サードシーズン2012年5月
私的映画宣言
鈴木福くん見たさに「beポンキッキーズ」鑑賞中だが、以前からすごかったガチャピンの身体能力がさらにすごいことに。流鏑馬(やぶさめ)、BMX……あの足でロッククライミングしたときはもうハラハラドキドキ。すごいぜ、ガチャピン!
●5月公開の私的オススメは、『ミッドナイト・イン・パリ』(5月26日公開)。
一年ぶりに東京競馬場へ。ライターの友人が前回当てたと聞き、映画ファンなら無視できない「スピルバーグ」という馬に賭けてみたところ、見事に勝利! 『戦火の馬』効果もあって(?)、今年はこの馬、大躍進のようです。
●5月公開の私的オススメは、『ファミリー・ツリー』(5月18日公開)。
「赤毛のアン」の舞台プリンス・エドワード島を訪ねる旅を企画中。いい年してと言われそうだけど、行きたいんだもん。映画3部作も見直してみるつもりです。
●5月公開の私的オススメは、『サニー 永遠の仲間たち』(5月19日公開)は、『ラ・ブーム』世代にはたまらないっすよ。
「SR サイタマノラッパー~日常は終わった。それでも物語は続く~」(角川メディアハウス刊)に一万字超えの日本映画状況論を寄稿しました。ほか、参加書籍「文化時評アーカイブス 2011-2012」(サイゾー刊)なども発売中です。
●5月公開の私的オススメは、『先生を流産させる会』(5月26日公開)と『ガール』(5月26日公開)。
真田広之さんを取材した数時間後、ホルヘ・ガルシアさんを同じホテルで取材していたら真田さんが突然部屋を訪れてきて思いがけずチーム「LOST」の再会に遭遇。がっちりハグをして再会を喜び、それぞれの携帯電話で記念撮影する二人は本当に仲が良さそうでした。
●5月公開の私的オススメは、『ミッドナイト・イン・パリ』(5月26日公開)。
宇宙兄弟
前向きな弟と繊細な兄。普段なら逆であろうキャラを小栗旬と岡田将生が実にバランスよく演じていて新鮮。特に小栗はいい感じに疲れたオッサン化していて素晴らしい。宇宙への夢を実現させようと立場の違う老若男女が奮闘する内容にも熱くさせられた。今、本当に観たいのはこういう前向きな映画だったと見終わって実感……したのですが、せっかく使えたコールドプレイの主題歌よりプライマル・スクリームの曲が目立ちすぎるのはどうか。
2回観たんだけど、1回目はややインパクトに欠け、2回目は兄弟のきずなに素直に涙があふれた。1回目はなぜ? と振り返ると、「宇宙への夢」という壮大なテーマを扱いながら、兄弟のきずなや、候補生の人間関係&訓練というミニマムな世界が際立っていたから。その前提を知った上で観た2回目は、小栗&岡田のリアルな距離感もあって、兄弟のドラマにズブズブと入り込んだというわけ。映画を観るときは作り手の思いをシンプルに受け止めろと教えられた気分。でも、もうちょっと切実な苦闘も観たかった。
中学校の地学・天体学でつまずいて以来、宇宙や星にロマンチックな感情が抱けない身なので、宇宙にあこがれる兄弟の存在がまず遠い。物語が言わんとすることは理解できるが、入り込めるかどうかは別です。唯一共感できたのは小栗旬が演じたムッタで、一度はあきらめた夢に向かって不器用にまい進する姿は好感度大。ちょっとダメな男を演じさせると光るな~。『ライトスタッフ』でサム・シェパードが演じたチャック・イエガー級の葛藤までは期待していなかったけど、宇宙飛行士になるのは案外簡単と思わせるのはいかがなものか? 弟から聞かされていた兄弟の宇宙愛で試験合格って根性論的な展開、JAXAさん的にはOKなんすか? ま、でも宇宙飛行士を目指す若者がこれで増えるかもしれないね。
俳優陣、特に小栗旬がイイ! 筆者は本作を「誰が社会の理想的な上位者に立てるか」を問う「人間力」についての物語だと解釈しているので、チャーミングなキャスティングの力は大きい。監督は高校球児の青春を描いた『ひゃくはち』の森義隆で、端正な「男の子たちのファンタジー」に仕上げている。ただ惜しいのは月の映像がジオラマ的で、日常とのコントラストがあまり効いていないこと。SF映画としてのセンスが備わっていれば傑作圏に突き抜けたはず。
何となく宇宙ブームらしき雰囲気がある昨今、宇宙に夢を抱く兄弟の物語はいかにも漫画的だけど、その非現実感も含めて作品の世界観を3分の2ぐらいまでは楽しめた。主演コンビも原作コミックのイメージを裏切ることなく好演と思う。ただ、弟が宇宙に行って以降、宇宙って簡単に行けちゃうんだね、緊張感なくていいねとやや気持ちが白けてきてから、終盤は夢だ希望だといった正しいメッセージ攻撃があまりにもダイレクトかつ執拗(しつよう)で参った。そこまで言わないと伝わらない?
