第2回 アメリカ・ミシガン州のアナーバー映画祭の魅力に迫る!
ぐるっと!世界の映画祭
第2回目となる今回は多摩美術大出身、1987年生まれの新鋭映像作家・葉山嶺(はやまれい)が、北米最古の映画祭で米国ミシガン州にて行われた第50回アナーバー映画祭(3月27日~4月1日)をレポート。ガス・ヴァン・サント監督やマイケル・ムーア監督がサポートしている映画祭だって、知ってました?
サント賞やムーア賞も!
1963年にスタートした実験映画とインディペンデント映画の祭典。米アカデミー賞公認で、短編受賞作はここからノミネートされるチャンスがある。同様に魅力なのが、著名監督名を冠にした賞。最優秀短編実験映画には、同映画祭で受賞歴のあるガス・ヴァン・サント賞(賞金1,000ドル=約80,000円 1ドル80円換算)。最優秀ドキュメンタリー映画には、ミシガン出身のマイケル・ムーア賞(同)。また、最優秀ナラティブ映画には、同映画祭からキャリアをスタートさせたローレンス・カスダン賞(同)が授与される。
今年はイランのジャファル・パナヒ監督『これは映画ではない』、ロッテルダム国際映画祭短編部門で最高賞を受賞した牧野貴監督『Generator(ジェネレーター)』など60本の旧作と新作233本が上映された。
葉山監督が見たアナーバー映画祭
葉山監督が海外映画祭に参加するのは、オランダのロッテルダム国際映画祭など3度目。「50周年という節目に参加できたのは良かった。日本からの参加者は少ないので映画祭側も訪問を喜んでくれました。これまで参加した欧州の映画祭と比べ、娯楽的要素が多いのが新鮮で、子ども映画部門もあって老若男女でにぎわう一方、ミシガン大学では期間中、映像に関する熱い議論も交わされていました」。
またメイン会場は、1928年開館のミシガン・シアター。趣ある劇場がお祭り気分を盛り上げてくれる。「上映前にはオルガン演奏者が登場し、会場を盛り上げたところでオルガンごとステージ下に沈んで照明も消え、そこから一気に映画の不思議な世界へ突入できるような感じでした。この映画館も、映画祭の誇りのようでした」。
1970年の短編に刺激
葉山監督の短編『EMBLEM』は、絶滅危惧種の野鳥を生態観察した映像を16分に再編集&特殊現像した作品で、コンペティション部門で上映された。「作品を通じて生物と人との関係や観察すること自体を再考察しています」。
その葉山監督が今回米国で出合った映画の一つに、写真家としても知られる米国の映像作家スタンディッシュ・ローダー監督『ネクロロジー(原題) / Necrology』(1970)がある。退社時間で混み合うパンナムビル(現メットライフビル)のエスカレーターを定点観測した12分のモノクロ作品だ。「人々の顔が流れ過ぎていくだけというシンプルな構造の中に、多くの人生を見せてくれる。アナーバーのように多種多様な映画、映像と出合える機会が日本にも必要だと感じます」と語る。作品はYouTubeで観賞可能。http://www.youtube.com/watch?v=Dadi7mw5gCs
ポップコーン問題が勃発
多くの人にとって異国の地での食事は大きな関心事の一つ。葉山監督のアナーバーでの食事体験は「オバマ大統領も訪れるという街の名物パン屋さんや地ビールの飲めるバーへ連れて行ってもらったりもしましたが、わたしは結局インド料理とヨーグルトとトマトで落ち着きました」とのこと。
そんな中でもミシガン・シアターのポップコーンはホームメイドテイストで、自慢の一品だとか。ただ、映画祭のシンポジウムでは真面目な学者たちが「上映中にポップコーンを食べるのはいかがなものか?」と冗談交じりに議論する場面もあったという。昨今の映画祭はシネコンが会場となるのがほとんど。ポップコーン問題は他人事ではなさそうだ。
デトロイトから車で30分
アナーバーは、工業都市デトロイトから車で約30分の距離にある、自然豊かな人口11万人の中都市。1837年にミシガン大学がデトロイトから移転してきて、今は大学の街として知られている。
アナーバーまではデトロイト空港から車かシャトルバスで。今回、航空代は自己負担だったそうだが、葉山監督はミシガン大学にある文化財団センター・フォー・ジャパニーズ・スタディーズのサポートを受けることができたという。また宿泊は、映画祭と提携しているホストファミリー宅へ。アットホームな映画祭のようだ。
世界は日本映画を探してる
日本のアートフィルムや実験映画の制作者で海外映画祭に参加している人は少なく「お会いする日本の方はおなじみの顔ぶれ。しかし海外のキュレーターたちは新たな日本人の作品を探していますし、こういった映画祭に日本のキュレーターやジャーナリストが参加しないということを嘆いています」。歴史ある映画祭には続いているだけの理由がある。参加して、それを探ってみてはいかがだろう?(取材・文:中山治美)