第41回『アメイジング・スパイダーマン』『愛と誠』『ラム・ダイアリー』『少年は残酷な弓を射る』『ベルフラワー』
今月の5つ星
妻夫木聡&武井咲主演の純愛ミュージカル映画『愛と誠』、人気アメコミ「スパイダーマン」を新たなスタッフ&キャストで再映画化した『アメイジング・スパイダーマン』、ジョニー・デップ主演最新作『ラム・ダイアリー』など、えりすぐりのラインナップを紹介!
アラサー組の妻夫木聡、斎藤工、そして48歳の伊原剛志までもが高校生役に……「そんなバカな」と、思わず突っ込みたくなる本作は、ディズニー映画『魔法にかけられて』と同様、作り手が思い切り突っ込みを入れながら純愛を謳(うた)い上げたミュージカル仕立て。昭和の時代に「純愛漫画の金字塔」となったこの話を、現代人から見たらどうなるのかという発想がユニークだ。筋金入りの不良・誠(妻夫木聡)と、彼に恋するお嬢様の愛(武井咲)の身分違いの恋。設定からしてベタだが、どんな憎しみも愛情が凌駕(りょうが)すると信じて疑わない愛と、そんな彼女をシラケた目で見る誠との、ボケとツッコミのような掛け合いが痛快。出演者がキャラクターの心情とシンクロさせながら熱唱する、「あの素晴らしい愛をもう一度」「また逢う日まで」といった昭和のヒット歌謡曲を満載し、鈴木清順映画を思わせる赤を基調にした美術が、「真剣であればあるほど滑稽」な恋愛模様をハイテンションに盛り上げる。そんなデフォルメされた世界観は、感動だとか生半可な感情で表現できるものではなく、今やすっかり幻想と化した純愛の皮肉と崇高さが入り乱れて強烈な余韻を残す。(編集部・石井百合子)
メル・ギブソン主演の映画『マッドマックス2』に登場する悪の首領ヒューマンガスを崇拝し、世界滅亡を夢見る若者の友情と愛憎を描いた青春映画。あのヒューマンガスを崇めるなんてどんなサイコ野郎かと思いきや、そうでもない。もちろん、仕事もせずに火炎放射器作りに励むかなりの変わり者には違いないが、彼もまた初デートにはおしゃれをして、花束を用意するようなごく普通の心優しい青年だった(ように見えた?)。しかし、好きになった女の裏切りを知った途端、彼の奥底に隠れていた全てが爆発! あまりの怒りと絶望から正気を失い、狂気に満ちた妄想の世界へと突き進む。そして、観ているこちらもこれが現実なのか、はたまた彼の妄想なのか判別し難いほどのカオスへと化していく。メガホンを取るのは、これが長編映画監督デビューとなる新鋭エヴァン・グローデル。自らの失恋体験を基に脚本を執筆し、主演・製作・編集も務めた。自身の苦い思い出を整理するかのように分けられた七つのチャプターが印象的で、クライマックスはやりきれない思い全てを焼き尽くそうとするかのごとく強烈。先月惜しくもこの世を去ったビースティ・ボーイズのMCAことアダム・ヤウクが真っ先にほれ込み、自らが立ち上げた映画会社で配給を手掛けたというから間違いない。(編集部・中山雄一朗)
大ヒットを記録したアメコミ映画『スパイダーマン』シリーズのキャスト&スタッフを一新させ、まったく別の物語として作り上げられたのが本作。新『バットマン』シリーズのようにシリアスなタッチを採用しているという先入観を持って観ると、いい意味で裏切られること間違いなし。『(500)日のサマー』でとびきりキュートなロマンチック・コメディーを描き切ったマーク・ウェブが監督を務めただけあって、本作の特出している点は「スパイダーマン」をみずみずしくウイットに富んだ青春映画として生まれ変わらせたところ。主人公カップルを演じるアンドリュー・ガーフィールドと エマ・ストーンの魅力にやられる人が続出するはず! また、優雅なクラシック音楽が流れている中でスパイダーマンと敵役リザードのバトルが繰り広げられるシーンなど、アクションシーンにもミュージックビデオ出身のウェブ監督らしさがしっかり加味されており、「アメコミはちょっと……」と思う人にも自信を持ってお薦めできる作品に仕上がっている。(編集部・市川遥)
昼間からラム酒をあおり、酔っ払って失敗をやらかしては「もう二度と酒を飲むまい」と誓い、その5分後にはまた酒を飲む。ジョニー・デップが演じるポール・ケンプはそんな、酔いどれジャーナリストだ。正義感に突き動かされるタイプではさらさらなく、それどころか原稿だってほとんど書かない。おまけに仕事や女や酒、どれも与えられているもので満足しているくせに、どこか物足りなさを感じている……詰まるところ、本作はそうした煮え切らなさを思春期と呼ぶには年を取りすぎた男の、鬱屈(うっくつ)した青春を描いた作品だ。ジョニーの親友であり、本作のモデルである故ハンター・S・トンプソンの年齢を考えると、ポールはせいぜい20代半ばなのだが、現在49歳のジョニーが演じても違和感のない年齢不詳さは、カメレオン俳優ジョニーの面目躍如。資本主義の権化のようなアメリカ人企業家を演じるアーロン・エッカート、その恋人シュノーを演じるアンバー・ハードとの対比も、そうしたジョニーらしさを際立たせている。亡き親友への深い愛情がその演技から感じ取れるという点でも、ジョニーの俳優人生で特別な意味を持った作品だろう。(編集部・福田麗)
無差別殺人事件を起こしてしまう息子と母親の葛藤を、重厚に描いたエモーショナル・サスペンス。劇中、罪の意識を表現してか全体的に赤で統一されており、ガリガリと物をかく音など、執拗(しつよう)に表現される「痛い演出」が余計に刺激され、観る者も、母親と共に精神的に追い詰められていく。そして過去と現在を交錯させながら息子ケヴィンがなぜ事件を起こしてしまったのか、衝撃的なラストまで、たたみかけるような展開で引き込む。苦悩する母親を体現したティルダ・スウィントンの圧巻の演技はもちろん、残酷で美しいケヴィンにふんしたハリウッドの新星エズラ・ミラーの存在感に圧倒される。エズラによると、劇中でケヴィンが片方の口角を上げてニヤッと笑う「ケヴィン・スマイル」は、実はティルダ演じる母親をまねたとのこと。つまり、合わせ鏡のような親子の関係を、この細かい演技で表現しているのだ。ぜひ、そんなディテールにも気を付けて観ていただきたい。(編集部・山本優実)