第20回 『アイアンマン2』のウラ話にみるハリウッドの世渡り事情
LA発! ハリウッド・コンフィデンシャル
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『アイアンマン2』のウラ話にみるハリウッドの世渡り事情
ハリコンファンの皆さんお元気ですか? あっという間に5月も後半だというのに今年のロスは例年になく涼しいので妙な感じです。とはいえ、ハリウッドはそんな異常気象にお構いなし! 例年通り夏の超大作シーズンに突入しようとしています。映画ファンにとってはワクワクの季節が到来です!!
そんな夏の大作第1弾として、現在、本国アメリカで大ヒット公開中なのが『アイアンマン2』。実は『アイアンマン2』の製作の裏には俳優の悪夢とも言えるようなキャスティング問題が勃発(ぼっぱつ)し、前作『アイアンマン』で主人公トニー・スタークの親友ローディを演じたテレンス・ハワードが降板(代わってドン・チードルが参加)。さらには前作の最後にニック・フューリー役として登場し、話題となったサミュエル・L・ジャクソンも契約問題の揚げ句、出演破棄の一歩手前にまで陥った、というドタバタ劇があったのです。
では、一体どうしてこんなことになってしまったのでしょうか? ハリウッド映画業界を渡っていく上で、一歩間違えばキャリアの命取りになりかねない業界の落とし穴とは!? 『アイアンマン2』を例に、ハリウッド映画業界の厳し~い世渡り事情をご紹介します。
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前作『アイアンマン』をご覧になった映画ファンの方々は、ローディ中佐を好演したテレンス・ハワードをどう思われたでしょうか? 個人的には、彼の雰囲気がトニー・スタークを演じるロバート・ダウニー・Jrの雰囲気と非常にうまく融合していて、2作目以降の出演も楽しみだ! と思っていただけに、テレンスが『アイアンマン2』でローディを演じないと報道されたときはかなり驚いたものです。
このテレンスの解雇については、製作側と出演料の面で折り合いがつかなかったという理由が公表されていたので、残念ではありましたがよくあることと驚きませんでした。しかし、エンターテイメント・ウィークリー誌によると、前作『アイアンマン』で一番先にキャスティングが決定し、契約済みだったテレンスは、ロバート・ダウニー・Jrを含め、何と、どの出演者よりもギャラが高かったらしいのです。そこで、2作目の出演料は50%~80%減で提示されたというのです。
すでにこれだけでもヒドイ話ですが、目が点になったのはこの後です……。なんとテレンスは、自分が『アイアンマン2』をクビになったという事実をインターネットで間接的に知ったというのです!
普通なら有り得ないような失礼なことが起こるのがハリウッド映画業界ではありますが……、アカデミー賞候補にもなったことのあるクラスの俳優が、自分の解雇をインターネットで知ったなどというのは、いくら何でも尋常じゃありません。テレンスのような俳優になれば、有能なエージェント(マネージャー)が付いており、ギャラや契約問題に関してはクライアントにあたる俳優と密に連絡を取っているはずです。では、テレンスのエージェントは一体何をやっていたのでしょうか!?
ハリウッドでは俳優の実力よりも、その代理人であるエージェントの力によって俳優としての成功が左右されると言われています。つまり、エージェントは俳優たちが映画業界というジャングルを渡るためのガイド役ともいえ、良い仕事を取ってくることやギャラの面に関しては、エージェントの力量が大きな鍵を握るというわけです。
皆さんは映画『ザ・エージェント』を覚えていらっしゃるでしょうか。同作はスポーツ業界を扱ったものでしたが、トム・クルーズが演じていたのが俗にエージェントといわれている役どころで、俳優(映画ではスポーツ選手)のギャラなどに関しての交渉を担当しており、エージェントがやり手であればあるほど、クライアントにどっさりとギャラを取ってこられるという仕組みなわけです。おまけに、通常エージェントの給料システムは、クライアントが受け取るギャラの平均10パーセントが自分の収入になるというもの。クライアントのギャラが上がれば上がるほどエージェント自身の懐も自動的に温かくなる……という図式になります。
『アイアンマン2』のテレンス降板事件に戻りますが、上記のことから考えると、テレンスのエージェントは、前作『アイアンマン』のときの彼のギャラを製作側に無理に要求していたのでは!? という疑問が沸いてきます。しかし、あくまでも代理人であるエージェントが独断で先走って、クライアントであるテレンスの要望も聞かずに製作側と押し問答を繰り広げたのかというと、これはエージェントとして、クライアントを無視したキャリア上の自殺行為にあたるため、あまり考えられないシナリオといえます。
結局のところ、その場に居合わせたわけではないので推測になってしまうのですが、報道によると、撮影中の横柄な態度、あるいはパフォーマンスが良くなかったといったことが、テレンスが『アイアンマン2』の仕事を失った理由のもう一つの要因として挙げられています。これらの信ぴょう性は何ともいえませんが、製作側からのテレンスへの解雇通達の経緯を見てみると、お金の問題にせよ、態度の問題にせよ、とにかく何らかの理由で、テレンスもしくは彼のエージェントが製作側の要にあたる人物をムッとさせてしまったことが理由と考えられそうです。
実は、テレンスがまだ売れていないころ、彼の出演していた映画の第2助監督として一緒に仕事をした経験があります。その数年後、テレンスとハリウッドのコーヒーショップでバッタリ会ったことがあったのですが、当時まだ日の目を見ていなかった彼が、「僕はそのうちスターになってみせるよ。だからキミもがんばってね!」と目を輝かせて言ってくれました。当時から自信に満ちあふれていたテレンスでしたが、人気の波に乗ってちょっと強引になってしまったところがあったのかもしれません。ただそういうときにクライアントの手綱を引いてくれる有能なエージェントが彼に付いて采配(さいはい)を振るっていてくれたら、テレンスはローディの役を失わずにいたのでは……と思わずにはいられないのです。
ハリウッドというところは、非常に個性の強い人たちで出来上がっている小さな世界です。ただ、サミュエル・L・ジャクソンのような大物俳優が「当初の契約と違ってセリフが少ないから降板するぞ!」と言えば、製作側は焦って対処もしますが(実際にサミュエルは『アイアンマン2』をその理由から辞退しかけたのです……)、一昔前まではサミュエルですらそんなことは言えない立場にいたわけです。
口は災いの元といいますが、どうやらテレンスたちはハリウッド世渡り戦術をしくじってしまったようです。周囲の人選に気を付けながら、自分の立場を考え、絶えず先を読みながらスマートな選択をしていく……というのが業界ゲームの必勝法といえそうですが、ハリウッドは特に熱い人たちの集まりですから、まさに言うはやすし、行うが難し! 普通の人ならこんな世渡りは聞いているだけで疲れてしまいますけどね(笑)。
というわけで、今回はこれにて。また次回、お会いしましょう!
(取材・文 神津明美 / Addie・Akemi・Kohzu)
高校留学以来ロサンゼルスに在住し、CMやハリウッド映画の製作助手を経て現在に至る。アカデミー賞のレポートや全米ボックスオフィス考など、Yahoo! Japan、シネマトゥデイなどの媒体で執筆中。全米映画協会(MPAA)公認のフォト・ジャーナリスト。
今年のロスは花粉症がスゴくてチワワ目状態のアディーです。日本の柔らかティッシュが恋しい……。