~第46回 2012年8月~ウィリアム・フリードキン監督の『キラー・ジョー(原題)/Killer Joe』、フランク・ランジェラ主演の『ロボット&フランク(原題) / Robot & Frank』、メリル・ストリープ主演の『ホープ・スプリング(原題)/ Hope Spring』
INTERVIEW@big apple
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今月は、ウィリアム・フリードキン監督の『キラー・ジョー(原題)/Killer Joe』、フランク・ランジェラ主演の『ロボット&フランク(原題) / Robot & Frank』、そして最後はメリル・ストリープ主演の『ホープ・スプリング(原題)/ Hope Spring』を紹介します。
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『キラー・ジョー(原題)/ Killer Joe』
母とケンカした22歳のクリス(エミール・ハーシュ)は、母と別れて再婚した父アンセル(トーマス・ヘイデン・チャーチ)の妻シャーラ(ジーナ・ガーション)と妹ドッティ(ジュノー・テンプル)の暮らす家に転がり込むが、麻薬密売組織からの借金が返済できずに追われる身となる。命の危険を感じたクリスは、借金返済のために実の母を殺害して保険金を手に入れようと企て、警官ジョー(マシュー・マコノヒー)を殺し屋として雇うことを決意するが、彼の思惑通りにいかなくなっていくというドラマ作品。
ウィリアム・フリードキン、トレイシー・レッツ、マシュー・マコノヒー、ジーナ・ガーション
『キラー・ジョー(原題)/ Killer Joe』は、巨匠ウィリアム・フリードキン監督の6年ぶりの新作だが、ニューヨークの宣伝会社を通しての取材は用意されていなかった。ところが、友人の記者からリンカーン・センターで同作のイベントが行われることを聞いて、リンカーン・センターのパブリシストと連絡を取り、チケットを手に入れて取材することとなった。当日、会場を訪れると予想通りフリードキン監督のファンで満席だった。まず、取材前に映画の上映が行われた。マシュー・マコノヒー演じる殺し屋兼警官役がかなり強烈で、ジーナ・ガーション演じる女性シャーラを痛めつけるシーンは、スクリーンから目を背ける女性もいたほどだった。まさに、フリードキン監督らしい作品ともいえる。
そして上映後、Q&Aのためにスタッフ&キャストの4人が一列になって登場するとフリードキン監督が開口一番、「これからみんなで歌を歌うから」とジョークを飛ばした。続いて、原作者で脚本家のトレイシー・レッツは、この原作を約20年前に執筆したそうだが、内容があまりにも過激であったため、今になってようやく日の目を見ることになったことを明かした。次にフリードキン監督が映画『Bug / バグ』でもタッグを組んだ脚本家トレイシーとの仕事について聞かれた際、突如音声を調整している部屋の人たちの雑音が会場に流れてきて、フリードキン監督は「誰か僕のためにバンドでも呼んできてくれたのかい?」と機転を利かせてハプニングを切り抜けた。さらに彼は、「この原作はめったに出会うことのない貴重なものだ」と語った。ちなみに、脚本家のトレイシーは舞台劇「バージニア・ウルフなんかこわくない」に俳優として出演していることを話したフリードキン監督は、「今ここでトレイシーの舞台の話をするのは、あとで彼からタダで舞台のチケットをもらおうと思っているからなんだ」とちゃかしていた。これまで三枚目の役柄が多かったマシュー・マコノヒーは、今作のキャラクターを演じる上で、「感情を外に出さずまるでビジネスマンのような面持ちで殺しのシーンを演じた」と話した。確かに、今回の彼の演技は、今までのイメージを払拭するのに十分だと思った。
一方、シャーラを演じたジーナ・ガーションは、マシュー演じるジョーに殴られるシーンについて、「トーマス・ヘイデン・チャーチ演じる夫のアンセルは、妻シャーラの浮気を知っていたせいか、彼女がジョーに殴られるのを黙って見ているだけ。ジョーから声を掛けられても、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていて、笑えるシーンではあるけれど、わたしは彼らの方を見ず、笑わないように恐怖を表現するのが難しかった」という。撮影期間は21日間と短かったようで、フリードキン監督とはキャラクターや俳優の動きについて話し合ったが、ほとんどリハーサルなしで撮影することでリアリティーを追求したそうだ。それは、ハリウッドの大会社が時間をかけて制作する映画が嫌いであるからでもあるらしい。最後に映画制作を志す人たちへのコメントを求められたトレイシーが、「誰かから電話が掛かってくるのを待っているのではなく、常に自分で何かをプロデュースしていくことを考えるべきだ。自作自演の舞台劇でも何でも良いから」とアドバイスを送った。
