監督・三池崇史を斬る! ぶっちぎり映画列伝
型破りシネマ塾
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監督・三池崇史を斬る! ぶっちぎり映画列伝
果たして、三池崇史とは何者か? 『クローズZERO』でイマドキ俳優を起用してクールな“漢(おとこ)”映画をモノにし、『ヤッターマン』で伝説のアニメをズッコケ部分はそのままに本気のヒーローものとしてよみがえらせ、すきのない物語で一気に見せる本格時代劇『一命』でカンヌ国際映画祭を揺るがす。国際的評価が高く、娯楽作にも手を抜かない実力派――確かに、そこに誤りはない。でもそれは彼のほんの一面。だって映画『忍たま乱太郎』もテレビ東京のお子チャマ向け連続ドラマ『ケータイ捜査官7』も彼の仕業なんだから(それがつまらないって話じゃなくて!)。「仕事は依頼の来た順」というざっくりした美学を持つ超多作の人。“映画やテレビドラマはこうあるべき”という枠を笑い飛ばして軽々と破壊し、先の可能性を見据える。彼はいかにして“監督・三池崇史”となったのだろう?
文/浅見祥子
ヤクザ&バイオレンス映画の枠を借り、あらゆる方向へ可能性を求める
彼の監督としての才能がドバっと花開いたのは、まずオリジナルビデオの世界だった。固定客がいるヤクザものなど、バイオレンス・エロス・ギャンブルもののフリをしていれば基本的に何でもアリ。それは低予算を逆手に取った自由が作り手に惜しみなく与えられる「無法地帯」でもあった。そこで三池は、恐るべきスピードでヤクザものを中心に作品を量産する。監督デビュー作は柏原芳恵主演(!)の『レディハンター 殺しのプレリュード』(1991)(※同年『突風!ミニパト隊/アイキャッチジャンクション』も製作)。やがてそのパワーはオリジナルビデオの枠を超え、劇場映画へなだれ込む。
劇場映画デビュー作『新宿黒社会チャイナ・マフィア戦争』(1995)(※同年『第三の極道』も製作)は正統派のバイオレンス映画。主演の椎名桔平が演じるのは、中国残留日本人孤児2世の刑事。犯罪者には女であろうと無慈悲な暴力で立ち向かう一方、袖の下で得た金を老いた両親に与え、堕(お)ちゆく弟を救おうともがく矛盾に満ちた男でもある。そして彼自身、居場所を見いだせず、静かな孤独をさ迷う。スターになりたての椎名の色気が危うい。人混みの中で振り返ってカメラを見据え、再び背を向けてあきらめたように歩き出すラストが切ない。
岸谷五朗が、実在のヤクザをぶっちぎりの破壊力で演じた『新・仁義の墓場』(2002)も正統派。怒りと殺気と虚無に支配された男がヘロインにハマり、一人の女と死に向かって疾走する。岸谷はそり込みを決めたくりくりパンチ頭の「ザ・ヤクザ」。心はとうに死んでいて人を殺すことも自分の命にも無関心、圧倒的な負のエネルギーを周囲にまき散らして血の海にする。そんな殺伐とした世界観の中、有森也実演じる情婦とのきずなが、ほんの一瞬純愛のキラメキを放つ。まるでフランス映画のように。
リュック・ベッソンの初期作品のようなフランス映画的余韻を残す
『日本黒社会LEY LINES』(1999)もまた、フランス映画的余韻を残す。 リュック・ベッソン監督の初期作品のように、居場所を見いだせないハミ出し者たちの小さく完結した至福の空間が描かれる。この映画でのそれはベッソン作品に登場するようなメトロの奥深くや海の底ではなく、都会の一画にある古びたビルの屋上。ハミ出し者は、中国人との混血として差別を生き抜いた兄(北村一輝)と弟とその親友(田口トモロヲ)。故郷を捨てて新宿歌舞伎町にやって来た3人はビッチな中国人娼婦(しょうふ)と出会い、この街も、日本も出て行こうとする。でも“ここではないどこか”は、決してたどり着けないカフカの「城」。だからこそ、彼らがビルの屋上で子どもみたいにじゃれ合う姿にキュンとなる。
三池崇史はそんな、「大人になれないハンパ者たちの青春のようなもの」を描かせるとピカイチ。『大阪最強伝説 喧嘩の花道』(1996)の主人公は、大阪の高校生カズヨシ(やべきょうすけ)とタケシ(北村一輝)。のちにボクサーと格闘家になる2人のやんちゃな日々を描く。切ないポイントはカズヨシの親友トシオ。トシオは優等生リツコに淡い恋心を抱くが、リツコが想いを寄せるのはカズヨシ。トシオにはちょっと頭のイカレた、でも息子思いの父親もいて、その存在が悲劇を呼ぶ。未来やチャンスはみんなに平等に与えられ、どうでもいいような今日がいつまでも続く気がする青春時代。そんな日々を懐かしく思い出す。
竹内力と哀川翔というオリジナルビデオ界の2大巨頭ががっぷり四つに組んだ『DEAD OR ALIVE2 逃亡者』(2000)も、余韻は切ない青春映画。孤児院で過ごし、ヤクザの幹部とプロの殺し屋になったシュウ(竹内)とミズキ(哀川)が、組長狙撃現場で再会。追われる身となった2人は故郷へ向かう。鉄棒にチ○コをこすりつけてガキのころを懐かしみ、雨の中どろんこでサッカーに興じる。男ってバカだなあ。
同時に「DEAD OR ALIVE」シリーズは、三池監督が映画をどかん! と破壊しにかかったシリーズでもある。1作目の『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999)は後半、雲行きが怪しくなる。ヤクザの集会にトキ(!)の着ぐるみが登場し、竹内が素手で魂をグワっと取り出し(←熱く光る)、いきなり哀川の背中からバズーカ砲が現れる。そして2人が正面衝突した瞬間、映画はどか~ん! と宇宙へふっ飛ぶ……。
