第37回
今月の5つ星
ルーニー・マーラがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『ドラゴン・タトゥーの女』、シャーリーズ・セロンが青春時代の元カレを取り戻そうとする人生がけっぷちのヒロインにふんした『ヤング≒アダルト』、ジョディ・フォスター主演のコメディー『おとなのけんか』など、芸達者なスターたちの名演が光る見応え十分のラインナップを紹介!
言葉で表すより心と脳にダイレクトに響き、いつのまにか劇中で描かれる人生に引き込まれてしまう本作。ユアン・マクレガー演じる主人公の不安定さやメアリー・ペイジ・ケラー演じる型破りな母親像、そして妻亡き後、ゲイであることをカミングアウトするクリストファー・プラマーふんする父親。それら登場人物の個性の強さの上に、主人公の幼少期、カミングアウト後末期がんに侵された父と過ごす残されたわずかな時間、そして現在と時間軸が激しく交差しながら喪失感と再生が描かれるためか、終始落ち着きのない不思議な感覚に襲われるのが特徴的。数々の映画賞を受賞し、今回のアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされたクリストファー・プラマーに話題が集中しがちだが、有名アーティストのミュージック・クリップを手掛けるなど、アート・ディレクターとしても手腕を発揮するマイク・ミルズ監督ならではのしゃれた画(え)作り&演出は唯一無二のもの。またミルズ監督の実話を基にしていることが、本作に決定的な説得力を与えている。(編集部・小松芙未)
デヴィッド・フィンチャー監督の最新作は、過去に『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』としてスウェーデンで映画化された人気ミステリーの再映画化。レッド・ツェッペリン「移民の歌」が使われたオープニング・クレジットでは「これぞフィンチャー!」という鮮烈なビジュアルイメージが連発され、視点の巧みな切り替えが画面に緊張感をもたらしている本編でもエンヤの「オリノコ・フロウ」が意外なところで流れるなど、音楽の使い方が印象的だ。そうしたフィンチャー監督の手腕はもちろんだが、本作のMVPはリスベットを演じたルーニー・マーラ! 私生活ではいかにもお嬢様然した彼女がいくつもピアスを着け、長い髪をバッサリ切って、男の暴力にさいなまれる女性ハッカーを熱演。ピアスやタトゥーの施された外見が周囲に対する武装であるとともに、彼女の傷ついた内面の発露でもあることが自然と伝わるのは役者の力あってこそだろう。『ソーシャル・ネットワーク』に続き、若い俳優とフィンチャー監督の幸せなコラボレーションといえる作品に仕上がっている。(編集部・福田麗)
『南極料理人』で好評を博した若手監督・沖田修一が、60歳の木こり・岸(役所広司)と25歳の新米映画監督・幸一(小栗旬)という、住む世界の異なる二人の男の交流を、オフビートな笑いを交えて描写。『南極料理人』同様、等身大のセリフに加え、会話の中にしばしば「……」と絶妙な間が入ることによって、登場人物の生々しい心情が伝わり、ぐいぐいと引き込まれていく。山村でゾンビ映画を撮ることのおかしさ、『マイ・バック・ページ』で注目を集めた古舘寛治ら強烈な個性を放つ名バイプレーヤーたちのアンサンブルなど、いとおしい見どころが満載だが、とりわけ目を引くのが岸と幸一を通して描かれるコミュニケーションの大切さ。撮影中の映画の内容を尋ねる岸に、「ゾンビが出てきてワーッとなる映画です」とおざなりに答える幸一。ところが岸は「えーからもっと話さんね」としつこく食い下がり、そこから下降路線をたどっていた幸一の映画に思わぬ奇跡が生まれることになる。人と意思疎通を図るのは一筋縄じゃいかないもの。特に相手が面倒くさい、気が合わないタイプだったりすると、当たり障りのない会話でやり過ごしたくなるものだが、時には本音でぶつかり合うことによって、これまで見ていた世界が180度違って見えることもある。そんなふうに背中を押してくれる快作だ。(編集部・石井百合子)
人気劇作家ヤスミナ・レザの舞台劇を、ロマン・ポランスキー監督が映画化。子ども同士のケンカを解決するためアパートの一室に集まった、二組の夫婦の壮絶な舌戦が描かれる。演じるのは、ジョン・C・ライリーとジョディ・フォスター、クリストフ・ヴァルツとケイト・ウィンスレットという実力派キャスト。彼らが演じるキャラクターは、それぞれが実にチャーミング。悪態をつき、ホンネをぶつけ、顔をゆがめて感情をむき出しにすればするほど、そこに笑いが生まれる。二組で言い争っていたかと思えば、次の瞬間には夫婦同士、夫同士、妻同士と対立構造も目まぐるしく変化。全編会話劇のみの作品ながら、テンポよい演出と矢継ぎ早に展開するセリフの応酬に、最後まで目が離せない。夫婦で観れば、身につまされること間違いなしの絶妙な大人のコメディーとなっている。(編集部・入倉功一)
『JUNO/ジュノ』のときは16歳で妊娠した少女を、『マイレージ、マイライフ』では人とライトな付き合いしか望まなかった独身男など、現代社会が持つ問題をシニカルに、しかし温かな目線でヒューマンドラマを撮ってきたジェイソン・ライトマン監督が、今回目を付けたのが「ヤングアダルト」な女性。自称作家で、仕事も恋もうまくいかない自由奔放な主人公が、妻子のいる元恋人からの思いがけない連絡で、復縁しようと騒動を起こす。注目なのが、シャーリーズ・セロンの「イタい」体当たり演技。過去の栄光にすがり、同性からも嫌われそうなこの女性を、ここまでえげつなく演じたのにはアッパレだ。面白いのが、主人公と地元でこぢんまりと暮らす人々との対比。作中で他人の幸不幸をああだこうだと語っているが、それを第三者の視点で見ている観客の一人からすると「幸せは自分の心が決めるもの」なのだと実感。それにしても「あなたは、ワタシを、笑えない。」というキャッチコピーがうまい。確かに笑えなかった(笑)。アカデミー賞にノミネートすらされなかったのが、残念。(山本優実)