ダーク・シャドウ
数々のヒット作を送り出してきたジョニー・デップとティム・バートン監督が、8度目のタッグを組んだファンタジー。1960年代に放映されたテレビドラマを基に、魔女によってヴァンパイアにされ200年にわたり生き埋めにされていた男と、その末裔(まつえい)たちの姿を描く。同シリーズのファンであるジョニーが主人公バーナバス・コリンズを演じ、これまでのヴァンパイアのイメージを一新するような演技を披露。共演にはミシェル・ファイファー、クロエ・グレース・モレッツ、ヘレナ・ボナム=カーターら豪華キャストがそろう。
[出演] ジョニー・デップ、エヴァ・グリーン
[監督] ティム・バートン
バートン作品のジョニデ白塗り率がまた上がったなと考えていたら、『シザーハンズ』が思い出され、あの美しさはどこへと切ない気持ち。とはいえ、どう見てもマイケル・ジャクソンの扮装(ふんそう)は大ウケ。さらに敵役のエヴァ・グリーンが輪を掛けて面白い。名前やメイクどころか、その過剰な情熱、邪悪さ、嫉妬深さ、何もかもがアンジェリーナ・ジョリーを思わせる。愛されてしまったジョニデ=ヴァンパイアの疲弊っぷりにブラピが重なり、どちらも気の毒になった(笑)。
バートン×ジョニーのコンビは不必要に期待が高まるが、本作は、いい意味で両者の力みが少なく、その「軽さ」が楽しい。ジョニーの白塗りキャラは『シザーハンズ』や『チャーリーとチョコレート工場』を連想させつつ、前者の切なさや後者のブラックな味とは違い、一族の運命を担う正義のヒーローの要素が濃厚。そこを好印象と見るか、物足りないと見るかは人それぞれかも。バートンの過去作品と共通する描写やアイテムをあちこちに発見でき、自分のテイストに徹するバートンくんの姿勢、今回も好きだなぁ。
ゴス好きなティム・バートン監督らしいユーモアがぎっしり詰まった快作。奇天烈で妖しいトーンの中に爆笑要素がたっぷりのコリンズ家復興ドラマが奇想天外なオチに向けて疾走する。『PLANET OF THE APES 猿の惑星』で監督が固執したリ・イマジネーションものと聞いていたから不安だったけど、こちらは大成功! 練られた脚本、役者陣の好演、そして物語への偏愛ぶりがわかる楽しげな演出と見どころがあちこちにある。主演ジョニデにコメディーの才能があるのはわかっていたが、驚かされたのがエヴァ・グリーン。ヒップでピアノを弾いてバーナバスを誘惑したり、くんずほぐれつのセックスに挑んだり。体を張ったエヴァの熱演、最高! もてあそばれた女の悲哀に思わず同情するはず。ところで、ブロンドに変身した彼女がバートン監督の元パートナーのリサ・マリーを彷彿(ほうふつ)させるのは偶然?