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『ロボット&フランク(原題)/ Robot & Frank』
舞台は近未来。かつて宝石泥棒だったフランク(フランク・ランジェラ)は、現在隠居生活を送っていたが、アルツハイマー症の兆候が現れたことを懸念した息子ハンター(ジェームズ・マースデン)が、フランクのためにロボットを購入して身の回りの世話をさせることに。フランクは賢いロボットに徐々に関心を示し、ついにはロボットと手を組んでの宝石強盗を計画するが、一波乱起きてしまうというドラマ作品。リヴ・タイラー、スーザン・サランドンらが出演し、今作が長編デビュー作となるジェイク・シュライアーがメガホンを取っている。
フランク・ランジェラ、スーザン・サランドン、クリストファー・D・フォード、ジェイク・シュライアー
この日は、名優フランク・ランジェラ、スーザン・サランドンの二人が参加するということもあって取材依頼をした記者は多かったようだが、その中から6、7人の記者が選ばれて取材することになり、僕は運良く入れた。取材現場で記者仲間と談笑していると、パブリシストが入ってきて「インタビューは15分~20分くらいにするから!」と言ってきた。初めにフランク・ランジェラとジェイク・シュライアー監督を同時にインタビューする予定だったが、ランジェラはこの取材の前に数社の単独インタビューを行っていたようで、それがまだ終わらず、取りあえずジェイク・シュライアー監督からインタビューを始め、途中からフランク・ランジェラが参加するという段取りになった(たまにスケジュールが過密すぎるとこういうケースがあるが、嫌な予感がした)。ただ、俳優のスケジュールは分刻みで組まれていることが多いため、僕らの取材の後にも、別のテレビ番組やラジオなどの取材が行われるかもしれないことは予測できた。そしてジェイク・シュライアー監督の取材が開始されたが、10分待ってもランジェラは現れない……。ひょっとして10分足らずで彼をインタビューすることになるのかと焦り始めていた矢先、ようやくランジェラが登場!
ちょうど、記者がシュライアー監督にランジェラのキャスティングについて質問していたため、まずランジェラは「ジェイクは俺の悪口を言っていなかったか?」とジョークで応えた。その後、シュライアー監督とのタッグについて聞かれると、「本当に悪夢のような撮影で、彼と過ごした時間は苦痛だった、今も苦痛だけど残り15分間のインタビューぐらいは彼と共に座っていることにしよう!」とさらにふざけたのがおかしかった。シュライアー監督は、「ロボットに関しては、2人の女性が中に入って動き、シュライアー監督とランジェラの甥(ランジェラのアシスタントをしている)が吹き替えを担当していた」と話した。この映画は近未来が舞台となっているが、最新のテクノロジーについてランジェラは、「最近娘に携帯メールの使い方を教えてもらって、やっと使いこなすことができた」という。と、これまではスムーズにインタビューが進んでいたのだが、ある記者が、高齢であるフランクに対して、「主人公のように、あなたも物忘れをすることがあるのか?」と少しぶしつけな質問をしていたが、彼は「まだそういった兆候はないよ」と笑顔で答え、シュライアー監督に「ところであなた誰だっけ?」とトボけて笑いを誘った。そして、僕が日本のロボットの介護問題にまつわる質問をして終わった。
次にスーザン・サランドンが、脚本家のクリストファー・D・フォードと共に登場。まず、共演したランジェラについてスーザンは、「彼は常にどのシーンでも映画の全体像を想像しながら演じる素晴らしい俳優」と褒めたたえていた。そしてスーザンにも最新のテクノロジーについて質問すると、「子どもたちが電話を返してこないからよくメールをするけど、Facebookなんかはやらない」とのこと。また、彼女になりすましたアカウントがあるそうで、困っていることも話した。スーザン自身は、割と繊細で他人が自分のことについて語っているのが気になるらしい。そして次に、ついに僕らが聞きたかったことをある記者が聞き出した。その質問内容は、「長い間パートナーだったティム・ロビンスと結婚をしなかったあなたの結婚観は?」というもの。「よくやった!」と喜んでいると彼女は、「結婚することに意味があると思っている人たちには関しては反対はしていないの。ただ、長い間結婚せず付き合っているだけだと、お互いを利用してしまうという落とし穴に出くわすこともあるわ」と結婚観が少し変わったことを告白した。
