第29回
今月の5つ星
スティーヴン・スピルバーグ製作、テレビドラマ「LOST」のJ・J・エイブラムス監督のSF大作『SUPER8/スーパーエイト』をはじめ、ジェームズ・フランコがアカデミー賞にノミネートされた実録サバイバル劇『127時間』、『歩いても、歩いても』の是枝裕和監督最新作『奇跡』など、初夏の話題作がズラリ!
『誰も知らない』の是枝裕和監督が久々に子どもを主役に撮り上げた本作は、今年3月に全線開業した九州新幹線をモチーフにした物語だ。映画初主演のまえだまえだが演じるのは、両親の離婚により離れて暮らす兄弟。2人は九州新幹線の一番列車が擦れ違う瞬間に起きるという奇跡を信じ、それぞれ鹿児島と福岡から友達を伴って中間地点の熊本に向かう。この九州の北と南という、遠いけれど遠過ぎはしない距離が子どもたちの冒険をリアルにしているのと同時に、実は子どもから大人になるまでの時間はそう長くないということを象徴しているようにも思える。子どもはいつか大人になるし、大人は昔子どもだった。本作はつい忘れがちなそのことを思い出させてくれるのだ。子役たちはもちろん、オダギリジョー、大塚寧々といった大人の俳優陣も見事な演技を披露。見終わった後、全編に流れるくるりの音楽と共に、子どもたちが巻き起こした奇跡の数々を思い返し、温かい気持ちになる作品だ。(編集部・福田麗)
若き新人監督の長編デビュー作、キャストには実力派とはいえ決して名が知られたスターとはいえない3人のみ、と一見地味な本作。だが、映画を見始めて間もなく、その考えは一転する。全体に張り詰めた緊張感は観る者の高揚感と化し、スリリングな世界へと一気に引き込まれていくのだ。カネ目的で富豪の娘を誘拐した刑務所仲間の2人組の男とターゲットとなった娘、綿密に準備された隠れ家を中心に大金をめぐり、時に男と女が、時に男と男が信じ合い、だまし合い、裏切り合う心理戦のオンパレード。イギリス映画らしいセンスあるユーモアで所々ほどよく緩ませてくれながらも、冒頭の緊張感は最後までキープされ、形勢は短時間のうちに二転三転と逆転していく。最後に笑うのは果たして誰なのか……? 観る者の頭の中を疑惑でいっぱいにさせながら、怒とうのクライマックスまで駆け抜けるテンポの良さはまさにアッパレ! それだけに、あまり情報は入れずに鑑賞することをぜひオススメしたい。(編集部・浅野麗)
誰もいない渓谷で右腕を挟まれ、身動きができない状況から生還した登山家の実話を、ダニー・ボイル監督がジェームズ・フランコ主演で映画化。ほとんど動くことのできない主人公のサバイバルを描くという、ともすれば動きのない作品になりそうなストーリーだが、そこはボイル監督。かつて『トレインスポッティング』でも見せた、ミュージッックビデオをほうふつさせるスピード感たっぷりな演出で観る者をまったく飽きさせない。また、徐々に衰弱していきながらも、決して生きることをあきらめない主人公をフランコが熱演。映画の大半が一人芝居という難しい役柄を、観客の共感を呼ぶ見事な演技でこなし、アカデミー賞受賞を逃したのが不思議なくらい。脱出のための究極の決断を下す場面には、思わず目をそむけてしまうほどの衝撃があるが、その後には、強烈な解放感と生きる希望が胸にあふれてくる。(編集部・入倉功一)
スティーヴン・スピルバーグとJ・J・エイブラムスがタッグを組んだ本作は、特撮技術が進み3D全盛となった今の時代にあらがおうとする懐古趣味満載のSF映画。わかりやすく言えば、美しい心を持った宇宙人と少年のきずなを描いたスピルバーグ監督の感動作『E.T.』と、街を破壊する未知の生命体の脅威を描いたエイブラムス製作のパニック映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』をドッキングしたようなテイストだ。「空軍施設・エリア51が隠ぺいしようとする秘密とは何か……?」というSF的ミステリーに話題が集中しているものの、肝となるのは人知を超える脅威に立ち向かおうとする子どもたちの冒険談。そこには、スピルバーグとエイブラムスの大人になっても忘れない、未知なるものへの好奇心やロマンが託されているように思える。グロテスクな描写は極力抑えられているため、SF映画としては物足りなく感じる人もいるかもしれないが、ハリウッド髄一のエンターテイナーが放つ「映画作りで最も大切なものとは何なのか」というメッセージは、万人の心に届くだろう。エンディングクレジットに用意された「サプライズ」もお見逃しなく!(編集部・石井百合子)
メキシコの奇才・アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の最新作は、これまで描いてきた幾人もの運命が絡み合う複雑怪奇なストーリーテリングとは打って変わって、余命宣告された一人の男の生きざまをじっくり描いた点が新鮮。静かながらも深い感動を誘うテイストが秀逸だ。随所に盛り込まれた耳障りな音や意味深な映像は、まるで「この作品に参加しなさい」とでも言っているかのようで、余計な説明やセリフを排した手法が、ほどよい具合に観る者のイマジネーションを刺激する。また、愛と裏切り、生と死など幾重にも重なる普遍的なテーマを描いた点においては、『アモーレス・ペロス』で愛の狂気を、『21グラム』で命の重さを、『バベル』で孤独と希望を描いたイニャリトゥの集大成的な作品ともいえる。作品にリアリティーをもたらす、アカデミー賞俳優ハビエル・バルデム をはじめとする実力派俳優陣の鬼気迫る名演も見ものだ。(編集部・小松芙未)