第31回
今月の5つ星
『つぐない』のジョー・ライト監督&天才女優シアーシャ・ローナンが再びタッグを組んだサスペンス・アクション『ハンナ』、『戦場のピアニスト』の名匠ロマン・ポランスキー監督、ユアン・マクレガー主演のサスペンス『ゴーストライター』など、名監督&名優コンビの良作をはじめ、大作好き&シネフィルも大満足の話題作が勢ぞろい!
『魔法使いの弟子』『キック・アス』『デビルクエスト』など、B級から大作まで幅広いジャンルに出演し、悪く言えば「節操のない」よく言えば「チャレンジャー」なニコラス・ケイジ。『ブラッディ・バレンタイン3D』のパトリック・ルシエ監督とタッグを組んだ『ドライブ・アングリー3D』は、そんなニコケイの「型にはまらない」クレイジーな魅力がさく裂する痛快アクションだ。主人公を執拗(しつよう)に追うえたいの知れない「追跡者」、高級ビンテージ・カーをフル投入したド迫力のカー・アクションといったスリリングな世界観もさることながら、とりわけ面白いのが、マジメなのかふざけているんだかわからない、つかみどころのない主人公のキャラクター。「愛する家族を奪ったカルト教団への復讐(ふくしゅう)を誓う孤高のヒーロー」と、設定は超シリアスであるものの、女と酒に目がなく、セックスをしながら敵に応戦といった奇行であぜんとさせる。そんな汚れ役を喜々として演じているニコケイは、まるで「オスカー俳優」という看板に抵抗しているかのようで、そんな彼の飽くなきハングリー精神がファンを飽きさせない秘けつでもある。ボンクラ作品で酷評されることも多々あるニコケイだが、「優等生」の役割はほかのスターにまかせて、このままとことんわが道を突っ走ってもらいたいものだ。(編集部・石井百合子)
映画『ある愛の風景』など秀作を送り出してきたデンマーク出身のスサンネ・ビア監督が、問題を抱えた二つの家庭の父と息子の姿を、美しい田舎の風景とともに繊細なタッチで描く。原題『HAEVNEN』はデンマーク語の「復讐(ふくしゅう)」を指す。その言葉の通り、本作ではいじめ、戦争、差別、家族の不和など現代社会における問題を、父と息子それぞれの視点から問う。「やり返すことは意味がない」と息子たちに教えた父親が、アフリカの難民キャンプで自ら行った「制裁」に苦悩する姿からは、きれいごとではなく、矛盾に満ちた人の心が生々しく伝わってくる。そんな暴力が暴力を生む残酷な現実を克明に描きながらも、世界への「赦(ゆる)し」を問うラストには、今を生きるわたしたちへ、そして未来を生きる人たちに託した小さな希望の光が見えてくる。第83回アカデミー賞外国語映画賞受賞も納得の、珠玉のヒューマンドラマだ。(編集部・山本優実)
何をやっても格好がつかない、ダメパンダ・ポーの活躍を描いた人気カンフーアクションの続編。前作では、クライマックスまであまり見せ場のなかったポーだが、伝説のカンフー・マスター「龍の戦士」として目覚めた今作では、達人集団「マスター・ファイブ」と共に、序盤から激しいアクションをこれでもかと披露する。動物ならではの特性を生かしたコミカルでキレのあるアクションの連続は、ジャッキー(・チェン)映画にも負けない迫力で、きっとディープなカンフーファンも満足できるはず。また、今回はポーの出生の秘密が明らかに。血はつながらなくとも、強い愛情でつながった、ガチョウのお父さんとポーのきずなに目頭が熱くなる。まさに、夏休みに家族で楽しむ映画の、良いお手本のような快作だ。回想シーンで登場する、子ども時代のかわいいポーにも注目!(編集部・入倉功一)
本作で再タッグが実現したジョー・ライト監督作『つぐない』で、13歳という若さでアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナン。演技派の彼女が「暗殺者として育てられた16歳の少女・ハンナ」を演じると聞けばおのずと期待は高まるが、意外にも無垢(むく)な美しさをスクリーンいっぱいにあふれさせたシアーシャの存在感に脱帽。女優としての末恐ろしさを感じさせるストイックな殺し屋を見事に確立した。また、ケミカル・ブラザーズ担当の劇中音楽が相乗効果をもたらすアクションシーンがかっこいい! スタイリッシュな映像美で、作品全体の芸術性を高めている。そして父親役のエリック・バナと敵役のケイト・ブランシェットが、シアーシャを生かすような演技で作品に安定感を与えている点も要チェック。世間知らずのハンナが“復讐(ふくしゅう)という名の心の旅”をする本作には、モロッコやスペインなど雰囲気のある異国も登場。この夏、どこへも行けない人にとっては、旅感も味わえる一石二鳥な作品かも!?(編集部・小松芙未)
名匠ロマン・ポランスキー監督最新作は、アルフレッド・ヒッチコックの向こうを張ったかのような巻き込まれ型サスペンス。作中で、ユアン・マクレガーの演じる主人公の名前が周到に伏せられているのは、彼が何者でもない、陰謀に翻弄(ほんろう)される一個人に過ぎないことを強調するため。彼が、その特徴のなさゆえに元イギリス首相をめぐる不可解な事件にかかわってしまうというストーリーは、普通の男が普通でない事件に巻き込まれるというヒッチコック映画の常道を踏まえたものとなっている。一方で、リアルタイムでは事件らしい事件が起こっていないにもかかわらず、今にも取り返しのつかない何かが起こるのではないかと思わせる不穏な雰囲気に満ちた画面作りはポランスキー監督ならでは。今年で78歳とはとても思えず、『ローズマリーの赤ちゃん』『チャイナタウン』といった往年の代表作をほうふつさせる。そうして張り巡らされた伏線が一気に回収され、すべてがつながるクライマックスは見事のひと言だ。(編集部・福田麗)