~第35回 2011年9月~
INTERVIEW@big apple
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今月は、アンディ・ガルシアが出演する『5デイズ』、ロバート・デュヴァル主演の『セブン・デイズ・イン・ユートピア(原題)/ Seven Days in Utopia』、ガス・ヴァン・サント監督の『永遠の僕たち』を紹介。
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『5デイズ』
同作は、戦場ジャーナリストのトマス(ルパート・フレンド)は、2008年に起きたロシアとグルジアとの武力衝突を取材するためにグルジアを訪れ、カメラマンのセバスチャン(リチャード・コイル)と共に行動するが、そこでロシアとグルジアとの激しい交戦を目の当たりにすることに。そんな中、トマスは事実を世界に知らせる決断をする。アンディ・ガルシアがグルジアの大統領を演じ、『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』のレニー・ハーリン監督がメガホンを取っている。
アンディ・ガルシア、レニー・ハーリン
この日、最初に取材したのはアンディ・ガルシア。おしゃれなメガネとスーツを身に着けたアンディが登場するなり、開口一番、ボストン・ヘラルド紙のスティーブン・シェイファー記者が、ビデオカメラ「フリップ」を使って撮影していいかとアンディに尋ねた。普通、ビデオ撮影は、事前にパブリシストから許可を得てするものだが、最近の取材現場では、パブリシストが部屋を出たあとに、ごく一部の記者が小さな「フリップ」カメラを取り出して、勝手に撮影してしまうことが多々あった。しかし、アンディはスティーブン記者に対し、「君はフリップ(空中回転)ができるのかい? できるものならやってみたら!」とジョークで返したものだから、スティーブンはおじけづいたのか、そそくさとカメラをしまっていたのが笑えた。ところが、今度はそのスティーブン記者が「この映画は、ロシアとグルジアの武力衝突を描いている。あなたはロシアに影響を受けたキューバに嫌気が差してアメリカに逃げてきたが、今回はロシアに対する腹いせのつもりで参加したのか?」という質問をした。だがそんな無神経な質問にも、アンディは「僕がキューバを離れたのはフィデル・カストロに支配されたキューバを離れたかったからで、あくまでロシアはその時代にキューバを支援していただけ」と、冷静な対応をしていて感心した。アンディいわく、出演をオファーされてから撮影に入るまでわずか5日間しか準備期間がなかったそうで、短期間でグルジアの大統領ミヘイル・サアカシュヴィリのリサーチをすることになったそうだ。取材が中盤にさしかかったとき、ある女性記者が「インターネットを介することで戦場のリポートがだいぶ変わってきているように思えるが……?」と尋ねると、アンディは「大統領ミヘイル・サアカシュヴィリが大演説するシーンを撮影した直後、そのシーンがすぐさまYouTubeに載せられていて驚いたよ。今や瞬間的に情報が伝わるようになったものの、プライベートなことも伝わってしまうのは怖いことだ」とも語っていた。
続いてレニー・ハーリン監督。彼は、この映画はグルジア側によるプロパガンダ作品ではなく、自分のリサーチを主体として描いたと語っていた。さらに、実際にロシアの攻撃を受けて病院に運ばれたグルジア人たちの取材をして、映画でもその病院を再現したものの、出来上がった映像が生々しくなってしまい、最終的には使えなかったそうだ。ハーリン監督は、『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』などでAランクの監督として評価されるが、失敗した大作もかなりあったことについて、「ボクサーのヘビー級のチャンピオンでもたまに負けることはある。失敗で学んだことは、どんなに自分が制作したい作品があっても、いい脚本がなければダメだということ。特に『カットスロート・アイランド』は失敗だったが、あの映画では元妻のジーナ・デイヴィスと出会って恋に落ちてしまったから仕方ないね!」と言って笑わせてくれた。
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『セブン・デイズ・イン・ユートピア(原題)/ Seven Days in Utopia』
若手期待のゴルファー、ルーク・チザム(ルーカス・ブラック)はプロデビューの際、トラブルショットを連発してリタイア。落ち込んだ彼は、帰路でテキサス州のユートピアで自動車事故を起こしてしまう。ルークはそこで老人ジョニー(ロバート・デュヴァル)と出会い、彼のアドバイスによって自信を取り戻していくドラマ作品。作家デヴィッド・クックの著書「セブン・デイズ・イン・ユートピア:ゴルフズ・セイクレッド・ジャーニー(原題) / Seven Days in Utopia : Golf's Sacred Journey」を、マシュー・ディーン・ラッセル監督が映画化。
ロバート・デュヴァル、ルーカス・ブラック、メリッサ・レオ
