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サードシーズン2012年10月

私的映画宣言

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私的映画宣言 サード・シーズン10月

筆者の近況報告

森直人

遅ればせながら鑑賞した評判のフランス映画『わたしたちの宣戦布告』、確かに素晴らしかったです!
●10月公開の私的オススメは、今回取り上げた『アウトレイジ ビヨンド』(10月6日公開)と『希望の国』10月20日公開)。

相馬学

暦の上では秋なのに、炎天下での某作の撮影現場取材。30度を優に超える気温の中、葬儀シーンのために黒服を着込んでいる、エキストラを含めた役者の方々の頑張りに敬意を表したい。
●10月公開の私的オススメは、リアリティーとハートが宿るイギリス映画『思秋期』。(10月20日公開)

小林真里

10月は1か月間、アメリカで過ごすことになりました。ニューヨーク映画祭、ニューヨーク・コミコン、CMJ、ロサンゼルスのホラー・フェス「Screamfest」を取材してきます。
●10月公開の私的オススメは、カタルシス満点、アクション映画の新たな金字塔『ザ・レイド』。必見!(10月27日公開)

高山亜紀

『ボス その男シヴァージ』のヒロイン、シュリヤー・サランを取材。役は保守的だったが本人は至って気さくキャラ。大胆過ぎて、午前中は取材をぶっちぎり、鎌倉観光を敢行していたとか。美人は何をしても許される!?
●10月公開の私的オススメは『アルゴ』(10月26日公開)

今祥枝

サットン・フォスター来日記念スペシャルのガラコンサートへ。「モダン・ミリー」「エニシング・ゴーズ」から「レ・ミゼラブル」まで、それぞれの観劇の思い出と共に、何度も一緒にブロードウェイに行った友達と一緒にサットンの歌を日本で聴くことができて感無量。
●10月公開の私的オススメは『思秋期』(10月20日公開)

アウトレイジ ビヨンド


(C) 2012 「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

世界中から熱い注目を浴びる北野武『アウトレイジ』の続編。前作で死んだはずの元山王会大友組組長・大友がまさかの復活を果たし、関東と関西の二大暴力団の抗争に組織壊滅を図る警察の思惑が絡み合い、その渦中に大友が巻き込まれていく。前作から続投するビートたけし三浦友和加瀬亮小日向文世らをはじめ、新たに登場する西田敏行高橋克典新井浩文塩見三省中尾彬らの悪人ぶりが見もの。

[出演] ビートたけし、西田敏行
[監督] 北野武

森直人

8点大歓迎の続編! 『アウトレイジ』はキャラクターがばりばり立っており、「世界の縮図」としての完成度が高いので、他の北野武作品とは別枠の印象がある。基本的には前作のパワーゲームをくるっと反転させた数値的な構造だが、会話劇中心へと作品組成を変えており、細かい工夫も多くて飽きさせない。全体としては、元から前・後編として企画されたようなきれいさ。できれば完結にしないで、あの手この手でシリーズ化してほしい気もする。例えば石原(加瀬亮)が極道の道に入るまでを描くとか、スピンオフはいくらでも作れそうなんだけどなあ。

相馬学

7点やくざ映画ファンにとってウェルカムだった前作は、バイオレンスを含めて、『仁義なき戦い』タッチの作品として楽しめた。今回も基本的に同じテイストなので、ほぼ期待通り。バイオレンス色が薄まった点は物足りないが、激烈暴力映画から腹黒い政治劇への変化は『仁義なき戦い』シリーズの2作目から3作目への流れがそうであったように、登場人物がそれなりに年を取って経験を積んだことを踏まえれば自然な流れかもしれない。たけしのコノヤロ節の健在ぶりがうれしい。

小林真里

6点前作よりもストーリーテリングが巧妙で、個性的なキャラクターも倍増。世界観が一気に拡大し、エンターテインメント性も向上した。緊張感の中にもほんのりとユーモアが漂い、バイオレントな世界をいいあんばいに中和している。1作目を余裕でビヨンド(超越)したといっていいだろう。ビートたけしがセリフを発すると、おなじみのフレーズ(「馬鹿野郎」など)連呼で夢から覚めたような気分になるし、前作以上に華はないが、いまどき貴重な「ザ・ヤクザ」映画。

