サードシーズン2010年12月
私的映画宣言
あっという間に師走ですが、今年観た映画(アメリカで観た作品含む)のベスト5は、『スプライス』(2011年1月8日公開)、『キック・アス』(12月8日公開)、『わたしを離さないで』(2011年春公開)、『A Prophet』(英題:日本公開未定)、『Easy A』(原題:日本公開未定)で決まり。ベストアルバム3枚は、Frightened Rabbit、Deerhunter、No Ageです。
●12月のオススメ映画は、『キック・アス』(12月18日公開)。
ICレコーダーがブっ壊れ、ブルーレイがブっ壊れ、無線LANルーターがブっ壊れ、一眼レフのデジカメがブっ壊れ、揚句の果てにはノートPCまでブっ壊れーので、破壊のスペクタクル! デジタル機器がないと超無力です。
●12月のオススメ映画は、『キック・アス』(12月18日公開)。
拙著「海外ドラマ10年史」(日経BP社)には、さまざまなご意見・感想をいただき本当にありがとうございます! 厳しいご指摘も含めて、今後に生かしていければと思います。また年明けには電子書籍化予定。「そっちの方が便利」という方は、ぜひ!
●12月のオススメ映画は、『君を想って海をゆく』(12月18日公開)。
ロビン・フッド
伝説の義賊、ロビン・フッドの物語を『グラディエーター』のリドリー・スコット監督と、ラッセル・クロウの黄金コンビが手掛けた歴史スペクタクル大作。12世紀のイギリスを舞台に、勇猛果敢なヒーローの戦いぶりを活写する。出演者も『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のケイト・ブランシェットや、『シャーロック・ホームズ』のマーク・ストロングら名優が勢ぞろい。映画の前半と後半で描かれるイングランド対フランスの壮絶な戦闘シーンは必見だ。
[出演] ラッセル・クロウ、ケイト・ブランシェット、マーク・ストロング
[監督] リドリー・スコット
まさか緑のタイツをはいたラッセル・クロウが出てくるとは思わなかったが、オレ様映画にしては割と面白く観ることができた。問題はクライマックス。女性や子どもが戦場に駆け付けてしまうという考えナシな展開にびっくり。しかも、ヒーローものなのに。彼らの協力のさせ方ならいくらでも、バリエーションあるだろう。おまけにもっとあり得ない超大味なウルトラC技。思わず失笑。オレ様ラッセルを信じて、付いて行ったら、最後の最後でまさかの裏切り……。
リドリー・スコット監督、久々の快作スペクタクル・アクション。海を血で染めるラストの合戦シーンは圧巻で鳥肌が立ったが、そこにたどり着く過程での丁寧なドラマの積み重ねがやはり効いている。ラッセル・クロウは野性味あふれるパワフルな役が一番似合っているし、エレガントで芯(しん)の強い心を持ったヒロインを演じたケイト・ブランシェットも相変わらず輝いている。卑劣な悪役を演じるのは、今、ヒールを演じさせたら右に出る者はいないマーク・ストロングだ。中世の吟遊詩人のあっぱれな下克上を描いた、英雄伝説の序章となった本作。続編が早く観たい。
ロビン・フッドって、実在の人物だったっけ!? と錯覚させるほど、歴史とフィクションを巧みに融合。ラッセル・クロウも旧知のリドリー・スコット監督と男気100パーセントのドラマに、イマイチといわれた映画『プロヴァンスの贈りもの』の軽妙な味を加えて、ケイト・ブランシェットとのちょい甘な恋バナも楽しませる。私的には悪玉マーク・ストロングに萌え、ご老体マックス・フォン・シドーの騎士としてのプライドにも泣けた。あ、海外ドラマ「ER緊急救命室」でDr.モリスを演じるスコット・グライムズと「LOST」で傭兵(ようへい)キーミーを演じたケヴィン・デュランドが、ロビンの頼もしい仲間として笑いを誘う。彼らもいいエッセンス。
そもそもロビン・フッドそのものや、扱われているテーマにまったく興味がないので、『ノルウェイの森』と同じスタンスで臨めたものの、リドリー監督&ラッセルの男気コンビ、相変わらずですな! といった印象。古くさいタイプの野郎が暴れる『エクスペンダブルズ』には燃えたが、ロビン・フッドは古典過ぎて入り込めなかったのかも。ラッセルが来日したが、暴れん坊のパフォーマンスを期待したのはオレだけか?
