~第23回 2010年9月~
INTERVIEW@big apple
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今月はフランスのスターをフィーチャー。『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part 1 ノワール編 / Part 2 ルージュ編』のヴァンサン・カッセル、過激な作風で知られるギャスパー・ノエ監督、『ハートブレイカー / Heartbreaker』(原題)の主演ロマン・デュリスとパスカル・ショメイユ監督を紹介!
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映画『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男』
フランスで強盗、逮捕、脱獄を繰り返し、警官に銃殺された実在のギャング、ジャック・メスリーヌの衝撃的な人生を描いた作品。ヴァンサンの代表作といえるほど、彼の熱演が光った作品だ。
ヴァンサン・カッセル
ヴァンサン・カッセルは、同作でフランスのアカデミー賞といわれるセザール賞の主演男優賞を受賞。イタリアの人気女優モニカ・ベルッチの夫であり、ハリウッドにも進出し始めた、今最も注目を集めているフランス人俳優の一人だ。予想に反して、取材用のラウンドテーブルに集まった記者は、僕を含めてわずか5人だった。ヴァンサンは『オーシャンズ13』や『イースタン・プロミス』などでこわもての役を演じていたために屈強なイメージが強かったが、インタビュー部屋に入ってきた彼は、記者一人一人とハグした上に手を広げ、「僕に何でも聞いてくれ!」と、気さくな印象。
驚いたのだが、初めはこの映画の脚本を『アメリ』のギョーム・ローランが担当することになっていたらしい。しかし、彼では無理だと判断したヴァンサンは出演を拒否。そんな彼にプロデューサーが怒ってしまい、プロデューサーと彼のエージントの間でケンカがぼっ発! なんと、エージェントはプロデューサーに殴られたそうだ。そこで事態を重く見たヴァンサンが慌ててプロデューサーを呼び、脚本家を変えてくれるなら出演するから脚本家を決めてほしいと交渉したことで、ようやく関係が修復したらしい。ヴァンサンに、彼自身とジャック・メスリーヌの共通点を聞くと、自分にはメスリーヌのように結構短気なところがあるとのこと。確かに、彼はこれまですぐにキレそうなタイプの役を演じることが多かったが、こうしてインタビューをしてみると、そのイメージは覆されていった。僕ら5人の記者の中に、一人だけインタビュー経験のないフランス人女性記者がいて、彼女はなかなか質問できずにいた。すると、ヴァンサンは彼女に質問を促すためか、「あなたはフランスのどこの出身なの?」と声を掛けて緊張感をほぐしたのだ。最後に、プライベートでは「妻と娘に時々料理を作って食べさせてあげるんだ」と笑顔で話していたのが印象に残った。
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映画『エンター・ザ・ボイド』
ストリッパーの妹リンダ(パス・デ・ラ・ウエルタ)と共に東京へやってきた麻薬ディーラーの兄オスカー(ナサニエル・ブラウン)は、ある日警察に追われ、銃で撃たれてしまう。ところがオスカーの魂が離脱し、東京の街を浮遊しながら、愛するリンダを求めてさまよい始める。ギャスパー独特の観点で見つめた東京も魅力的だ。
ギャスパー・ノエ
個性的な監督として威勢を放つギャスパー・ノエ。今回は日本で撮影したということもあって、ぜひともインタビューしたかった。だが、この映画のパブリシストがくせ者のスーザン・ノーゲットという女性で、「国内の宣伝を中心に行うから、海外記者の取材は要らないわ」と、よく僕の取材依頼を断っていた。しかも、今回は1対1の取材を中心にセットアップしているというのだ。今回も可能性薄と判断した僕は、この映画が日本で撮影されていることを訴え、ハフィントン・ポスト紙の友人記者と共にインタビューを設定してくれないかとスーザンに頼み、取材できるように伏線を張っておいたのだ。一つのインタビュー枠で二人の記者が取材するのなら許可しやすいはず、と思ったからでもある。そして、なんとか午後2時から20分の取材を確保した。
当日、地下鉄で取材現場のスーザン・ノーゲット・オフィスへ向かいながらブラックベリー(携帯)でE-mailをチェックしていると、なんとスーザンから「ギャスパーが前日に酒を飲み過ぎて朝起きられず、午前中に予定していたほとんどのインタビューをキャンセルしてしまい、僕のインタビュー枠をキャンセルしなければならない」という連絡が! 取材開始1時間前に知らせてくる無神経さにも腹が立ったし、パブリシストならタレントを取材に来させるように管理するのも仕事じゃないかとも思った。だが、すでに電車に乗っていることだし、ひょっとしたら取材枠を広げて数人の記者によるラウンド・インタビューをセッティングしてくれるかも、と淡い期待を胸に抱いて現場に向かった。だが……、当然のように無理だと言われ撃沈。そしてパブリシストから、「なんとか後日、電話インタビューをセッティングするから」と言われ、ギャスパーの写真だけ撮って退散した。そのときはどうせ口約束だけで実現しないだろうと思っていたのだが、確かに一週間後にその機会が与えられた。良かった……!
