~第30回 2011年4月~
INTERVIEW@big apple
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今月は、テレビシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」で名をはせたキム・キャトラルの新作『ミート・モニカ・ヴァルーア(原題) / Meet Monica Velour』、ジェイク・ギレンホールの話題作『ソース・コード(原題) / Source Code』、そしてキアヌ・リーヴス主演の『ヘンリーズ・クライム(原題)Henry's Crime』を紹介します。
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(映画)『ミート・モニカ・ヴァルーア(原題) / Meet Monica Velour』
17歳の青年トービー(ダスティン・イングラム)は、1980年代のポルノ女優でスターだったモニカ・ヴァルーア(キム・キャトラル)の大ファンだった。ある日、父親(ブライアン・デネヒー)から譲り受けたホットドッグの販売用トラックを売却するために、モニカの住むインディアナ州の田舎町に彼女に会いに行くが、今や49歳の母親になっていたモニカは昔とは違っていた……。
キム・キャトラル、ダスティン・イングラム、キース・ベアデン
キム・キャトラルにインタビューできると聞いて、まず思い浮かんだのは、「セックス・アンド・ザ・シティ」のサマンサ・ジョーンズ。男たちを振り回し、セクシーかつ自由奔放に生きるキャラクターに、どれほどの女性があこがれただろうか。ほとんど映画の仕事が中心で、あまりテレビドラマを観ない僕でさえ、「セックス・アンド・ザ・シティ」の1~3シーズンぐらいは観ていた。取材当日、インディペンデント系の作品であるものの、キム目当ての記者たちが大勢詰め掛けるかと思っていたら、案内された部屋にいた記者はわずか5人。(取材をする)記者が厳選されていたようだ。
そして、さっそうと現れたのは白いスーツ姿のキム・キャトラル。まず彼女は質問の前に、前日にダスティン・イングラム、キース・ベアデン監督のために料理を作ったことを話し出した。彼女は、ダスティンが最近ビーガン(タマゴや乳製品も食べない絶対菜食主義者)になったために、スーパーでたくさんの野菜を買ってパスタを作ったらしい。僕は勝手に、キムはあまり料理をしないイメージを抱いていたのだが、料理は結構ひんぱんにするらしい。彼女は、現在の体形を保つために女優ジェーン・フォンダのエクササイズのビデオをよく観ていたことも明かし、ハリウッドでは年配の女優の需要が少ないことを少し嘆いていた。この映画で、彼女はいろんなことに挑戦していて、ヘルズ・エンジェルス(アメリカのオートバイ・クラブ)のような格好をしたクセのあるバイカーとの濃厚なキスシーンがあり、そのシーンについて、「あのような役は人生で一度きりでいい」と言って笑わせた。キムは、共演したダスティンのことを相当気に入っていたそうだが、役づくりのためにセットではあまりしゃべらなかったらしい。そして、これから(女優業のほかに)監督やプロデューサーにも挑戦してみたいかと聞かれると、彼女は「誰かをコントロールしたり、解雇したりするのはあまり好きじゃないからやらないと思う」と答えた。最後に、彼女がハル・アシュビー監督の作品が好きであることも教えてくれた。
彼女と同じぐらいの年齢の女優たちは、年齢を気にして記事用の写真を断ることが多いが、彼女は喜んで引き受けてくれた。次にキース・ベアデン監督は、本作が初めての長編作品ということもあって、かなりテンションが上がっていた。彼は、取材の前にあらかじめ記者たちの名前と記事をリサーチしており、僕らがどういう取材をして、どういう記事を書いてきたかを把握していたことには驚かされた。ダスティンは二十歳を過ぎていたが、少年のようなあどけなさが残っていて話し方も少年のようだった。
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(映画)『ソース・コード(原題) / Source Code』
アフガニスタンでヘリコプターのパイロットだった米軍人コルター・スティーヴンス(ジェイク・ギレンホール)は、他人の体に侵入できる政府の特殊作戦「ソース・コード」に参加。8分後に爆発予定の列車に搭乗している乗客の体に送り込まれ、爆弾犯を見つけ出していくというアクション・スリラー。コルターの友人役にミシェル・モナハン。監督はデヴィッド・ボウイの息子で、『月に囚われた男』でメガホンを取ったダンカン・ジョーンズ。
ジェイク・ギレンホール、ミシェル・モナハン、ダンカン・ジョーンズ
ジェイク・ギレンホール主演の話題作ということで、配給会社のサミット・エンターテインメントが本格的な取材をセットアップすると思ったら、ニューヨークではPR Firm(宣伝会社)を通しての取材が行われなかった。そのため僕は、アップル・ストアのイベントで取材することになった。この日は、ジェイクが登壇するということで、かなり早めに取材現場を訪れたのだが、イベント開始1時間前には一般客で席が埋め尽くされていた。そして到着してすぐに、ジェイクやダンカン・ジョーンズ監督以外に、新たにミシェル・モナハンの登壇も決まったというラッキーな知らせが! イベントが予定より20~30分遅れて始まったため、Q&Aの前に予定していた写真撮影がなくなってしまったのは痛かったが……。当然、前列に席を陣取っていたカメラマンたちはいら立ちを隠せない様子だったが、僕は取材後に写真撮影できれば良いぐらいに気楽に考えていた。
