第41回『ダークナイト ライジング』『ヘルタースケルター』『苦役列車』『メリダとおそろしの森』『ムカデ人間2』
今月の5つ星
岡崎京子の伝説の漫画を沢尻エリカ主演で映画化した衝撃のサスペンス『ヘルタースケルター』、ピクサー・アニメ最新作『メリダとおそろしの森』、全米で大ヒットを記録したヒーロー・アクションシリーズ完結編『ダークナイト ライジング』など夏の目玉作品がズラリ!
「沢尻エリカ約5年ぶりの新作映画、蜷川実花監督2作目、岡崎京子作品初の映画化!」と公開前から話題性ばっちりの本作。でも、何といっても気になるのは沢尻エリカがどこまでやるのか。そんなファンの期待を沢尻は裏切らなかった。「見たいものを見せてあげる」というセリフ通りに冒頭からバストトップをあらわにし、窪塚洋介らとの激しい濡れ場に、寺島しのぶとのレズシーン……と想像以上に過激なシーンの数々に、本作へ賭ける並々ならぬ思いと役者魂を感じる。好き勝手にああだこうだ言われ、もてはやされては捨てられる厳しい世界で、何とか生き残ろうとギリギリの精神状態でもがくトップスター・りりこを見事に熱演しており、彼女以外には考えられないほどのハマリっぷり。また、そんな女性たちを写真家として間近で見てきた蜷川実花だからこそ、これほどリアルに描けたのかもしれない。もちろん、彼女ならではの独特なビジュアルセンスは本作でもいかんなく発揮されており、どのシーンをとっても絵になる鮮やかで美しい映像に仕上がっている。(編集部・中山雄一朗)
『モテキ』『苦役列車』とダメ男役が続いた森山未來。だが、同じダメ男でも、ここまで違うものかと驚いた。『モテキ』の藤本幸世は草食系男子だったのに対し、『苦役列車』の北町貫多は思い切り肉食系男子。それは、『モテキ』が描く現代と、『苦役列車』の原作者・西村賢太が青春時代を過ごした1980年代の対比のようで面白い。路上に鼻水を飛ばしやさぐれる貫多には思わず引いてしまったが、そんな貫多に接する高良健吾演じる真っ直ぐな男・日下部正二と前田敦子演じる“不思議ちゃん”桜井康子と共に貫多に触れていくうちに、彼から目が離せなくなっていく。康子のほか、マキタスポーツ演じる高橋岩男など、原作にはないキャラクターも物語を引き立てており、キャラクター描写が実に秀逸。映画には向かなかったであろう私小説を後味のよい青春映画に仕立てた山下敦弘監督のセンスが光る。『モテキ』よりさらにぶっとんだ森山の演技に興じつつ、“山下ワールド”を体感してほしい。(編集部・島村幸恵)
タイトルからして「いったい、森の中に何が……?」と好奇心をかき立てられる本作は、ひと言でいえば、娘の花嫁修業に余念がない母親と、口うるさい母親に反抗心を募らせる娘の親子ゲンカの話。そんなどこにでもあるような話を、大風呂敷を広げて壮大なアドベンチャーに仕上げてしまうのがピクサーのすごいところ。イイ加減な魔女に教えられた魔法で、誤って母親を熊に変えてしまうヒロインのメリダ。突然、熊として生活しなければならなくなった母親はわけがわからず、「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」とパニくり、すっかり立場が逆転した母と娘の掛け合いが抜群の笑いとスリルを生む。特殊な環境に置かれることで、お互いに異なる価値観を持つ母娘が歩み寄っていく姿が何とも心地いい。奇妙で恐ろしい試練をくぐり抜けた二人が迎える結末から、普段は気付かないけれど、「母親の愛」ほど強く崇高なものはないと改めて痛感させられる快作だ。(編集部・石井百合子)
孤高の映画作家クリストファー・ノーラン監督が新「バットマン」シリーズ完結編となる今作で見せたのは、絶望と孤独を抱える主人公ブルース・ウェイン=バットマン(クリスチャン・ベイル)のヒューマニズムだった。新たな敵ベイン(トム・ハーディ)との壮絶な死闘もさることながら、前作『ダークナイト』で愛する女性レイチェルを失い、バットマンを8年間封印してきたブルースが現実と向き合うことで増加した切実なドラマが新鮮で、精巧なVFXを駆使し観る者の目をくぎ付けにするアクションだけに頼らないノーラン監督の手腕はさすがのひと言。どん底から覚醒するバットマンの生きざまはシンプルにかっこよく、オスカー受賞者ハンス・ジマーが手掛けた低音の音楽が全編において効果的に働いているのも印象的。全世界興行収入10億ドル以上をたたき出した前作から膨れ上がった「期待」という名のハードルを軽々と越えた傑作で、アン・ハサウェイ演じる注目のセリーナ・カイル=キャット・ウーマンの“ツンデレ”ならぬ“ツンツン”ぶりを観るだけでも損はないかも。(編集部・小松芙未)
成人指定作品であり、ほかの作品とも明らかに毛色が違うが、どうしても注目していただきたくご紹介したいのが、この『ムカデ人間2』。人間を口と肛門でつなぎ合わせる常軌を逸したアイデアが話題を呼び、日本でも異例のヒットとなったホラー映画の続編だ。『ムカデ人間』を観て妄想にふける中年男マーティンが、自分だけのムカデ人間を誕生させようと凶行に及ぶ姿を描く。前作と違い、麻酔もなく、大工道具を使用した手術シーンを克明に描くなど、手加減ナシの暴力描写がさく裂。また「ムカデ人間」にされる人々の種類も千差万別で、悪人も善人も平等に地獄にたたき込まれるその不道徳さにも目を見張る。とりわけ目を引くのは、狂気にかられる主人公を演じたローレンス・R・ハーヴィーの演技。醜く太り人とまともなコミュニケーションはとれず、常に挙動不振なマーティンは映画史上に残るといっても過言ではない不快なキャラクター。ぜひ、映画館に足を運んでその圧倒的な存在感を堪能してほしい。(編集部・入倉功一)