第15回 『イングロリアス・バスターズ』公開記念 タランティーノ監督裏話スペシャル!!
LA発! ハリウッド・コンフィデンシャル
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『イングロリアス・バスターズ』公開記念 タランティーノ監督裏話スペシャル!!
そろそろ秋風を感じる季節になってきましたが、皆さんお元気ですか? レイバー・デイ(労働の日、メーデーのようなもの)の連休も終了してロスもいよいよ夏にお別れです……。そんな中、まだまだヒートアップ中でメチャクチャ熱いのが、現在全米で大人気公開中、クエンティン・タランティーノ監督! 実は私め、『キル・ビル』で製作通訳としてタランティーノ監督と2か月半程お仕事させていただいたことがあるんです。そのときの裏話も含めて今月のハリコンはタランティーノ監督の魅力を中心に、公私混同の(笑)『イングロリアス・バスターズ』公開記念スペシャルをお届けします!
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みなさんは『イングロリアス・バスターズ』の執筆にタランティーノ監督がどれくらい時間をかけたかご存じでしょうか? なんと通算して約10年近くなんだそうです。『キル・ビル』の時も熟成期間長めでした。まぁ、ユマ・サーマンの出産・育児の一段落を待っていてあげた、というのが実情っていえば実情なのですが、タランティーノ監督は作品を温めるのが好きなんです。長い時間をかけてシチューみたいに煮込むのです。そうすることでいろいろな味が出て、コクのあるおいしいタランティーノ作品ができるわけなのです。
興味深いのは『イングロリアス・バスターズ』は、タランティーノ監督の中で一時期テレビのミニシリーズとして、あるいは小説化して世に出そうかと考えていた時期もあったようです。しかし、やっぱりタランティーノ監督といえば映画というわけで、『イングロリアス・バスターズ』は、劇場用作品への道を歩んでいくわけなのです。 この作品がまだ生まれたばかりのころは、アイデアを書き連ねた、むしろ小説もどきの形態だったらしく、数年間にわたるストーリーの練り直し期間が設けられました。映画として製作すると決まった後は、新たにシューティング・スクリプトといわれる、撮影に適した脚本としてまた別に執筆を行ったとのことです。ホント、彼は書くことが大好きなようですね。また、アイデアが豊富過ぎて、いったん書き始めると止まらないんです。そういえば『キル・ビル』が前編と後編に分けられると決まる前に、プロダクション・オフィスから渡された脚本の分厚かったこと……! 「1本の映画に収まるのか?」と思ったものです(案の定収まらなかったんですが……(*^^))。
それにしてもタランティーノ監督の頭脳明晰(めいせき)ぶりには敬服するばかりです。レンタルビデオ屋で店員をしていた当時(ちょうど、この時期に、現在も製作パートナーのローレンス・ベンダー氏と友人になったそうです)から、彼の持つ映画に関する知識には定評がありました。タランティーノ監督の優秀さは、彼が描く登場人物たちのウイットに富んだダイアログや、映画の細部にさりげなく出てくる数々のクラシックB級映画へのオマージュに如実に表れているといえるでしょう。
オマージュといえば、この『イングロリアス・バスターズ』も1976年のエンツォ・G・カステラッリ監督、ボー・スヴェンソン主演の同名映画への敬意を表したもので、その由縁でタランティーノ作品の方は同タイトルとはいえ、わざとスペリングを間違えてつづっているんですね(オリジナル作品の監督であるエンゾ氏もしっかりタランティーノ作品に招かれて特別出演しています)。
ちなみに、タランティーノ監督のB級映画への愛情は『キル・ビル』の時にもあふれ出ていました。特に印象的だったのは、ユマ・サーマンやルーシー・リューなど映画の出演者たち全員が、撮影に備えて連日トレーニングを行っていたジムがあったのですが、そこでタランティーノ監督はわれわれスタッフみんなと一緒にランチをとっていました。そしてランチの後、毎日のようにわれわれのためにお昼のタランティーノ劇場なる映画会を行ってくれたのです。それは昔のB級カンフー映画からの抜粋で、タランティーノ監督が大好きなシーンのオムニバス。それをみんなで観て、自分がどんな映画をみんなと作って行きたいかということを熱く語ってくれる場でした。タランティーノ監督の創作に対するピュアな情熱みたいなものが伝わり、感動したことを今でも覚えています。
『キル・ビル』の仕事をした2か月半という短い間でしたが、タランティーノ監督の近くにいて感じたことは、彼が人とのつながりをすごく大切にする人だ、ということでした。大スターに対しても製作アシスタントに対しても、とにかく撮影に関わっているすべての人たちを大切にして、一生懸命やる気を起こさせてくれるのです。これは映画監督だけでなく、人の上に立つ人間にとって非常に素晴らしい才能です。
『キル・ビル』の専用トレーニング・ジムにはクエンティンのプライベート・オフィスがあったのですが、連日激しいトレーニングでツラくなりがちな週の半ばに、彼は疲れ気味の出演者たちから、果ては私のようなアシスタントまでをオフィスに招き入れ、ねぎらいの言葉をかけてくれました。特に最高だったのは、海外からやって来ているタレントやそのアシスタントたちのために、タランティーノ監督自らがディズニーランドへ連れて行ってくれたことです。普通だったら考えられませんよね!? 改めて考えてみても信じられないくらいです。とにかく、上から下まで細かい配慮をしてくれるそんなクエンティン監督に、超感動して尊敬の念を覚えたものです。
テレビのインタビューで見るタランティーノ監督は、すごく早口でクレイジーな印象を受けがちですが(実際彼は超早口で結構クレイジーなとこもありますが……(笑))、彼ほど気遣いがあって人情深い監督ってそうそう居ないんじゃないかと思うのです。『キル・ビル』で仕事をしたとき、私は「優秀な監督たるものこうなのだ!」とまざまざと感じたものです。だからこそ皆が慕ってついて来るんですよね。
今回『イングロリアス・バスターズ』のエンドロールで、スタッフの名前を見たときも、『キル・ビル』のときの見覚えのある人たちが何人も居て、浮き沈みの激しい映画業界の昨今を考えると、「まだ一緒にやっているのだな」と思い温かい気持ちになりました。
そんなタランティーノ監督が送る戦争コメディーおとぎ話(!?)、血みどろギャグ&ウイット満載の『イングロリアス・バスターズ』ですが、タランティーノ映画全開! という感じで、とにかくお勧めです!! 皆さんもぜひ観に行って感想を聞かせてくださいね!
(余談になりますが、ナチスの大佐ランダを演ずるクリストフ・ヴァルツの素晴らしさはアカデミー賞候補になっても不思議ではないくらいだと私は今から宣言させていただきます!)
(取材・文 神津明美 / Addie・Akemi・Kohzu)
高校留学以来ロサンゼルスに在住し、CMやハリウッド映画の製作助手を経て現在に至る。アカデミー賞のレポートや全米ボックスオフィス考など、Yahoo! Japan、シネマトゥデイなどの媒体で執筆中。全米映画協会(MPAA)公認のフォト・ジャーナリスト。
何と、犬歯が欠けた! 渡航費入れても日本で治療したほうが安いということで、急きょ帰国することにしました。米国医療制度、ヤバイです……(*^^)。