サードシーズン2011年1月
私的映画宣言
『再会の食卓』を観ていたら、台湾から中国に戻ってきた国民党軍元兵士が大好きな佛跳牆(ぶっちょうしょう、フォーティャオチァン)を作るシーンが登場。お正月に行く台北で必ず食べようと心に誓いました。『モンガに散る』の舞台となった西門あたりも探検予定です。
●1月のオススメ映画は、監督の変態ぶりがよくわかる『スプライス』(1月8日公開)。エイドリアン・ブロディがやったのって獣姦と近親相姦だよね?
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督、オリヴァー・ストーン監督と、鬼才に相次いで取材。タイプはまったく違うが、どちらの監督もクセの強さが味。その秘密が映画作りにおける信念にあることを強く感じた。
●1月のオススメ映画は、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の仰天スリラー『スプライス』(1月8日公開)。
2010年も終わり。面白い映画が多かった1年だったけど、ミニシアター系がつぶれ、ブルーレイが伸び悩むなど、市場全体がよろしくない。頼みの綱は3D映画かもしれないが、そろそろチケット代を見直してもいいのでは~?
●1月のオススメ映画は、『デュー・デート ~出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断~』(1月22日公開)。
近所のファミリーレストラン2店+24時間営業のマクドナルドが立て続けに閉店し、新たな居場所を求めて放浪中。そこで取材テープを起こしをしたり、ゆっくり新聞や雑誌を読むのが好きだったのにな。おかげで新聞がたまりまくり(>_<)。
●1月のオススメ映画は、『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』(1月22日公開)。
肩凝り腰痛対策にウオーキングを心掛けている。人並み以下の体力なのに「そのうち小さくてもいいから山に登りたい」と山ガール化願望が芽生え、何となくコミック「岳 -みんなの山-」を手に取ったらすっかりハマってしまった。映画はどうですかな……。
●1月のオススメ映画は、『ソーシャル・ネットワーク』(1月15日公開)。
ソーシャル・ネットワーク
世界最大のSNS「Facebook」誕生の裏側を描いた伝記ドラマ。ハーバード大学在学中にFacebookを立ち上げた主人公たちが、一躍有名人となり巨万の富を築くものの、金や女、裏切りの渦に巻き込まれていくさまを映し出す。監督は、次々に話題作を送り出すデヴィッド・フィンチャー。キャストには『イカとクジラ』のジェシー・アイゼンバーグ、『Dr.パルナサスの鏡』のアンドリュー・ガーフィールド、ミュージシャンのジャスティン・ティンバーレイクら注目株がそろう。
[出演] ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク
[監督] デヴィッド・フィンチャー
アメリカで「21世紀の『市民ケーン』」と評されたのも納得の快作。SNSには1ミリも興味がないが、巨大ビジネスとなる過程で起きたあつれきや葛藤(かっとう)というドラマは「やっぱりね」なドロドロ具合で実に面白い。事件の発端&核ともなるのが謎めいた天才児マーク・ザッカーバーグで、彼の不可思議な心模様を見事な筆致で切り取ったアーロン・ソーキンの脚本が非常に素晴らしい。そして通常の150パーセント増しくらいのセリフ量でありながら、行間のためもきちんと演じた主演のジェシー・アイゼンバーグはじめとする若手役者たちの力量にも感心しきり。これを観なきゃ損ですよ。
この映画の面白さをどう伝えるべきか、正直、迷う。好感の抱けるキャラクターはどこにもいないし、派手な見せ場も皆無。にもかかわらず、気持ちをガッチリつかまれる。人物がリアルにとらえられていることはもちろんだが、これらのキャラクターたちをかませ合い、その状況に緊張感を躍らせている点が勝因か。主人公は鼻持ちならないインテリだが、それだけでなく、個人的にはひねくれた反骨心をのぞかせている点に共感が抱ける。ある意味、パンク。
デヴィッド・フィンチャー監督の映画らしく暗~い映像が好ましく、デジタル世代のダークでリアルな人間ドラマとして高い評価を得ている完成度にナットク。個人的にも、この映画の翻訳監修を担当したジンガジャパンの山田進太郎氏とかつてどっぷり仕事をした身としては、遠くはない世界での話に思えて興味深かった。フィンチャー監督には、『海底2万マイル』を撮り終わったら、クリス・クーパー主演で今話題の「ウィキリークス」の創始者ジュリアン・アサンジの物語を映画化してほしいな。
「世界で最も若い億万長者」の話となれば、誰もが憧れるアメリカン・ドリーム。一昔前のハリウッド映画なら間違いなく、彼のサクセスストーリーを最大限に美化して描いただろう。しかし大金を手にすることが勝ち組とは限らない、大人の苦さをかみしめるラストが今どき。またこの作品を受け入れているアメリカ社会の変化が興味深い。それにしても「折れる心」を知らぬエリートって本当に面倒。2番じゃダメらしいッスよ、蓮舫さん。
アーロン・ソーキン(脚本)の矢のように飛び交う怒とうのダイアローグは、見事というほかなく、とにかく最後まで一気にみせられた。ともすれば平板な印象になりそうなセリフ劇だが、メリハリを付けてドラマを盛り上げるデヴィッド・フィンチャー監督はやはりうまい。俳優陣のアンサンブルも魅力で、若手の中でも個性際立つジェシー・アイゼンバーグは本作でもいい仕事を披露。驚いたのはジャスティン・ティンバーレイク。今まであまり興味が持てなかったが、今回は俳優として好印象だ。
GANTZ
死んだはずの人間が不可思議なミッションのために集められるというアイデアは面白い。ミッションを遂行させられる途中で登場人物たちが培っていく友情や信頼、経験する裏切りや醜いエゴを通して人命の尊さを実感する物語(らしい)というのもよくわかる。なのだが、誰にも共感しようがないという致命的欠点が……。強いて、心を寄り添わせられるとしたら松ケン演じる「心優しい正義漢」の勝なのだろうが、キャラが単純で浅過ぎる。子どもはだませても、大人は無理ね。2部作なので、本来ならば後編を観た後に評価したい作品だ。
カタルシスを感じていいはずのアクションに、まったく「ヌケ」がない。原作を読んでいないので、そこが真の魅力であるか否かはわからないが、躍動的な戦いを繰り広げているにもかかわらず、それをきちんと見せないのでは映像化する意義が見いだせない。クールなボディースーツも宝の持ち腐れというものだ。ヒロインのセクシー・ルックさえ、きちんと見せないのだから欲求不満が募る。もっとも後編を前提としているお話だから、覚醒(かくせい)しつつある主人公の活躍がそこで「ヌケ」になることを期待しつつ、1点おまけ。
理不尽なことに巻き込まれた当人たちは覚悟を決めるけれど、観ているわれらには受け入れ難い世界観で、その距離感が妙に心地良かった。映像的には瞬間移動のCG処理が何度も起こるので、それがクドく感じる程度で、3番目に登場するおこりんぼう星人との死闘では、初めて『スパイダーマン』を観たときのような興奮を覚えたと、取材の際に加藤役の松ケンに報告してしまったほど。続く後編への期待も大で、原作とは異なるストーリーに期待が高まる!