ギャスパーは電話インタビューで、「『エンター・ザ・ボイド』は、前作『アレックス』よりは性描写においてトーンダウンしているが、今回はセックスを通して人の生存とエネルギーを伝えたかった」と話してくれた。また、この映画では主人公が魂が離脱したようになるが、ノエ自身は仏教の輪廻(りんね)を信じていないとのこと。最後に、「マジックマッシュルームのような幻覚を伴うものは経験したことがあるが、ハードなものはやったことがない」というドラッグに関するエピソードが印象に残った。
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映画『ハートブレイカー / Heartbreaker』(原題)
大富豪に依頼されたカップルの壊し屋(ロマン・デュリス)と、10日後に結婚を予定している大富豪の娘(ヴァネッサ・パラディ)が繰り広げる痛快アクション・ラブコメディー。
ロマン・デュリス、パスカル・ショメイユ
前回ロマン・デュリスをインタビューしたのは『真夜中のピアニスト』のときだった。そのころの彼はまだ英語が上達していなかったために、取材後に英語を修正しながら記事を書いた記憶があった……。しかし、あれから5年もたっているし、パブリシストが通訳も用意してくれるとのことだったので安心していた。取材現場に行くと、今回のインタビュー開始時間が午後3時45分と、割と遅めだったせいか、ロマンは僕ら4人の記者の前でいきなり大あくび。続いて、監督のパスカルも取材に駆けつけてくれた。インタビューが始まると、まず僕の横にいた記者が長めの質問をしたのだが、これに対してロマンは「No」のひと言で終えてしまった。次の質問の返答も同じ。これじゃマズイと思った僕は、『真夜中のピアニスト』で素晴らしいピアノ演奏を披露した彼の演技を引き合いに出し、今回のヴァネッサとのダンスシーンについて語ってもらった。すると、以前と比べて彼の英語は聞きやすくなっていたものの、依然としてボキャブラリーが少なく、面白い記事にできるか不安になってしまった。さらに、その不安をあおるように、ロマンの横にいた通訳の女性は何もせずにただ聞いているだけ。そんな中、最悪の事態が訪れた!
ボストン・グローブ紙の記者が難しい質問をし始め、ロマンはよく理解できなかったのか、通訳にそれを訳して伝えてもらおうとしていた。ところが、その通訳も質問の意味がよくわからないと言い出したのだ。幸い、比較的英語能力のあるパスカル監督がその質問をロマンに説明し、ようやくクリアと思ったら一難去ってまた一難……。ロマンがインタビューの途中に別のテーブルに移動し、休み始めてしまったのだ……! その間の取材は、すべてパスカル監督に委ねることに。僕らも長い取材攻勢で疲れることはよく理解しているので、誰も文句を言わずに監督だけの取材を続けた。ようやく戻ってきたロマンは、これまでの気まずさを解消するかのように、英語で少し長めの返答をし始めた。その間、通訳の人は、まったく仕事をせずに終わってしまった……。取材後、その通訳の人に話を聞くと、彼女は映画プロダクションで働いている女性で、本業は通訳ではないというのだ。でも、英語が苦手なロマンのために、少しでも役に立てればと思って参加したらしい。もちろん、彼女の話は理解はできたが、そういう人を通訳として起用するパブリシストもどうかと思う。が、おそらく予算がなくて通訳を雇えず、身内で何とかしたんだろうと思ったら何も言えなかった……。