~第38回 2011年12月~
INTERVIEW@big apple
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今月は、シャーリーズ・セロンの新作『ヤング≒アダルト』、トム・ハンクスの新作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、そしてスティーヴン・スピルバーグ監督の新作『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』を紹介します。
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『ヤング≒アダルト』
離婚したばかりのヤングアダルト小説家メイビス(シャーリーズ・セロン)は、ある日出身地であるミネソタの田舎町に帰郷して、かつて高校時代に付き合った元カレ、バディー(パトリック・ウィルソン)とよりを取り戻そうと考える。すでに結婚していて幸せな家庭生活を送るバディーだが、あきらめずにアタックし続けるメイビスの奮闘を描いたコメディー作品。監督は、映画『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』のジェイソン・ライトマン。
シャーリーズ・セロン、パットン・オズワルト
この日は、午前中にアカデミー賞作品賞最有力候補といわれている『アーティスト』の取材を終えてから、シャーリーズ・セロンの新作『ヤング≒アダルト』の取材をする予定になっていた。今回の取材は、普段僕が入っているドメスティック(アメリカ国内の枠)ではなく、日本の配給会社からの依頼だったため、インターナショナル枠で取材することになっていた。そのため、単独インタビューかラウンドテーブル・インタビュー(複数の記者による合同取材)を期待していたが、結局は記者会見となってしまった。それでも僕は、ジェイソン・ライトマン監督の話題作の取材ができたことはうれしかった。これまでシャーリーズ・セロンには、3度インタビューしたことがあったため、特別に新鮮味があるわけではないが、彼女の辛らつなジョークを絡めた会話はいつも面白く、印象的だった。さらに、今回はパットン・オズワルトという、スタンダップ・コメディアン出身の俳優と共演していて、彼もこの記者会見に参加しているのもあって、相当面白い取材になるはずだと期待していた。
早めに取材現場のリッツ・カールトン・ホテルに向かい、一番前の席に着くと、徐々に外国の記者が増え、いつの間にか40~50人くらいの記者が会場を埋め尽くしており、インターナショナル枠の取材は記者が多いんだ……と実感。この状況だと、まず質問することは難しいと判断して、今日はゆっくり外国人記者たちの質問を聞くことを決めた(決して怠けているわけではない……)。まず初めに出演理由を聞かれたシャーリーズは「出演料が多かったからよ!(笑)」と答え、するとパットンが「そうなの? 僕のぶんまで持っていかれちゃったのかなぁ~、それならそこ(取材会場)にあるクッキーを全部食べて、僕の出演料を取り戻さなきゃいけないね!」とジョークを飛ばして会場を和ませた。一方、その質問に対してシャーリーズが話し始めると、横でパットンが「(出演理由は)僕が参加しているからだと言ってくれ」、と小声でささやき、記者たちの笑いを誘っていた。次に、ある記者が、劇中のいくつかのシーンで、ヒロインのメイビスは思わず赤面してしまいそうな事態を巻き起こすが、シャーリーズ自身もそのような体験をしたことがあるのかと聞かれると、シャーリーズはひと息ついて、手前にあったお茶を指し、「このお茶にアルコールを入れてくれない?」とジョークを言い、パットンも「僕のお茶は、もう少しアルコールを減らしてくれないか?(実際には入っていないが)と続けたものだから記者たちは大笑い!
