第12回
今月の5つ星
毎月公開される新作映画の中から、シネマトゥデイ編集部おススメの5本を紹介します。
故ヒース・レジャー、ジョニー・デップら豪華キャストが集結したファンタジー、アメリカで大ヒットを記録した低予算スリラーなど、バラエティー豊かなラインナップをお届け!
『ニュー・シネマ パラダイス』の名優であり、『WATARIDORI』の監督として知られるジャック・ペランが、4年の歳月を掛けて北極から南極まで世界50か所の海を撮影したネイチャー・ドキュメンタリー『オーシャンズ』。環境問題やエコ活動が叫ばれる昨今にもってこいの本作だが、その問題提起の方法は、いかにも「地球が大変なことになっちゃっています!」という直接的なものではない。「地球にはまだこんな自然が残っているんですよ」と紹介し、「じゃあ彼らを守らなくては!」と思わせる、ジャック監督の憎い演出が光る。さらに、日本語吹き替え版では、宮沢りえの淡々としたナレーションが何とも心地良く、生命の神秘を感じさせる。例えば、優雅に泳いでいたアザラシに、突然サメが襲い掛かるという残虐なシーンでも、宮沢が「○○サメです」と動じず説明する声を聞くと、自然界では当然の出来事が起こっているだけなんだと、妙に納得してしまう。
ヒース・レジャーが撮影半ばにして急逝したことで、完成が危ぶまれていた本作は、盟友ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの助けによって無事、日の目を見ることになったわけだが、そんな後付け話がうまくいくのかと思っている人も多いことだろう。しかし、鬼才テリー・ギリアム監督の世界観は最高のパートナーであるヒースによって、すでに強靭(きょうじん)な土台とボディーが作り上げられていた。そして、それらを完成へと導くのに、十分な実力を備えた俳優たちが操縦席に座ったことで、作品に華を添えるだけではなく、物語にファンタジーらしい厚みを持たせてくれた。映像の魔術師ギリアムならではのイマジネーション・ワールドは、まさにお見事! とうならせてくれる仕事ぶり。ストーリーがシンプルなだけに、素直に楽しめ、観終わった後にはすがすがしさが残るほどだ。
「首相暗殺犯に仕立てられた、無実の男の大逃亡劇」と、この一行で表されるシンプルなストーリーだが、舞台となった仙台の街中で繰り広げる逃亡劇はまるでハリウッド映画を思わせるほど。その緊迫した先の読めない展開にハラハラしながらも、観た後にどこか温かさが感じられる作品だ。それは作中で何度も登場するビートルズの名曲「ゴールデンスランバー」にある。この冒頭の歌詞が示しているように、たとえ会えなくても自分を信じてくれる人の存在、「信頼」がこの作品のキーを握る。最後の「たいへんよくできました」のはんこには、思わず涙が。それは本編を観てのお楽しみ。
古くは映画『食人族』、そして映画『ブレアウィッチ・プロジェクト』などのPOV(主観映像演出)映画。そして2009年、そういった過去作を凌駕(りょうが)する衝撃作が登場した。それが約135万円の低予算で作られ、アメリカで96億円もの興収を記録した『パラノーマル・アクティビティ』だ。カップルが真夜中に起きる怪現象の正体を解き明かすべく、その様子をカメラでとらえようとするストーリーだが、素人撮りのホームビデオのような映像は、ネットにアップされた正体不明の動画を観ているような気分にさせ、ちょっとした物音や現象、フレームから離れたところで起こる事件などが観客の想像力をかき立てる。また固定カメラの特性を生かした恐怖演出も用意されており、POV映画の可能性を感じさせる。
舞台は、カナダとの国境に面し、モホーク族の保留地を抱えるニューヨーク最北部の町。二人の息子を育てながら1ドル・ショップの店員として働くヒロイン、レイは、クリスマスを目前に、新居購入のために貯蓄していたお金をギャンブル狂の夫に持ち逃げされ、まさに人生崖っぷち。そんな矢先、夫の車を盗んだモホーク族の女性ライラと遭遇したことから、恐ろしい犯罪に手を染めることになる……。と、冒頭から手に汗握る緊迫感が漂う本作だが、「ヒロインが不法移民の密入国に手を染める凶悪な犯罪者ライラと闘うサスペンス」と思いきや、このライラもまたヒロインと同じく母親だったことから、物語は意外な展開を迎える。わが子を守るために凍った川の上を命懸けで奔走する母親たちの姿に圧倒され、生きることの苦しさ、そしてその果てにあるかすかな希望が胸を打つ。恐ろしい犯罪に手を染める母親たちの物語だが、決して他人事と思わせないリアリティーに満ちた力作で、サンダンス映画祭グランプリ受賞にも納得。