サードシーズン2012年8月
私的映画宣言
ムシ暑い夏に秋公開作の仕事をしなければならないのは映画ライターの宿命。そんなこんなで期待作『ボーン・レガシー』に主演するジェレミー・レナーに取材したが、セレブ生活とは無縁の地に足が着いた姿勢に好感を抱いた。
●8月公開の私的オススメは、地に足の着いた和製青春映画『桐島、部活やめるってよ』
どんなに嫌なことがあっても映画館にいる2時間は現実を忘れられる特別な時間であってほしいですし、『ダークナイト ライジング』のようなすてきな映画が現実に脅かされるようなことは決してあってはならないと思うのです。
●8月公開の私的オススメは『テイク・ディス・ワルツ』
8月発売の訳書が無事脱稿したので、7月は国外脱出。ニューヨークでバケーションを満喫後、ファンタジア映画祭の取材でモントリオールに初上陸してきました。
●8月公開の私的オススメは、サラ・ポーリー監督こん身のリアリスティック・ラブストーリー『テイク・ディス・ワルツ』。
『るろうに剣心』で大友啓史監督に取材。
NHK大河「龍馬伝」を演出した人ならではの話もある中、「作品は違うけれど、もしも岡田以蔵(佐藤健)が生きていて、岩崎弥太郎(香川照之)が明治維新を経て間違った生き方をしたら……と思って観ると、大河ファンには格別なものになるかも……」ってことでした。
●8月公開の私的オススメは、節電の夏対策にオススメの『THE GREY 凍える太陽』。ワイルドすぎて凍るぜい。
ダークナイト ライジング
鬼才クリストファー・ノーラン監督が、『ダークナイト』に続いて放つアクション大作。8年間 平和を保ってきたゴッサム・シティを狙うベインが出現し、再びダークナイト(バットマン)と激しい攻防を繰り広げる様子を映し出す。今回も主演のクリス チャン・ベイルをはじめ、マイケル・ケインやゲイリー・オールドマンらが続投。新キャストのアン・ハサウェイやトム・ハーディらと共に見せる、最終章にふさわしい壮絶なストーリー展開に熱狂する。
[出演] クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン
[監督] クリストファー・ノーラン
ハリウッドはアメコミ頼みで焼き直し作品のオンパレードだけど、本作は格が違う! 冒頭のスカイアクションからラストまで独創的なアクションの連続でしびれっぱなし。特に今回はキャットウーマンが物語のカギとなるが、アカデミー賞の司会でも酷評された大味ハリウッド女優ハサウェイを、ここまで憎めないほどの小悪魔に仕立て上げることができた監督がいただろうか。ベテラン俳優がこぞってノーラン作品を切望する理由がよくわかる。そして小粋なラストがまた……。完璧!
続編であることにとらわれないドラマや、善悪のギリギリのせめぎ合い、悪役の魅力といった要素がかみ合った『ダークナイト』は「奇跡」だった。これに匹敵する手応えを本作が与えてくれるかというと、正直ツラい。テーマや悪役のパンチ力が薄れた感。しかし決してつまらないワケではなく、むしろエンタメ映画としては高水準。ストーリーは予測不可能だし、ビジュアル面での吸引力も抜群だ。期待のハードルを上げ過ぎないこと、そして『バットマン ビギンズ』を復習しておくことをお勧めしておきたい。
バットマンのマント、キャットウーマンのヒール……衣装、小物に至るまで何もかもが寸分の狂いもなく、究極のかっこよさが計算し尽くされている。キャスティングも完璧。アン・ハサウェイのキャットウーマンスーツの着こなしがとんでもなくセクシーだが、あのおっぱいとお尻は芸術作品だ。もしかしたら監督はトム・ハーディの腕の太ささえ、ミリ単位で仕上げさせたかも。ストーリーにも萌えた。ブルース・ウェインが3度、立ち上がるところで3度、目頭が熱くなった。この映画で勇気をもらう人、きっと多いはず。
シリーズのフィナーレにふさわしい荘厳でスケール感あふれる大作である。エンディングのボルテージの上げ方もさすが。初参戦組も含め俳優たちのアンサンブルも見事だ。しかし、クライマックスのツイストがあまりにも凡庸だし、オープニングのつかみも迫力不足。苦悩するストイックなヒーロー=バットマンは己の信念を貫き誰よりもリスクを背負うが、キャットウーマンやジョン・ブレイクの活躍の方が目立つという皮肉。ドラマもアクションも、もう少しキレが欲しかった。
怪人ベインがやらかす驚異の空中スタントシーンからアクション作品としての気合十分。バットポッドの壮絶チェイスには血沸き肉躍り、スタジアム陥没には目を疑うなど、前作をしのぐスケールと迫力に圧倒される。一方で、ブルースの心の彷徨(ほうこう)がドラマの鍵で感動的だ。ただ満身創痍(そうい)になった彼のリハビリはとんでもないドS整体、むちゃ無謀!(笑)。とはいえ、新キャラだけでなく、前2作のあんなキャラこんなシーンが1本の糸に紡がれ、バットマンの物語に有終の美を飾る。ノーランらしく、キッチリだけど、ちょいウエットな演出。
プロメテウス
『ブレードランナー』『グラディエーター』などのヒット作や名作を数多く手掛けてきた名匠リドリー・スコットが、自身のアイデアをベースに壮大なスケールで放つSF巨編。謎に包まれた人類の起源を解き明かす鍵が残された惑星に降り立った科学者 チームに待ち受ける、驚がくの真実と恐怖を活写していく。『ミレニアム』シリーズのノオミ・ラパスや『SHAME -シェイム-』のマイケル・ファスベンダーといった実力派俳優が顔をそろえている。予測不能のストーリー展開に加え、作中に登場する惑星の異様な世界観にも圧倒される。