記者会見も半ばにさしかかったころ、南アフリカ出身の女性記者が質問すると、シャーリーズはこの女性記者を覚えていたようで、即座に「彼女(女性記者)は、わたしと同じく南アフリカのベノニで育ったのよ!」と述べ、「ベノニ万歳!」と叫んでいた。さらにシャーリーズは「その小さな村はこの部屋と同じくらいの大きさだから(もちろん、実際はそんなに小さくないが)、すごい偶然なのよ!」と、同郷の記者に親近感がわいたようだ。そのすぐあと、会見の途中で、誰かのレコーダーが切れてしまい、それに気付いたシャーリーズが「この電池が切れたレコーダーを持っている記者は、これからわたしたちが話す素晴らしい会見を聞けないわね、残念ね!」と、知らせていたのがおかしかった。最後にシャーリーズは、「メイビスのようなキャラクターの女性は、一緒にどこかに出掛けたいとは思うけど、自分のボーイフレンドとは絶対に会わせたりしないわよ!」(劇中でメイビスは、結婚している男性にアプローチしているため)と、彼女らしいウイットに富んだ発言で締めくくった。
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『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
父親トーマス(トム・ハンクス)を911同時多発テロで失った9歳の少年オスカー(トーマス・ホーン)は、ある日父親のクローゼットから封筒に入った謎のカギを見つける。このカギは一体何を開けるものなのか、興味を持ったオスカーは、近所に住む老人(マックス・フォン・シドー)と共に、カギの謎を解くためにニューヨークを探索し始めるというドラマ作品。作家ジョナサン・サフラン・フォアの同名小説を、『めぐりあう時間たち』のスティーヴン・ダルドリー監督が映画化。
スティーヴン・ダルドリー、マックス・フォン・シドー、トーマス・ホーン、サンドラ・ブロック、エリック・ロス
今回の映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の取材も日本の配給会社ワーナー・ブラザースを通しての依頼で、インターナショナル枠の取材となった(最近、日本からの取材依頼も増えて、少しうれしい気持ちでいた)。1か月前に依頼された当初は、ラウンドテーブル・インタビューと聞いていて、トム・ハンクスとサンドラ・ブロックのインタビューができるなら、かなり質の高い記事が書けると思っていた。が、急きょ記者会見に変更となり、さらにトム・ハンクスが参加しないことが明らかになった……。以前トムに取材したことがあった僕は、彼の場を盛り上げる会話が好きだったので残念だった。そして当日、リージェンシー・ホテルで記者会見が行われ、スティーヴン・ダルドリー監督、マックス・フォン・シドー、トーマス・ホーン、サンドラ・ブロック、脚本家エリック・ロスの5人が参加し、10人程度の記者による記者会見となった。ラッキー! ただ、会見が始まる前に一抹の不安が。それは、僕は編集長からサンドラ・ブロックのコメントを記事にしてほしいと依頼されていて、30分間の記者会見で、記事にするために必要な内容をどのぐらい聞き出せるのかを気にしていたからだった。
そして記者会見が開始! まず開口一番、脚本家のエリック・ロスが、この映画の監督にはスティーヴン・ダルドリーがふさわしいと、プロデューサーのスコット・ルーディンに提案したことが、今回ダルドリーとタッグを組むきっかけになったことを明かした。次に、映画初出演にして主人公を演じることになった子役のトーマス・ホーンは、最近の子役によく見られる、ダコタ・ファニングのようなすでに洗練されている子役のように感じられ、質問の受け答えも、大人のキャストに感謝し、彼らを褒めながら応対していたために、どこか子どもらしくない印象を受けた。でも、顔立ちには子どもらしい愛らしさがあった。さらにトーマスは、トム・ハンクスと新聞紙の一部をクリップしたものをベッドの上に広げて、それらを奪い合うシーンが印象に残っていることも話してくれた。続いて、イングマール・ベルイマンの作品や『エクソシスト』などに出演してきた名優マックス・フォン・シドーは野太い声で、自分の演じるキャラクターは第2次世界大戦中による影響でしゃべらないことを決意したのだと語った。
この取材で一番印象に残ったのは、日本の女性記者がサンドラに今年日本で起きた東日本大震災に関する質問をしたときだった。サンドラは、未曾有の被害を受けた震災の被害者のために高額の義援金を送っていた。彼女が返答の途中で、「誰もが世界とつながっていると思うから……」と述べた後、感極まって目に涙を浮かべる姿が目に焼き付いた。そんな彼女の懸念と支援はきっと、日本の被災者たちにも届いたはずだ。
