~第41回 2012年3月~エリザベス・オルセン『サイレント・ハウス』、エイドリアン・ブロディ主演の『デタッチメント』
INTERVIEW@big apple
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今月は、現在ハリウッドで大注目の女優エリザベス・オルセンが主演する『サイレント・ハウス(原題)/ Silent House』、エイドリアン・ブロディ主演の『デタッチメント』、そしてウィレム・デフォー主演の『ハンター』を紹介します。
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『サイレント・ハウス(原題)/ Silent House』
父親と娘サラ(エリザベス・オルセン)が訪れた湖水近くの古びた別荘に、何者かが邸宅内に侵入。サラは父親に襲い掛かる侵入者におびえながら脱出を図ろうとするが、徐々にその侵入者が彼女の精神をむしばんでいくというホラー作品。1940年代に実際に起きた事件を基に、ウルグアイ出身のグスタボ・エルナンデス監督のオリジナルを、『オープン・ウォーター』のクリス・ケンティス&ローラ・ラウ夫妻がハリウッド・リメイク。
エリザベス・オルセン、クリス・ケンティス、ローラ・ラウ
実は、この映画の取材前日にニューヨークのリンカーンセンターとIFCセンターで行われていたフレンチ・ランデブーというフランス作品シリーズを上映したイベントで、フランスアニメ界の巨匠ジャン=フランソワ・ラギオニ監督をインタビューした際にオーディオのスイッチを切り忘れ、3時間も録音したままになっていた。さらにオーディオのファイルが勝手にオートロックされており、ロックの解除の仕方がわからぬまま取材現場に向かうことに……。不安なのは、残りせいぜい40分程度しか録音できないこと。しかもよりによって、この日は3本もの取材があったのだ。苦肉の策として、監督は2日前に取材済みだったのもあって、『サイレント・ハウス(原題)/ Silent House』では、エリザベス・オルセンのコメントのみ録音することに。取材対象があの実業家オルセン姉妹(アシュレー・オルセン&メアリー=ケイト・オルセン)の妹、しかも昨年、主演映画『マーサ・マーシー・メイ・マリーン(原題) / Martha Marcy May Marlene』がサンダンス映画祭で高い評価を受けただけに、相当な記者が参加すると思っていたが、集まったのはわずか4人の記者だった。やがて、ファッショナブルな服装でエリザベスが登場。
なんでも彼女は、『マーサ・マーシー・メイ・マリーン』でブレイクする前に、『サイレント・ハウス(原題)/ Silent House』にキャスティングされたそうで、映画界ではキャリアのない自分をヒロインに抜てきしてくれた二人の監督に感謝していると答えていた。彼女は水中での撮影が怖いらしく、『マーサ・マーシー・メイ・マリーン』で湖に入るシーンはとても怖かったと告白し、クリス・ケンティスとローラ・ラウの海洋スリラー『オープン・ウォーター』のような、水に浸かることの多い作品には出演したくないと言っていたのが、その様子があまりに真剣でおかしかった。ちなみに今回は長回しを多用するうえに、すべてのシーンに自分が登場するのがプレッシャーだったそうだが、彼女が最も怖いのは、『ビューティフル・マインド』の主人公のように、現実を受け止められなくなるような精神状態になることで、この映画にも精神的トラウマが深くかかわっていると話した。また、一度クランクアップしてから4か月後に、エンディングを少し変えるために再撮影を行ったという。続いてクリスとローラの取材では、テーブル上にレコーダーを置いて録音するふりをして取材するハメに……。二人は夫婦らしくお互いの意見を尊重しながら答えるのが印象的だった。最後に、『オープン・ウォーター』の後、大きな配給会社で大作を手掛ける予定だったが企画倒れに終わってしまい、次回作を製作するまでに8年もかかったと嘆いていた。取材終了後、早速電器店に駆け込み、オーディオのロックの解除の仕方を教えてもらった。