高山亜紀

5点前作では「え? この人が?」という優男が悪人を演じる面白さがあった。今回は生き残ったその優男たちに強面役者たちが翻弄(ほんろう)される面白さがある。三浦友和に叱られて中尾彬がシュンって(笑)。とはいえ、前回は殺し方にいろんな趣向が凝らされ、ゾクゾクと同時にワクワクもしたのだけど、今回は雑な印象。そこを楽しみに続編を観に行く人も多いと思われるだけに残念。無理に続編を作らなかった方が良かったのではというのが正直な感想。

今祥枝

6点エンタメにおいて「血がだめ、痛いのだめ、怖いのだめ、暴力的なのだめ」という声を本当によく耳にする。この映画は、そういう人がうっかり観てしまうといった可能性ゼロのわかりやすさが良心的だ(笑)。評価も好き嫌いもぱっきり分かれる作品だろうけど、筆者はこの手は楽しめるタイプ。前作の方が作品としては断然良かったけど、俳優もベテランのおっさんたちが豪華だし罵倒ざんまいも痛快だし何の教訓もナシで、今回も「観たいと思うものを見せてくれた」ので満足だ。

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希望の国


(C) The Land of Hope Film Partners

『愛のむきだし』『ヒミズ』など衝撃的な作品を次々と世に送り出す園子温監督が、大地震の被害を受けた家族の姿を描くヒューマン・ドラマ。震災の影響で散り散りになりながらも、6人の男女が貫いたそれぞれの愛をつづる。老夫婦をベテランの夏八木勲大谷直子が演じるほか、『ヒミズ』村上淳『冷たい熱帯魚』でんでん神楽坂恵などこれまでの園監督の作品でも印象的な演技を披露した俳優陣が出演する。今までの作品で園監督が描いてきたテーマとは異なる、悲しくも美しい愛の物語に期待が高まる。

[出演] 夏八木勲、大谷直子
[監督] 園子温

森直人

9点愚直な真正面勝負。ぎりぎり警戒区域圏外のため、「世界の果て」のような場所になってしまった主人公夫婦の家がまず強烈だ。あえて繊細なニュアンスを排し、ごつごつした言葉と芝居、極太の筆致で提示されるのは「大切な人を守れ」というシンプルで力強いメッセージ。園子温監督の作品としては、『ヒミズ』のモチーフと『ちゃんと伝える』のホームドラマ性の融合にして延長といえるだろうが、筆者には新藤兼人監督の遺作『一枚のハガキ』を受け継いだような印象がある。戦争はまだ終わっていない、と叫び続けた新藤から、新しい戦争が始まってしまった、と問い掛ける園。まさに「魂のバトンリレー」だ。

相馬学

6点いまだかつてない「揺れ」と原発の脅威を経験した身であれば、少なからず今後の生き方を考えたに違いない。本作で描かれた多くのことは誰もが通過してきたはずで、そこに新鮮味を感じられないのが惜しい。唯一、老夫婦の行く末だけは老いと震災の関わりを見るという意味で興味を引かれた。が、この結末には賛否があり、私的には残念ながら「否」。これが希望? 「希望の国」とは皮肉なのか? 原発を断罪することが目的? 震災を風化させないという意義は認めるものの、私的には混乱だけが残った。

小林真里

4点東日本大震災後に、大地震の被災地となった架空の原発町が舞台のフィクション。とはいえ、被災地での取材を基に脚本を執筆したそうなので、東日本大震災の被災者の理不尽な境遇を、えん曲にシニカルに描いた作品といえる。前作『ヒミズ』ほど被災者のイメージは貧困ではないが、主人公2家族は病人を含む極端な存在だし、そんな彼らのドラマを大仰なシンフォニーで過剰に感動的に盛り立てるのはいかがなものか。2作続けて大震災に固執する理由と必然性も見えてこない。

高山亜紀

7点目に見えない放射能の恐怖。そういえばみんなマスクして水にも神経質になっていたのに、いつの間にうやむやに? 正直、過剰に反応する人に「面倒くさい」という気持ちになっていないか? 今の自分たちに真っすぐ突き付けられるメッセージにドキドキしてしまう。後半は津波の話が出てきて、いまだ復興していない被災地の映像が出てくるが、原発と津波がごっちゃになってしまうのは残念。福島の数年後の架空の町にしているのも混乱する。

今祥枝

6点大変意義のある映画だということは前提として。東日本大震災から数年後の架空の街を舞台にしているが、特に前半で描かれているのはニュースやドキュメンタリーなどでも多く取り上げられている実際の避難区域で起きたよく知られている事実に即しているので、一部のみを切り取った感&再現ドラマでも観るかのようで戸惑いを感じた。一転して後半は濃密な人間ドラマに数々の重要な問題提起がなされるものの、俳優の芝居も展開もエキセントリックに過ぎて引いた。しばしば園子温は本当に肌に合わない。

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声をかくす人


(C) 2010 ConspiratorProductions, LLC. All RightsReserved.