[出演] ノオミ・ラパス、マイケル・ファスベンダー
[監督] リドリー・スコット
『エイリアン』の前日譚(たん)じゃないと言いつつ、そこはかとなく漂わす関連性。そして、古代壁画に同じサインがあって地球人を誘うという冒頭のアイデアはロマンを感じさせるが。きっとR・スコット信奉者はあれこれ深読みするのだろうが、結局は宇宙で異星人と死闘を繰り広げる展開はどれも同じに見えまして(苦笑)。『はやぶさ/HAYABUSA』はダメだったけど、やっぱり宇宙モノに頼らざるを得えない20世紀フォックスの台所事情を案じてしまいます。
リドリー・スコットの某代表作の前日談的な要素や、人類創世の秘密といった要素はとっかかりに過ぎない。むしろ創造主を「殺す」(=「乗り越える」の意)というテーマを含んだドラマが妙味。父親に先立たれたヒロインの創造主への挑戦はもちろん、シャーリーズ・セロンふんする女性重役の、直接的な「創造主」である父親への複雑な思いも興味深く見た。サスペンスとしては説明不足で、予備知識ナシで観ると意味不明な点もあるが、それでもビジュアルの迫力で一気に見せ切る。映像派スコットの面目躍如。
人類の起源を目撃しようと出掛けたら、エイリアンの起源を知らされ、それはそれで興味深い。ちっちゃなノオミ・ラパスとデッカいシャーリーズ・セロンはどちらも手段、選ばず、生きることへの執念がすさまじい。女の強さ、怖さを実感。特にノオミのシガニー・ウィーヴァーをほうふつさせる戦いっぷりがいい。残念だったのはマイケル・ファスベンダーの意外な足の短さ。人間役でないため、かなり興ざめ。シルエットは大事。『ダークナイト ライジング』のすごさを改めて感じる。
ある意味、問題作。光の粒子のダンスが美しいホログラム映像など3D効果は『アバター』以上に画期的、これはスクリーンで堪能すべき作品。今ハリウッドでひそかに流行の「帝王切開シーン」など衝撃度の高い映像表現も少なくない。が、前後の脈絡のない、表面的でご都合主義的なシークエンスの連続で、ストーリーが一貫性に欠けるのが残念。最初から最後まで「根拠のない憶測を基に話が進む」強引な展開は一貫しているのだが。某性器映画の前日譚(たん)ではなく、独立したオリジナル作品を志すべきだった。
山海塾みたいな白塗り大男の登場でのっけから、何じゃこりゃと興味をかき立ててくれるリドリー・スコット。惑星の異様にして壮大な光景や洞窟の中にも巨匠らしさがたっぷり。さすが仕掛けは素晴らしい。ただ、肝心のドラマは肩透かし。恐怖も衝撃も薄く、キャスティングもマイケル・ファスベンダーのアンドロイドなどハマっちゃいるけど想定内。ノオミ・ラパスは宇宙でもタフで、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』並みの暴れっぷりで、ヒロインとしては色気なさすぎ。その割を食ったシャーリーズ・セロンがもったいない。
るろうに剣心
たぶん大友啓史監督は「龍馬伝」のテイストでよろしく! と依頼され、仕事を全うしたと思う。「龍馬伝」で人斬(き)り以蔵が好評だった佐藤健は、またも女性ファンの期待を裏切らないかっこよさだ。しかし、香川照之は『カイジ 人生逆転ゲーム』、綾野剛は『GANTZ』とデジャビュ感あり。主人公の心情を丁寧に描こうとも、映像が現実とかけ離れているため身に迫る切なさを感じないのだ。日本では、漫画原作モノを映画化する限界があるのかも。製作体制が変わらない限りC・ノーランは生まれないな。
原作もアニメ版も知らない身としては先入観なく楽しめた。剣げきの立ち回りに格闘を組み込み、ハンディカム撮影でスピード感&臨場感たっぷりに見せるアクション演出に目を奪われる。「不殺(ころさず)」の点でドラマに一本筋が通っている点にも好感が持てた。が、主人公の苦悩がイマイチ伝わってこないのは弱点。アクション面で生き生きとした躍動感を与えている点で佐藤健は評価したいが、凄惨(せいさん)な過去を背負ったキャラクターには見えない。もう少し年配の俳優を起用すべきだったのでは。
時代劇ではないのだろう。侍エンターテインメントとか、そういう新ジャンルにカテゴライズしたくなる。アニメに劣らないスピード感のアクロバティックな刀アクションを人間がやる臨場感に大興奮。また佐藤がいい意味でせりふがない役が似合う。微細な表情とたたずまい。周りのキャラが騒がしければ騒がしいほど、浮き彫りになるクールさ。ついずっと黙っていればいいのにと思ってしまった。彼はもちろん武井咲、青木崇高、綾野剛らの旬の勢いはまぶし過ぎるほど。
マーシャルアーツテイストのスピーディーでアクロバティックなアクションと、華麗な殺陣のダイナミックな融合が秀逸な、疾風怒とうの骨太ハイブリッドアクション。超高速ジャップショットをはじめ、エキサイティングかつ印象的なシーンも少なくなく、昨今の和製アクション映画の中では規格外のハイレベルといえる。ドラマの展開がスローなのと、時々セリフが冗長で説明過多になるのは問題だが、役者たちの熱演も光る佳作。