まず、ジェイクはご機嫌な様子で、最初の質問でダンカン監督の処女作『月に囚われた男』について聞かれると、「『月に囚われた男』って何?」とトボけた(笑)。さらに、観客の一人が俳優になるためのアドバイスを求めると、「君は正気かい? 僕みたいなどうしようもない俳優になりたいの?」と謙遜(?)した後に、ちゃんとしたアドバイスをしていた。さらに、ミシェルとの共演について聞かれると、「ミシェルはこれまで共演した女優の中でベストじゃないけれど」と、本人を前にジョークを言って笑わせていたが、「ミシェルは本当に素晴らしい仕事をしていた」と述べ、ミシェルはそんなジェイクの言葉に満足したのか、「あなたがアップル・ストアで欲しがっていたiPadを買ってあげようか?」と、リップサービスしていたのがおかしかった。
ダンカン監督は、ミシェル・モナハンが出演した『キスキス、バンバン』の監督シェーン・ブラックに、彼女のことをいろいろと聞いてから撮影に入ったようだ。さらに、処女作『月に囚われた男』の評価が非常に高かったにもかかわらず、ほとんど賞を受賞しなかったことについて観客から指摘されると、ダンカン監督は「僕にとっては、前作があったからこそ、今回の新作を作れたことが重要なんだ」と謙虚に答えていた。ミシェルは、今回の(会見での)ジェイクの暴走ぶりをお姉さんのように見つめていたこと、彼女のモデルのようなプロポーションが目に焼き付いた。最後にダンカン監督の次回作について聞かれると、ジェイクがアップルのトレードマーク(かじられた形をしたリンゴ)を指差して、「人気ゲーム、パックマンの映画化をするんだよね?」とふざけて、再び観客を笑わせた。
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(映画)『ヘンリーズ・クライム(原題)Henry's Crime』
仲間たちの銀行強盗に巻き込まれ、逮捕されたヘンリー(キアヌ・リーヴス)。彼は服役中に頭脳明晰(めいせき)なマックス(ジェームズ・カーン)と出会い、人生の意義を見つめ直す。だが、4年の刑期を終えて出所したヘンリーは、再び銀行に向かい、銀行強盗を自ら実行しようとする。
キアヌ・リーヴス、マルコム・ヴェンヴィル監督、ジェームズ・カーン、ヴェラ・ファーミガ
この日、『ハリー・ポッター』の衣装や小道具を集めた展示会が、4月からニューヨークで行われるということで、主演3人(ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリント)以外のキャストと、フィルムメーカーの記者会見が午前中に行われていて、昼から行われる『ヘンリーズ・クライム~』の取材に間に合うか不安だったのだが、なんとか間に合った! 記者会見は、200人ぐらい収容できる試写室で行われたが、実際に参加したのはわずか20人程度だった。記者会見が始まって、まず目についたのはジェームズ・カーンがつえをついて歩いていたこと!! 彼は、もう72歳になるそうだ……。そして最初の質問では、キアヌ・リーヴスがマイクを持たずにしゃべり始めたため、記者たちに指摘されて慌ててマイクを持ってスタート。
次にジェームズが、キアヌとの共演について聞かれると、「キアヌと食事したが、彼は食事代を払ってくれなかったし、食事したのはその一度きりで、ずいぶんオレには冷たかったよ!(笑)」と言って笑わせた。キアヌは、本作で主演だけでなく、プロデューサーも務めていたために、共演者たちとゆっくり食事する余裕がなかったそうだが、ジェームズはその事実を知りながらあえてジョークを言ったのだった。この映画は、ニューヨーク州のバッファローで撮影されていて、ジェームズは「バッファローでの撮影は良かったよ。もちろんマイアミ・ビーチほど素晴らしくないけれどね……(笑)」と皮肉を言ったりしていた。というふうに時々毒舌を吐くジェームズだが、「マーロン・ブランドとロバート・デュヴァルは素晴らしい俳優である」と語って、彼らを尊敬していることも明かした。これまでジェームズは、一度だけ映画『ハイド・イン・プレーン・サイト(原題) / Hide in Plain Sight』でメガホンを取ったが、それ以来監督作がないのは、監督業は時間がかかることと、「これまで4度結婚して家族がたくさんいるから、面倒を見るのが大変だからだ」と答えると、キアヌが「そんなに何度も結婚しているの?」と驚きの表情を見せていた。
終始、そんなジェームズの調子に合わせていたキアヌだが、脚本家のサーシャ・ガヴァシと長い間温めてきた作品であるという話になると、しっかりとプロデューサーの顔になっていた。ヴェラ・ファーミガは、この映画の撮影時には子どもが生まれたばかりだったため、現場にカーテンで区切られた場所が用意され、そこで子どもに母乳を与えていたそうだ。最後にジェームズは、「このような個性的なキャラクターが描かれる映画が少なくなってきた。配給会社は、観客の動員数を気にするより、脚本家を育てることに専念してほしい」と主張し、現在の映画界に苦言を呈した。