威厳のあるロバート・デュヴァルと、褐色の生き生きとしたルーカス・ブラックが登場。まず、ロバートが記者陣に「皆さんはどこの国から来たの?」と聞いたので、僕が「今はニューヨークに住んでいるが、生まれは日本だ」と答えると、ロバートは「カリフォルニアにおいしいすし屋があるんだけど知ってるかい?」と聞いてきた。僕はそのすし屋を知らなかったが、個人的にロバートから質問されたことはすごくうれしかった。まず、ロバートはこの映画で血統書付きの馬に乗ったことから話した。ロバートの役は、ルーカス・ブラックにゴルフを通して精神面のアドバイスをする設定だが、実際にゴルフ・クラブを振ったのは一度だけだったそうだ。ロバートが、「これまでゴルフを扱った映画でルーカス・ブラックほど、ゴルフのクラブをまともに振れた俳優はいない」と称賛していたのが印象的だった。
映画内にフライフィッシングをするシーンがあるのだが、ロバートは実生活でもバージニア州にある自宅の近くでよくフライフィッシングをするそうだ。ただ、この映画の撮影では、いつ魚を捕まえられるかわからないため、あらかじめ魚を針に付けて撮影を行ったそうだ。唯一のプロゴルファーとしてこの映画に出演しているK•J•チョイについてルーカスは、「彼は素晴らしい性格、ユーモアのある人物で、彼とゴルフの話をするのは楽しかった。K•J•チョイが参加してくれたことは非常に幸運だった」と、彼との共演を喜んでいた。最後に、ロバートには以前監督する予定の企画があったが、予算が集まらず断念することになったそうだ。だが、再びテキサスを舞台にした作品を撮りたいと言っていた。取材後、二人の写真を撮ったときに「スシ!」と言ってポーズを取ってくれたのがいい思い出に! 次にメリッサ・レオは、ロバート・デュヴァルと共演できるということでこの映画への参加を決めたことを告白した。この映画の撮影現場となったテキサス州のユートピアの人々は非常にキリスト教への信仰があつく、無宗教の家庭で育てられたメリッサは、スラングや卑猥(ひわい)な言葉を言わないように気を付けていたそうだ。前回メリッサにインタビューしたのはサンダンス映画祭でグランプリを獲得した『フローズン・リバー』で、そのときはまだこれからいろいろ役がもらえるか不安だと答えていたが、実際にはあれからオファーも増え、今年はなんとオスカーも受賞したのだ。そのため、メリッサはこれまでわたしの演技について好評価の記事を書いてくれた人に感謝するわと答えていたのが印象的だった。ちなみに、この映画の母親役よりも、映画『ザ・ファイター』の大家族の母親役の方が大変だったとのこと。
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『永遠の僕たち』
不治の病に侵され、余命数か月の少女アナベル(ミア・ワシコフスカ)と、赤の他人の葬式に参列する謎の少年イーノック(ヘンリー・ホッパー)が、お互いの環境と過去を把握しながら恋に落ちていくというドラマ作品。加瀬亮が少年イーノックの親友で、第2次世界大戦で戦死した日本軍・神風特攻隊の幽霊ヒロシを演じている。
ガス・ヴァン・サント、ブライス・ダラス・ハワード
当日、取材現場のリージェンシー・ホテルに着くと、取材開始10分前にもかかわらず、現場にいたのは僕と女性記者の2人だけ。あまりに記者の人数が少ないのでこれはおかしいと思いパブリシストに聞くと、前日に何人かが取材をキャンセルしたらしい。結局、新たに2人の記者が加わり、計4人で取材開始となった。ブライス・ダラス・ハワードは、おなかがかなり大きくなっていて、ひと目で妊娠しているのがわかった。
ブライスは、脚本家のジェイソン・リュウがニューヨーク大学時代から12年来の友人であること、さらにジェイソンはまず舞台化を考えていたのだと話した。しかし、脚本を父親のロン・ハワードに読ませたところ、即映画化が決まったそうだ。また、ガス・ヴァン・サントは、主演女優のミア・ワシコウスカについては、彼女がブレイクする前に出演していたテレビシリーズ『イン・トリートメント(原題)/ In Treatment』から注目していたらしい。さらにガスは、自分のホームタウンであるポートランドでは撮影しやすいと話し、いくつかのショットは自宅付近で撮影したようだ。いつもタッグを組んでいる撮影監督のハリス・サヴィデスとは、お互いの要求していることがわかり合えるのだという。また、この映画はデジタルで撮りたかったらしいが、予算の問題から大掛かりな照明を使用できないため、35mmのフィルムで撮影している。そして音楽を担当したダニー・エルフマンとは、これまでに5回も共に仕事をしたのだとか。初めに映像のイメージに近い曲をガスがいくつか選んだ後で、ダニーが映像に合った曲を調整していくというプロセスがあるそうだ。映画『エレファント』などのように若い俳優を起用することが多いガスだが、どんなに若くても、年を取っていても、俳優に対する対応は変わらないと答えていた。
途中ブライスは、これから30代の姉妹を描いた短編を撮る予定があることを報告した。最後に、ある記者から「もし大学で講義するとしたら、どんな映画を題材にするのか」と尋ねられたガスは、「ベルナルド・ベルトルッチの『ルナ』という作品で、理由はこれまでに自分が何度も観ているから」だと語り、一方ブライスは、「アニメ『ポパイ』などを生徒に観せて、その後でセリフや音響を省いたサイレントの映像を観せて比較させる」と模範的な回答をしていたのがおかしかった。ちなみに、この映画に出演している加瀬亮の神風特攻隊の衣装は、当時の写真を見ながらデザインしたそう。取材が終わったら、なんと開始時間から50分近くたっていた!