第41回 ハリウッドで何が起きている?続編ばかりの新作はナゼなのか!
LA発! ハリウッド・コンフィデンシャル
LA発!ハリウッドコンフィデンシャル
ハリウッドで何が起きている? 続編ばかりの新作はナゼなのか!
ゴールデンウイークも終了、いよいよ初夏に突入の季節ですが映画ファンの皆さんいかがお過ごしですか? アメリカの映画業界では5月最後の週末からいよいよ夏の大作シーズン開幕ということになっています。
映画のかき入れ時を目前に、最近特に思うのは昨今のハリウッド映画におけるオリジナル作品の少なさです。今月のハリコンは、これでいいのかハリウッドっ! ということで最近のハリウッド映画業界「独創性欠如症」について考えてみたいと思います。
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最近、大作といえば、続編モノ、人気小説あるいはコミックの映画化、昔の映画やテレビ番組のリメイクと、とにかくアリモノをこね直したものばかり。例として去年のボックスオフィス年間トップ5作品を見てみましょう。
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- 1位:『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』
→ハリポタシリーズ最終作 - 2位:『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』
→トランスフォーマーシリーズ3作目 - 3位:『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1』
→トワイライトシリーズ - 4位:『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
→ヒット作の第2弾 - 5位:『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』
→おなじみヒットシリーズ - (参考:Box Office Mojo)
ご覧のように何とオリジナル作品は1本もなく5作品すべてが小説の映画化か既成の題材を映画化したものとなっています。ハッキリ言って、わたしも今回リサーチするまでハリウッドの「独創性欠如症」がここまで「重症」とは知らなかったのですが、これはかなり厄介なことです。
スティーヴン・スピルバーグ監督の大ヒット映画『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』に代表される1981年を例にとると、その年のトップ10内でオリジナル作品は6本にも上っており、シリーズものは、『スーパーマン II/冒険篇』、『007/ユア・アイズ・オンリー』、小説の映画化は『黄昏』、実話の映画化は『炎のランナー』の計4本のみ。それが10年後の1991年になるとどうでしょう。何と、オリジナルは5位の『シティ・スリッカーズ』のみ、2001年になると年間上位10作品中のオリジナル作品は『モンスターズ・インク』と『パール・ハーバー』の2本に増えますが、去年2011年になると、トップ10作品にオリジナルものはゼロという驚異的な結果になっています。一体、最近のハリウッドに何が起こっているのでしょうか? なぜこのようにアリものばかりの作品が出回ってしまうのでしょうか?
ハリウッド映画業界をむしばんでいる「独創性欠如症」の源となっているのは……世界を襲っている経済難なのです。以前もハリコンでちょっと触れましたが映画製作ももとをただせばビジネス。ウォール街で取引されている株同様。景気が良かったときはお金を出す側にも、「当たれば最高だけど、ダメでもまあ面白そうだし、いっか!」的な余裕のある考えがあったために多少リスクがありそうな作品にも出資してくれていたわけです。1990年代に米国の経済がまだ豊かだったころのインディーズ映画全盛(例:『クライング・ゲーム』(1992)、『パルプ・フィクション』(1994))といったものがその太っ腹だったハリウッドのメンタリティーを物語っています。
ただ不景気になってくると、当然のことながら人々の財布のひもは固くなり、ヒットしそうなものにしか出資しないという構図ができてしまいます。そうなるとやはり、面白そうだけど誰も聞いたことのないようなインディーズ映画に出資するよりは、ベストセラーになっていてファンがいるハリポタやトワイライトシリーズ、あるいは人気コミックヒーローを主人公にした映画に出資するという安全策が取られて、現在のようなアリもの尽くしのハリウッドになってしまったといえます。これは、観客の見方も関係しています。続編は、前作のヒットを受けて制作されているため、世界観が理解しやすく、見やすい。そういうものが、今は観客にも好まれているという傾向もあるのです。
それでは一体これからのハリウッド映画界はどうなっていくのでしょうか? 決してアリモノ作品のどれもが駄作というわけではありません。
個人的に意外と気に入ってしまった去年の大ヒット作『ワイルド・スピード MEGA MAX』や現在アメリカで空前の大ヒットを記録している『アベンジャーズ』などはシリーズ&アリモノ系の作品ですがストーリーとキャラの設定がかなりしっかりしていて、見応えのある良い作品に仕上がっています。必ずしも続編だらけの現状が悪いわけではないですが、オリジナル脚本で話題だった『インセプション』はアカデミー賞の主要部門を受賞できなかったのも事実(賞を取った作品だけが良いものというわけではないですが)。
経済が低迷している以上、映画館で公開されるような作品は膨大なお金が動くため、オリジナル作品をゼロから世間に浸透させていくより、出資家たちも安全策を取って、人気ブランドとして確立されているような作品、例えば、映画『トップガン』の続編(冗談抜きで企画中。トム・クルーズ演じるマーベリックも出演予定)あるいは、『ジュラシック・パーク4(原題) / Jurassic Park IV』(スピルバーグも安全パイ路線……(^^;))というようにセーフな作品に傾倒しがち。でも経済が再び回復してくれば以前のようにもっとオリジナリティーのある作品が台頭してくる日もくるでしょう。そうすれば、観客の映画に対する見方・感じ方も多様化し、映画もバラエティーに富んだランナップになり、よりよい制作環境になるのではないでしょうか。
また、ここ数年セレブの超大作映画離れが目立ちだし、例えばジョージ・クルーニーが製作・監督・出演も兼ねた映画『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』のように、味のある作品はスタジオなどに頼らず自分の製作会社で自分が二足、三足のワラジを履いて低予算で作ってしまうというトレンドも目立ってきています。またテレビがデジタル化され映画チャンネルが増えたり、インターネットやスマートホンが急速に発達したりで映画鑑賞の仕方も変わってきていることから、良質だけど無名でリスクの高い作品は取りあえず別のメディアで公開して様子を見るというアプローチも増えてきているようです。
続編やら小説の映画化が増えたからといって必ずしもハリウッド映画の質自体が下がってきているわけではなく、大きな映画館で上映される映画の内容が変わってきたのだと考えればハリウッドの将来を憂える気持ちも多少和らぐというもの。……とはいうものの、やはり個人的にはせめて……せめてもう少し映画『アーティスト』的な気骨のある作品とか、もっと欲をいえば1970年代末期から1980年代半ばあたりにジョージ・ルーカスやスピルバーグが作っていた人生観が変わるような映画が恋しいっていうのが正直な気持ちかな(^^)。
(取材・文 神津明美 / Addie・Akemi・Tosto)
高校留学以来ロサンゼルスに在住し、CMやハリウッド映画の製作助手を経て現在に至る。アカデミー賞のレポートや全米ボックスオフィス考など、Yahoo! Japan、シネマトゥデイなどの媒体で執筆中。全米映画協会(MPAA)公認のフォト・ジャーナリスト。
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コンピューターの発達で子どもでも結構手軽に映画が作れるようになった今、もし観たい映画があったら自分で作るっきゃない! って感じですよね。