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~第47回 2012年9月~デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『コズモポリス(原題)/ Cosmopolis』、ヒュー・ローリー主演の新作『ジ・オレンジズ(原題)/ The Oranges』ほか1本

INTERVIEW@big apple

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今月は、カナダの巨匠デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『コズモポリス(原題)/ Cosmopolis』、ヒュー・ローリー主演の新作『ジ・オレンジズ(原題)/ The Oranges』、インディーズ界の注目の女優グレタ・ガーウィグ主演の新作『フランシス・ハ(原題)/ Frances Ha』について紹介します。

8月17日クローネンバーグがコメディーを撮らない理由は……?(アップル・ストア&リンカーン・センター、ウォルターリード・シアターにて)

(映画)『コズモポリス(原題)/ Cosmopolis』

28歳の若さで成功を収めた金融業界のエリート、エリック・パーカー(ロバート・パティンソン)は、父親が頻繁に通っていた床屋に散髪をしにリムジンで移動するが、道中で大統領の訪問、それに対するデモ行進、さらに有名ラッパーの葬式に巻き込まれ、彼の1日が徐々に狂い始めていくというドラマ作品。『トワイライト』シリーズで名を馳せたロバート・パティンソンが主役を演じ、他にジュリエット・ビノシュ、サマンサ・モートン、マチュー・アマルリックらが脇を固めている話題作。

デヴィッド・クローネンバーグ

クローネンバーグ御大が、新作で『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンとタッグ!/「(映画に出てくる)言葉の難解さは重要ではない」と断言するクローネンバーグ

映画『ザ・フライ』や『裸のランチ』、さらに『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『イースタン・プロミス』まで常に刺激的な作品を提供してきたデヴィッド・クローネンバーグ監督。そんな彼が、今作では近未来のニューヨークを舞台に設定。しかもほとんどのシーンがリムジンで展開されると聞いて、どんな作品に仕上げたのか期待していた。事前に同作をプレス用の試写で鑑賞したときは、主演がロバート・パティンソンであるためか、ミーハーなゴシップ系の女性記者が多かった。映画自体は金融業界のやり取りがあり、その専門的な用語と映画のテーマがイマイチ僕には理解できなかった。当初はアップル・ストアの特別イベントでのQ&Aを取材すれば良いと思っていたが、もう一度映画を見直す必要があると思い、リンカーン・センターで行われる同作の試写とQ&Aのチケットを購入したのだった。当日、アップル・ストアに行くと、カルトファンの多いデヴィッド・クローネンバーグ監督のことだから、相当な観客が来ると予想していたが、少し空席も出るくらいの少人数だった。

Q&Aが始まり、まずクローネンバーグ監督は、ポルトガル出身のプロデューサーから今作の原作者ドン・デリーノの作品を紹介され、映画化することを決定したと明かした。何でも決め手となったのは、原作のキャラクターの会話だという。普通、原作の会話を舞台化や映画化するときは、セリフを多少変えることがあったり、原作に記された会話をそのまま映画で使用すると機能しないケースもあるが、今作ではほとんど変えなかったらしい。「劇中で使われている言葉の表現が難解であることに対して観客は抵抗がないのか?」という問いには、「シェイクスピア作品で用いられている言葉も我々には理解することは簡単ではないが、それでも楽しめる作品ばかりだ。だから言葉の難解さは、さほど重要ではない」としている。これまでクローネンバーグ監督の作品はシリアスなものが多かったため、よく「いつになったらコメディーを撮るの?」と聞かれるらしい。彼はそれに対し、「これまで製作してきた映画にはみなコメディー要素があったよ」と返した。今回も、『戦慄の絆』以来タッグを組んでいるピーター・サシツキーが撮影を手掛けているそうで、「設定がほとんどリムジン内だったのもあって、ピーターとはレンズの選択を中心に話し合った」と話した。さらに「ロバート・パティンソンをキャスティングしたことで、彼のファンが作家ドン・デリーノの原作を知るきっかけになるのは決して悪いことではない」と、ロバートの起用にも満足しているようだ。イベントが終わった翌日、今度はリンカーン・センター、ウォルターリード・シアターで再び作品を鑑賞し、より明確な全体像を把握することができた。ただ、残念なことに、Q&Aの内容がほとんどアップル・ストアの質問内容と変わらなかったため、あまり収穫を得られなかった……。