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『デタッチメント』
若いころに母親を亡くして以来、心を閉ざした臨時教師のヘンリー(エイドリアン・ブロディ)が、ある日公立高校に赴任することに。教師を無視する問題児たちと接する中で自身の内面を見つめ直すヘンリーの姿を通し、教育問題のあり方を問いかけるドラマ作品。マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジェームズ・カーン、クリスティナ・ヘンドリックスが脇を固め、『アメリカン・ヒストリーX』のトニー・ケイがメガホンを取っている。
エイドリアン・ブロディ、サミ・ゲイル
この日、本当はトニー・ケイ監督の取材もしたかったのだが、残念ながら彼は不参加となった。それでも「エイドリアン・ブロディに取材できる!」と意気揚々と取材現場に向かったところ、普段より着飾った女性記者が多かったので「エイドリアンのためにドレスアップしたんだね」と知り合いの女性記者をからかうと、「もちろんよ! メイクにも気合を入れてきたわ」と返されたのがおかしかった。しばらくして、長身のエイドリアンが部屋に入ってきて記者たちにあいさつ。ある女性記者が「昨年、この映画の出演者で新人女優のサミ・ゲイルにインタビューした際に、あなた(エイドリアン)のことを褒めていたわ」と声を掛けると、エイドリアンは「僕が彼女に金を払って、そう言ってもらったのさ!」とジョークで切り返した。そしてインタビューが開始。
エイドリアンは、サミ・ゲイルと同じ年齢のころから俳優の仕事をし始めたという。さらに教師をしていた父親の教えに学び、彼の生き方を尊敬しているとも言った。今後、大学などで教鞭(きょうべん)を執りたいかという質問には、「教師みたいに一か所にとどまる職業は苦手。数か月ごとに別の仕事に携われて、時間があるときにいろいろなことを学べる俳優の自由さが好きだ」とのこと。学生時代に影響を受けた教師について尋ねると、彼の学校は生徒数が多く、教師も忙しかったから特に影響を受けた教師はおらず、厳しい両親から学ぶことが多かったそうだ。トニー・ケイ監督については、「正直で自分の発言に自信を持っているところが好きだ。近い将来、彼のように俳優の声をしっかり聞いて演出するような監督になっていけたら」と話した(今後、監督業にも挑戦か?)。また、作品選びのモットーについては「映画業界は、商業的な成功ばかり気にしてしまう。よく『アカデミー賞を受賞したにもかかわらず、なぜ(商業的な成功を見込める)大作に出演しないのか?』と聞かれるけど、僕はあくまでクオリティー重視のインディーズ映画をサポートしたいと思っていて、リスクを背負うことにも意味があると思っている」と熱く語った。次回作では麻薬ディーラーを演じているようで、相変わらず幅広い役柄に果敢に挑戦しているようだ。
続いてサミ・ゲイルが、コケティッシュな髪型で登場。本作でコールガールを演じた彼女は、ある女性記者から「『タクシードライバー』のジョディ・フォスターのような印象深い演技だった」と褒められ、「彼女のような素晴らしい女優と比較されてうれしい」と顔を赤らめた。トニー・ケイ監督が手掛けたCMに出演した際にオファーされた彼女は、初めは役柄がコールガールであることに戸惑ったそうだ。それでも『ハート・ロッカー』のプロデューサーがこの映画を製作していることで、出演を決めたらしい。彼女が役づくりするにあたって、トニー・ケイ監督はじっくり時間をかけて役柄について説明し、緊張している彼女を演じやすい環境に導いてくれたという。彼女は、エリカをコールガールというより「トラブルを抱えた女の子」と認識して演じていたそうだ。また、エリカは、エイドリアンが演じたヘンリーといろんな意味で共通点を持っていて、そこがこの映画の魅力であるとも言った。もともとサミは、ブロードウェイの舞台で演技を始めたそうで、演技に自信が満ちあふれていたのにも納得できる。最後に、彼女は現在テレビシリーズに出演しているため時間がとれず、ホームスクールで学問を学んでいると語った。
