第9回
今月の5つ星
毎月公開される新作映画の中から、シネマトゥデイ編集部おススメの5本を紹介します。
キャメロン・ディアス、ウォンビンをはじめ、人気スターの熱演を堪能できる注目作が勢ぞろい!
白血病と闘う少女とその家族の物語というと、重いストーリーと思いがちだが、最後には悲しい涙ではなく、温かい気持ちで胸がいっぱいになる。ちょっぴりショックだったのが、あのキュートなキャメロン・ディアスの疲れ切った母親顔。しかし、その老け顔は、作品にリアリティーをもたらし、キャメロンの演技力にいまさらながら感心する。そして映画『リトル・ミス・サンシャイン』以来、大物女優への階段を上るアビゲイル・ブレスリンの演技は、アカデミー賞もの! ドナー提供をしないと両親を訴えた妹の真意が明かされたとき、本当の家族のきずなが結ばれる……。ぜひ、家族で観てほしい一本だ。
『ワイルド・スピード』シリーズ最新作! と言っても、時間軸的には過去にさかのぼり、前作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』の前の話となる。シリーズものは回を増すごとに勢いが衰え、1作目を超えないというのがセオリーだが、本シリーズにおいてその心配は無用。まさにスピード全開! ワイルドさMAXのノリの良さを保証する。ポール・ウォーカーとヴィン・ディーゼルのコンビや1970年型ダッジ・チャージャーが1作目以来の復活を遂げるというネタに、ファンのテンションはMAX必至。さらに、ハイスピードな高級車が繰り出す軽やかなカーアクションに酔いしれ、クールでヒップな音楽にアドレナリンが大爆発すること請け合いだ! 心底スカッとする作品なので、友だち同士でもカップルでもオススメだ。ただ、帰りの車でついついスピードを出し過ぎてしまうかもしれないので、運転にはご注意ください。
偉大なる漫画家・手塚治虫が生んだ、世界的に有名なスーパーロボット「鉄腕アトム」が、ついにフルCG映画として誕生した。アトムの誕生の秘密が描かれた本作は、3DCGによる、あくまで新しいアトム。スクリーンの中にいるのは、アトムではなくATOMであることは否めないのだが、それでも彼が持つ悲しみや優しさ、勇気、そして共存というテーマが、国籍や民族、世代、性別などさまざまな壁を超えて、人々の心を打つ普遍のものであるということを再認識させてくれる。フルCGアニメーションだからこその迫力あるアクションシーンや、時に笑わせ、時に涙を誘う愛くるしい個性豊かなキャラクターたち、軽すぎず重過ぎないストーリーなど、観る人を選ばない、映画としてのバランスの良さを感じさせる作品だ。
生涯で5度の自殺を図った破滅型作家・太宰治が、自身とその妻をモデルに描いたとされる短編小説をベースにした本作。酒と女におぼれ、借金まみれの放蕩(ほうとう)夫・大谷を支える妻・佐知を、凛(りん)とした美しさをたたえて演じた松たか子の好演も光るが、大谷を演じた浅野忠信に圧倒される。最も印象的だったのが、久しぶりに妻の元へ戻った大谷が幼い息子を“眺める”戦慄(せんりつ)のシーン。そこにはわが子への愛情はなく、作家としての観察眼しかない。そう、彼がこの世で最も愛しているのは自分なのだ。それでも、「女には幸も不幸もない、男には不幸だけがある」などと破滅のロマンチシズムに酔いしれる彼のナルシストぶりにあきれつつ、いつしか劇中で彼を取り巻く女性たちと同様に、自分だけは彼の苦悩を理解したいと思わされてしまうのだから恐ろしい……! ダメな男を捨てられない女の心情なんて一生理解できないと豪語していた自分だが、映画を観終えると、人間の負の一面に、自然に引き込まれていることに驚く。
ウォンビンの復帰第一作、ポン・ジュノ監督最新作、そしてカンヌ国際映画祭での前評判。これだけで十分に期待してしまう本作だが、何よりも素晴らしかったのは母を演じたキム・ヘジャと断言させてもらおう。母親の強さを描いた作品はこれまでにも多くあり、いろいろな形があったと思う。だが、本作の母親はそのどれとも違う母親像であると同時に、とてつもなくリアルであり、実際に世界のどこかで起きている現実のような気すらしてくる。「監督は演技していることを嫌う」というウォンビンの言葉通り、本作に出てくるキャラクターたちのあまりに自然な姿が、そのリアリティーを生み出しているのかもしれない。キム・ヘジャの存在にぼうぜんとした。母親は、子を守るためなら善も悪も無関係の世界に生きているのだと実感させられる、すさまじい迫力なのだ。