~第45回 2012年7月~キリアン・マーフィ主演のスリラー、『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシクのイベント、ジェイソン・ビッグス主演の実話映画
INTERVIEW@big apple
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今月は、アイルランドの若手演技派;キリアン・マーフィ主演の『レッド・ライツ(原題)/ Red Lights』、ニューヨーク・アジア映画祭に参加した韓国の大スター、チェ・ミンシク、『アメリカン・パイ』のジェイソン・ビッグスが出演した『グラスルーツ(原題)/ Grassroots』を紹介します。
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『レッド・ライツ(原題)/ Red Lights』
数々の謎めいた超常現象を調査し、そのからくりを暴いてきた心理学者のマーガレット(シガニー・ウィーヴァー)と助手のトム(キリアン・マーフィ)は、世間から姿を消していた霊能力者の調査に乗り出すが、その先には思わぬ事実が待ち受けていたというサスペンススリラー作品。『[リミット]』のロドリゴ・コルテスが監督・脚本を手掛けている。
キリアン・マーフィ、ロドリゴ・コルテス
この日は、『レッド・ライツ(原題)/ Red Lights』の取材以外にインディーズ映画界で注目の若手監督デュプラス兄弟(マーク・デュプラス&ジェイ・デュプラス)の取材が午後に控えていたため、バッティングしないように事前にパブリシストに連絡したものの、二つの取材の空き時間がわずか1時間程度となってしまった。先に行われるこの映画の取材がちゃんと予定通りに進むか気になっていたが、当日現場を訪れるとキリアン・マーフィとロドリゴ・コルテス監督を同時にインタビューする形態になっていたため、胸をなで下ろした。間もなくキリアンとロドリゴがラフな姿で登場し、席に着いた。開口一番、ある記者がこの映画の製作意図について聞くと、ロドリゴは「僕の周りで起きた超常現象ってワケじゃないよ!」とスパニッシュ系アクセントの茶目っ気のあるジョークで記者たちを笑わせた。一方キリアンは、予測できない展開とロドリゴが手掛けた『[リミット]』が気に入ったため、出演する決意をしたそうだ。
この映画は最後に大どんでん返しが起こる設定になっていて、そのことについてポーランド出身の女性記者が聞き出そうとしたところ、記者たちが「オウオウ!」と驚いた声を出し、その後にロドリゴが「この映画の記事を書くときは、注意してほしいね!」と、ラストの種明かしをしないよう念を押した。また、ロドリゴはかつてペネロペ・クルス主演&アレハンドロ・アメナバール監督の『オープン・ユア・アイズ』のビデオクリップを撮影したことがあったようで、「アメナーバル監督から影響を受けたのか」という問いに対し、「彼とは年も近いんだけど、どちらかというと僕はスティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシ監督から、より影響を受けていると思う」と明かした。撮影現場で実際に超常現象が起きてしまった『ポルターガイスト』のエピソードが有名だが、この映画でもそういったことが起きたのかという質問については、「カナダで撮影していた際にキリアンとロドリゴが滞在していた場所で、偶然カモメが窓に突っ込んできたことがあったくらいで、超常現象はなかったよ」とロドリゴが答えた。キリアンは、「共演したロバート・デ・ニーロは寛大で温かい人物」と感じたそうだ。また、超常現象については「基本的に疑い深く、理にかなったことだけを受け入れる性格だけど、オープンになって書物などを読むこともある」という。
最近、キリアンはワンマンショーの舞台に挑戦したらしく、それを鑑賞した記者が、「今まで観た中で、最も素晴らしい演技だった」と絶賛すると、キリアンは照れた顔で、「あなたにはもっと頻繁(ひんぱん)にインタビューしてもらいたいよ!」と喜んでいたのがおかしかった。共演した若手女優エリザベス・オルセンについては「彼女は才能にあふれていて、僕がアドバイスをするのはおこがましい」とのこと。最後にキリアンは、一般人からよく『インセプション』の内容について尋ねられるらしいが、そのたびに「よくわからないんだ」と答えているそうだ。
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チェ・ミンシクの過去の作品
劇高校在学中、団「根」に在籍していたチェ・ミンシク。彼はテレビドラマ「絆」や「白夜」で頭角を現し、映画『シュリ』でブレイクした後、カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞した『オールド・ボーイ』で世界的に注目された。近年も『ブラザーフッド』や『悪魔を見た』といった話題作に出演し続けている。
チェ・ミンシク
ニューヨークで毎年開かれるニューヨーク・アジア映画祭で韓国の人気俳優チェ・ミンシクが参加すると聞いた僕は、真っ先に取材依頼をした。当日、取材場所のリンカーン・センターにあるウォルターリード・シアターを訪れると、パブリシストからは合同取材と聞いていたが、なぜか席は記者会見の状態に並べられていた。さらにアメリカの記者と韓国の記者が、半々に分けられており、僕はアメリカの記者として参加することに。チェ・ミンシクは英語を話せないため、通訳をつけて取材に応じることになったのだが、懸念していたのは、韓国人記者の質問内容を通訳者が英語に翻訳、さらにチェ・ミンシクの返答も訳すとなると、翻訳だけで相当な時間をロスしてしまうことだった。
