第1回 韓国で開催の全州(チョンジュ)国際映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
世界の各地で行われているさまざまな映画祭の情報を、現地の空気とともに届ける「ぐるっと! 世界の映画祭」。第1回目となる今回は、ナビゲーターに小林政広監督を迎え、韓国で開催された全州(チョンジュ)国際映画祭の魅力に迫っていく。
新鋭発掘に先見の明あり
デジタル映像と自主製作に焦点を合わせ、2000年にスタートした全州国際映画祭。第13回の今年は4月26日~5月4日に開催され、広報大使を人気K-POPグループ2AMのイム・スロンと女優ソン・ウンソが務めたことでも話題となった。同じ韓国の釜山国際映画祭は商業色作品も上映するが、こちらはアート系で、次世代を担う新進作家が中心だ。
毎年、アジアの3監督に同予算で映画製作を依頼するデジタルプロジェクト「三人三色」が有名で、過去には日本から塚本晋也、行定勲、河瀬直美監督らが参加した。2007年からはデジタルプロジェクトの短編版「SHORT!SHORT!SHORT!」も始動。こちらは韓国の新鋭が対象で、2011年には『息もできない』のヤン・イクチュン監督らが選ばれた。
小林政広監督が見た全州国際映画祭
今回、インターナショナル・コンペティション部門の審査委員長を務めたのは『ギリギリの女たち』の小林政広監督。第4回に続き、2度目の参加だ。そんな小林監督が現地からレポート。「ディレクター(ミン・ビョンロク)は同じだがスタッフはだいぶ変わり、イベントも増えて派手になった」と小林監督は映画祭の成長ぶりに目を見張る。
小林監督は審査員の仕事をしつつ、招待上映された『ギリギリの女たち』の舞台あいさつと精力的に活動。会場は若者でにぎわい、『ギリギリ~』の上映には女子高生36人が課外授業の一環で訪れる一幕もあった。小林監督は「彼女たちは、今は作品に共感することはないと思うけど、いつかギリギリの状態になったときにこの映画を思い出してくれたらうれしい」と語る。
審査の決め手は新たな表現
インターナショナル・コンペティション部門の最高賞はイタリアのアレッサンドロ・コモディン監督『サマー・オブ・ジャコモ(英題) / Summer of Giacomo』。ろうあの青年と幼馴染が避暑地で戯れる姿を淡々ととらえた作品だが、その説明のなさが逆に観る者の想像をかき立てる。
小林監督は「審査員として作品を観るときは、映像センスを重視しますね。『~ジャコモ』はドキュメンタリーかと見まがうほど。特別審査員賞のフィリピン映画『エクス プレス(英題) / Ex Press』もカラーとモノクロを使い分けた実験的な作品だった。みんな、デジタルカメラを武器に自由に撮った作品ばかりで、自分は撮る前にあれこれ考え過ぎなんじゃないかと思ったほど。刺激になりました」。
韓国屈指のグルメタウン
全州は「食は全州にあり」といわれるほどの韓国屈指のグルメタウン。全州ピビンバやコンナムルクッパ(豆もやしスープご飯)で知られるが、もれなく付いてくる定番おかずの皿数も多く、都心より低価格なのも魅力的。また、自慢の全州マッコリを提供するマッコリ居酒屋も多数ある。小林政広監督が足しげく通った店は以下の2軒。
●咸興冷麺
映画祭会場が密集しているシネマタウンにある人気店。通りから奥まった韓屋の建物も味がある。
●映画居酒屋「星たちの故郷」
韓国のイ・チャンホ監督の代表作『星たちの故郷』をイメージしたレトロな内装で、映画のポスターや看板が気分を盛り上げてくれる。映画祭期間中は関係者のたまり場に。
仁川国際空港から約4時間半!
ソウルや釜山からも少し離れた位置にある全州だが、仁川国際空港から全州高速バスターミナルまでリムジンバスが出ている。約4時間半かかるが、ディープな韓国を知るには絶好の機会。鉄道ならソウルの龍山(ヨンサン)駅からセマウル号で約3時間、KTXなら2時間ほど。
プログラマー解任で大揺れ
閉幕後、映画祭のプログラマーであるユ・ウンソンが解任された。会見で地元記者から「もっと市民が参加できるお祭り的要素が必要では」の質問に「映画祭は映画に焦点を置けばいい」と切り返し、さらにツイッターで批判したのが原因だ。
同席していた小林監督も「ディレクターが今後はイベントに力を入れたいと話した後のプログラマーの立場を超えた発言に不快になりました。急成長を遂げた全州は一層、市民を巻き込む努力を強いられていると思う」と話した。(取材・文:中山治美)