サードシーズン2010年4月
私的映画宣言
N.Y.で『アリス・イン・ワンダーランド』IMAX 3Dを観た。あの巨大画面全体が飛び出してくる圧倒的なド迫力に感動。チェシャ猫最高! グッゲンハイム美術館でAnimal Collectiveのスペシャル・ショーも観られてご満悦でした。
●私的4月公開作のオススメは、『月に囚われた男』(4月10日公開)。主演のサム・ロックウェルは今、最も注目すべき俳優の一人だ!
N.Y.へ行く機会があり、ワクワクしながら向かった近代美術館でのティム・バートン展。が、甘かった。SOLD OUT…。翌日、帰国日なのに! 入場できても芋洗い状態だったらしく、バートン人気の高さを改めて知りました。
●その思い出も含め、私的4月公開作のオススメは、『アリス・イン・ワンダーランド』(4月17日公開)。
パソコンのデータがいっぱいになったので外付けハードディスクに移したところ、うっかり倒して衝撃でデータが消滅。データ復旧会社に見積もりを出したら30万円って……。あきらめました。わたしのここ2~3年の思い出よ、さらば!
●私的4月公開作のオススメは、『昆虫探偵 ヨシダヨシミ』(4月3日公開)。
先月、初めてハワイ・オアフ島へ。行きの機内で今ごろ『20世紀少年<最終章> ぼくらの旗』のマスコミ試写で観られなかったラストを観た……が、そこまでして秘密にする内容なのか。で、現地の美しい海にワイルドな自然はどこをとっても「LOST」っぽく見えた(笑)。
●私的4月公開作のオススメは、『17歳の肖像』(4月17日公開)。
シャッター アイランド
『ディパーテッド』のマーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオが再びタッグを組んだ、不可解な事件が起きた孤島を舞台に、謎解きを展開する本格ミステリー大作。原作は『ミスティック・リバー』の著者、デニス・ルヘインの同名小説。主演のディカプリオが島を捜査する連邦保安官を演じ、『帰らない日々』のマーク・ラファロ、『ガンジー』のベン・キングズレーが共演。次々に浮かび上がる謎や、不気味な世界観から目が離せない。
[出演] レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ
[監督・製作] マーティン・スコセッシ
数年前に原作を読了し、しかもご丁寧にクライマックスが袋とじになっていて「衝撃の結末がここに!」とかハードルを上げるだけ上げて期待させた割には前半でオチが読めてしまい、がっかりしたものである。で、映画版は、ストーリーは割と原作に忠実だが、やはり、ややコンパクトにまとまっていた感があった。その代わり、豪華キャストの配役は絶妙で、もろホラー・テイストなブラッディー描写などビジュアル・インパクトは鮮烈。スコセッシ御大はまだまだラジカルで、守りに入っていないのが素晴らしい。
捜査へ向かう船上で体調を崩すシーンから、これでもか、これでもかとレオが熱演&激演。ここまで迫真演技が続くとゲップが出るものだが、そうならないのは、もはや彼のみけんのシワが「芸」の域に達したからか。結末に関しては、余計な予想をしながら観ると、割と早めに察知できるかも。でも原作にあったモヤモヤ感(それはそれで小説らしい)を消したラストは好印象。重低音の音楽も使って不気味なムードを持続させるスタイルは、さながらスコセッシ版『シャイニング』の趣です。
映画界の黄金コンビのはずがイマイチだったレオ&スコセッシ監督作品の中では、これが一番好き。予告編を観てB級ホラー? と思っていたのだが、戦争のトラウマやロボトミー手術による精神治療の問題が折り込まれ、後味が悪いったらありゃしない。でもこれ、褒め言葉ね。原作にはない最後のセリフが、「お前たちは、今の腐った世の中をどう生きる?」と突きつけられているようで、すんごい考えさせられる。ただちょっと長いのよね。
ゾクゾクさせる音楽と映像、そしていつも以上にみけんにシワ寄せて気合十分のレオ様。が、一度目に観たときはもったいつけた展開にダレた。が、ちょっと気になり再見。やっぱり138分は長いと思うが、もったいつけた展開こそがキモでした……。すみません、完全ボケてました。ベン・キングズレーら存在感が物を言う名優を配した構成も絶妙。すっかり、とっちゃん坊やのレオも、クライマックスからラストは素晴らしい。観る人間に委ねるラストに悶々(もんもん)としつつ、エンディングに流れる「ディス・ビター・アース」も心にズシリと染みた。
デニス・ルヘインの原作は、どうにも最初から最後まで物語に入りこめなかった。個人的に作家の文体が苦手なのか邦訳がダメなのかわからないが。それに比べて映画は、スコセッシの重厚かつおどろおどろしい映像世界もわかりやすく楽しめた。ただ宣伝でうたっているように「謎解き」を強調されると、ミステリーじゃないでしょと言いたくなる。原作でさえ割と早い段階でオチが予想できるわけで、映像になるとなおさら。観客に期待させといて、がっかり~ってことにならないと良いのだが。
第9地区
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンが製作を担当し、アメリカでスマッシュヒットを記録したSFムービー。突然地球に難民として降り立った正体不明の“彼ら”と共に暮らすことになる人間の困惑と、マイノリティーとして生きる“彼ら”とのドラマをしっかりと見せる。本作で監督と脚本を担当し、デビューを飾ったのは新人のニール・ブロムカンプ。俳優たちも無名ながらも迫真の演技を披露する。そのオリジナリティーあふれる物語と、摩訶(まか)不思議な“彼ら”の造形に目を奪われる。
[出演] シャールト・カプレイ、デヴィッド・ジェームズ
[監督・脚本] ニール・ブロムカンプ
問答無用の傑作。南アフリカを舞台に、アパルトヘイトというレイシズムや社会問題をメッセージとして組み込んだエイリアン難民SFという独創的な設定にまず感服。宇宙船やエイリアン、エイリアン武器、さらにロボットといったものの造形も動きも、とにかくどれも秀逸で心に突き刺さるという、こちらが求めているものがすべて備わっているこの完全無欠ぶり。CGのエイリアンを、わざわざ実写で撮っているかのような動きと質感で再現している点も革新的で驚がく。映画の醍醐味(だいごみ)をすべて凝縮したかのような、夢のような映画だ!