『明日に向って撃て!』などの名優ロバート・レッドフォードが、『大いなる陰謀』以来となる監督作として放つ実録ドラマ。リンカーン大統領暗殺の一味としてアメリカ初の女性死刑囚となったメアリー・サラットの姿を、担当弁護士との絆を絡めて映し出す。『ギルティ・オブ・ラブ』のロビン・ライトが、死刑を求刑されてもかたくなに無実を訴えるメアリーの強さや、その中に秘めた思いを体現。『つぐない』ジェームズ・マカヴォイをはじめトム・ウィルキンソンケヴィン・クラインら、実力派ぞろいの共演陣も見ものだ。

[出演] ジェームズ・マカヴォイ、ロビン・ライト
[監督] ロバート・レッドフォード

森直人

5点いわゆる良心作で、出来は決して悪くないが、どうにも既視感が強くて予定調和。ロバート・レッドフォードの監督作としては『クイズ・ショウ』と同じく法廷劇を含むもので、対話中心の構成という意味では前作『大いなる陰謀』ともつながる。要するに彼の得意な領域であり、その分表現としての緊張感に欠けるのだろう。また、メアリー・サラット(ロビン・ライト)が処刑されるという既成事実が前提の歴史ドラマなので、彼女が守り抜いたという「秘密」(=仮説)によほどのインパクトがないとつらい。邦題は『愛を読むひと』を意識した?

相馬学

8点法律の解釈は、さまざまになされることだが、「国を守るために法を破っていいのか?」「正義だけでは国を守れない」といったセリフが伝えるものは、重い。平時ではないときの法律の捉え方の難しさについて考えさせる力作。息を抜く間がないのでヘビーな印象もあるが、覚悟を決めて向き合えば確かな手応えを得られるだろう。「憎しみで真実が見えなくなっている」というヒロインのセリフは、日本や近隣の国の大衆の感情の高ぶりにも当てはまるのではないか。

小林真里

6点イメージが湧かない邦題である。オリジナルのタイトルとビジュアルから大きくかけ離れており、これが『The Conspirator』だとは映画を観るまで気付かなかった。この原題、共謀者の意。リンカーン暗殺事件の共謀者の一人として、スケープゴートのような形で告発された女性をめぐる史実を基にした法廷ドラマだ。キャストは豪華ながらも話は地味で、ドラマチックとはいえ盛り上がりに欠ける。アメリカ建国史の知られざる暗部の一つかもしれないが、非アメリカ人にはちょっと共鳴しづらい。

高山亜紀

6点軍法会議で民間人を裁く不公平さや死刑制度の是非を考えさせられる社会派で骨太な内容。感動や衝撃をいくらでも盛り込めたろうに誰にも感情移入させないよう、ただただ淡々とシンプルに話は突き進んでいく。個人的には息子のために沈黙を貫く母がその一方で無実を主張していることに違和感。日本の母親なら息子の罪をかぶるために黙るという展開になると思うが、たぶん宗教観の違いとかいろんなものがあるのだろう。というわけで最初から最後までもやもやしっぱなし。

今祥枝

6点終盤、検察の人間の「戦時に法は沈黙する」というせりふには心底ぞっとさせられた。こんな不名誉な歴史が繰り返されてはならないと思うも、今の世界はどうだろうか? とりわけ911後のアメリカに問いただしたくなる。そうした問題提起は非常に意義があるもので興味深い題材と思うも、歴史検証番組ではないので、このどうにも可もなく不可もなくの優等生っぽい作りに娯楽としては物足りなさを覚えた。あと個人的に引っ掛かって仕方がないのがこの邦題。意図はわかるんだけど……。

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筆者プロフィール

今 祥枝斉藤 博昭前田 かおり
中山 治美相馬 学高山 亜紀
小林 真里山縣 みどり森 直人
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