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『ホープ・スプリング(原題)/ Hope Springs』
結婚30周年を迎えたケイとアーノルド(メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ)の夫婦は、アーノルドが腰を痛めて別の部屋で寝始めてから倦怠(けんたい)期に陥り、仮面夫婦の状況を改善しようと結婚カウンセラー、Dr. フェルド(スティーヴ・カレル)のもとに通う。プライベートなことを聞かれ戸惑う二人だが、フェルドのアドバイスを受けて奮闘していくというコメディー調のドラマ作品。監督は、『プラダを着た悪魔』のデヴィッド・フランケル。
メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ、スティーヴ・カレル、デヴィッド・フランケル
本作はソニー・ピクチャーズが配給していたが、ソニーのパブリシストは取材をごく一部の記者に限定し、僕は取材できなかった。そこで、観客も集うアップルストアでの取材に参加することになった。いつも、イベント取材のときはオーディオのクオリティーが気になっていた。今回、俳優と監督たちに質問をするのは、ローリングストーン誌に執筆するピーター・トラヴァース記者。彼はいつもくだらない質問をして、話が脱線することの多い人物で、この日も開口一番「この映画にはカウンセリングの対象となる夫婦の営みについて描かれているけど、同じようなカウンセリングを受けたことはある?」と、いきなり無神経な質問をしたので、僕は開いた口がふさがらなかった……。すると、スティーヴ・カレルはこの気まずい状況に気を使って、「それはに話すべきことではないよね」と軽くあしらった。ところがそのピーター・トラヴァース、「では、これまで一度も結婚生活に問題はなかったの?」と食い下がる始末。嫌な雰囲気を察したメリル・ストリープは、「一般論で言うなら、どんな夫婦でも何かしら問題を抱えているものだけど、常にパートナーとお互いゆっくり話し合うことが大切ね」と答え、何とか切り抜けた。
その後、デヴィッド・フランケル監督は、ピーターに気を使っているのか、自ら、リサーチした結婚カウンセラーの女性に関する話を始め、その結婚カウンセラーの女性は、「カウンセリングに来る90%のカップルは、後に離婚している」と話したそうで、その理由は「カウンセリングを受けている時点で、すでに夫婦の修復が不可能なことが多い」ことにもよると言っていたそうだ。そして、ようやくピーターがフロントセクションで取材していた記者たちが退屈そうにしていることに気付き、急きょ予定より早く観客とのQ&Aを始めた。するとある女性が、メリルにフェミニストに関する質問をしたところ、「フェミニストは最近どこか嫌な言葉になりつつあるから、あえてヒューマニストと言い換えたいわ」と言って、彼女独自のフェミニストの観点を、映画で演じたキャラクターと共に語った。続いて、ある少年がトミー・リー・ジョーンズに「サインをもらえませんか?」と問うと、トミー・リーは「後でサインをするよ!」と笑顔で答えていた。そしてトミー・リーはその少年に、「いつも時間を守り、宿題をやることは大切だぞ」と言って、会場の笑いを誘っていた。
スティーヴ・カレルは、共演したメリル、トミー・リーについて、「すべてのテイクにおいて緊張感と情熱があり、なおかつ演技を楽しんでいることにインスピレーションを感じた」と明かした。「今後、共に仕事をしたい俳優や監督は?」という質問に対してメリルは、「たくさんいるけれど、誰かを言い忘れてしまったらいけないから」と慎重に返したのが彼女らしいと思った。最後に、「どのように仕事と家庭のバランスを保っているのか」についてスティーヴは、「どのようにパートナーと共に成長していくかが重要で、ある程度(配偶者と出会う)運もあると思う」と語った。ちなみに、この日がちょうどスティーヴの結婚記念日だったらしく、「今日が結婚記念日だから言っているわけじゃないよ!」と付け加えていたのがおかしかった。