第6回
今月の5つ星
毎月公開される新作映画の中から、シネマトゥデイ編集部おススメの5本を紹介します。
待ちに待った大人気シリーズ最新作や全米で口コミからヒットした注目作など、充実のラインナップがそろい踏み!
妻に先立たれたことから、周囲に心を閉ざし残りの人生を無気力なまま過ごす初老の大学教授ウォルター。偶然にもジャンベ(アフリカンドラム)奏者の移民青年タレクと出会うことで、それまでの日々を一変させていく。本作では人間の再生のドラマと、911後の移民問題が描かれている。何事にも無気力だったウォルターが、強制送還されそうなタレクを救い出すために戦う姿はジャンベのビートのように力強い。やがて、そのビートが重くむなしく響いていくのが何とも切ないのだが……。ウォルターが、タレクに対する国の非道な措置に対してぶちまけた怒りは、結局のところ、それまでのウォルター自身への怒りでもある。画面が暗転しても響くジャンベのビートは、ウォルターが観客に対して渡す、やり場のない怒りのバトン。映画は終わるが、問題は放り出されたままなのだ。
へき地医療に積極的に携わる医者といえば、赤ひげのような人格者かと思えば、笑福亭鶴瓶の演じるニセ医者は、村から年収1000万円以上もの給与を受け取る俗物的な人間。しかし、悪人かといえば、そうではなく、かといって善人でもない。この人物の描き方に西川美和監督の繊細(せんさい)な手腕が光る。へき地医療問題を考えさせられるというよりは、ニセ医者を演じることを辞められなくなってしまう状況がリアルで、高い給料をもらいながらも、ただ仕事をすることを演じ続けているだけの現代社会のエリートサラリーマンとダブるところがある。鶴瓶は俳優が本業ではないが、いろいろな業界でうまく立ち回っている。そんな鶴瓶ともこのニセ医者・伊野は何となく重なり、まさにハマり役といえよう。
玉木宏が俳優として成熟している気がする。『MW -ムウ-』は手塚治虫の原作で、主役の二人は同性愛の間柄にあるが、映画ではバッサリとその人物像の一部を切り捨てている。そのため原作の持つ危うさや過激さが薄れているところがあり、ともすれば、ただのサスペンスになりがちなのだが、玉木がそうはさせない。体脂肪4パーセントという肉体は研ぎ澄まされた刃のようで、観ているだけでドキドキする。山田孝之の特長ともいえる抑えた演技が、一層玉木のエッジを際立たせ、そのコントラストは映画にとって大成功といえるだろう。『MW -ムウ-』は玉木と山田を観る映画というだけでも1800円分、十分元はとれる。
高校時代の元彼と不倫中のシングルマザーのローズと、彼女の妹でバイトもろくに続かないダメダメなフリーターのノラが、ひょんなことから事件現場の清掃業を始めることに。やることなすことうまくいかない二人の姉妹が、父親やローズの一人息子、友人ウィンストンらとともに、時にぶつかりながらもきずなを深め、成長していく心温まる物語だ。ビジネスを成功させることで再起したいと奮闘する姿や、家族に甘えずに自分の人生を歩みだそうと模索する彼女たちの不器用だが前向きな姿からは、懸命さやもどかしさがしっかりと伝わってくる。そして一緒に涙し、笑い、何気ない一言に支えられ救ってくれる家族という存在のありがたさを改めて感じさせられる。観終わった後には、心にじわ~っと陽だまりが広がる作品だ。彼女たちを取り巻く3人の男性陣もグッジョブ!
大人気シリーズ第6弾となる本作は、最終章に向けて物語がいよいよ佳境を迎え、ハリーたちはヴォルデモート卿を倒すために戦いの準備を整える。よりダークで、よりディープなストーリーは、ラストにつなぐための序章であり、一瞬たりとも見逃せない。そして、おなじみのキャラたちが大人の階段を上り始める姿に、長年、成長を見守り続けたファンは感動せずにはいられないだろう。前作に引き続き、監督を務めたデヴィッド・イェーツの、原作にある必要最低限のエピソードを最大限に生かして約2時間半の映画にまとめあげた力量は見事。それでも、複雑かつスピーディーな展開についていけなくなったら、原作を再度読み返してみることをオススメする。