~第25回 2010年11月~
INTERVIEW@big apple
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今回は、巨匠クリント・イーストウッドの新作『ヒア アフター』、『トワイライト』シリーズの人気女優クリステン・スチュワートの新作『ウェルカム・トゥ・ザ・ライリーズ/Welcome to the Rileys』(原題)、そして『スラムドッグ$ミリオネア』のオスカー監督ダニー・ボイルの新作『127 アワーズ/127 Hours』(原題)を紹介します。
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映画『ヒア アフター』
過去に死者と語ることのできるサイキックとして活動していたジョージ(マット・デイモン)は、現在はある工場の作業員として働いていた。ある日、兄の勧めで再びサイキックを始めるように仕向けられるが、ジョージはそれを断念してロンドンに旅に出る。ところが、そこで思いがけない人たちと出会い、彼の運命に大きな変化が生じていくというスピリチュアル・スリラー。
クリント・イーストウッド、マット・デイモン、ブライス・ダラス・ハワード、セシル・ドゥ・フランス、ピーター・モーガン
同作は、ニューヨーク映画祭のクロージング作品で、普段なら映画の試写後に行われるはずの記者会見が設けられず、映画祭が終わった後で、別日に開かれるという異例の出来事となった。しかも、通常の映画祭の記者会見であれば、取材を許可された記者全員が取材できるのだが、この映画の場合、記者会見が席の限られたリンカーン・センターの特別室で行われたため、記者の数も限定されてしまっていた。僕は友人の知らせを聞いて運良くこの記者会見に入れたが、危うく貴重な取材を逃すところだった! 当日は、テレビの記者たちも参加して、大規模な記者会見に。当初予定されていた時刻より40分も遅れて始まった。しかも、これが午前中の取材だったため、午後にニューヨークで開かれるコミコン(コミック・コンベンション)の取材を予定していた記者たちをやきもきさせることに。そして、ようやく記者会見が始まり、記者たちはスタンドマイクの後ろに順序良く並び、質問することとなった。
当然ながら、質問はクリント・イーストウッドに集中。それに気付いたクリントは、スマトラ島の大津波のシーンのCGについての質問に答えた後に、そのシーンで演じていたセシル・ドゥ・フランスに「その時の演技はどうだったか?」と、自ら質問をふる気遣いを見せた。セシルは、フランス語なまりの英語アクセントで話し、わかりやすい言葉を並べていた。彼女が時折見せる愛らしい笑顔が印象に残った。マット・デイモンは、言葉を選びながら話す様子が知性を感じさせたが、子役たちに関する質問になると満面の笑顔に。というふうに、順調に質疑応答が進んでいたのだが、ある黒人女性記者が二問続けて質問したところから暗雲がたちこめた……。一つ目の質問にクリントが答えた後、司会者が気を使って、次に順番を待っている白人女性の記者に質問を委ねようとしたとき、その黒人女性記者は、答えられていなかった2問目の質問について言及。これには、司会者も「記者が多いから次の記者に質問を譲ってあげてくれ」と頼んだが、それでも黒人女性記者は引き下がらず、再度質問を投げかけた。彼女の自己中な言動に、登壇していた俳優と監督たちも横を見回しながら、司会者の動向をうかがっていた。すると司会者は、「いいかげんにしてくれ! 君だけの記者会見じゃないんだよ!」とブチ切れた。実は、この司会者は同映画祭のディレクター、リチャード・ペーニャという人物で、普段は温厚で非常に人当たりの良い性格なのだが、そんな彼が激怒している姿を見てびっくりした。結局、この黒人女性は二つ目の質問をあきらめて席に戻ったが、彼女は普段の取材でも複数の質問をすることが多く、記者たちから嫌われていたのだ……。
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映画『ウェルカム・トゥ・ザ・ライリーズ/Welcome to the Rileys』(原題)
娘を事故で亡くして以来、妻(メリッサ・レオ)と疎遠になってしまったダグ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)。彼は、仕事でニューオリンズを訪れた際に亡くなった娘とよく似た少女マロリー(クリステン・スチュワート)と出会う。そこでダグは、ストリップと売春で生計を立てているマロリーを救うため、セックスなしという条件で1日100ドルを支払い、彼女を更生させようとするが……。
クリステン・スチュワート、ジェームズ・ガンドルフィーニ、メリッサ・レオ、ジェイク・スコット
