第34回 時代物の小道具ならお任せくださいっ!の巻
うわさの現場潜入ルポ
100年前を舞台にした『タイタニック』、第2次世界大戦時代を描いた『硫黄島からの手紙』、無声映画時代を描いた『アーティスト』のように、過去の時代を描いた映画に欠かせないのが、その時代にあった小道具。今回はそんな作品に登場する時代劇専門の小道具レンタルショップに潜入!
ロサンゼルス郊外のバーバンク市にあるヒストリー・フォー・ハイアー(History for Hire)社。外から見ると、ただの白い箱。でも中に入ってびっくり! ありとあらゆる骨とう品が、巨大な倉庫内にぎっしり! どひゃーと驚いていると、この会社のオーナーのパム・エリエイさんが笑顔で出迎えてくれました。もともとパムのご主人であるジムが1985年にスタートしたこの会社。パラマウント社から購入したものもあり、無声映画時代のものや、映画『クレオパトラ』で使った小道具まであるそうです。
倉庫内は、いろいろなセクションに分類されています。
アンティークのスタジオ用カメラが並ぶセクションでは、無声映画『アーティスト』やジョニー・デップ主演の『エド・ウッド』で使用されたカメラも。昔のテレビスタジオのセクションでは、ジョージ・クルーニーが監督&出演した『グッドナイト&グッドラック』で使われた1950年代のテレビ局のスタジオもあります。また、楽器のセクションでは『タイタニック』で使用されたチェロやバイオリンがずらり。
その他にも西部劇、戦争映画用の小道具や警察関連グッズ、そして人間や動物の骨が並ぶセクションも! また、レストラン用品、昔の美容院の器具、スポーツ器具、缶詰、お酒、お菓子、タバコ、化粧品など、数え上げたらきりがありません。
この会社の日本人スタッフで、音楽部の責任者である小林盛治さん。もともとギタリストで、ギターショップで仕事をしていたところをギターの専門知識を買われてこの会社に呼ばれたそうです。そういうわけで、音楽関係の小道具にはとっても詳しいんです。1970年代に活躍したガールズロックバンドを描いた、クリステン・スチュワート主演の伝記映画『ランナウェイズ』では楽器の専門知識をフル活用して、既存のギターを実際にバンドメンバーが使ったギターに見えるように改造しました。そしてもう一つのお仕事は日本関連の小道具。
例えば写真の「危険」と木に書かれた看板も『硫黄島からの手紙』のために小林さんが書いたそうです。「当時の写真を参考にしました。達筆ではない一般人が書いたものが多かったので、わたしもその通りに書きました」と笑う小林さん。また『SAYURI』では、お酒を飲むシーンが多かったので、月桂冠株式会社に電話をしてその時代のお酒のラベルを送ってもらったそうです。その他、着物の端切れをロスで見つけ、奥様に着物の手提げ袋を縫ってもらったり、テレビドラマ「HEROES/ヒーローズ」で使われた手紙を書いたりと、臨機応変に何でもやるそうです。
そんな小林さんが見せてくれたのが戦争物のセクション。『硫黄島からの手紙』などで使用された、日本兵の水筒や携帯医療品がぎっしりと並びます。何と実際の兵隊さんが使用したものもあるそうですよ。
その隣は『ワルキューレ』などに使用されたナチス関連小道具のセクション。ナチス兵が実際に使用したヤリもあり「この辺は怖いんです。霊感の強い人だと何かを感じるみたいで、残業するときミシミシ音が聞こえてくるんです」と小林さん。こわーい!
次に修理のセクションに行くと、いかにもアンティークに詳しそうな顔の男性が。ショップマネージャーのギャリーさんは歴史の専門家。『リンカーン/秘密の書』では、19世紀アメリカ歩兵たちの銃の持ち方から訓練の仕方までアドバイスしたそうです。時代背景に合った小道具のアドバイスはもちろん、古い時代の小道具の修理も行います。例えば、写真の1950年代の白黒カメラ。これを撮影で使えるように修理しているそうですが、よくよく聞いてみると、従来の四つのレンズの映像がカメラの後ろで見られないので、新たに豆粒サイズの現代の監視用カメラを四つ目立たないところに埋め込み、そちらの映像を後ろで見られるように改造したそうです。「全体を修理するより時間がかからず、映画の撮影に間に合う」とのこと。うーむ、なるほど。このショップの人たちは何でもやるんですね!
最後はアート&デザイン室。昔のお菓子やお酒のレーベル、また、架空の雑誌の表紙などを製作する部門です。壁には歴代の有名なお菓子の箱が並びます。『硫黄島からの手紙』で使用した日本兵の写真や、当時のタバコやお酒のラベル、ポスターなどがもありました。タバコのラベルは日本から取り寄せてこちらで再現したそうです。
「役者のクロースアップになると、タバコの箱もアップになるので、手を抜けない」とデザイン室長のリチャードさん。アメリカのタバコの箱に合うように、サイズを引き伸ばすなど手が込んでいます。『メン・イン・ブラック3』のスタジアムでのシーンで使用したお菓子「クラッカー・ジャック」の箱は、わざわざ当時のスタジアムだけで売られていたサイズに作り変えたりと、本当に細かい。そうしないとクレームが来ちゃうそうです!
このレンタルショップには、映画の小道具さんや監督はもちろん、時にはスターが来ることも。ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『ザ・マスター』では、主演のホアキン・フェニックスが昔のカメラの使い方を勉強しに来たそうです。そのカメラ、劇中で結構目立つので映画を観るとき、気に掛けてみてくださいね。
また一般の方もレンタルに来るそうで、骨のセクションはハロウィーン近くになるとほとんど空っぽとのこと! 世界中に運送もするし、海外からの撮影クルーにも貸し出しをするそうなので、ロスでの撮影の際はのぞいてみてはいかがでしょう?