そうした破壊への衝動は、さかのぼって1996年の『極道戦国志 不動』にも明らか。24才の谷原章介が、旧体制を破壊して新しいヤクザ社会を作ろうとする高校生を演じるバイオレンス映画。アソコから発射する吹き矢が武器の両性具有の女子高生が出てきたり、生首でサッカーしたり、, 残虐な殺しや死体のオンパレード。この喜々とした残虐性は、のちに『殺し屋1』(2001)でピークを迎える。
ホラー、アート系からカルトまで、増殖する“三池ワールド”
こうして三池はバイオレンス映画で腕を磨く。硬派な人間ドラマもフランス映画風純愛も切ない青春も、すべてはその中に。そしてさらに、あらゆる方向へ可能性を求めて進化する。
まずバイオレンス映画で見せた過剰な残虐性を少しだけ平行移動すると、ホラー映画へと突き当たる。『オーディション』(2000)では椎名英姫が、静かに笑いながら石橋凌を痛めつける。男の舌に注射器を刺し、上半身を針山にし、足首を輪切りにして「きりきりきりきり……」とつぶやく女。この映画をマリリン・マンソンが大好きなのも納得だ。『インプリント ~ぼっけえ、きょうてえ~』(2005)にも執拗な拷問シーンが登場する。原作者の岩井志麻子本人が白塗りにお歯黒、大正ロマン風に着崩れた女郎にふんし、若い女郎の爪と指の間、そして歯茎と上あご&下あごの間へと針を刺していく。とても楽しそうに。だからジャパニーズホラーの決定打『着信アリ』(2004)で描く恐怖なんて、三池にはお手の物だったのだ。
一方で「アート系」と呼ぶしかない作品もある。松田龍平と安藤政信、美しい2人の男の純愛を描く『46億年の恋』(2005)。ここでは役者の演技やストーリーに代わって、映像そのものが爆発している。佐々木尚の美術と北村道子の衣装が支配する画面は、映画をアートの領域へと押し上げた。
役者の演技が終始針を振り切っているのが、遠藤憲一と内田春菊が夫婦を怪演する『ビジターQ』(2000)。そこで描かれるのは崩壊した家族の再生、つまりれっきとしたホームドラマである。ところが、三池だけに家庭の壊れっぷりは壮絶で、母乳の海ができて(!)、シャレにならない事態に陥る。すべてが崩壊したあとに訪れるなぎのような平穏は、観る者のあらゆる怒りを吸い取るパワー。これぞカルト。
三池のカルト作で外せないのは『極道恐怖大劇場 牛頭(ごず)』(2003)。これは、「もしデヴィッド・リンチがVシネやくざものを撮ったら?」というムチャな発想に基づいた怪作。『殺し屋1』の脚本家、佐藤佐吉の「(人間の)股(また)の間からガーッとヤクザが出てくるような映画」というイメージからスタートしたらしい。ちなみに、その“股の間から出てくるヤクザ”にふんするのは、哀川翔。果たして三池のほかに、こんな怪作でカンヌ映画祭に呼ばれる監督がいるだろうか……?
映画では許されないムチャが通るテレビドラマに役者もOK!
彼はテレビドラマも避けたりしない。「おれでいいの?」って感じでじゃんじゃん撮っちゃう。『天然少女萬』(1999年)はWOWOWで放映されるため、番組枠は1時間だが30分でもOKと尺の長さに融通が利いた。『ウルトラマンマックス』(2005~2006)では特技監督を兼ね、『ケータイ捜査官7』(2008)ではシリーズ監督を務めて、押井守監督らとコラボを果たした。映画では許されないムチャが通る自由があるなら、テレビだってOK。
三池監督はテレビのみならず、2004年に「夜叉が池」で舞台演出にも進出。「座頭市」(2007)では舞台経験のなかった哀川翔を引っ張ってきて阿部サダヲにぶつける。前者は現代美術界のスター、会田誠を美術に、長塚圭史を脚本に迎え、後者は『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(2007)などの多くの作品で組んできた脚本家、NAKA雅MURAを巻き込む。でも演出は意外とシンプルで、「あくまで舞台は役者のもの」という役者愛が感じられる。
役者もやる。自作以外にもNHK大河ドラマ「天地人」(2009)、『恋の門』(2004)、『地球で最後のふたり』(2003)。そしてクエンティン・タランティーノが製作総指揮を務めたハリウッド映画『ホステル』(2005)などに出演している。
監督自身、「『極道恐怖大劇場 牛頭(ごず)』が一つの区切り」と言うように、以降、『着信アリ』『妖怪大戦争』(2005)『クローズZERO』(2007)『ヤッターマン』(2008)とメジャーな娯楽大作をコンスタントに発表している。さらに『十三人の刺客』(2010)『一命』(2011年10月15日公開)と、時代劇のリメイクで新たな鉱脈も得た。三池が持つ血のりドバドバの残虐性と濃厚な人間ドラマ、作り込んだ映像が時代劇では劇的効果を上げる。この相性の良さには大いなる可能性がありそうだ。そして最新作は『逆転裁判』(2012年新春公開)。テレビゲームの映画化で成宮寛貴と桐谷美玲が共演する娯楽作となる。
三池はヤクザ系バイオレンス映画で監督としてあらゆる可能性を模索し、自分のものとして消化し、娯楽作の底上げを図るすご腕の職人監督となった。だが、走りながら考える超行動派にして邦画のデストロイヤーである彼が、そんなにわかりやすくまとまるとは思えない。
「果たして、三池崇史とは何者か?」。その答えは、まだ誰にもわからない。
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