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『ハンター』『4:44 ラスト・デイ・オン・アース(原題)』
傭兵(ようへい)だった過去を持つマーティンは、絶滅したタスマニアタイガーの生存情報を持つバイオテクノロジーの企業から、生体のサンプルを入手する仕事を依頼される。そんな彼が、寝たきりの母親と幼い子どもが暮らす民家を拠点にしたことから、トラブルが生じていくスリラー(『ハンター』)。『4:44 ラスト・デイ・オン・アース』は、人類滅亡の日を迎えるカップルを描いたドラマ作品で、ウィレム・デフォーとシャニン・リーが主演している。
ウィレム・デフォー、アベル・フェラーラ、ダニエル・ネットハイム、シャニン・リー
この日、『ハンター』と、アベル・フェラーラ監督の新作『4:44:ラスト・デイ・オン・アース』というウィレム・デフォー主演の2作をまとめて取材することになった(かなり強引だが、ホテルの部屋代を節約するためだろう)。まずは『4:44:ラスト・デイ・オン・アース』のインタビューが先に行われることになったが、とんでもないことに……。本来は、パブリシストがあらかじめ記者たちの鑑賞有無を確認してから取材許可を出すはずなのだが、取材に参加した記者6人のうち、4人が映画を未見ということが判明したのだ。僕は去年のニューヨーク映画祭で本編を鑑賞したのだが、あまりにも前すぎて正直言って内容をよく覚えおらず、きちんと映画の内容を把握している記者は一人だけという危うい状況で、アベル・フェラーラ監督にインタビューすることに……。ところが、そんな僕の不安をよそに、記者たちは事前に渡された資料とこれまでの取材体験を踏まえて、即興の質問を次々にぶつけていくという荒業を見せた。驚いたのは、親子ほど年が離れているかのように見える監督と主演女優シャニン・リーが、実生活でもパートナーだったこと。ありふれた質問でなかったせいか監督は上機嫌で、胸をなでおろした。
次にウィレム・デフォーが登場。彼は部屋に入るなりトイレに駆け込もうとしたが、ドアの前でおもむろに後ろを振り向いて「僕がトイレに入っているときはレコーディングしないでね!」と言い、僕らも「YouTubeにアップしたりしないよ!」とジョークで切り返した。前半の話題は『ハンター』。彼は撮影前に実際に(野生動物の)狩りをしている人たちと共に行動することで、ハンターのイメージをつかんだそうだ。一つ一つの質問に丁寧に答える姿から、彼の人柄の良さがうかがえた。一方、『4:44 ラスト・デイ・オン・アース』では、アベルのような独特の作品を製作する監督に惹(ひ)かれ、常にそういう作家性の強い監督と組むようにしていると語った。すると、以前ニューヨークで若かりしウィレム・デフォーにインタビューしたある年配の女性記者が、そのときウィレムが「僕は険悪な顔をしているからヒーローは演じられない」と言い、当時型にはまったキャスティングをされることを恐れていたと明かした。ウィレムいわく、彼には『スパイダーマン』のグリーン・ゴブリンなど悪役のイメージが定着しているが、意図的に悪役を選んだわけではなく、個性的かつパワフルな役を選択してきたために、たまたま悪役を演じる機会が多くなったのだという。また、彼は長らく活動の拠点を舞台に置いており、映画には時折出演する程度だったらしい。
やがてパブリシストが「残り一問で終わり」と告げると、記者たちは急に黙ってしまって、見かねたウィレムが「誰か質問しなよ。もう2、3問でもいいからさ!」と笑って質問を要求し、彼の好意に応えるかたちでプラス3問で取材を終えることとなった。続いてシャニン・リーの取材は、ほとんどがアベル・フェラーラ監督のことで、前作『ゴー・ゴー・テイルズ(原題)/ Go Go Tales』よりも今回の方がスムーズだったという。そして最後の『ハンター』の監督ダニエル・ネットハイムは、製作期間に8年かかったこと、納得がいく内容に仕上げるまでにずいぶん時間を費やしたことを話した。