9月14日ヒュー・ローリーがケンブリッジ大在学中に知り合った女優は、アノ人(クロスビー・ストリート・ホテルにて)

『ジ・オレンジズ(原題)/ The Oranges』

ニュージャージー州の郊外で家族と共に暮らすウォーリング家の主人デヴィッド(ヒュー・ローリー)は、近所に住むオストフ家と長年の家族付き合いをしてきた。だがある日、恋人と別れて帰郷したオストフ家の娘ニーナ(レイトン・ミースター)に恋心を抱き、二人はひそかに付き合うことを決意するが、すぐに両家族にばれてしまい、一騒動が起きるというロマンチック・コメディー。オリヴァー・プラット、キャサリン・キーナーら演技派が脇を固めている。監督は、テレビシリーズ「アントラージュ★オレたちのハリウッド」のジュリアン・ファリノ。

レイトン・ミースター、ヒュー・ローリー、キャサリン・キーナー、オリヴァー・プラット、ジュリアン・ファリノ、アリソン・ジャネイ、アリア・ショーカット、アダム・ブロディ

「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」の偏屈天才医師役で大人気のヒュー・ローリー/左からキャサリン・キーナー、オリヴァー・プラット、ヒュー・ローリー

この日は、ニューヨーク映画祭のプレス用の試写が始まり、新作『ローリング・ストーンズ チャーリー・イズ・マイ・ダーリン アイルランド'65(原題) / The Rolling Stones Charlie is my Darling - Ireland '65』を観たかったが、『ジ・オレンジズ(原題)/ The Oranges』の取材と重なり観られなくなったのは残念だったが、人気俳優ヒュー・ローリーの単独取材の許可がおり、さらに記者会見も取材することになっていたので、後悔はしていなかった。しかし、彼の看板番組であるテレビシリーズの「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」を1エピソードも観たことがなかったため、インタビューの際には今作を中心に質問することを決めていた。彼ほどの人気俳優であれば取材者は緊張するかもしれないが、僕は特に個人的な思い入れがなかったので、そのようなことはなかった。まずはヒュー・ローリーの単独インタビューから。

颯爽と現れたヒューは、長身だがさほど筋肉質ではなく細身に見えた。彼にあいさつをしてから、「自分の娘と同じくらいの年齢の女性と付き合う設定について抵抗はなかったのか?」と尋ねた。すると彼は「今は、年齢差のあるカップルに抵抗がなくなってきている風潮だから」と語り、さらにその相手役である女優レイトン・ミースターとは「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」で共演済みだったため、自然に演じられたそうだ。ヒューは、ケンブリッジ大在学中に女優エマ・トンプソンと知り合って、彼女と共にコメディグループ「Cambridge Footlights」に入り、座長も務めていた。そこで、当時のエマ・トンプソンについて聞いてみると、「彼女は昔から快活で、声が大きく、話し方も今と全く変わらない。唯一変わったことは、真剣な顔でパフォーマンスをしていることぐらいかな」と、本当なのか冗談なのかわからない返答をしたのがおかしかった。普段は「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」に関する質問を盛り込む記者が圧倒的に多いと思うが、逆に僕のように全くドラマについて触れない記者が珍しかったのか、終始笑顔で対応してくれた。

続いて記者会見に移動すると、200席ほどの試写室の部屋に、わずか30人くらいの記者しかいなかった。それでも、これほどの顔ぶれがそろっているのを見るのは圧巻だった。一方で「これから全員のコメントを記事におこすのはさぞ大変だろうな……」と不安になっていたら記者会見がスタート。すると、ある女性記者がアダム・ブロディにいきなり、次回作について尋ねた。これが最初にする質問かよとあきれながら聞いていた後に、いつも2問一緒に質問する黒人女性記者がマイクを持った。予想通り彼女がヒューにくだらない質問をして、彼は答えるのが面倒くさかったのか、ほかの俳優に振ってしまった。その後も、まるで井戸端会議のようにくだらない質問に俳優同士がジョークを交えて返す状態が続き、僕はヒューの単独取材の記事だけを書くことに決めた。