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『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
少年記者タンタンと彼の愛犬スノーウィは、ある日帆船“ユニコーン号”の模型を手に入れた直後、見知らぬ人から執拗(しつよう)に追いかけられるハメに。その理由は、17世紀にこつ然と消息を絶った“ユニコーン号”の模型に、暗号が記された巻物が隠されていたからであった。タンタンとスノーウィが、その暗号を解くために大冒険を繰り広げるという3Dアニメ作品。ベルギーの漫画家エルジェの代表作「タンタンの冒険」を映画化。
スティーヴン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディ、ジョー・レッテリ、ジェイミー・ベル、ニック・フロスト
僕は1980年代に初めて映画『E.T.』を観て以来、スティーヴン・スピルバーグ作品をすべて観てきた。作品のみならず家族を大切にして、慈善事業を陰で行う彼の人間性にも魅力を感じていた僕は、彼に取材できる日が来るのをずっと長い間待ちわびていたのだった! というのも、スティーヴン・スピルバーグ監督はロサンゼルスのジャンケット(インタビュー取材のこと)に参加することはあっても、めったにニューヨークのジャンケットに参加することはなかったからだ。実はこの1週間前にも、スピルバーグ監督の新作『戦火の馬』の取材が行われたのだが、日本の記者枠がたったの一つしかなかったため、入れなくて悔しい思いをしていたのだ。そんな矢先、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』で取材できることになり、まるで天から恩恵を受けたような至福を味わった……(大げさか)。当日、取材現場のマンダリン・オリエンタル・ホテルに1時間前に(興奮しすぎて早く着いてしまった!)着くと、すでに15人近くの記者たちがランチを食べながら談笑していた。ほかの記者も明らかに興奮していることがうかがえた……。そして、いよいよスティーヴン・スピルバーグ率いるスタッフ&キャストが登場! まず目に付いたのが、近所に買い物に行くかのようなトレーナー&ジーパン姿のスピルバーグ監督。ほかのメンバーが着飾っていたのもあって、かなりカジュアルな印象を受けた。そんな飾らないところも、スピルバーグの魅力でもある。そしていよいよ取材開始!
まず、ノーマン・ロックウェル(アメリカの画家、イラストレーター)のコレクターであるスピルバーグ監督に、「この新作にはロックウェルの作品が影響しているように見えた」と、ある記者が言うと、スピルバーグ監督は「一番最初に美術作品を収集したのが、このノーマン・ロックウェルの作品で、(彼の作品で見られる)鮮明なカラーから受けた影響が映画に反映されている」と答えた。続いて、毎作期待されていることへのプレッシャーについては「確かに、製作過程でプレッシャーを感じるが、作り終えてしまったら作品がどう評価されるのかはまったく気にしないんだ」とのこと。またスピルバーグ監督は、「記者のタンタンが常にストーリーを探している姿は、世界中を駆け回って面白いストーリーを探そうとする自分自身に似ている」とも語った。
この取材で最も印象に残ったのは、特別招待された少年レポーターがスピルバーグ監督に質問したことだった。質問の内容は、「スピルバーグ作品のキャラクターを通してのストーリー構成は、娯楽性があるだけでなく、人生の教訓も教えてくれるように思えるが、そんな映画を作るコツは?」というものだった。これに対してスピルバーグ監督は「素晴らしい質問だ!!」と感嘆し、少年をたたえた。そして「すべては、ここにいるキャスリーン・ケネディ(プロデューサー)、ジョー・レッテリ(ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー)、ピーター・ジャクソン、キャストのチームワークのおかげなんだ」と告げた。ようやく、スピルバーグ監督以外に質問がふられ、ジェイミー・ベルが、「もし原作者のエルジェが生きていたら、『タンタンは何才なのか? なぜ彼には犬しか友達がいないのか?』と聞いてみたい」と話していたのがおかしかった。そして記者会見が終わったあと、少年がDVDを持ってスピルバーグ監督にサインを求めると、スピルバーグ監督は快く応じていた。スピルバーグ監督の映画への愛情と姿勢は、学ぶものがあり、彼の作品が世界中で愛されるのがよくわかった気がした。あっと言う間の記者会見だった……。