第44回『アウトレイジ ビヨンド』『エクスペンダブルズ2』『希望の国』『アルゴ』『終の信託』
今月の5つ星
北野武監督のバイオレンス映画待望の続編『アウトレイジ ビヨンド』、シルヴェスター・スタローンら各国のアクション映画のスターが集結したヒット作の続編『エクスペンダブルズ2』『Shall we ダンス?』の周防正行が尊厳死を題材にしたラブストーリー『終の信託』など、監督の個性が光る5本を紹介。
あっと驚く下克上の逆転劇で幕を閉じた前作『アウトレイジ』。その後の物語は観客の想像に任せ、続編など作らない方がよかった。しかし、『アウトレイジ ビヨンド』は、通常は描かない方がいいはずのその後の物語を、前作を発端とした報復劇として見事に昇華。前作では、次々と起こる残虐な暴力、殺人描写の連鎖が、作品の見どころの一つとなっていたが、今作ではそういった描写を軽減。そのぶん、暴力団同士、その壊滅を企む警察といったそれぞれの登場人物の思惑が、事細かに映し出され、物語に深みを与えている。バイオレンスの前作か、群像劇の今作か? 好みは別れるが、納得の続編といえるだろう。(編集部・島村幸恵)
シルヴェスター・スタローンを筆頭に、新旧アクションスターが集結したオールスター映画の第2弾。一時代を築きながらも、すでに一線を退いた感のある男たちが「俺たちは消耗品(エクスペンダブルズ)じゃねぇ~!」とばかりに大暴れ。アーノルド・シュワルツェネッガーとブルース・ウィリスの本格参戦に加え、ジャン=クロード・ヴァン・ダムとチャック・ノリスの出演だけでも、アクション映画ファンにとっては涙ものだろう。内容は、男たちが正義と友情のため、ひたすら銃を撃って悪党どもを殺し、打ち上げで飲むという、ひたすらシンプルでひねりのないもの。既存の映画と同じ楽しみを期待すると肩透かしをくらうこと確実で、もはや映画を超えた「エクスペンダブルズ」というジャンルと思って鑑賞するのが正解。とにかくこの奇跡の顔ぶれをスクリーンで観るだけで、何ともいえないカタルシスが得られるはずだ。アクション映画ファンならニヤリとできる小ネタもやたらと充実しており、ぜひアクション好きの男同士で誘い合い、ニヤニヤしながら楽しんでほしい。鑑賞後はもちろん打ち上げだ!(編集部・入倉功一)
東日本大震災を題材にしたドキュメンタリーは数あれど、被災地取材を基に脚本を手掛け、劇映画として絶望と希望を描き切った秀作は本作だけではないだろうか。福島の原発事故を経験した後の日本を舞台に据え、再び襲った大地震と原発事故。放射能のせいで起こる被災者差別などの暗部をも、エンターテインメントの器で明らかにした園子温監督の手腕は圧巻で、強烈なメッセージが胸に突き刺さる。夏八木勲が覚悟を持って見せた家族の主たる姿、認知症を患う妻を信じがたいほどの表現力で演じ、スクリーンに花を咲かせた大谷直子。彼女の両親が津波にのまれたという現実に向き合おうとする若いカップル役、梶原ひかりと清水優の存在感も見逃せない。それぞれが将来を思い、選ぶ選択を目の当たりにするラストシーンのころには、タイトル通り「希望の国」であってほしいと願ってやまないはずだ。(編集部・小松芙未)
1979年、イランで過激派がアメリカ大使館を占拠した際に、カナダ大使の家に潜伏した6人の大使館員を救出するためにCIAがとった作戦は、「映画ごっこ」だった……! という、ウソみたいなホントの話がコレ。CIAの人質奪還のプロ、トニー(ベン・アフレック)が、「言語同断!」とはねつける上司を説得してニセ映画の企画を立て、記者会見を開くまでの軽快な前半、不安がる6人の大使館員を束ねて映画クルーを結成し、イラン脱出作戦に乗り出す緊迫の後半。デリケートな題材を、手持ちカメラや分割画面といった多彩なカメラワークと、緩急自在のテンポでスリリングに活写したベン・アフレックの手腕の見事なことといったら! 『猿の惑星』でアカデミー賞を受賞した特殊メイクのジョン・チェンバースら超大物の協力を得たという作戦の徹底ぶりと同様、映画でも6人の大使館員にソックリな役者や、テレビドラマ「ダメージ」のテイト・ドノヴァン&ジェリコ・イヴァネク、ジョン・グッドマン、アラン・アーキンといった筋金入りの演技派をそろえた入念なこだわりよう。それゆえに「本気のウソ」のスケールが伝わってくる。いまや俳優としてよりも監督としての評価が圧倒的に高いベン・アフレックだが、まだまだ快進撃は続きそうだ。(編集部・石井百合子)
『Shall we ダンス?』の周防正行監督、草刈民代、役所広司が再集結した映画『終の信託』は、重度ぜん息患者・江木泰三の苦しみを前に、尊厳死の決断に惑う呼吸器科の女医・折井綾乃の苦悩を描いた重厚な物語。観ているこちらまでも苦しくなってしまうほどリアルな役所の演技は、「尊厳死」という問題を観客に重く訴えかける名演だ。尊厳死を選択すべきか否か、そして検事役を演じる大沢たかおと女医役の草刈との緊張感ただよう45分間の芝居はもちろん、見どころ満載の本作だが、あえて注目してほしいのが、綾乃の不倫相手・高井を演じる浅野忠信の名演ぶり。長い不倫関係の末、いつになったら妻と別れて結婚できるのか? と詰め寄る綾乃に「結婚? そんなこと、言ったっけ?」と言ったときのすっとぼけぶりは秀逸のひと言。 誠実な患者・江木に心動かされていく綾乃の気持ちに共感できるのは、浅野の名演があってこそ、と言えるだろう。(編集部・森田真帆)