~第43回 2012年5月~ジャック・ブラック主演『バーニー(原題)/ Bernie』、マイケル・ウィンターボトム監督作『トリシュナ』
INTERVIEW@big apple
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今回はジャック・ブラック主演『バーニー(原題)/ Bernie』、フリーダ・ピント主演『トリシュナ』、そしてサシャ・バロン・コーエン主演『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』を紹介します。
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『バーニー(原題)/ Bernie』
地元の人々に慕われ、テキサスの葬儀屋で働くバーニー(ジャック・ブラック)は、ある日未亡人となった富豪老婦人マージョリー(シャーリー・マクレーン)と親しくなり、彼女の世話をするようになる。だが横暴なマージョリーに耐えきれず、ある日彼女を殺してしまう。そしてバーニーは、事実を隠しながら彼女がまるで生きているかのように生活を始めていくという実話を基にしたコメディー調のドラマ作品。共演にはマシュー・マコノヒー、リップ・トーンなどが参加し、『スクール・オブ・ロック』のリチャード・リンクレイターがメガホンを取っている。
ジャック・ブラック、リチャード・リンクレイター
この日は、午前中にトライベッカ映画祭でジェナ・フィッシャーが主演する『ザ・ジャイアント・メカニカル・マン(原題)/ The Giant Mechanical Man』の取材で、キャストと監督を含めた計6人にインタビューをしたあと、お昼から『バーニー(原題)/ Bernie』を取材することになっていた。午前中に何も食べていなかった僕は、二つ目の取材場所に用意されたランチを食べながら、友人記者と今年のトライベッカ映画祭はイマイチの作品が多いと話していたら、パブリシストから取材部屋に移動するように指示された。用意された部屋は2部屋で、およそ7~8人の記者がそれぞれの部屋に入り、30分のラウンドインタビューを行うことになった。まずは、ジャック・ブラックのインタビューから開始。陽気ではしゃいでいるイメージとは裏腹に、落ち着いた雰囲気だった。開口一番、ある記者が本作のジャック・ブラックの演技は、映画『スクール・オブ・ロック』以来の素晴らしい演技だとほめると、うれしそうにほほ笑んだ。ジャックは刑務所を訪れ、バーニー本人に会ったとき、脚本に記された通りのスイートな印象を受けたそうだ。だがバーニーを演じる上で、撮影の合間にもバーニー役に徹するほど、メソッド演技をしたわけではないという。
バーニーを演じるにあたってヒゲを付けたことについて聞かれると、以前に演じた『ナチョ・リブレ 覆面の神様』でもそうだったが、「ヒゲを付けると最もパワフルな演技ができるんだ!」と、おどけてみせたのがおかしかった。共演したシャーリー・マクレーンについては、「彼女ほど才能があって美人な女優は、彼女が活躍していた1960年代当時は少なかった」とほめていた。ここまでは順調に進んでいたが、突如ゲイ雑誌に執筆する男性記者が、「バーニーはゲイではないか?」と聞き始め、さらに刑務所でバーニーにそのことについて確認したのかとジャックに聞くと、ジャックは少し不快そうな表情になり、「彼がゲイであろうがなかろうが関係ない!」と言い放ち、ゲイの記者は黙ってしまった。
また、バーニーは葬儀屋で働いていたために、彼が葬式を指揮しているビデオを観て研究したそうだ。彼の事件が映画化されたことで、彼の殺人行為を美化してしまう恐れがあるため、バーニーを収監(しゅうかん)している刑務所では、この映画を観せることができないらしい。最後にジャックが、「バーニーは逮捕されてホッとしたんだと思う」と答えていたのが印象に残った。続いてリチャード・リンクレイター監督は、脚本を書いていた時点では、主演にジャックを起用することは特に考えていなかったが、一度脚本を書き終えてから、『スクール・オブ・ロック』でタッグを組んだジャックを主演にと思い付いたそうだ。題材となる事件が起きたテキサス州での当時のゴシップニュースを見て、この事件の起きた町の人々の観点からバーニーを語っていこうと決めたらしい。ちなみに、彼いわくマシュー・マコノヒーの母親が出演しているとのこと。
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『トリシュナ』
古典の名作トーマス・ハーディの「テス」をもとに、設定を現代のインドに移して制作した意欲作。インドの貧しい家庭に育ったトリシュナ(フリーダ・ピント)は、ある日、父親からホテルの経営を委ねられたジェイ(リズ・アーメッド)と出会って恋に落ちる。トリシュナはジェイが経営するホテルでウエイトレスを始めるが、身分の違いから二人の関係に亀裂が生じ始めていくというドラマ作品。監督は、『ウェルカム・トゥ・サラエボ』『マイティ・ハート/愛と絆』のマイケル・ウィンターボトム。
フリーダ・ピント、マイケル・ウィンターボトム
この日は土曜日だったが、トライベッカ映画祭が開催されていたために午前中に映画祭の作品を鑑賞してから、『トリシュナ(原題)/ Trishna』の取材に向かった。取材現場は2部屋に分けられており、外国人記者も多かった。まずは、『ウェルカム・トゥ・サラエボ』や『マイティ・ハート/愛と絆』など多くの優れたインディーズ作品を手掛けてきたマイケル・ウィンターボトム監督から取材することに。インタビューが始まってすぐに、ウィンターボトム監督はヒロインのトリシュナが働いていたホテルの従業員役には現地の本物の従業員を使用したこと、さらに同役を演じたフリーダ・ピントは彼らから従業員のサービスの仕方を習ったと話した。多くの出演者が俳優ではなく、一般人であったために、主演女優は、彼らと共演することに違和感を持たない女優でなければならなかったという。原作では、ヒロインが子どもを産むが、その子どもは小さいときに亡くなってしまうという設定だが、この映画ではヒロインが子どもをおろしてしまうというふうに変更されているとのこと。舞台となるインドではいまだに公開されていないが、今のところ映画祭などの反応はいいらしい。
