第20回
今月の5つ星
毎月公開される新作映画の中から、シネマトゥデイ編集部おススメの5本を紹介します。
『フラガール』の李相日監督が芥川賞作家、吉田修一のベストセラー小説を映画化した『悪人』、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の人気アクションシリーズ最新作など秋の話題作が勢ぞろい!
女性監督・呉美保が、前作『酒井家のしあわせ』に続いて、消えゆく命と遺される家族たちの心の機微をきめこまやかに描出。年下の青年(しかも金髪のリーゼント!)との結婚を決めた母親に腹を立てていた娘の「(余命わずかであることを)話してくれていたら、もっとちゃんとあの人とのことを受け入れていたのに」という反省の言葉に、母は「死ぬから受け入れるっていうの? そんなの全然うれしくない」と手厳しいひと言を返す。作り手が、死に向き合うとはどういうことなのかという普遍的なテーマを、感傷におぼれることなく冷静に見つめているところが秀逸だ。息ぴったりの掛け合いを見せる母娘役の大竹しのぶ&宮崎あおいはもちろん、母娘の悲しみを受け止める周囲の人々を演じる絵沢萌子、國村隼らベテラン俳優陣の熟練した名演に技あり!
中島哲也監督の映画『告白』、そしてこの李相日監督の映画『悪人』と、今年は原作の世界観を壊すことなく見事に小説を映画化したといえる作品が続いた。しかし、『悪人』には『告白』と違い、エンターテインメント性といった点では地味。それでも終始目をくぎ付けにさせられるのは、さわやかなイメージを封印して人生を転落する薄幸な主人公を演じた妻夫木聡をはじめ、深津絵里、満島ひかり、柄本明、樹木希林、岡田将生ら今の日本映画界を代表すると言ってもいい演技派のキャスト陣が、見事にそれぞれのキャラクターを演じ切っているからだろう。そして誰が本当の「悪人」なのか? という疑問を、人間関係が希薄になった現代の世に問い掛けてくる。映画には描かれなかったストーリーを知るとなおさら、本作の持つ人間考察の深さにうなる。映画を観たあとに原作を読んでみるのもいいだろう。李相日監督が、日本映画史に残る作品をまた一つ世に送り出してくれた。
『アメリ』の大ヒットで、一躍その名を世界にとどろかせたフランスの名匠ジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作は、ちょっとぶっ飛んだ個性豊かなキャラクターたちが復讐(ふくしゅう)劇を繰り広げるブラックコメディー。ハチャメチャなイタズラ大作戦だけに爽快(そうかい)感はもちろんのこと、大道芸を見ているようなコミカルさや少年少女の初恋のようなかわいらしい恋愛模様など、時に復讐(ふくしゅう)劇であることを忘れてしまうようなファンタジックな世界が繰り広げられる。しかし、そんなヨーロッパ映画らしいオシャレさと癒やしが混在しながらも、物語が進むにつれて全面に押し出されてくるのは、今の世の中を風刺した、世界平和を訴えかける社会的なメッセージ。そのパワーに少々圧倒されつつも、「世界が平和でありますように」という万人の願いは、やはり心に響くものがある。彼らのアツくてゆる~い「特攻野郎Aチーム」ばり(!?)のイタズラ大作戦と併せて、パリの街並みを楽しむのもまたオツ。
今年のヴェネチア国際映画祭コンペ部門に出品された本作。「本格時代劇エンターテインメント」とうたうにふさわしい出来栄え! 三池崇史監督らしい、エロ描写(一部面白エロ描写あり)とグロイ描写もあるので女子は要注意&子どもは観てはいけません。しかしながら、ナイスキャスティング! 中でも、悪役を演じた稲垣吾郎の怪演は見事で、ひょうひょうと人を殺す姿と甲高い声&甘いマスクが、バカ殿キャラにハマリ過ぎていて怖いくらい。最期のセリフ回しが、正気と狂気のキャラクターを見事に体現していた。また、ラスト50分の死闘は、13人それぞれの見せ場があるため若干長めだが、万民の平和のために命を差し出した男たちと、敵役で悪とわかっていながら暴君に最後まで仕える市村正親、双方の武士道精神は、カッコよくもあり悲しくもあり、散りゆく命の美しさを感じる。最後にもう一つ、ゴローちゃんもいいが、注目は窪田正孝! 何も恐れない、若く勢いのあるピチピチ侍姿がさわやかで、今後も期待したい俳優。
ファン待望のシリーズ第4弾の見どころは、何といっても臨場感あふれる3D映像にあり! 映画『アバター』のジェームズ・キャメロン監督の協力のもと、最新のフュージョン・カメラ・システムで撮影されただけあって、迫力は大幅にアップ! 手裏剣、おの、銃弾、ガラスの破片までもが、リアルに飛び出し(あの中島美嘉までも!)スローからストップモーション、高速撮影まで、変幻自在な映像は、まさに芸術的ともいえる。また、シリーズ最高の壮大なスケールも魅力で、東京、アラスカ、荒廃したロサンゼルスの地下牢獄(ろうごく)など世界をまたにかけたシチュエーションが、観る者を引き付ける。そして忘れてはならないのはキャスト。主人公アリス役のミラ・ジョヴォヴィッチはもちろん、「HEROES/ヒーローズ」のアリ・ラーターがクレア役を続投するほか、「プリズン・ブレイク」のウェントワース・ミラーが、クレアの兄、クリス役で初登場するので、こちらも必見。新感覚のサバイバル・アクションを、ぜひ劇場で体験してほしい。