ここ数年、ファンタジーやSF映画を観ると、どれもが多かれ少なかれ「××に似てる」とか「ストーリーは想定範囲内」だったが、これは久々に出現した「完ぺきに想像超えの映画」だった! 難民エイリアンのビジュアルはもちろん、心ざわめかせる怪しい彼らの日常生活だけでも一見の価値アリ。低予算を逆手にとったドキュメンタリータッチな映像がリアル感を増幅し、差別という政治的テーマをほんのり込めた語り口もうまい。ラストは、うっかり感動しちまった!
『アバター』と同じエイリアンとの戦争を描いたSFだが、こっちの方が独創的で100倍おもろい! 猫缶好きで、人間との性交渉も可能という新たなエイリアン伝説に爆笑する一方、関係者へのインタビューや監視カメラの映像も盛り込んだドキュメンタリータッチの構成がリアル。何てったって、エイリアン相手に闇ビジネスをするナイジェリア人の存在が効いている。『マーズ・アタック!』と出会ったときの興奮再び。映画館でも観ようっと。
巨大な宇宙船がドーンと現れて居座る。ところがエイリアンたちは難民で、そんな彼らが強制的に隔離される。アパルトヘイトをネタに、人間の傲慢(ごうまん)さを皮肉るあたりは南アフリカ出身の監督ならでは。そんなとっかかりから、エイリアン相手に手柄を立てようとした男の身に起きた大災難へと話は転じていく。SFアクションものと思ったら、コメディー、はたまた夫婦や親子のきずなでほのぼの。友愛精神だってある。こんなアイデア満載のエンタメ作なんて観たことない。グロいはずのエイリアンがかわいく見えるラストにも驚きだ。
よくできたB級SFぐらいに思っていたら、難民として地球に降り立った知的生命体=エイリアンの苦難は、社会派としての一面もあり期待以上のユニークさ。『ランド・オブ・ザ・デッド』にも通じる逆転の発想は、皮肉なまでにさまざまな社会問題を想起させる。が、最も楽しめたのは、本作が純然たるヒーローものであるところ。終盤、姿形も何もかも違うエイリアン親子と心を通わせる主人公の男気に涙。これがほんとの異文化交流だ!
プレシャス
ハーレムを舞台に、過酷な運命を生きる16歳のアフリカ系アメリカ人少女、クレアリース“プレシャス”ジョーンズの人生を描く人間ドラマ。サンダンス映画祭でグランプリを受賞したほか、各映画賞の目玉的存在となっている。新星ガボレイ・シディベが悲惨な家庭環境で育った主人公プレシャスを熱演。マライア・キャリー、レニー・クラヴィッツら、有名スターの助演も話題を呼んでいる。全米公開時には口コミで評判となった、力強く感動的なストーリーに注目だ。
[出演] ガボレイ・シディベ、モニーク
[監督・製作・脚本] リー・ダニエルズ
ヘビーだが、鑑賞後は不思議な感動と優しい気持ちに包まれる作品だ。実娘を虐待する悪魔のような母を演じるモニークの怪物級演技は、類を見ない強烈なインパクトを放っているので必見。すっぴんのマライア・キャリー(最初誰かわからなかった)とレニー・クラヴィッツというミュージシャン二人はこの映画に癒やしをもたらす欠かせない存在だった。斬新にして鮮やかな編集のテクニックや、ヘビーな物語に幻想的なシーンを持ち込むユニークなストーリーテリング手法など見どころが多い作品である。
両親からの信じ難い虐待を受け、不幸を絵に描いたような運命をたどるプレシャスだが、妙に湿っぽくならないのは、彼女自身も相当に傲慢(ごうまん)&不屈なキャラだから。これくらいの肝っ玉がないと人生は生き抜けない、と逆に勇気づけられる。主演の巨体ガボちゃんvs.鬼母モニークのガチンコ対決は、さながら2大怪獣の肉弾戦。感動の告白シーンにも、心の闇をにじませるモニークの演技は確かにアカデミー賞モノだけど、プレシャスのクラスメートら脇キャラまで全員がイイ味出してます。
これは前評判の高さがアダになったパターン。オスカー受賞も納得の役者たちの熱演と脚本の力によって、1980年代のハーレムに住む黒人貧困女性の境遇は共感できるが、同様のテーマの作品は過去にも多々あったワケで新鮮味に欠ける。むしろ主人公が現実逃避に見る夢が中途半端なファンタジーで、そのたびにテンションダウン。その点、中島哲也監督『嫌われ松子の一生』はうまかったなぁと、今になってわたしの中で評価がアップ。