続いてフリーダ・ピント。彼女は部屋に入ってくるなり、何人かの外国人記者に、「どこかで一度会ったことがあるわね」と陽気に話しかけながら席に着いた。原作の時代設定が19世紀イギリスで、映画では現代のインドへとアレンジされているため、原作に忠実な内容にすることには根本的に無理があると話した。続いて、ファッション・マガジンに執筆する女性記者が、シャネルのCMに出演しているフリーダにエレガントな女性の定義について質問すると、「エレガンスは人によって違い、この映画の主人公トリシュナもメイクアップをしていなくても、礼儀作法などにエレガンスはあったと思う」と個人的な見解を語った。そして、現在交際している俳優のデヴ・パテルにも話は及んだ。彼女がこの映画を撮影していたと同時期に、同じ場所でデヴは別の映画を撮影していたために、頻繁(ひんぱん)に彼のセット訪れていたことを照れながら話した。最後に彼女は、仮に出演する時間がかかっても、型にはまった役を選ばないようにしてきたと、女優としてのポリシーを明かした。終始笑顔を見せながら答える彼女に好感が持てた。
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『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』
一国の独裁者として好き放題してきたアラジーン(サシャ・バロン・コーエン)は、国連で演説を行うためにニューヨークを訪れるが、側近である叔父(ベン・キングズレー)にだまされて誘拐され、その間に自分の替え玉を用意され失脚してしまう。だが、偶然に出会った女性(アンナ・ファリス)に助けられたアラジーンは、彼女の力を借りて再び政権を取り戻そうとするというコメディー作品。監督は、これまでサシャ・バロン・コーエン作品でメガホンを取ってきたラリー・チャールズ。
サシャ・バロン・コーエン、ベン・キングズレー
取材前日の日曜日にこの新作の試写を観たあと、翌日朝9時から「ナイト」の称号得たベン・キングズレーに単独取材することになっていた。あの「ガンジー」にインタビューできるなんて! と、少し舞い上がっていた僕だが、事前にいろいろ調べてから取材現場を訪れた。取材部屋に入ると、ソファに座っていたキングズレーはフルーツを食べながら、僕に握手を求めてきた。体格はそれほど大きくはなかった。そして彼は、もう少しフルーツを持ってくるようパブリシストに要求してから、食べながらインタビューに答えるが問題はないかと断りを入れた。まずは、彼がロックミュージシャンになる可能性があったことから聞いた。ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインがプロデュースする舞台「The Smashing Day」でキングズレーが歌を披露したことがあり、ジョン・レノンらから音楽レーベル会社を紹介されたというのだ。もちろん、俳優業を選んだために現在の彼があるのだが、彼がミュージシャンだったらと想像すると何となくおかしかった。彼の父親は医者で、キングズレーも学生時代は医者になるための勉強をしており、そのときに物理、化学、生物学を学んだおかげで、俳優業をやっていくうえで混乱せずに役にアプローチをできるようになったという。映画『シンドラーのリスト』でのスティーヴン・スピルバーグとの仕事について尋ねると、スピルバーグはほとんどのシーンで2テイクぐらいしか撮らないそうで、その手法が俳優たちにとっても、心地良いリズムになったようだ。最後に、『ガンジー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞してからは、演技に関してシンプルにアプローチするようになったと締めくくった。
続いてサシャ・バロン・コーエンの記者会見。かなり待たされたあと、ようやく独裁者アラジーンの姿で登場! 銃を持った女性ボディーガードを従え、われわれの横には独裁者の支持者30人が待機していて、アラジーンが手を上げるたびに歓声を上げるという異様な状況の中で行われた。質問は、記者たちが前もって担当のパブリシストに送り、その中から選考されたものを司会者が読み上げて独裁者のアラジーン答えるシステムになっていた。まずアラジーンが「まず北朝鮮の記者から質問したまえ」と過激なブラック・ジョークを飛ばし、Q&Aが始まった。会見が始まり、「ある記者が帽子をかぶっていたので、それを取るように」とアラジーンが指示したのだが、帽子を脱いだ記者の頭がはげていたので、アラジーンは「帽子をかぶれ!」と言い放ったので場内は大爆笑。さらに、好きなアメリカ映画について聞かれると、ファンタジー映画が好きと答えたにもかかわらず、特に気に入っている作品として『シンドラーのリスト』を挙げたことで、またもや笑いを誘った。さらに、ミーガン・フォックスが最近実生活で妊娠したことについて尋ねられると「僕が彼女の子どもの父親とうわさされているが、それは無理だ! もしそれが可能なら、人類で初めてお尻(アナル)で妊娠したことになるからだ!」と返し、キム・カーダシアンに至っては、彼女のパンティーを脱がせたら、僕は自分の顔を見ているようだったと下ネタジョークを連発し、記者たちは笑い転げていた。最後まで、女性ジャーナリストを口説いてみたり、ユダヤ人の男性記者を「Circumcision(包皮切開)しているのかパンツの中を見せろ!」と挑発したりして、その暴走ぶりは、まさに独裁者そのものだった。最後にアラジーンの写真の入った黄金の時計をお土産に渡され、会場をあとにした。まったくすごい記者会見だった……。