この日、『トワイライト』シリーズで人気を博しているクリステン・スチュワートと、アメリカで大ヒットしたテレビシリーズ「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」に出演していたジェームズ・ガンドルフィーニが記者会見に登壇するということで、相当な数の記者が参加すると思っていたが、集まったのはわずか20人程度。まず一つ目の質問で、ある記者がジェームズに南部のアクセントについての質問をすると、「(役柄の)アクセントで話せるようになるのは俳優なら当然だ!」とピシャリ。その後は一切話を続けようとしなかった……。そこで、横に座っていた女優メリッサ・レオが彼の言動に気を使ってか、自分はこのアクセントのためにどういうリサーチをしたのかを語った。そしてある質問にメリッサが、「脚本を読み始めたときは、ジェームズのキャラクターがクリステン演じる娼婦(しょうふ)とセックスする展開になると思っていたけど、結局そういうシーンがなかったから驚いたわ!」という話をすると、これまでだんまりを決め込んでいたジェームズが、ようやく笑顔で「そういうシーンがあったら良かったのに!」とジョークを飛ばして会場を沸かせ、一気に和やかなムードに。
それから、椅子の上に体育座り(!)していたクリステンに質問が及ぶと、ストリッパーを演じた彼女が監督のジェイク・スコットと共にストリップ・クラブを訪れたら、クラブの従業員たちはクリステンが女優だと知らずに、「ここで仕事がしたいなら、もっと年を取ってから来なさい」と言ったらしい(ちなみに、このときクリステンは18歳)。さらにその従業員たちは、ジェイクのことも客引きだと思っていたらしい。やがて、クリステンはストリッパー関連の質問に飽きたのか、うつむき加減で小声で答えるようになり、ニューオリンズでの撮影の話に及ぶと「久しぶりにパパラッチや記者に邪魔されずに、自由な時間を持てた」と語った。ジェイクは巨匠リドリー・スコットの息子だが、なぜか記者たちが父親に関する質問を一切しなかったのが、かなり意外だった。最後に、記者会見の最中に1、2枚の写真を撮って、会見が終わってからまた撮ろうと思っていたら、パブリシストが「俳優たちがこの部屋を出るまで席を立たないで下さい」と指示したため、結局大した撮影ができなかった……。さらに、会見用のテーブルの上にあった自分のレコーダーを見ると、なんと電池が切れて止まっていた……! 「充電してきたはずなのに……」と慌てたが、後日CBSラジオの友人記者が、この記者会見のオーディオをMP3で送ってくれて難を逃れることになった。
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映画『127 アワーズ / 127 Hours』(原題)
2003年にアメリカ人登山家アーロン・ラルストンが、ユタ州のブルー・ジョン・キャニオンを登山中に落石に腕を挟まれてしまい、自分の尿などを飲みながら5日間以上も事故現場で過ごしたのちに、自らの腕を切り離して生還したという実話を基にしたサバイバル・ストーリー。
ダニー・ボイル、ジェームズ・フランコ、サイモン・ボーフォイ、クリスチャン・コルソン、アーロン・ラルストン
この日は、前作の『スラムドッグ$ミリオネア』でオスカーを獲得しダニー・ボイル監督の新作ということもあってか、主演俳優、脚本家、プロデューサー、そして題材となった人物まで登壇する大きな記者会見となった。会場には、珍しくスナック用のチーズとバーニャ・カウダが用意されていて、僕ら記者たちは会見の開始前にそこで少しくつろぐことができた。そこで僕は、以前日本に住んでいたことがあるという美人フランス人女性記者と談笑しながら、ディップソースも美味なバーニャ・カウダに舌鼓を打ち、気付いたら結構な量の野菜をかじっていた。記者会見が始まってまず目に付いたのが、映画の主人公のモデルとなった人物アーロン・ラルストン。登山中のアクシデントで腕を切り落としたために今は義手となっていたが、事故からすでに7年が経過しており、かなり使い慣れている様子で、特に痛々しい感じはしなかった。さらに驚かされたのは、彼の明るさ。記者の質問に対して、ほとんどがボジティブな返答をしていて、新たに生きるチャンスを与えられた喜びに満足しているように感じられた。
次に、主人公を演じたジェームズ・フランコは、これまでにも何度か取材しているのだが、4~5年前は、一つの質問に答えるのにものすごく時間がかかったうえに、返答の内容もありふれた言葉を並べていて、お世辞にも知的とは言い難かった。しかし、今回の取材では彼が随分と成長したような気がした。そしてダニー・ボイル監督は、相変わらず早口でしゃべっていて、まるでスピード感のある彼の映画を観ているようだった。さらに、彼は思い付いたことを何でもしゃべってしまうのではないかと思うほど、質問されたこと以外に話を広げることがしばしばあった。それだけ話すことが好きのようにも見える。その際にダニーは、ジェームズ・フランコを主人公に起用した理由は、おバカ映画『スモーキング・ハイ』(日本未公開)を観て彼の演技の幅に圧倒され、主役に決めたのだと語った。