第22回
今月の5つ星
『ハリー・ポッター』待望のシリーズ最新作をはじめ、ロバート・ロドリゲス監督による伝説のフェイクの予告編を映画化した『マチェーテ』、全編が地中のひつぎの中、登場人物はわずか一人という前代未聞の設定が話題の『[リミット]』など、コアな映画ファンも大満足のラインナップをお届け!
人間の女子高生とヴァンパイアの禁断の恋を描いた『トワイライト』シリーズ第3弾。観ているこっちが恥ずかしい! と思うような恋愛模様も3作目となると慣れるもの。このシリーズは、3作とも監督が違うのも面白い。今回は『30デイズ・ナイト』のデヴィッド・スレイド監督。新生ヴァンパイアたちの殺りくシーンもサスペンスの色合いが強くなり、大人向けの雰囲気。しかし、一番のお楽しみは、ヴァンパイアのエドワードとオオカミ族のジェイコブが、ベラを奪い合うところ。今回はいつになく「オレの方がベラを幸せにできる」「いや、オレだ」のやり取りが続き、ココまでくると面白過ぎるので一見の価値あり。しかもベラは、ロストバージンしたくてエドワードに迫るが、見た目は17歳だが精神年齢はウン百歳のエドワードは……。最終章となる次回作の前段階なので、アクションも、恋愛関係も寸止めで観客をジラす。しかし、1作ごとに明らかにVFX技術やキャストのアクションに成長が見られ、これは最終章に期待ができるという出来栄えだ。
『グラインドハウス』でのフェイク予告編が大きな話題となっていた「マチェーテ」の映画化が、ついに実現。麻薬王のワナによって家族を殺されたマチェーテが、壮絶な復讐(ふくしゅう)に挑むという物語は、のっけから、「斬(き)る! 飛ぶ! 脱ぐ!(笑)」と間髪入れずに巻き起こり、思わずスクリーンに向かって突っ込みを入れたくなるスタートダッシュが実に印象的だ。ロバート・デ・ニーロの悪役や、地をいくリンジー・ローハンなど、豪華キャスト演じるぶっ飛びキャラもそれぞれに見事だが、やはりなんといっても主演ダニー・トレホのための作品! ハードボイルドなのにコミカルさを持ち合わせ、色気やいとおしさも感じさせるマチェーテというキャラクターは、監督が彼のためにつくり上げ、長年温め続けただけあり、その外見とは裏腹な彼の人柄や魅力にあふれたハマリ役。観終わったころには、すっかりダニーのファンになっていること受け合いだ。
ひつぎに入れられたまま生き埋めにされたら、どんな行動に出るのか……。そんな好奇心をかき立てる斬新な設定を映像化し、充電切れ間近の携帯電話とライター、ペンと酒しかない状況で、脱出を図る男の奮闘を描いたシチュエーション・スリラー。全編約90分を通して真っ暗闇のひつぎの中という設定と、映し出される登場人物が主人公のみであることも興味深く、まるで観客もひつぎに閉じ込められているような気にさせる「超体感型」なカメラワークと効果的な音の表現は見事だ。次第に明かされる主人公と家族の関係や、ひつぎに閉じ込められた理由にも素直に入り込め、充電切れ間近の携帯電話を駆使して必死に助けを求めるときのFBIの事務的な対応なども面白い。そして忘れてはならないのが、死に直面したときの絶望や孤独感、いら立ちといった不安定な喜怒哀楽を巧みに表現してみせたライアン・レイノルズ。彼のリアリティーあふれる演技には拍手を送りたい。
家庭の宗教方針でテレビが見られないなど行動に厳しい制限のある少年・ウィルと、学校一の「ワル」のレッテルを張られ居場所を失っているカーターが織り成す、夢と希望を描いた本作。演技経験がほとんどなかったというウィル役のビル・ミルナーとカーター役のウィル・ポールターが、見事にそれぞれのキャラクターに合った演技を披露していることにまず拍手を送りたい。物語は監督の幼少期がベースとなっているのだが、人は一つのきっかけによって、生きることの喜びや楽しさを実感できるということを示している。そして、はみ出し者のサクセスストーリーとして、ラストにすべての問題がつながることは特筆に値する。「リトル~」で始まる映画と言えば、第79回アカデミー賞で脚本賞を受賞した映画『リトル・ミス・サンシャイン』や、バレエダンサーを目指す少年のひたむきな姿を描き話題をさらった映画『リトル・ダンサー』などが思い浮かぶが、本作も先の名作に引けを取らない傑作だ。
完結編ということもあって、映像、ストーリー共に終始暗く重いムードが立ち込める『ハリー・ポッター』シリーズ最新作。冒頭でいきなりハリーの愛する者があっけなく死んでしまうことからして、子ども向けの作品だと思って触手が伸びなかった人たちも、イメージがガラリと変わるハズ。まず、これまでのシリーズと違う点と言えば、主要キャラのハリー、ハーマイオニー、ロンをはじめ登場人物が誰一人として笑わないこと。魔法界の命運を託され、闇の魔法使いヴォルデモートの命を握る「分霊箱」を捜索する3人の旅はあまりにも過酷で、ついには友情にも亀裂が。「分霊箱」の一つとなるロケットはハリーやロンの心の闇を暴き出し(ちょっと『ロード・オブ・ザ・リング』の指輪を彷彿(ほうふつ)させる)、彼らに課せられた使命の重さを物語っている。登場人物がひたすら「耐え忍ぶ」前編が、ヴォルデモートとの戦いに終止符を打つ後編にどのように結実するのか、こうご期待!