第27回
今月の5つ星
アカデミー賞主演女優賞に輝いたナタリー・ポートマン主演のラブコメ『抱きたいカンケイ』、三浦しをんのベストセラー小説を瑛太&松田龍平主演で映画化した『まほろ駅前多田便利軒』、レズビアン夫婦とその子どもたちの危機を描いた家族ドラマ『キッズ・オールライト』など、GW中に観られる話題作をセレクト!
映画『ブラック・スワン』で迫真の演技を見せ、第83回アカデミー賞主演女優賞を受賞したことも記憶に新しいナタリー・ポートマンが、今度はお色気ムンムンの演技に挑戦。抱きたいとき、抱かれたいときの関係(いわゆるセフレ)だった男女が、マジな恋に落ちるという何とも現代的なストーリーだが、なぜナタリー演じる主人公が人と親密な関係を築きたくないかというホンネが徐々に暴かれていくのがミソ。好きなことに没頭し、傷つくことを恐れてカジュアルな人間関係を保ちながらも、本当は人とのつながりを求めている主人公の姿は、まるで現代の若者の気持ちを代弁しているかのよう。ある意味そんな不器用さがもどかしく、新しい純愛ムービーとして楽しめるだろう。(編集部・山本優実)
直木賞も受賞した三浦しをんの同名人気シリーズを、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の大森立嗣監督が映像化。淡々と仕事をこなすしっかり者に見えつつ、過去を引きずり、人とのかかわりから距離を置いている多田(瑛太)と、へらへらしたいいかげんなヤツに見えて、困っている人を放っておけない内なるアツさを持つ行天(松田龍平)。なぜか共同生活することになった、単なる同級生という間柄の2人が、便利屋の仕事を通じて、ちょっとワケありな「まほろ住人」の人生に、彼らなりの「優しさ」でかかわっていく……。その姿は不器用な分リアリティーがあって、説教クサくない心の声だから、観る者にもすとーんと響いてくる。人間は一人で生きていこうとしたって、やっぱり一人でなんて生きていけない。たくさん嫌なことがあったって、生きていれば小さな幸せもいっぱいある。全編にちりばめられた、ちょっぴりブラックなユーモアにリラックスさせられながらも、そんなことをいつもよりちょっとだけ強く感じさせてくれる。(編集部・浅野麗)
幅広い役柄をソツなくこなす実力派女優・ジュリアン・ムーアが、同じく実力派のアネット・ベニングに「あなたに演じてほしい」とメールを送ったことから実現した本作のタッグ。この2人の息がピッタリ過ぎて「同性愛パートナーと2人の子ども」という一風変わった家族の設定がまったく気にならない。むしろ、いつまでも子ども扱いして過保護になってしまう親の心境は普遍的で、観客も共感を覚える物語であることが印象的。また、欲に負けてしまう人間の弱さを、お笑い用語でいうところの「てんどん(同じネタを2回繰り返すことで笑いをとる手法)」を駆使して表現するなど、劇中にちりばめられた笑いの仕掛けが作品全体を明るく照らす。この軽妙な演出が、ラストの感動にずしりと効いてくるから不思議である。「やっぱ家族っていいな、家族愛は大切だな~」と思わずにはいられない。忘れてはならないのが、子どもの遺伝子上の父親を演じたマーク・ラファロの名演。程よいプレイボーイ感が何とも良い味を出している。彼の甘いささやきにキュンとする女性も、多いかも!?(編集部・小松芙未)
不倫相手の子どもを誘拐した女性・希和子と、幼いころに誘拐されて以来、人生が激変した恵理菜。思わぬ出会いから犯罪者と被害者として生きることになった二人の「許されないきずな」を描いた本作は、2人それぞれの視点から事件を語る原作と異なり、恵理菜の心情に焦点を絞った構成になっている。テレビドラマ「花より男子」の井上真央が、はつらつとした笑顔を封印し、実の母親と心を通わせられないまま不倫相手の子どもを身ごもり、はからずも希和子と同じような人生を歩む宿命に苦悩する少女を体現。その暗く悲しげな表情から、誰にも理解できない孤独が伝わってくる。そんな井上の静に対し、動の演技を見せるのが永作博美。子どもを生めなかった悲しみのあまり常軌を逸した希和子の狂気、悲哀を生々しく熱演して圧倒する。タイトルである「八日目の蝉」の八日目=まだ見ぬ受難、幸福が待ち受ける余白の時間とは、恵理菜にとって、希和子のいた人生、いない人生のどちらを指すのか? 映画を観た後も物語は完結することなく、さまざまな解釈を巡らせ、切ない余韻に浸れる逸品だ。(編集部・石井百合子)
ゾンビ・パロディー映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』、刑事アクション『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』など、映画愛に満ちたコメディー作品を手掛けてきたオタク監督エドガー・ライトの最新作は、人気コミックをテレビゲーム仕立てのぶっ飛んだビジュアルで実写映画化した青春映画。ひ弱なもやし青年スコットが、運命の女性の愛を勝ち得るために大変身、彼女の元カレたちを相手に神業的なアクションを繰り出す姿に爆笑&興奮! あまりの変身ぶりにあっけにとられるかもしれないが、これはすべてスコットの妄想世界なのだから何だってアリ。一方、一見もてない風に見えるスコットだが、実は二またを掛けており、そんな彼の優柔不断さ、ずるさは女性の反感を買うかもしれないが、「愛する彼女にとって、自分が一番でありたい!」という彼の願望には、リアルに共感できるはず。なんだかんだいって、人を最も大きく変えるのは「好きな人を振り向かせたい」というシンプルで切実な愛の力なのだ、と恋することの素晴らしさを改めて実感させられる。(編集部・石井百合子)