。
[出演] 笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子
[監督] 西川美和
他人事の話じゃないのだ。両ひざ靱帯(じんたい)を損傷している筆者は定期的に整形外科に通っているが、さしたる変化のない患者なので、医師はロクに診察しなければ目も合わさない。なのに診断書をちょちょっと書いて3,000円也! 医療費控除で必要だから行くのだが、毎度腹立たしい。多忙なのはわかるが、こんな医者なら偽物でも伊野の方がマシ! とつくづく思った。へき地医療をおろそかにしている厚生労働省はもちろん、医療業務に携わる人に強制的に観せたい。
笑福亭鶴瓶がテレビ「鶴瓶の家族に乾杯」で見せるキャラをそのまま生かして、過疎地域にいつしか溶け込み、神様扱いされる主人公を好演。人のいい笑顔を見せながらも、目の奥が笑っておらず、医師不足の過疎の村でみんなに望まれる医師のふりをしながら、良心の呵責(かしゃく)にさいなまれているという本音を吐くシーンは、みせてくれる。ただ毒っ気の強い西川美和監督にしては、ラストがご都合良くないか? 演技派俳優を要所要所に置いてピリッと締めているが、何だか、気を遣い過ぎたキャストにも見える。
へき地医療や終末医療といった問題を軸に、人間が内面に隠し持つドロドロとした部分を描くのが目的と思われるが、リアル感に欠けるのが難点。瑛太演じる研修医はリッチな、開業医の父を持つチャラ男という設定だが、えらく簡単に治療の神髄に目覚めちゃう。早っ。また、食べ物をのどに詰まらせて心肺停止した老人の蘇生処置を家族が「あ・うん」の呼吸で拒否する重要な場面を、ギャグめいたオチで逃げるなど演出の意図がよくわからないシーンも多い。観客がそれぞれ判断しろということだろうが、監督の真意が見えにくいのが残念だ。
へき地医療の問題やガン告知などのテーマも含んでいるけど、そんな骨太な側面はさておいて、単純にウソをめぐる上質な人間ドラマとして楽しめた。笑福亭鶴瓶のワケあり医者の演技は“もうけ役”なので、予想の範囲内。それより、真実を知った後、東京へ帰るシーンの瑛太や、井川遥が髪を結ぶ何気ない演技に、人間の微妙な心理が宿ってしまうのは、西川美和監督のマジックだろう。ラストシーンに違和感がある人もいると思うけど、「夢」だと解釈すれば感動が増すのでは?
確かに、世の中は白でも黒でもないグレーな部分で占められている。田舎町で発覚した、白か黒かを超越した一つの大きなウソの意味とは? というテーマで問題を提起するのはいいが、結局何を言おうとしているのか、全然伝わってこない。全体の構造は甘く、それぞれの主要キャラたちのケミストリーも中途半端で、ダイアローグも面白味はない。何かあると見せかけて、主人公の医師のように実体がなく、どこにもたどり着いていない映画。
ハリー・ポッターと謎のプリンス
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J・K・ローリング原作による世界的ベストセラー小説「ハリー・ポッター」シリーズの映画版第6弾。主人公ハリー・ポッターと仲間たちが、邪悪なヴォルデモート卿との最終決戦に向け、彼の弱点や過去を探る。監督は、前作に続いてデヴィッド・イェーツが続投する一方、ダンブルドアの旧友役として映画『アイリス』の名優ジム・ブロードベントら新キャストも登場する。最終章に向けて続々と明らかになる謎や新たな展開に注目。
[出演] ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン
[監督] デヴィッド・イェーツ
ハリポタ熱の低い筆者にとっては、「ハリーたちもお年ごろ」というのを表現するための恋バナはどうでもよくって、しかもそれが稚拙で中途半端だからなおさら長く感じる。だったらその分、11歳のトム・リドルを演じるレイフ・ファインズの甥(おい)っ子(生意気な感じがイイね)をもっと見せろ! と文句の一つも言いたくなる。でも今回は、ラストに向けての布石と2時間半以上ひたすら我慢。次回、“謎のプリンス”のあの人の怪演に期待しようっと!
今夏は、このハリポタがあるがために、みな戦わずして避けたわけだが、ふたを開けたら、最終章につながる序盤戦というノリ。謎のプリンスも謎もわかったようなわからんような。まあ、原作を踏襲しているのだろうが、映画としてはシリーズの中で一番、物足りない気が。そんな中で際立っていたのは、悪女が似合い過ぎなヘレナ・ボナム=カーター。これまで地味だったロンの妹ジニー。あと2作、どれほどキュートになるのか、すんごく気になる。
シリーズを重ねるごとに子どもっぽさが薄れ、人間ドラマとしての深みが増している(魔法使いの話ですけどね)。両親や友人を殺害したヴォルデモートへのハリーの憎悪や、保身に走る教授や真意が見えないスネイプ先生、悪に操られるマルフォイと人間関係やキャラ設定にシェークスピア的な要素もたっぷりで、めくるめく展開にのめり込む。もちろん恋物語も展開するし、子役たちの成長を見守れるのも本作の楽しみの一つ。特に、ジニーの心身の成長にはビックリ!
シリーズものの難しさは、いかに前作と印象を変えるか。その意味で、この第6作は、大胆にも(?)メイン3キャラの恋愛模様にかなりの時間を割いた点が、チャレンジ精神としては好感。でも肝心のアクション場面を大幅に削減し、観た後のガッツリ感が足りないのも事実なんだよね。死喰い人軍団との阿鼻叫喚(あびきょうかん)バトルは、最終章に持ち越しだってよ~。早く観せてくれ~と欲求不満を残すのも、ファンのハートをつなぎとめるプロデューサーの手腕なのでしょうが。
映画全体のバランスとリズムが悪いので、この2時間半は途中で集中力が何度も切れそうになった。学生諸君が発情期に突入し、その色恋ざたも最初はほほ笑ましく観ていたが、あまりにもクドくて途中から食傷。映画『ディセント』さながらの白いクリーチャーがうじゃうじゃ出てきたり、女子が空中で金縛りに遭うなど、子どもが観たらトラウマになりそうな恐怖シーンもちゃんと映像化している点は好感が持てた。悪役の金髪小僧が顔のシワも目立つ大人に成長していたのもびっくりだが、ダンブルドア校長のボリューム感あり過ぎるロング・ヒゲは、この夏、はやるかもしれない。