う~ん……、何を評すれば? 良く言えば壮大な序章だが、筆者には130分もかけた予告編にしか思えず。っていうか、果たして2部に分ける必要があったのかな。『20世紀少年』に続く日テレちゃん商法ってことで。しかし同局がかかわる映画は『カイジ 人生逆転ゲーム』とか『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』とかゲーム感覚で人殺しする話ばかり。そこに確固たる信念とか覚悟はあるのかい? 娯楽じゃん! とは割り切れないもので。頭が固くてごめんね、ごめんね~(by U字工事)。
コミックはちょっとかじった程度だが、原作の世界観を丁寧に再現しようとした映像は迫力があるし、主演2人も良いのではと思う。が、不条理な世界観を描くことに終始した感のある前編は、その世界観自体が筆者にはあまり面白いとは思えず、後編の方がドラマとしては楽しめそうな気がする。いわば導入編である前編だけを観て1本の映画として評価するのはなかなか難しい。3部作でも前後編でも結構だが、映画なのに思いっきり「次回へ続く」的なラストには食傷気味。
白夜行
今まで舞台化やテレビドラマ化されてきた、東野圭吾の人気小説を、『60歳のラブレター』の深川栄洋監督が映画化。ある殺人事件にかかわった人々の複雑な人間関係を軸に、19年に及ぶ男女の狂おしい愛情を描く。『ALWAYS 三丁目の夕日』などの堀北真希が聖女の顔をした悪女役で新境地を開拓。彼女の守護神のような相手役を、『おにいちゃんのハナビ』の高良健吾が好演する。互いの存在だけを頼りに必死に生き抜こうとする男女に課せられた残酷な宿命に言葉を失う。
[出演] 堀北真希、高良健吾、船越英一郎
[監督] 深川栄洋
幼少時のトラウマから逃れられない男女の長きにわたる恩讐(おんしゅう)というドラマチックなテーマの東野圭吾原作は、映画素材としては文句なし。とはいえ、小説に描かれていない部分を補強し、物語に深みを出したテレビドラマを知る観客にはスカスカ感が残るかも。登場人物の心模様の描き方が通り一遍な感が強い。それにキャスティングに難あり? 船越英一郎がくたびれた刑事を演じているせいで、火サスとか水スペに見えてきて、困った。隣の女の子といった風情の堀北真希ちゃんに絶世の美女役はちょっと無理でしょ。とはいえ、韓国版が観たくなったのは事実。
ドヤ街の雰囲気の作り込みは素晴らしく、その雰囲気には引き込まれるし、ミステリーにも興味を引かれる。しかし真相が明らかになるほど、底の浅さを感じるのはキャラクターの描写が紋切り型だから。悪人が主人公ならば、それらしいカリスマ性がほしいところだがイマイチ、それも伝わってこない。キャスティングのせいか、どうしてもテレビの2時間ドラマに見えてしまうのが苦しい。人間の心の闇をディープに探ろうと思えばできた素材なんだけど……惜しい。
オレ的に試写の段階で「原作読まずに試写を観る」になってしまったが、わずか一点を除いてガチで圧倒された。危うくてはかなげな高良健吾良し! 本当に悪女じゃないのかと思わせる堀北真希良し! 昭和という時代をグレーでイメージした深川栄洋監督良し! 原作を変えたことが裏目に出たとは思わないけど、船越英一郎演じる刑事の告白に少々面食らったのみ。ラストの長回しも美しいし、原作ファンの感想が聞きたいですな。
暗い過去を背負って生きる雪穂役は、性格の良さがにじみ出るドラマ版の綾瀬はるかより、笑顔の裏に陰がある堀北真希の方がピッタリ。深川栄洋監督の演出も、登場人物み~んなが腹に一物あるような表情&芝居で市川崑監督作品を彷彿(ほうふつ)。サスペンス映画の醍醐味(だいごみ)もたっぷり。『洋菓子店コアンドル』で筆者の中の深川評が地に落ちたが、本作でめでたくV字回復(笑)。ただやっぱり、ドラマ、舞台、韓国版ときて、今さら感は否めない。