9月20日ノア・バームバック監督が尊敬する2人の巨匠(リンカーン・センター&ウォルターリード・シアターにて)

『フランシス・ハ(原題)/ Frances Ha』

ニューヨークで暮らすバレエダンサーのフランシズ(グレタ・ガーウィグ)は、舞台に立つ夢を追いかけていたが、自由気ままな生活を送っていた。だが、長い間友人であるソフィー(ミッキー・サムナー)が突如ボーイフレンドと婚約したことで、生活の歯車が徐々に狂い始めていくというモノクロのコメディー作品。監督は『イカとクジラ』のノア・バームバックが務め、脚本にも参加している。

ノア・バームバック、グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー

左からミッキー・サムナー、ノア・バームバック監督、グレタ・ガーウィグ/デビュー作がニューヨーク映画祭で注目を浴びたときの思い出を語るバームバック監督

今作はニューヨーク映画祭に出展され、プレス用試写と記者会見が昼に行われる予定だったが、その前にマンハッタンのダウンタウンで、ナックルボールの投手にフォーカスしたドキュメンタリー映画『ナックルボール!(原題)/ Knuckleball!』でメジャーリーグ投手たちの取材に参加する予定だった。ところが、映画の取材に慣れていないメジャーリーグ投手のインタビューは、案の定時間が押してしまったのだった。でも事前に『ナックルボール!~』のパブリシストに、次の取材に間に合うように進行してほしいと念押しし、さらに友人に試写の席を確保してもらうことで何とか間に合ったのだった。映画は、女性の友人と恋人に対する心理の違いを見事に描き出しているほか、モノクロの映像で興味深く鑑賞することができた。

記者会見に登場した3人の中で、ミッキー・サムナーは劇中と髪の色を変えていたため、初めは彼女が誰なのかわからないほどだった。まずグレタ・ガーウィグは、E-mailで意見を交換しながらノア・バームバック監督と共に脚本を執筆したと話した。ちなみにミッキーは、毎回その日に演じるページだけ脚本を渡されていたため、作品の全体像がわからなくて苦戦したらしいが、それぞれのシーンごとに集中できて良かったという。今作をモノクロの映像で撮影した理由についてバームバック監督は、「ニューヨークをモノクロの映像で撮って観たかった。そうすることで、まさに映画を観ていると実感できると思う」と言った。そのため、あえて手持ちカメラでの撮影を避け、映画的な映像にすることを心掛けたのだという。それまで前列に座っている記者たちがフラッシュ撮影をしまくっていたため、それを見かねた司会者が、「写真撮影の時間は記者会見後にきちんと設けるから今は控えてくれ」と指示を出した。

バームバック監督いわく、「フランソワ・トリュフォーの映画にあふれるエネルギーが好きで、劇中にもいくつか彼の作品にオマージュを捧げているシーンがある」とのこと。さらに、「これまで自分が製作したどの作品にもウディ・アレンからの影響が組み込まれている」とも話していた。司会者が、バームバック監督に「監督デビュー作の『彼女と僕のいた場所』(1995製作・日本未公開)のころは、あなたと同じ世代の人々を描いていたが、今はより若い世代を描いていますね」と投げかけると、彼は、「実はあの映画は、ニューヨーク映画祭で選考されたことをきっかけに配給会社が作品に対する認識を改め、公開へとつながっていったんだ。もしニューヨーク映画祭がなかったら、今の僕のキャリアはなかっただろう」と、真摯に同映画祭に対する感謝の念を述べた。最後にサントラについては、「ほとんどは編集の段階で決めるけど、たまに脚本を執筆している段階で頭の中にある曲を使うこともある。今作ではスケールの大きい(クラシック)のような曲を事前に考えていた」と語った。

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