ノルウェイの森
映像と音楽にダマされるところだった。原作を読んだ人に共通するだろう、意見は「(水原希子演じる)この緑、違うよね?」だろう。まったく生き生きしていない緑にがく然。おかげで直子もダメに見える。菊地凜子は、原作では「静」だった直子を「動」で見せようとしたようだが、その試みは失敗だ。(初音映莉子演じる)ハツミ以外の女優のキャスティングがひどい。この監督は女を選ぶセンスがまったくないと前から思っていたが、案の定だった。村上春樹作品はしばらくまた映画化されないだろう。
原作の世界観を壊さず、忠実に映像化しようと試みた監督の熱意は感じられた。しかし、やはり原作小説のダイジェストに過ぎず、小説を未読の人には優しくない作りになっている。原作の独特のセリフも音にすると何だか陳腐。イメージにマッチしない主演二人のキャスティングに抵抗感を覚えたが、菊地凛子の舌っ足らずなセリフ回しは特に致命的だった。全体的に性的な描写を強調していたが、正直くどい。繊細な映像美のみ印象に残った。
前作『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』の珍なる出来にトラン・アン・ユン監督への期待ゼロ。が、『夏至』でも組んだ撮影監督リー・ピンビンの腕もあって、映像はさすがに美しいし、音楽もマッチ。痛々しいラブストーリーの体は成している。でも、村上春樹ワールドのキャラクターたちが、会話をまんま映画でしゃべると、かなりヘン。役者が頑張っているだけに失笑ものだ。その辺り、外国人監督だから、わからないんだろうな。映画化した意欲は買うけど、村上春樹作品はもうアンタッチャブルにしてほしい、頼むから……。
最後の忠臣蔵
英雄に祭り上げられた人たち(=四十六士)と実際にはそうでなかった本人たち(=生き残った二人)のジレンマに『父親たちの星条旗』的後味を感じた。しかもスクリーンいっぱいに堪能できる日本の四季の美しさ。これは海外でもウケそうと思ったが、よく考えてみたら、侍のメンタリティーなんて外国の人はおろか、現代人にも理解し難いよな。とはいえ、観る人によっていろんな楽しみ方ができるぜいたくな作品ではあった。女性は花嫁と花嫁の父目線で感涙する人が多いらしいが、わたしは安田成美目線で(役所広司演じる)孫左にホれました!
役所広司は『十三人の刺客』に続き、またもや時代劇映画での主演となったが、ここでも堂々たる存在感を披露。堅実な作りの映画に仕上がっているが、ストーリーは地味な上に展開もスロー。ドラマ性は高いようで、さほど劇的ではない。忠臣蔵を知らない人にはもちろん排他的な内容となっている。しかも、どこまで史実に忠実なのだろうか? という疑問も残った。そもそも忠臣蔵は、疑問がまとわりつく話なわけだが。
役所広司演じる瀬尾孫左衛門が、赤穂浪士の生き残りとして、耐えて忍んで侍の道に生きる男を感情をぐっと抑えて演じる。背中が泣いてるなー。中でも、佐藤浩市演じる寺坂吉右衛門との無言の対面シーン。本編の中で一番の見応え! 桜庭ななみちゃんも可憐(かれん)で、こんな娘に「どこにも(嫁に)行きとーない」なんて言われたら、娘を持つ父親の心わしづかみだろう。事実、試写室ではいい年の男性たちがすすり泣きぃ~。が、嫁入り行列は過剰演出。しかも、田中邦衛さん登場って……。テレビドラマ「北の国から」の杉田成道監督ですけどねぇ。