早速、チェ・ミンシクが現れると会場は拍手喝采に包まれた。まずニューヨークの雰囲気について聞かれると、「(夏だから)暑いけど、年配のアメリカ人のファンから声を掛けられ、ファンの熱気も感じたよ!」と笑顔で答えた。次にある記者が、『オールド・ボーイ』では彼ふんする主人公がおのを持って追いかけるシーンを引き合いに出し、「今日は暑すぎて、あなたのために斧を会場に持ってこられなかったのが残念だ」と言って、会場を沸かせた。アメリカでは『オールド・ボーイ』をきっかけに知名度が高まったミンシクだが、「韓国でもやはりあの映画の印象が強いのか」という問いには、「韓国では日本のコミックを原作にした題材が新鮮で、むしろ韓国の繊細な国民性にマッチしたほかの作品の方が、受け入れられているんだ」と明かした。『オールド・ボーイ』がヒットした理由については、「邪悪なことや不幸なことは、ほんの不注意で発した言葉から巻き起こることがあり、それが死をもたらすこともあるという東洋独特の悪に対する概念が、西洋人にも理解してもらえたからだろう」と答えた。出演する映画の選択については、「自分がストーリーに飛び込んで、そのキャラクターとして生活をしてみたいと思えたときに、出演を決める」という。肉体的にハードなアクションシーンを多くこなす彼だが、「年齢的にも大変ではないか」という質問には、「いつもハードなアクションシーンをやるたびに、もう二度とやりたくないと思うんだが、いつの間にかそんなことも忘れてやってしまうんだ(笑)。全然スマートじゃない自分、そういったアクションシーンのある映画への出演を引き受けて後悔することもあるけど、映画に必要なシーンなのだからと認識しているよ」と答えた。
これまで一番影響を受けたのは大学時代の演劇の先生で、優れた演技に誘導してくれたそうだ。そのほか影響を受けた人物に、フランシス・フォード・コッポラ監督、俳優のアル・パチーノ、ジョー・ペシ、ショーン・ペンを挙げた。アメリカ版『オールド・ボーイ』へのリメイクについては賛成だそうで、「主演のジョシュ・ブローリンとはぜひ酒を酌み交わしたい」と話していた。記者会見が終わると、外に並んでいたファンに対して、彼は一人一人にサインをしたり、写真を撮ったりしていた。人気のある俳優というのは、こういうファン・サービスを自然にできる人なんだと思った。
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『グラスルーツ(原題)/ Grassroots』
音楽雑誌のライターだったフィル(ジェイソン・ビッグス)は、ある日解雇され無職になってしまうが、風変わりなジャーナリストの友人グラント(ジョエル・デヴィッド・ムーア)が突如シアトル市議会議員に出馬することを決意したことで、グラントのもとで選挙のキャンペーンを手伝うことになるという実話を基にした作品。
ジェイソン・ビッグス、スティーヴン・ギレンホール
人気コメディーシリーズ『アメリカン・パイ』で名をはせたジェイソン・ビッグスと、あのジェイク・ギレンホールとマギー・ギレンホールの父親であるスティーヴン・ギレンホールに取材ということで、楽しみだった。まずは、ジェイソン・ビッグスから。今年は大統領選もあるということで、「(映画の公開が)パーフェクトなタイミングだね」と記者が言うと、ジェイソンは「大統領の共和党の有力候補ミット・ロムニーはめちゃくちゃな人だから、僕が代わりに立候補してオバマと対決するよ!」とジョークを飛ばして記者たちを笑わせた。だが、ひとたび政治の話となると真面目な顔になり、「ほとんどの人は個人でも(社会に)変化をもたらすことができるということに関して無知なんだ。そんな個人が(社会を)変化させていくのが、この草の根政治(民衆の日常的な政治参加によって支えられた現代の民主主義のありかた)なんだ」と熱弁を振るった。さらに監督のスティーヴン・ギレンホールは各地で行われたこの映画の試写会に、ある都市の市議会議員候補を招待していたそうで、映画観賞後に現在の政治に関する議論を交わし、その後議員候補と共にコーヒーを飲みに行ったそうだ。ジェイソンが演じた実在の人物フィル・キャンベルについては、「フィルのモデルとなったグラント・コグスウェルとは対照的に、控えめで落ち着いた人。映画の舞台はシアトルだけど、今はニューヨークに住んでいるよ」とのこと。シリアスな題材であるものの、監督のスティーヴンはコメディー調に描き、これまでの派手で大げさな演技とは違った、控えめな演技をさせてくれたそうで、「どんなシチュエーションでもコメディーの要素を探しながら演じていたんだ」と話した。
続いて、スティーヴン・ギレンホール監督。確かに笑顔は、どこかジェイク・ギレンホールに似ている気がした。まず最初に、劇中に登場する911同時多発テロの映像について聞かれると、「911同時多発テロを扱った映画の大概はオフィスやビルを描いた映像が多く出てくるけど、実際には多くの人たちはあの惨事をテレビで観ていたと思うんだ。だから、この映画を観た人は生々しい衝撃を体感することになるだろうし、胸が突き刺されるような感覚を覚えると思う」と熱く語った。ただ、製作資金の投資者の中には、この映像に反対した者もいたそうだ。スティーヴンは、政治家ジョージ・マクガヴァンの選挙活動を手伝ったこともあり、常に政治に興味を持っていたらしいが、フェデリコ・フェリーニの映画に感銘を受けて、映画制作への道に進路を変えたのだとか。主演のジェイソン・ビッグスについては、『アメリカン・パイ』シリーズしかり、ふざけたキャラクターを演じることが多いが、シリアスな役もできることを証明したかったのだという。最後に、「映画に子どものジェイクやマギーをキャスティングすることは考えなかったのか?」という問いには、「彼らが若い頃は2、3本僕の作品に出演していたけど、強制的に出演させたことはなかった。それに、彼らが一定の年齢に達したら共に仕事をするのはやめようと思っていたんだ」と締めくくった。