ゆる~いギャグがメイン。突然未体験ゾーンの時代に放り込まれるヴァンパイアのお話で、「聖☆おにいさん」や「テルマエ・ロマエ」みたいな作品組成だなあと。ただしポイントは「現代」が1972年なこと。クロエ・グレース・モレッツがドノヴァンの名曲「魔女の季節」に合わせて踊るシーンは印象的だし、アリス・クーパー(本物)のライブはまさにハイライト。ティム・バートン監督が自分の世代ネタで固めた趣味的な作りで、良くも悪くもリラックスした道楽品という感じ。
オリジナルのドラマは未見だが、恐らくエッセンスとしては忠実に、しかしあくまでも味付けはバートン流で、あの題材がこんなふうに仕上がるとは! とBGMの使い方から衣装ほかビジュアル面も含めていろんな意味で興味深く観た。特に70年代カルチャーへのバートンの愛憎が見え隠れしてあれこれ考察するのが楽しい。また、バーナバスが意外とちゃんとした(?)吸血鬼なのもうれしい限り。やっぱりヴァンパイアものには流血がないとね。
ファミリー・ツリー
『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン監督と、『オーシャンズ』シリーズのジョージ・クルーニーがタッグを組んだ感動作。ハワイを舞台に、家族崩壊の危機に直面したある一家の再生のドラマをユーモアを交えて映し出す。クルーニーが父親役で新境地を開拓し、シャイリーン・ウッドリーとアマラ・ミラーという期待の若手女優たちが彼の娘を好演。独特のハワイ文化を背景に、さまざまな要素が入り混じったドラマが共感を呼ぶ。
[出演] ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー
[監督] アレクサンダー・ペイン
奥さんの事故、手に負えない娘たち、もめる親戚……。シリアスな問題がユーモアを交えさらりと描かれてゆく。「ハワイに住んでいても大変なんだ」という内容のナレーションで始まる本作だが、ピンチでも追い詰められずにのほほんといられるのはやっぱりハワイの気質なんじゃないかとうらやましくもあり、見習いたい気持ち。鑑賞後はじわじわと心に温かさが広がった。普通のオッサンを普通に演じたジョージ・クルーニーのすごさも後から効いてくるので、オスカーをもらえなかったのは実に残念。
当たり前の話だけど、大げさな感情表現をするのが名演技ではないと、ジョージ・クルーニーが証明する。乗り越えられないほどハードな事態に直面しても、できるだけ冷静を装って対処する父さんの姿に、娘たちの心が開かれるのは大いに納得。ベッドの妻に静かに語りかけるジョージの演技や、ラストシーンの構図はしみじみ泣けた……。舞台が大都会なら、ギスギスしたムードになった作品だが、ハワイの大自然と音楽が、観ていて痛くなりそうな心を優しく、優しく癒やしてくれる。
植物状態となった妻の不倫や娘たちとの関係修復といった問題を抱えたワーカホリック気味の中年男の心の揺れをリアルかつユーモラスに切り取ったアレクサンダー・ペイン監督の手腕に拍手。冒頭に登場する次女のアート作品(死にゆく母親の写真集!?)や「金持ちのくせに娘にぜいたくさせなかった」と憤る義父と主人公との関係は結構ブラックだけど、キャラクターの心情を的確に表現。家族それぞれのツラさと対峙(たいじ)する主人公を演じたジョージ・クルーニーのリアクションがまた絶妙で、家庭人としての重圧に思わず同情。またレスが返ってこないと知りつつ、もの言わぬ妻に向かって本音で憤る場面も出色だ。心の底にたまった澱(おり)は怒りと共に流し出せ。困惑し、悩み、悲しむ父親像を快演するジョージが非婚主義なのはもったいないかも。いいパパになりそう。ところで、本作のオチは父娘探偵が捜し当てた浮気相手が脱力感あふれるマシュー・リラードだったこと。ペイン流のジョークに思えて仕方なかった。
今年のアカデミー賞をにぎわせた作品の中で、コレを「心のベストワン」に挙げていた人は多かったように思う。アレクサンダー・ペイン監督の前作『サイドウェイ』同様、特にアラフォー泣かせなのかなと(笑)。ドラマ的キーパーソンは昏睡(こんすい)状態に陥る奥さん。悲劇的人物のはずが、騒動を起こした張本人が寝ているという喜劇性の核に移行し、だんだん「いい気なもん」に見えてくるおかしさ。生と死、煩悩と愛情をフラットに捉える包容力のデカさはただごとではない!
「家族のきずな」を声高に叫ばなくとも、その難しさも良さもすべて含めてシンプルかつ繊細に、そして時におかしくも切ないユーモアを交えて描いた秀作。ジョージ・クルーニーのしょぼくれた中年パパぶりも自然体で、ハワイの空気感にも心が和む。どこにでもありそうな家族の物語を記憶に残る一本として昇華させることは至難の業と思うが、アレクサンダー・ペイン監督は小さな作品を撮らせたら本当に素晴らしい!