~第40回番外編 ラジー賞特集~
INTERVIEW@big apple
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1981年にジョン・ウィルソンによって設立されたゴールデンラズベリー賞こと、ラジー賞は30年以上の歴史を持つが、アカデミー賞に比べて意外と知られていない事実がたくさんある。今回は、そんな人々の間ではまだまだ知名度の低いラジー賞を大特集。
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第32回ラジー賞の注目作は、まず最多部門でノミネートされたアダム・サンドラー主演のコメディー『ジャックとジル』。アダムが双子の兄妹を演じ分けており、最低男優賞&女優賞のWノミネートを果たしている。同作は、アメリカの批評家が映画を評価するサイト、Rottentomatoes.comで3%(3/5時点)という最悪の数字をたたき出しているが、意外にも観客は40%(3/5時点)の評価を付けている。アダム・サンドラーの映画は興行的に成功を収めるものの、批評家からは評価されないというのが興味深いところだ。アダムの映画がアメリカで成功する理由について、人気映画サイト、Comingsoon.netの記者エドワード・ダグラス氏に聞いてみると、「頭を空っぽにして楽しめるおバカコメディーで、特に新作映画の俳優名や内容を把握していない南部や中西部の人々の間では、最もアプローチしやすい映画」と答えている。だが、この5年間でアダムが出演した10作品の中で、日本公開までこぎ着けたのはたったの3作品。どうやらアダムは日本ではウケないようだ。
その他のノミネート作品に、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1』といったシリーズものがある。これらはラジー賞常連作品で特に目新しくないのであえて多くは触れないが、毎回ファンの期待にそぐわないことは確かなようだ。また、『ニューイヤーズ・イブ』は、サラ・ジェシカ・パーカー、ジョン・ボン・ジョヴィ、ロバート・デ・ニーロ、ザック・エフロンら豪華な顔ぶれのアンサンブルが話題になったが、Rottentomatoes.comでは8%(3/5時点)という厳しい評価が下されている。最後に、『バッキー・ラーソン:ボーン・トゥー・ビー・ア・スター(原題)/ Bucky Larson : Born to Be A Star』は、ソニーの傘下、コロンビア・ピクチャーズのもとで製作され、全米1,500館で公開されたにもかかわらず、興収250万ドル(2億円=1ドル80円換算、3/5時点)という、ハリウッドの大会社ではありえない興行記録を残していて、Rottentomatoes.comでも0%(3/5時点)いう散々な評価で、興行面、クオリティー面ともに惨敗となった。ちなみに、同作のプロデュースを手掛けたのは「駄作の代名詞」アダム・サンドラーで、そんな彼のお墨付き作品ともいえる。いまのところ、このノミネートされた5作品の中で『ジャックとジル』が、最も受賞の可能性が高いとみられている。
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今年は、10部門のカテゴリーで争われることになっていて、その中でも注目すべきなのは、最低リメイク、続編、前編、パクリ映画部門。最も「ラジー賞らしい」ともいえるこの部門は、近年いかに序章・続編映画が多いか、オリジナル作品の成功にあやかって、序章・続編映画を制作し、保険の恩恵を受けている映画スタッフが多いということを物語っている。近年、映画会社や監督が盗作したと訴えられるケースが増えているのも事実だ。また、このカテゴリーにノミネートされている作品の選考基準も面白い。まずは『アーサー(原題)/ Arthur』で、本作は1981年のダドリー・ムーア主演作『ミスター・アーサー』のリメイクだが、はっきり言ってリメイクする意味さえわからないほどの駄作と言われ、批評家たちから「主演のラッセル・ブランドは、すべてのシーンでイライラするほど大げさな演技をしている」とこき下ろされているうえ、オスカー女優ヘレン・ミレンにとっては、キャリアの汚点となったといえよう。
続いて『バッキー・ラーソン:ボーン・トゥー・ビー・ア・スター(原題)/ Bucky Larson : Born to Be A Star』は、中西部の少年がポルノスターになるまでの経緯を描いており、映画『ブギーナイツ』や『スター誕生』を盗作したとして選考されている。そして、『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』は、続編とリメイクの両方で選考されている。しかし、酒を飲んだ翌朝に目覚めると、主人公の周りでめちゃくちゃなことが起きていて、その理由を探っていくというコンセプトは前作『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』と同じであるものの、「リメイク」ととらえるのは、はなはだ疑問だ。また『グレンとグレンダ』の盗作としてノミネートされた『ジャックとジル』は、主演俳優が男女のキャラクターを演じ分ける設定が一緒なだけで、盗作とするのは少々乱暴過ぎる感がある。
最後に、恒例の毎年変わるオリジナル枠には、最低スクリーン・アンサンブル部門が設けられたが、つまらないことに最低作品賞とすべて同じ作品という結果になった。つまり、主要キャスト全員の演技が作品の評価につながっているということだろう。ちなみに、過去に設けられたオリジナル・カテゴリーの中には「最低飽き飽きもう見たくないゴシップネタ賞」「最も3Dの使い方が間違っている映画賞」などというユニークな部門もあり、ラジー賞の名物企画として楽しまれている。
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ラジー賞は、アカデミー賞と違って主要テレビ局で放映されないのでいまいち実態が知られていないが、ラジー賞なりの楽しみ方があるので紹介しよう。まず、一般の人でもワースト作品の発表を左右する選考メンバーになれること。メンバーになるのは有料だが、40ドル(約3,200円)とリーズナブルだ。しかも、会員になるとハリウッドで行われるラジー賞授賞式への招待状も送られてくる(同伴者1人の参加も可能)! また、会員だけが参加できるラジー賞オフィシャルサイトのチャットやディスカッションもあって、アカデミー賞とは違った参加型のイベントなのだ。ただ、参加するごとにその都度料金を支払わなければならず、更新料は25ドル(約2,000円)となっている。
続いて、選考された作品の楽しみ方だ。ノミネートのラインナップを見て「日本では結構評価が高いのになぜこの作品が選考されているの?」と思う人も多いはずだが、その最たる例が、最低作品賞にノミネートされた『ニューイヤーズ・イブ』である。出演者の顔ぶれが超豪華で、デ・ニーロ、ヒラリー・スワンクといった演技派も出演しているにもかかわらず、ストーリーの一貫性を重要視するアメリカの批評家からは、「何を描きたいのかまったくわからない」「メッセージ性が感じられない」などとたたかれている。これは個人的な見解になるが、日本で評価されるのは、無理にクリスマス・イブに引っ付こうとするカップルのように、その場の雰囲気だけで楽しもうとする期間限定エンジョイ型の傾向が、映画の鑑賞の仕方に表れているからなのかもしれない。そんなふうに、アメリカ人と日本人の見方の違いが浮き彫りになってくるところもラジー賞の楽しさの一つだ。